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夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実

そうやって、今日も激烈に忙しいランチタイムをなんとか乗り越え、手伝ってくれたお客さん達にお礼をしたのもつかの間、俺にはもう一仕事仕事があるのだ。


「アユム、そろそろ乗り合い馬車が出るよ」


「わーちょっと待って!!後包むだけだから!!」


ココリネおばさんに急かされ、大慌てでお弁当を布にくるんで籠の中へと入れる。

ランチの終わり際、俺だけが先にお暇して作った弁当。流石に中身の献立とか、作り方とかはおじさんおばさんの指導やチェックが入るけど、最近はメモを片手に、1人で作ることが多くなった。


まぁ、献立はおばさんと相談しながら。おかずの出来は余った分をおじさんが食べてダメ出しが入るのが最近の日課の一つ。


「いってきまーっす!!」


「いってらっしゃい。気を付けていくんだよ」


おばさんの声を背に受けながら、俺は乗り合いの定期馬車が出ている場所まで弁当の入った籠を抱えながら、小走りで進んでいった。


汗ばんで来た初夏の日差しだけれど、故郷の気候よりは随分と過ごしやすくて、気温が高いだけでカラッと乾いた空気なのが、この辺りの夏の気候だ。


それが気温が下がって来ると長い期間雨が降り、それがもっと寒くなると雪になる。それが温かくなってくると湿度が下がりながら気温が上がる。

この地域の季節の移ろいはそんな感じ。


そんな、割と過ごしやすい夏の日差しが、乾いた石畳を白く光らせ、街並みが明るく見える。

街中に木々も多く、川も水量が豊富で水に困ることは無い。


その水は王都を縦横無尽に流れると、やがて港へと一本の川に戻って行く。


港もかなり大きい。なんでもこの世界でも指折りの港であり、この国は人と物の出入りが活発であるのも、この国に様々な人種と物が集まる理由の一つだとか。


「乗ります乗りまーす!!」


「おぉ、待ってたよアユムちゃん。今日はちょっと遅かったじゃないか」


「いやー、忙しくて」


石畳の上を小走りでやって来た王都内を走る乗合馬車にギリギリ乗り込むと、御者のおじさんが笑いながら馬に鞭を入れて馬車を発車させる。


どうやら少し待ってもらったらしい。申し訳ない。


「今日も弁当を届けに行くのかい」


「はい」


ガタガタと石畳の継ぎ目に合わせて揺れる馬車の荷台に座っていると、よくこの時間に居合わせるエルフのお姉さんが話しかけて来た。


お姉さんは近くの職場で事務職を、俺は弁当を片手によく乗るから、自然と会話するようになった人の一人だ。


「はぁ、健気ね~。しっかしこんな良い子を捕まえてるんだから、セーロもさっさと腹を括ればいいのに。全くあの唐変木は」


普通の男なら、こんな良い子を野放しにしてるなんて有り得ないわ。私が同じ立場なら、さっさと婚約して、すぐ結婚ね。

なんて憤慨したようにエルフのお姉さんは息巻いている。


俺はそれをあははは、と軽い笑いで受け流すしかないのだけど、なんだか気恥しくて少し俯きがちになる。

やっぱ露骨だよなぁ。


「やっぱり、彼女じゃないのに、こういうのって迷惑ですかね?」


「何言ってんのよ。迷惑ならあのバカは迷惑って面と向かって言ってくるわ。それを言わないって事は少なくとも迷惑には思ってないって事よ。それどころか、理由も無く受け取ろうともしないでしょうから、好意的なのはほぼ確定なのよ」


「そ、そうですかね……?」


「それを、あのバカは口にもしなければ態度にも出さないそうじゃない!!かーっ!!クールぶってるのがかっこいいとか思ってる口よあれ!!アユムはOKサインもGOサインもこんなに出してるのよ!!据え膳よ、す・え・ぜ・ん!!それなのにアイツは婚約はおろかお付き合いの話も出さないとかホントにもう……!!」


お姉さんがめっちゃ吠えてる。ちょっと怖い。


でもまぁ、実際そうなんだよなぁとも思う。この弁当は言わなくても分かる通りセーロの弁当だ。毎日持って言っているし、夜はアイツの方から【グレンツェン】に来て、俺が作った量を食べていく。


デートも結構な回数してるし、プレゼントとかもたまに貰う。でも。


「手も繋いでくれないんだよね」


「アイツ一発ぶち転がしましょう、そうしましょう」


「俺も賛成だァ」


御者のおじさんまでエルフのお姉さんに賛同してしまい、エルフのお姉さんが張り切ってしまっているけど、フォローしたくない気持ちもちょっとあるなぁ。


なんて、苦笑いしながら、俺を乗せた馬車はガタゴトと王都を進む。


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