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再提案

「まあ!」


側妃の目は驚いたように真ん丸に見開かれる。

正妃はますます顔を俯け、宰相は眉間のしわを深くした。


「魔族は、自由自在に魔素を体内に取り込み力を振るうことができる存在だと私は教えてもらいました。空を飛び力の強い者なら大気圏外にまで行ける種族なのだと。そんな魔族なら石化の魔法を使うのにメデューサの目は必要ないんじゃないでしょうか?」


私の問いかけに、側妃は「あ!」と声を上げた。

考えて「それもそうかも?」と呟く。


国王が他殺されたと思っていたから凶器の存在を私は探していた。しかし、自殺であったならそもそも凶器がなかったことも考えられるのだ。



「――――保管庫のメデューサの目が一つ無くなっていた事実はどう説明するのだ」


低い声で宰相が聞く。


「メデューサの目は、保管庫から無くなっていたりしなかったんですよ。たぶんきっと片方を庫内のどこかに隠したんです。――――目立たない隅とかもっと大きな武器の中に入れてしまうとか、きっとやりようはいくらでもあったはずです。……それくらいなら、宰相さまでも正妃さまでもお出来になりますよね?」


他殺を装うならば凶器の存在は必要不可欠。そう思った宰相はメデューサの目を一つ隠すことを思いついたはずだ。

細く長い隠し通路を運べなくても、保管庫の中の適当な隠し場所まで運ぶことは簡単だ。


「メデューサの目を『隠せ』とか『運べ』とか言い付けられた使用人はいませんでしたが、保管庫内を捜索する騎士たちに、宰相さま自らが『あるのは一つだけで、もう一つが発見される可能性は”ほとんどない”だろう』と前置きした上で捜索を命じたと証言する騎士はたくさん見つかりましたよ」


可能性がほとんどないと断言された上での捜索に、やる気を出す人などいない。

その時の捜索が表面上のおざなりなものになったのは間違いない。

その後の捜索だって同じだ。

灯台下暗し。保管庫から持ち出されたはずのメデューサの目が、そのまま保管庫にあるなんて誰も思わなかっただろう。


「あと、こちらも聞いてわかったことですが、メデューサの目は一度使用するとその痕跡がしばらく残るそうですね?」


いつ使われたのかの詳しいものはわからなくても、数カ月以内に使用の痕跡があるかどうかの区別はつくという。

だから使用の痕跡のないメデューサの目は、行方不明になって見つかってはならないものだった。

そして、リュシアンが使って使用の痕跡ができたメデューサの目であれば、見つかってもかまわなかったのだ。





「証拠は何もない。ただの言いがかりだ。……第一、何故陛下が自殺されなければならない?」


宰相は冷たく私を見据えてくる。

私は、小さく首を横に振った。


「その答えは私にはわかりません。むしろわかっているのは、遺書をお読みになった宰相さまと正妃さまの方ではないですか?」


反対に聞き返しても、当然ながら宰相は答えたりしない。

正妃も黙ったままだ。


私は、大きく息を吐き口を開いた。



「ただ、想像することなら私でもできます。………………国王さまは寿命を迎えておられたのではありませんか?」


一年くらい前から言動がおかしくなっていたという国王。辻褄の合わない不穏な言動が増え、進言してきた家臣を罰することもあったという。

一時的な失調で治るものなら良かったが、もしもそれが魔族の数百年の生の限界の予兆であったなら――――



「国王さまは、明らかに道を外しつつありました。これ以上玉座にあって、国もろとも滅ぶ最期を避けようとされたのかもしれません」



この国リールは、国王の愛した前女王が全身全霊で慈しみ守ろうとした国だ。

前女王が国王を信頼し託した国を、国王は他ならぬ自分の手から守ろうとしたのではないだろうか?

アシルの話を聞いた今なら、私はそう思うことができる。



「そんな! そんなこと、偽善です!! 私たちは――――“私”は、何があろうと陛下をお支えして、共にありたいと、いつでも――――」



黙っていた正妃が悲痛な叫びをあげた。


「正妃さま!」


私の言葉を肯定したも同然の正妃の言葉を、宰相が叱責して止める。

そのまま彼は、キッと私を睨みつけた。



「お前が何を言おうと、それは全てお前の妄想だ。証拠は何もない」



私はその視線を静かに受け止める。


「証拠はありませんけれど、証人はいます」


宰相は驚いたように目を見開いた。

私はクスッと笑う。



「リュシアンですよ。彼が、宰相さまと正妃さまから使用の痕跡のないメデューサの目を受け取って“罪を被る代わりに私を無事に地球に帰還させる”約束をしたと証言しました」



正妃は信じられないというように私を凝視してくる。




「……罪人の言葉など信じられるか!」


宰相は大きく顔を歪めた。


「自白の方は信じるのに?」


「そういう問題ではない! だいたいお前にリュシアンがそんなことを言う機会などなかったはずだ。奴はずっと牢の中でお前との接触は禁じてあったのだからな」


宰相の言葉はもっともだ。

実際私はリュシアンに会ったりしていない。


「リュシアンに会ったのはポールさんです。彼がリュシアンと面会して、私からの伝言――――『このまま嘘の自白を続けるなら、私はこっちの世界に残ってポールさんと結婚するわよ』――――と伝えたら、すごい勢いで真実を教えてくれたそうです」



その時の話をしたポールは、どこか怯えたようだった。「冗談でも、もう二度とあんなことは言わないぞ!」と、私に宣言したくらいだ。




宰相は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「……そんな証言なんの役にも立たん。証拠らしい証拠もない落ち人の言葉など誰も信じるものか」


唸るようにそう話す。




私は――――「そうかもしれませんね」と言って、あっさりと頷いた。



「なっ!?」



「だから、言ったんです。最初のシナリオにしませんか? って。今の国王さま自殺説よりよっぽど万人に受け入れやすくって、しかも誰も不幸せにならない最高のシナリオでしょう?」

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