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夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実

何とか憤るエルフのお姉さんを宥め、セーロのいる城下警邏隊の詰め所。その最寄りの馬車停留所へと停まる。


「マジでその内あの唐変木は殴るわ」


「その時は俺の分も殴っておいてくれ」


「あ、あんまり物騒なのは止めましょう?」


ふんすと馬車の荷台で未だに怒っているエルフのお姉さんとそれに賛同する御者のおじさんに苦笑いを変えしつつ、2人とわかれ、警邏隊詰め所へと足を向ける。


背後からは馬車が動き出した音も聞こえて来たので、無事出発したようだ。良かった、危うく一般市民により警邏隊詰め所の襲撃事件が起きるところだった。


「こんにちは」


「ようアユム嬢、今日もおつかれちゃん。あのバカはいつも通り休憩所にいると思うぜ」


「ありがとうございます」


詰め所の前、防犯のために柵で囲われた警邏隊詰め所の入り口で番兵をしている人間族のおじさんに話しかけられる。

この人はいつもここにいる人で、手入れをしっかりしてくるりと丸まった口ひげがトレードマークの人だ。


確か、警邏隊の副隊長さんで、物凄く強いってセーロが言ってたっけか。


「詰め所の中にいるからには安全だろうけど、男所帯だからな、気を付けて行きな」


「はい、じゃあ失礼します」


副隊長さんに一礼して、俺は警邏隊詰め所の中へと慣れた足取りで入っていく。ここに入るのももう何度目か分からないくらいだ。

少なくとも、警邏隊の人達には顔も名前も憶えられてるくらいには馴染みの光景になっている。


「はぁ~、健気だよなぁ。毎日飽きずに手作り弁当だぜ。甲斐甲斐しいったらねぇよなぁ」


「ダメですよ副隊長、手を出したら」


「バーカ、俺は遊んでる女としか遊ばねーよ」


後ろから副隊長さんと、他の隊員さんの会話が聞こえてくるけど、割といつものことなので俺はスムーズにスルーする。

副隊長さんは女好きなことで警邏隊の中では有名で、最初はその軽薄な雰囲気に物凄く警戒したものだ。


まぁ、本人の言う通り副隊長さんは同じような奔放な女性としか遊ばない。お互いお遊び以上の関係にはならない相手にしかそういうことをしない人なので、今はそこまで強く警戒はしていない。


「こんにちは」


「おつかれさまです」


「ごくろうさまです」


などと、すれ違う隊員さん達に挨拶をしつつ、俺は奥にある隊員の休憩所へと足を踏み入れた。

お昼が終わったとはいえ、警邏隊はその都度何かがあれば動く組織。お昼の時間は何時、と具体的に決まっている訳では無く割と皆まちまちだ。


種族間の食生活や生活リズムの差もあるので、その辺は割合自由な印象。

そんな休憩所もお昼はお昼。この時間は込み合っている。


「えっと、セーロはどの辺かな……」


入り口付近からキョロキョロぴょんぴょんと視線と身体をあっちこっちに動かしたり跳ねたりしていると、ぽすんと両肩に優しく手を置かれる。


振り向けば、困った顔をした比較的若い隊員さんが俺の方に手を置いていた。


「アユムさん、色々問題があるので、ジャンプするのは止めましょう。セーロ先輩のところには、隊員に声を掛ければ案内させるので」


「え?なんで?」


「何でもです。とにかく、ジャンプだけは絶対にやめてください。俺たちが不機嫌になったセーロ先輩にボコられます」


「???まぁ、いいけど」


若干青い顔をしている若い隊員さんのお願いを、よく分からないけど了承した俺は、こちらですとその隊員さんに案内されるがままに休憩所の中を歩いていく。


時折気さくな人や何度かお喋りした人からの挨拶を交わしたりしていると、すぐにセーロの座っていたテーブルへと到着した。


「ありがとうね」


「これくらいでしたらお安い御用です。では、ごゆっくり」


案内してくれた隊員さんにお礼を言って、セーロの座るテーブルの向かい。セーロと対面になる椅子に腰かけ、籠から弁当を取り出す。

小走りしたけど、何かがこぼれた様子はない。中身もこの様子なら大丈夫だろう。


「はい、今日のお昼」


「……悪いな、毎日」


「それよりも言うことはー?」


「……ありがとう」


何故か謝るセーロの言葉を訂正させ、俺はにししと笑う。今日は結構自信作なので、早く食べて欲しいな。


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