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イイ性格してるわね!

その後、放心状態で宰相との会見を終わり、自室として与えられた部屋に、私は戻る。

直後、リュシアンに噛みついたのは、当然のことだろう。


「私、日本に帰れたの!?」


「帰れないよ。……事件が、解決するまでは」


平然とリュシアンは、答える。


「そういう意味じゃないわ! 帰れる手段が有るのか、という話よ!」


鬼気迫る勢いで詰め寄る私に、リュシアンは、あっさりと頷く。


「――――落ち人、いや人に限らず、異世界の“もの”が落ちてくる原因は、この世界、エンドの都合だ。だとしたら、責任をもって帰すのは、当然だろう? まぁ、中には、落ちた瞬間に死んでしまう“もの”や、異世界を研究している魔族に気に入られ、懇願されてエンドに残る“もの”もいるけれど、――――落ちてきた“もの”の八割は、元の世界に帰るよ。魔族は、その手段を開発し、人間世界にも普及させている」




驚愕の事実だった。

それを、ごく当たり前のことのように話すリュシアン。


「……聞いていないわ!」


「だって、聞かれなかったからね。……それに美春は、事件が解決するまでは帰れないのだから、言っても仕方ないだろう?」


それは、そうかもしれないが、……帰れるかどうかは、私にとって最重要事項だ。


(リュシアンだって、それくらいわかっているはずなのに!)


悪びれないリュシアンを、私は睨み付ける。

今の今まで、ただひたすら、私に対して、いい人(・・・)だったリュシアンの顔が違って見えた。




「……ひょっとして、リュシアンって、かなりいい(・・)性格をしているの?」


「お褒めに預かり、光栄だな」


ジト目の私の言葉に、リュシアンは綺麗に笑う。


「褒めているんじゃないわ!」


「……今ごろ、気づいたのかい?」


その美しすぎる笑みを、今度はニヤリと歪めた。


「フフ……でも、大丈夫だよ。俺は、君を守る約束を、破ったりしないから」


かと思えば、一転、表情をガラリと変え、真剣な表情を見せてくる。


「陛下の部屋で、震え、泣き出しそうだった君を守りたいと、俺が思ったのは、本気の思いだ。落ち人だと知り、力になってやりたいと思ったのも、もちろん本気。……ただ、だからと言って、知れば直ぐに帰りたいと泣きわめくだろう君に、正直に帰れる手段を教えてあげるほど、俺は甘くないよ。それが宰相閣下の意に染まぬとなれば、尚更だ」




確かに、落ち人だと知った時点で、同時に帰れる手段があると知ったなら、私は、何がなんでも帰りたいと叫んだだろう。

わめき、怒鳴り散らしたかもしれない。

どんなに泣き叫んだとしても、重要参考人である私を、この国が帰すはずがないと頭ではわかっていても、納得できなかった自覚はある。


だから、リュシアンは、巧みに話を誘導し、私にその可能性を考えさせなかったのだ。

容疑者だから、このままでは拘束されると脅かして、それを免れる可能性の方に、私の意識を向けさせた。


そして、まんまと、リュシアンの策にのった私は、そもそもこの世界から帰れる可能性に、思い及ばなかった。



リュシアンの手順は、巧妙である。

自分が騙されたと知って、私の心はむかついてくる。




「そう怒らないでくれないか。……どのみち、君の選べる道は変わらない。そうだろう?」


しゃあしゃあと、彼はそう言った。

ますます私は、ムッとする。


「……どうすれば、私は帰れるの?」


「それは、物理的手段としてかい? それとも、状況的な条件としてのことかな?」


「両方よ!」


私が怒鳴れば、リュシアンは楽しそうに笑う。


「まず、物理的にだけど、――――この城の奥に、大規模な転移装置がある。魔族が設置したもので、落ちてきた“もの”の前の世界を特定し、帰すことが可能な装置だ」


「そんな便利な装置が、あるの!?」


思わず、私は興奮した。

パッと、リュシアンに近寄り、彼の手を握る。

苦笑しながら、その手を見たリュシアンは、「ただし」と言って、言葉を続けた。


「君が、その装置で帰るためには、君ともう一人、装置を起動する人間がいる。――――君一人の力では、決して帰れないから、そこは忘れないように」


念を押してくるリュシアン。

私は、不信感もあらわに、彼を睨み付けた。


この状況で、どうしてその言葉が信じられるだろう。


その辺はわかっているのか「百聞は一見に如かず。実際、装置を見てみるかい?」と、リュシアンは言った。


「見られるの!?」


「この部屋の、直ぐ近くだからね」


開いた口がふさがらないとは、このことだ。


「城の奥って言ったわ」


「この部屋そのものが、城の奥だよ」



クスクスクスと、リュシアンは笑う。


(やっぱり、この人、性格がいい(・・)わ!)


確信する私だった。


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