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俺に何があったのかの話

しばらくはそうやって飲んで食べて適当なことを喋ってを繰り返していた。

料理も旨いし、セーロの話は中々面白い。非番の時に愛想が悪すぎて、別の担当地区の城下警邏隊の新人に危うく逮捕されかけた話は大層笑った。


体格も良く、不愛想なセーロは時折こう言った第一印象で損な役回りが多いらしい。本人はそれはそれは不服そうだったが、酒の席の笑い話としては最高だった。


『ひっく、ん~?えーるからっぽらぁ~。おばちゃ~んろういっぱ~い』


そうやってお酒の席を楽しんでいた俺はやがてへべれけになるまで、それはもうしっかり酔っぱらっていた。

呂律も頭も全く回っていない。料理もお酒も、セーロと喋るのも楽しい。今が一番楽しい。

だから、この時間が終わらないようにいつも以上にお酒を飲んでいた。


『……おい、ちょっと飲み過ぎじゃないか?そろそろ止めておけ』


『なんれ~、もっろおはらししお~。せーろのあなしおもしおいし~』


セーロの方はお酒に強いのか、顔が赤い程度で呂律もしっかりしていた。心配するように俺が手にしていたエールを入れる木のカップを取り上げて、困ったように眉尻を落す。


よもや酔っ払いの相手をすることになるとは思ってもいなかったのだと思う。駄々をこねる俺にどうしたものかと肩を竦めている様子だった。


『そろそろ家に帰らないと家族も心配するだろう。もう遅い、最初に言った通り家まで送って行ってやる』


そう言って、俺の帰宅を促すセーロだったが、今の俺にその言葉は地雷に近かった。


『――もん』


『ん?』


『帰る家も、家族もここにいないもん!!』


周囲にいた他の客がギョッとするほど、大きな声で俺は今の自身の現状を吐露する。


帰る家も、家族も、世界を跨いだ向こう側だ。あとちょっとで帰れるはずだった。あと一週間もあれば家族の下に帰れたはずだったのだ。


それがどうだ。よく分からない奴によく分からない呪いだか魔法だかで身体を女に帰られた挙句、自分が東城 歩だと認められないまま、この世界での一応の帰る場所だった王城からは追い出された。


やるべき責務を果たしたのに、何もしてないのに、まるで今までの努力が水泡に帰すかのように自分の立場も何もかも失って、城の外に放り出されたのだ。


お金も、旅の装備も部屋に置いたままだ。自分が勇者、東城歩だと証明出来ぬままに追放された今の俺には、それを取り戻す手立てすらない。

そして、帰る術も失った。


『やることやった!!やったら帰れるって言われたから頑張った!!なのに何もしてないのに追い出された!!どうやって帰ればいいのかも分からない!!帰れるのかも分からない!!帰っても今のままじゃ家族に会えない!!』


『お、おい、嬢ちゃんどうした……』


『歩、落ち着け。俺が悪かった、もうちょっと飲もう。な?だから落ち着け』


大声を張り上げ続ける俺に、周りのお客さんも、セーロもたじたじだ。騒ぎを聞いたおばさんとおじさんも、何事かと厨房から顔を覗かせている。


が、色んなものが溢れ出して来た俺は、周囲の目など気にすることなく騒ぎ続ける。我が身い起こった理不尽をどうやって解消すれば良いのか分からない。その不安と不満を爆発させて。


『俺頑張ったよ!!たくさん頑張ったよ!!悪いことしてないのに、なんで帰れないの!!やだぁ、帰るぅ……、帰りたいよぉ……!!』


いよいよ感極まった俺はボロボロと駄々をこねて泣き出した。こうなると周囲のお客さんはおろおろとするばかりになる。

なんせ周りは酒に酔ったおっさんばっかりだ。少なくとも見た目は若い女の子の俺が、泣きわめきながら帰る家が無いなんて言ったら、何事かとあわあわするくらいしか出来ないだろう。


『悪かった。俺が悪かったからもう泣くな』


そんな中、セーロだけが動いて泣く俺の腕を引いてよしよしとあやすようにして抱きしめた。

まるで子供の扱いだが、俺もそんなのおかまいなしにその鍛えられた腕にすっぽりと収まる。恥ずかしいとかどうこうとか、そういうのは酔いとめちゃくちゃになった感情のせいで頭からすっぽり抜けていた。


『もうやだぁ、帰りたいよぉ……』


『そうだよな。悪かった』


『帰るぅ……。かえ、るぅ……』


そうやって散々騒いだ俺は、セーロの腕に抱かれながら糸が切れたように寝息を立て始めるのだった。


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