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夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実

海。それは気温も水温も高く、晴れた天気の良い日にしか楽しめない最高のデートスポットの一つ。


白い砂浜と降り注ぐ太陽。カモメの無く声と波のさざめく音。入道雲の白と、真夏の真っ青な青にエメラルドブルーの美しい海原が美しいコントラストを見せる魅惑の空間。


実に魅力的な提案だ。魅力的な提案なのだが、生憎この国の海水浴場は基本有料。


特に王都の海水浴場は自慢の真っ白な砂浜とエメラルドブルーに輝く海を綺麗に維持するため、他の地域にある海水浴場よりも数倍高い入場相場となっている。

もはや貴族や大きな商家限定の海水浴場みたいなものだ。


勝手に入ろうものなら海上警備隊という、海とその周辺の安全と監視を担当する通称、海の騎士達にボコボコにされる。

特に犯罪目的の場合は、肌を黒く焼いた筋骨隆々の誇り高き海の騎士達に完膚なきまでに叩きのめされた後、一晩港の海の上に吊るされるのである。


海を汚したり荒らしたりする輩に一切の容赦はないのだ。慈悲など欠片も無い。


そんな海水浴場など、いくら稼ぎの良いウチでもそんな簡単には無理だ。海と言われて庶民に真っ先に思い浮かぶのは港の方。

あちらはあちらで面白いが、デートスポットと言うよりは買い物に行く場所。海と言われてもなぁ、とおじさんが差し出した二枚のチケットに目をやると。


「えーと、王都海水浴場特別入場券。ふーん、でこれが――。って王都海水浴場?!!?」


一瞬何事も無かったかのようにスルーしかけたが、とんでもない代物だ。

王都海水浴場と言えばさっきも言った通り、貴族や大商人御用達とも言って良いほどの超のつく高い入場料が求められるこの国最高の海水浴場。


一人頭の入場料金はざっと庶民のお給料半年分。再入場不可。一日のみ。


とてもじゃないが一般庶民のひと夏の思い出としては高すぎる。それに少し遠出をすれば、手ごろな値段の海水浴場があるのだ。多くの庶民は旅行ついでにそちらに足を運ぶのが一般的。


「おおおお、おじさん!!これどうしたの?!」


「いやー、知り合いの伝手でもらったんだが、俺もココリネもいい歳だからね。海ではしゃぐのは中々に難しい。折角だからアユムに譲ろうと思ってな」


「いやいやいやいや?!コレ価値いくらだと思ってんの?!」


そんな大金と同クラスの物をまるでチラシを渡すかのようにヒョイっと手渡さないで欲しい。

二枚合わせて庶民の一般的な年収とイコールになる。ただで受け取るにはあまりにも高すぎる。


仮に臨時ボーナスと考えても高過ぎるし、お小遣いとかそういう次元では有り得ない。

一体どこからそんなものを仕入れて来たんだこの人。


「あら、良いじゃない。あそこは良いところよ?人も少ないし、静かで綺麗。二人でゆっくり語らうにはぴったりな場所ね」


「来週には海祭りがある。街中は人でごった返すが、それはそれで風情があるだろ。あぁ、このチケットはちなみに再入場も可能だそうだ。何か忘れても何の問題も無いぞ」


「いやだからね?なんでそんな物ホイホイ手渡せるの?てかちょっと待って、再入場OK?回数制限は?え、無い?本気で言ってる?いやいやいやいや、だったらそのチケット二枚とかそれこそ家とか買える値段じゃ……っ?!」


情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。とんでも海水浴チケットがあるのも意味不明だし、それをなんで持っているのかも分からないし、そして気安く俺に譲渡するのも分からない。


相変わらずぶっ飛んでるし、とんでもなくミステリアスな人たちだ。


一体、そんな人脈をたかだか城下の食堂を経営する老夫婦が持っている物なのだろうか。


「だったら水着買わないといけないね。アユム、さっそく買いに行くよ」


「人の話聞いてた?ねぇ、ちょっとココリネおばさん!!いだだだ、引っ張らないでってちょっと?!?!」


混乱する俺をよそに我が道を行くおじさんとおばさんに翻弄されながら。俺は何故か水着を買いに行くことになったのだった。


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