俺に何があったのかの話
俺の感想としては、正直肩透かしと言うか、思っている以上に反応が薄くて逆に戸惑っている。
俺が本来は男だってことも言っているんだけど、おじさんもおばさんも話の焦点はそこじゃなくて、俺が理不尽に追い出されたことと、現在俺の住む場所が無い点に当てていた。
『……なんというか、思っている以上になんとも思われてないな?』
『何がだ?』
『いや、俺が元男だってこと。個人的には王城から追い出されたことより問題かなって思ってたんだけど』
それにセーロはふむとおばさんが片手間で淹れたコーヒーを口にして、自分の考えをまとめているようだ。
セーロ自身も、俺が元男って点には何か反応したわけじゃない。いや、コイツの場合無表情で聞いているだけで、それ以上のアクションはどの話の時も無かったんだけど。
『多分あれだな、俺たちがお前が男だった頃の姿を見てないからだろう。人はどんなに理解はしていても、第一印象が一番その人の印象を決めるのに物を言う。俺やおばさんたちが知っているのは、女になったお前だからな。男と言われてもあまりピンとは来ないな』
『あー、成る程』
確かに、セーロもおじさんもおばさんも、出会ったのはこの姿になってからだ。いや、おばさんたちには正確に言うと前に会ったことはあるんだけど、数回来たことがあるだけの客の顔を覚えている訳がない。
そんな奴に、自分実は男なんですって女の子の姿で言われても、そうなのかー(棒)以外言うことが無いと思う。
『ついでに言えば王城の件だって俺たちにはスケールが大きすぎてついて行けない。一応、貴族の端くれの俺だって、王城には数回しか行ったことが無いし、庶民からしたら最早物語の世界だ。それに、王女様や宰相様が関わっている件に、おいそれと首を突っ込む訳にも行かない』
『下手すりゃ反逆者とか言って処刑して来そうだもんなぁ、あの王女様……。宰相様は何考えてるのか分かんないし』
うーん、これも確かに。俺は王城の中にいたからあれだけど、普通の人にとって王城とは城下町のシンボルなだけであって、その中のあれこれは全く知らない。
精々物語を読んで、こんな感じなのかなと想像を膨らませるくらいだ。仮に首を突っ込んだところで待ち構えているのはあの王女様と何を考えているのか分からない宰相様。
うーん、いい予感は全くしない。
『当事者のお前がそう言うなら、部外者である俺達にはもう理解の及ばない範囲だ。難しく考えるより、今をどうするかを考えた方が良いだろう。……悪いな、こんなことしか言えなくて』
『いや、良いよ。なんて言うか、下手に慰められるより良いや。どうしようって悩むより、今日のご飯で悩んでた方が俺らしいしな、にししし』
セーロの発言は決して慰めとかでは無いけど、変に同情されるよりはなんというかさっぱりしてると言うか、逆に信頼できるというか。
本人はちゃんと俺の事を考えた上での発言だし、自分が月並みな慰めの言葉を言えない事にも悩んでるっぽいし。
多分、理屈屋なんだろうなーとは思うけど、突っかかりにくいとかは感じないし、良いところだと俺は思う。
『昨日からの短い付き合いだが、お前らしいなと思うよ。そうやって何にも考えずに笑ってる方が、お前らしく感じる』
『そうか?勇者やってた時はあんまり笑ってる時間も無くてさ。今はそういうの考えなくていいし、気楽に笑えるんだよね』
にしししと歯を見せて笑う俺に、セーロは穏やかな表情で笑う。相変わらず眉間にはしわが寄ってるけど、険の無い表情は珍しいと思う。いや、会ったのは昨日なんだけどさ。
勇者の仕事をしている時は、四六時中黙々とやっていた訳じゃないけど、張り詰めていた時の方が多かった。
そういうのを全く考えずにいられるのは、思っている以上に気楽で、何でもなくても笑っていられるような気がした。




