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俺に何があったのかの話

もぞもぞともぐるようにして視界に入って来た光を遮る。頭が酷く痛い、金づちで殴られているような感覚だ。身体も重いし、吐き気もする。


『んん……、頭痛い……』


『あれだけ飲めば当然だな』


覚醒した意識をしぶしぶ認識して、身体を起こし文句を口にすると、呆れたようなバリトンボイスが近くから聞こえて来た。


『おはよう、セーロ……』


『おはよう。酷い顔だ、一先ず水を飲むと良い』


『ありがとう……』


痛み頭を押さえながら、水差しからコップに移した水を一杯受け取り、ゴクリと飲み込む。

カラカラに喉が渇いていたこともあり、身体に染み渡るようだ。

身体に残ったアルコールを外に出す意味も込めて、今日は水分摂取を怠らないようにするのが吉だろう。


だけど、それはそれとして。


『ここ、何処?』


俺が寝ているベッドは、というか部屋は全く見覚えのない部屋だった。あまり広くはない。8帖程度の広さに天井に傾斜と天窓が付いた部屋で、家具はベッドとテーブルくらいだ。


人が住んでいる、と言うには生活感が無さすぎるし、宿と言うには殺風景すぎる。何せカーペットや花瓶の一つもない。

宿屋となれば、安宿言えど最低限の内装はあって然るべきのはず。


『【グレンツェン】の屋根裏部屋だ。感謝するんだな。昨日の騒ぎで事情を察して、空いてる部屋を貸してくれたのだから』


『あっちゃー、昨日酔いつぶれたのか……』


言われてみれば、後半の記憶がまるで無い。すっかり出来上がった挙句、そのまま寝こけ、厚意で食堂の屋根裏部屋を貸してくれたらしい。

大変申し訳ないことをしてしまった。お礼を言わないと、なんて考えていると屋根裏に続く梯子だろう、それがきしむ音が聞こえ、食堂のおばちゃんがひょっこり顔を出したのだった。


『おや?ようやく起きたねお寝坊さん。もうお昼過ぎだよ』


『昨日はすみません……。泊めてまでもらって』


『いいの、いいの。訳アリみたいだったみたいだしね。お父ちゃーん!!お嬢ちゃんが起きたよ!!』


ぺこぺこと頭を下げて謝る俺に、おばさんは笑顔で答えながら階下にいるらしいおじさんにも声をかけた。


おじさんの返事が聞こえたのを聞いて、おばさんはヨイショと持っていた籠を屋根裏まで持ってきて、テーブルの上にどさりと置いた。


『色々話を聞きたいし、時間も時間だからお腹も空いたろ?ご飯でも食べながらお喋りとしようじゃないか』


そう言って、籠を開け、中からひょいひょいと食べ物を広げていくのだった。







階下からおじさんもやって来て、俺、セーロ、おばさん、おじさんの四人でテーブルを囲み、時間的には昼食、俺的には朝食を食べ始めた。


『今日は運が良くてね、焼き立てのパンが買えたからパンを美味しくいただこうじゃないか』


『わっ、いい匂い』


テーブルに並んだチーズ、バター、サラミのような干し肉やはちみつ。切ったいくつかの野菜やオリーブの実に似た物もあった。

材料だけの状態で、どう食べるのかと思っていたら、籠の中にはまだパンが入っていたらしく、おばさんが取り出すとパンの芳ばしい匂いが辺りに広がる。


思わず、俺の腹もぐぅと音を立ててしまい。おやおやとおばさん達の頬を緩ませることになった。


『はっはっは、中々の食いしん坊のようだね。昨日の飲みっぷりから二日酔いを心配していたんだけどね』


『二日酔いよりも美味しいご飯!!頭痛なんて飯食えば治る!!』


愉快そうに笑うおじさんに二日酔いは大丈夫かと言われたけど、大丈夫じゃないけど大丈夫。病気でも何でもないのだからなんてことはない。それよりもこの美味しそうなご飯だ。


二日酔いなんて食えば治るね。確信できる。


そんな俺を見て、おじさんは更に愉快そうに今度はがははと豪快に笑う。


『元気もよろしい。ココリネ、たらふく食わせてやれ。セーロ、君も遠慮はいらないぞ。城下を守る警邏は身体が資本だろう?』


『すみません。いただきます』


『いっただきまーす』


ブレッドナイフで切り分けられたパンに、思い思いの具を乗せながら、俺たちは食事を楽しみ始めた。

蜂蜜とチーズの組み合わせがバチゴリに旨い。サラミと蜂蜜も意外とイケた。


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