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俺に何があったのかの話

だから俺はその話を受けることにした。と言っても、いきなり養子だとかそういう話じゃなくて、住み込みで働くアルバイトとして、だけど。


そりゃまぁ、本当なら養子に入るのがいわゆるハッピーエンドってやつなんだろうけど、昨日今日会った人の子供にはいそうですか、とすぐに入れるほど俺もおじさんたちも諸々の準備も覚悟も出来ていない。


何よりお互いの人となりとか人間的な相性というのも大事だと思う。まずはその距離感をお互いに測るところから始めることにした。


その間に、俺が元の世界に帰る糸口が見つかればそれはそれで良いことだし、色々納得して、養子に入るならそれも良し。何か別の生き方とか、目標を見つけて、ここから旅立ったりするのも有りだとは思う。


ともかく、今の俺には現状をちゃんと飲み込んで、自分なりに納得がいく結論を出す時間が必要だ、ってことに落ち着いた。


これらは大体セーロが提案してくれたことだ。話を聞いてふんわり状況を理解したおじさん、興奮すると感情論の多いおばさん、まだ頭が追い付いていない俺の、それぞれをきちんと考えた上でのこれらの提案は、後々を考えれば必要なことばかりで、とてもありがたかった。


『とりあえず、東城 歩です。東城が姓で、歩が名前になります。今日からよろしくお願いします』


『はい、よろしくね。改めて自己紹介すると、私はココリネ・ルス・ブリジャール。ココリネおばさんとでも呼んで頂戴な』


『俺はアルマン・ルス・ブリジャールだ。同じくアルマンおじさんとでも呼んでくれ』


お互いにちゃんとしてなかった自己紹介を交わし、しっかりと握手をする。


これから一時的かもしれないし、生涯においてお世話になるかも知れない人たちだ。この辺りはしっかりとしておかないと、後々何かトラブルが起こるかもしれないし。


なんて思うけど、おじさんもおばさんもニコニコ顔でそんな難しいことは考えてなさそうだ。

俺の方が少し神経質になりすぎているだけかもしれない。肩の力を抜いて、まずは自然体で接する努力?いや、努力したらダメなのか。うーん、難しい。


『なに百面相してるんだ?』


『いや、自然体って難しいなって』


どうやら百面相していたらしい俺に、セーロが不思議そうな顔をしてのぞき込んでくる。

俺としては、自然に自然にと心掛けているつもりでも、色々と表情やしぐさにすぐ出るので、周囲にはとても分かりやすいとは前から言われていることなんだけど、まだ会ったばかりのセーロからもそう言われるとは、相当分かりやすいらしい。


『無理にするものでもないだろ。他人にそう見せるよりは、先に自分の考えをまとめた方が良い。そうやっているうちに、周りと馴染んで、自然に振舞えるんじゃないか?』


『うーん、そんなもん?』


『わからん。ただ、頭で考えるものではないだろう。まずは慣れが必要だ。犬猫も、新居に移った時はオドオドしているが、慣れさえすれば普段通りに過ごすからな』


『俺は犬でも猫でもないんだけど』


『人間だって同じだってことだ』


ペットに喩えられて、思わず抗議するけど、確かに言われてみればそうかもしれない。


実家のペットである猫も、お盆にはお墓のあるおじさんの家へと一緒に連れていかれるのだけど、最初はビビッてケージからも出て来ないのに、しばらくするといつも通り廊下の冷たいフローリングの上で寝ていたりする。


俺も一緒に良くやっているので、確かに似たようなものかもしれない。……えっ?そうじゃない?


『とりあえず、アユムの日用品を揃えようか。早速買い物に行くよ!!』


『俺はこの部屋をしっかり掃除しておこう。今日は臨時だな』


『じゃあ俺は歩とおばさんの荷物持ちとボディーガードをするとしよう。警邏の仕事も非番だしな』


『よ、よろしくお願いします……』


早速、色々と迷惑をかけることになりそうだけど、何とか話はまとまった。

張り切るおばさんと、掃除用具を取りに行ったおじさん。どこから行くのかとおばさんに聞いているセーロと、屋根裏部屋は賑やかだ。










これが、俺に何があったのか、その初日の話。これからまぁ色々あるんだけど、それはまた追々話す感じで行こうと思う。


「どうした?急に笑顔になって」


「ううん。ただ色んなことがあったなーって思っただけ」


そんな少し昔のことを思い出しながら、料理を食べるセーロを眺めているとどうやら笑っていたらしい。大したことを思い出していたわけじゃないけど、ただただ色んなことがあったなと、頭の中に浮かんでは消えていく。


「そうか。……今日も旨いな」


「お世辞は言わなくていいよ。まだおばさんには合格貰ってないんだから」


「俺にとっては一番旨い」


「にししし、そう?」


褒められて悪い気はしないのでありがたく受け取りながら、俺は作った料理を美味しそうに食べてくれるセ―ロをただただ見つめる。


美味しそうに食べてくれちゃって。ほっぺにご飯ついてるよ。


ただし、俺にそれを取って食べる度胸は無いのだった。うるせー、あんな漫画みたいなことできるかよ。


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