夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実
それをセーロに合わせて少し大きめの一口大に切って、生姜、にんにく、塩、胡椒、お酒、醤油(なんとこの世界には醤油が存在する輸入品だから高いけど)、少量のごま油で漬け込む。
それに衣をまとわせ、たっぷりの油で二度揚げした俺自慢のから揚げだ。
実家にいた時、から揚げの作り方だけは何故かばあちゃんから教わったのだ。ばあちゃんありがとう……!!
「ごちそうさまでした」
「ハイ、お粗末様でした」
恐らく二人前はあったであろう弁当をあっという間に完食したセーロは満足げに大きく息を吐き出すと、椅子の背もたれに寄りかかって食休みをする。
「相変わらずの食いっぷりだなセーロ」
「隊長……。まぁ、人より食べる自覚はあります」
少しの間ガヤガヤと騒がしい休憩所の中でのんびりとしていると、明るく鈴の鳴るような声が俺たちに、主にセーロにかけられた。
「お久しぶりです」
「ようアユム。今日もウチのバカタレの為にご足労いただき感謝するよ」
俺の方も椅子に座りながらで失礼だがその場で会釈をする。この人は警邏隊の隊長さん。
堅苦しいのを嫌い、豪快に警邏隊を率いる女傑だ。
日に焼けた濃い小麦色と、強いくせ毛な黒髪、そして爛々と輝く青の瞳。女性らしく、しなやかでありながら、鍛えられ上げた肉体美はエキゾチックで妖艶な顔立ちも相まって美しいの一言だと思う。
……俺も、あのくらい抜群のスタイルが欲しい。
「いえ、その、……好きでやってますから」
「かああぁぁ~~、妬かせるね。私が男ならとっくの昔に娶ってるところだよ」
隊長さんに肩を叩かれながら俺はそう言って、後で湧き上がって来た恥ずかしさに顔を俯かせる。
その様子に隊長さんは更に肩をバシバシ叩きながら冗談を言ってくる。
このくらいでめ、娶ってくれるなら、簡単なのにな、とは思わなくもない。
「隊長、アユムが困ってます」
「はっ、一番困らせてんのはどこのどいつだい。バカにやるくらいなら私がもらうって言ってんのさ」
それが嫌なら自分でどうにかしな、と最後に隊長さんに締めくくられてふんっ、と隊長さんは鼻を鳴らす。
その意気込みはありがたい。ありがたいのだけれどちょっと場所を考えて欲しいかな……!!周りの隊員さんほぼ全員こっちに注目してるから……っ!!
めっちゃ恥ずかしい……!!
「……今ここでする話では無いです」
「……そうかい」
セーロがどうするのか、隊長さんも俺も、周りの隊員さんも気にしている中、セーロが口にしたのはその言葉だった。
それを聞いて隊長さんはあっさりと俺を解放すると、手をぶらぶらさせながらさっさと立ち去ってしまった。
俺は解放されて、物凄い微妙な雰囲気になった休憩所で妙な疎外感を感じずにいられない。
「お、俺、帰るね」
「……送っていく」
なんとなく、いたたまれなくなったこの場から逃げるように帰ることを告げるとセーロがいつも通り送ってくれるらしい。
2人で休憩所を出ると、妙な空気になっていた休憩所の雰囲気もいつも通りに戻って行ったように感じた。
……なんか、申し訳ないことしたな。
「……すまない」
「……いいよ。気にしないで」
そのすまないが何に対してのすまないなのかは分からない。分からないけど、俺としては許すくらいしか出来ない。ここで許さないと言って、勝手に怒っても後で嫌な思いをするだけなら、このモヤモヤした感情は俺の胸の奥底にしまっておいた方が良い。
「夜はから揚げと、いつものあんかけチャーハンで良い?」
「……あぁ」
「じゃ、待ってるね」
そう言って、乗り合い馬車の乗り場まで送ってくれたセ―ロに手を振って、馬車の荷台に乗り込む。
少しすると停まっていた馬車が定刻になり、動き出す。
なんとなく覗いた馬車の乗り合い口には、もうセーロの姿は無かった。




