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「負けイベント」のはずなのに主人公が何度も何度も負けるたびに挑んできて勝つまで戦うのをやめてくれないみたいなんですが。

作者: 黒豆100%パン


「このわたしにかてるとでも思うな!」



とあるゲームの一場面、私ははボロボロの主人公にそう言い放ち勝ち誇った顔をする。

主人公は私に負けたのだ。だが普通なら負ければやり直しになるがこれは違かった。

ゲームなどの主人公が負けてもストーリーが進む、いわゆる「負けイベント」というやつだ。ここで主人公の仲間が現れて、助けに来るという算段になっている。



「くくく、これで終わりだな」



そう呟き剣を振り下ろそうとする。すると突然白い煙が立ち込め、私の視界を奪っていく。そうそう。これで煙がなくなると、主人公が消えていくのだ。

白い煙が消えていき、主人公の姿が消えているのを確認すると、近くの岩に座り一息ついた。



「負けイベントも楽じゃないな。プレイヤーはどうやっても勝とうとしてくるし。一応負けイベントだから負けるわけにもいかないし」



「ですよねえ。回復とか使って粘るやつとかいますもんね」



近くにいた羽を生やした天狗のような魔物は「こちらもやられるだけで一苦労です」とこちらに歩きながらそう話す。



「負けたらゲームオーバーならまだしも、負けたって進むんだから早く負けて欲しいよ」



「ええ...ってあれ?あいつさっきのやつじゃないですか?」



天狗のような魔物が指差す先には主人公が凛々しい顔つきでこちらに歩いてきた。おかしいさっき戦ったはずなのになぜこちらに歩いてくるのか。



「待っていたぞ!さあこい!」



訳がわからないがとりあえず戦闘前のテンプレートを喋り戦闘を始めた。

もちろん負けイベントなので完膚なきまでに主人公を打ちのめした。



「くくく、これで終わりだな」



そのセリフの後に先ほどと同じように煙が現れいつのまにか消えていった。

この後再戦するので早めに決戦の場へ行かなければ...。




「さて移動するか」



「また主人公来ますよ!!」



「なんだって!?」



またもやこちらに来る主人公。これはもしかして...。



「あいつリセットしてんのか!?」



ゲームは戦闘後にセーブせずにやめれば戦闘前セーブした地点へと戻される。おそらく次に進まずリセットを繰り返しているのだろう。



「まさか勝つまでやるのか?」



「なんかそうっぽいですよね」



「うーむ」



たまに負けイベントで勝とうとする者がいる。この主人公を操作してる者もそうなのだろう。

いや、考えても仕方ない。とりあえず来た以上戦うしかない。



「待っていたぞ!さあこい!」



テンプレセリフを告げまた主人公を倒した。回復や強化などを行なっているところを見ると、間違いなくこの戦いに勝つ気でいる。



「くくく、これで終わりだな」



同じことを言うとまた白い煙。そのあとは同じことなので省略するが。主人公がいなくなるとすぐに主人公の来た道の方を見る。するとまた、小さく主人公の姿が見える。やはり、負けイベントで勝つ気に間違いないだろう。



「ここ、給料もしょっぱいのにこんな無駄な労働をさせるのか。あとで文句言ってやろう!」



もうなんだかめんどくさくなり、勝つ気も失せていった。的の行動パターンが緩くなったりと言うのを感じたことがないだろうか?

それはキャラが何回も戦いに来るプレイヤーに「もう負けイベントとかどうでもいいから勝たせてやるから次行け」と言う合図なのだ。



「ぐあああああ!」



「やった!」



私は何度もやってくる主人公にやられた。きっとプレイヤーも勝てた!と歓喜している頃だろう。



「ふふふ、やるな!だが次はそうはいかんぞ!」



私が負けるとこのようなセリフを主人公に言い放ちどこかに飛び立つことになっている。はあ、やっと終わったとため息をついた。









「ですから!!他のところに行きます!!」



私はラスボスにそう話した。主人公と再戦するのはまだ先なので再戦の前にラスボスと話をつけなければならない。



「ほう、そのプレイヤーが勝つまで何度も何度も挑んでくると?」



「はい。明らかに給料と労働が見合っておりません」



「楽しんでおるな」



「楽しん...何を仰っておられるのですか!主人公が何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も挑んできてこのままこう言うプレイヤーがいると過労死を...」



「お前、戦っているときは楽しそうだったが?」



たしかに、後半とかは楽しんでいたのかもしれない。最初はめんどくさいだとか労働がなんだとか考えていたが、その割に自分でも何を言ってるのか。



「心当たりがあるのだろう?」



「は...はい」



「この仕事が嫌か?」



「そ、それは」



なんだろう。あんなに何度も何度も挑んできてめんどくさがっていたはずなのに...。



「話はそれだけか?」



「あ、はい...」



どこかめんどくさがっていた自分が消えていたのかもしれない。ラスボスの言葉を聞いてそう考える。まあたまにはいいのかもしれないと言う考えにまでいつのまにか変わっていた。







「くくく、これで終わりだな」



同じセリフをまた言う。これで何回目か。先ほどのプレイヤーはラスボスまで到達して今度は違うプレイヤーがゲームをやっている。きっとゲーム機を貸したりしたのだえおう。

煙が出る演出と主人公が消えていく。私は「ふー、疲れた」と岩に座った。



「そりゃあ、あの負けイベントぶち壊す気満々のプレイヤーがクリアしてからすぐにですもんね。でもこれでしばらく再戦も先なので休めますね」



「ああ。『たまに』ならいいがやっぱり何度も戦うのは疲れるからな」



「あ!あれ!」



その言葉に嫌な予感がした。向こうから逃げたはずの主人公が向かってくるのか。デジャヴというやつだ。私はスーッと息を吸い、



「お前もか」



とだけ呟いた。


あなたがもし負けイベントの敵を倒せた場合、それは敵からの「もうめんどくさいから負けてやる」という同情のメッセージなのかもしれません。

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