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俺に何があったのかの話

食事に舌鼓を打って楽しんでいると、おばさんの方が何やらホッとしたような表情をして微笑んでいた。

どうかしたのかと首を傾げているとおかしそうに声をあげて笑う。なんかおかしなことした?俺。


『帰る家が無いなんて泣いてた子がケロッとしてて安心したよ。不安や考え事より先に食欲が先なのは元気な証拠だね』


『えっ、俺そんなことしてたの?』


おばさんの言葉を信じられず、同じ席でお酒を飲み交わしていたはずのセーロに問いかけると、他のお客も心配するレベルの大泣きだったと答えられた。マジか。


良い大人が大勢の前で酔っぱらってギャン泣きとは恥ずかしい話だ。確かに帰る家も無いし、明日をどうやって生きるかも不明瞭だけど、それを理由に他人様に迷惑と心配をかけるのは別だと思う。


『余計な心配かけさせちゃってすみません……』


申し訳なくておじさんとおばさんに向かって頭を下げると、とんでもないと更に声をあげられた。


『余計なもんかい。こんな若くて可愛い子が家族から引き離されて奉公していた場所から追い出されたなんて話を聞いたら、放ってなんておけないよ』


『あぁ、是非とも私達にも君の生活の協力をさせてくれ』


逆に放っておけないと二人に言われた。おばさんの話は俺の境遇とはだいぶ違うのだが、まぁ広義で言えば大凡似ているのか?

とにかく、帰る当てのない俺が生活できるように協力を申し出てくれた。


こんな生きずりの人間に優しくしてくれるのは感謝しかない。だけど、それ故にきちんと自分の身の上、というのを話しておくのが筋、というように思えた。


『ありがとうございます。……協力、の件に関してはまずは俺の身の上と言うか、俺がどういう立場の人間だったのかをお話したいと思います。それを聞いて、改めてきちんと考えて欲しいなって』


『そんなの聞かなくても私は良いんだけどね』


『まぁまぁ、この子なりの誠意と言うやつだろう。自分の身分を明かした上で、ちゃんと私達と話をしたいということなんだから』


おじさんの言う通り。こちらの身分も何も明かさずに、良いところだけを貰おうなんて虫の良い話だ。

良くしてくれる二人になんて思われるのかは不安だけど、ほとんど無一文の俺に出来ることなんて殆どない。


話せることを話して、信じてくれるかは個人の判断だ。


『セーロも、それで良いか?』


『構わない。拾った俺にも拾ったなりの責任というものがある。それに相談事に乗るのも城下警邏の仕事の一つだ』


『そんな野良猫拾ったみたいないい方しなくても……。ま、良いけど』


同席するセーロにも、聞いてもらうことにする。既に迷惑を掛けたし、色々と信用できる奴だ。あまり隠し事は好きでも無いし得意でもない。


洗いざらい吐いてしまった方が、俺の性分に合っている。


こうして、俺は自分がこの世界に来た経緯と、ここにいるまでに起こったことを三人に話したのだった。

流石に国家機密級の事は明言を避けたけど。もし流布したら、どんなことになるか分からないし。










『――って感じで王城を追い出されて、路地でめそめそしてるとこをセーロに拾われたって感じ』


『その後は俺に連れられてここに来たって感じか』


『そそ。セーロに拾われてなかったら今でも路地裏でめそめそしてたかもな』


セーロの言う通り、気分が暗いときは美味しいごはんとお酒は効果覿面だった。じゃなかったら、俺はこんなに明るく振舞えていないような気がする。


不安を打ち明けられる存在と言うのはありがたいものだ。


『嬢ちゃんが勇者様、か。にわかに信じがたいけどな』


『あたしゃなんだって良いよ。昨日の泣き顔を見りゃ、ウソじゃないってのは一目瞭然さ。元男で元勇者が何だってんだい。そりゃ、王女様や宰相様、襲って来た変な魔法使いは気に食わないけど、それよりもこの子が安心して暮らせる場所を作る方が、大事だね』


ウームと唸るおじさんと、そんなのは知ったことではないと鼻息を荒くするおばさん。

対照的な反応だけど、おじさんも拒絶だとかそういうのではなくて、単純に情報量の多さに頭を悩ませている様子だった。


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