夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実
「アンタもうあれだ、薬盛って一発ヤっちまいなよ」
「何言ってんの!!!!!!!!!!!」
セーロと別れ、少しテンション低めに帰って来た俺。それに気付いたココリネおばさんに何があったのかをお店のカウンターに引きずられて、無理矢理吐かせられた後、おばさんはとんでもないことをぶち込んでくる。
そ、そんな事出来るか!!こちとら隣を歩く時ですらいっぱいいっぱいなんだぞ!!すみませんヘタレで!!
「だってねぇ。散々っぱら周囲からのお膳立てと、アンタからの好き好き光線を受けても手を出さないってんじゃあ、もう一夜の過ちで子供こしらえるくらいしかアタシには思いつかないよ」
「むむむむ無理っ!!絶対無理!!と言うかそんなのダメじゃん!!せめてムードってのが欲しい!!」
「いい歳こいて処女拗らせてんじゃないよ」
「ぶふぅっ?!!?」
なんの一切の容赦も無いおばさんの口撃に俺は成す術もなく沈められる。
いや、ヘタレは自覚してるけど、処女拗らせてるって……。もうちょっとオブラートに包んだ言い方をしてほしい。こちとら女子歴半年やぞ。
真っ赤になりながら、ようやく肩まで伸びて来た髪の毛をクルクルと指先でもてあそぶ。
流石に無理だって。色々と発想がぶっ飛び過ぎてる。
「じゃあどうするんだい?やる事は大体やったろ?これ以上何か成果が期待できる方法なんて色仕掛けくらいしかないよ?」
「うー!!いやでも、そういうのはちゃんと段階踏んでからと言うか……、まだ覚悟が……」
「ワガママだねぇ」
セーロと出会って半年。好きを自覚して4か月。周囲からのお膳立てもあって俺はセーロにありとあらゆるアプローチを掛けて来た。
それにこれはまだ周囲には言ってないのだけれど、俺はちゃんと言葉には出来てないがほぼド直球に一度思いの丈をセーロにぶつけている。
その時はセーロに止められてしまって、ほぼ出鼻を挫かれた形だったけど、セーロはちゃんと俺が何を伝えたかったのかを分かっている様子だった。
その時のセーロの言葉を信じて、俺はこうして懸命のアプローチを仕掛け続けている訳だ。
残念ながらそれが具体的な結果に繋がっているかは微妙だけれど、何回もデートには行ってるし、ご飯は昼と夜は俺の手作りだ。
行きの乗り合い馬車で一緒になったエルフのお姉さんの言っている通り、セーロは迷惑だったり、面倒だと思ったことに関しては割とズケズケと物を言ってくる。
それを何も言わず受け入れてくれているどころか、お昼の弁当なんかは届くまで待っているくらいだ。嫌がっているとは思えない。その上晩御飯のメニューなども指定してくるくらいだ。
正直、胃袋を掴んだ自信はある。
それでも、セーロからのアクションはほぼ無い。デートだって俺が行きたがっていたりしたのを、じゃあ行くか?と流れで誘うような感じだ。ほとんど俺が誘導していると言ってもいい。
「うーん、うーん……」
「はぁ、セーロの奴も何があってアユムに何もしないんだか」
一番の不安はそこだ。元男子からしても、こんなちょろちょろい据え膳女子なんて目の前に転がって来たご馳走だと思う。
スタイルは兎も角、顔はそんなに悪くないはずだ。この国には少ない元居た世界で言う東洋系の顔。因みにこっちの世界的に言うと海系の顔と言われるんだけど、その話は追々機会があれば。
悪くはない。たまにナンパされるくらいには顔立ちは整っている筈だ。それがこれだけアプローチしてもうんともすんとも言わない。
自信も無くなって来るし、手段も無くなって来た。
さてはてどうしようかと頭を悩ませていると。厨房の片づけと夜の仕込みをしていたおじさんが手を拭きながらこっちにやって来てこう言った。
「だったら、海はどうだ」
差し出されたのは二枚のチケットだった。




