シナリオ1
「国王さまを殺した犯人は――――アシル・クロード。前の正妃さまの子で……不敬にも国王陛下の御子を詐称した人物です」
私は声高らかに宣言する。
同時に、塔があるのじゃないかな? と思われる方に向けて心の中で頭を下げた。
(アシルさん、ごめんなさい!)
「なっ! バカな、彼は――――」
アシルが脱獄不可能な塔の中にいることを知っているのだろう咄嗟に宰相が否定の声を上げようとする。
「事実です!!」
私はその前に宰相の声を遮るように大声で叫んだ。
何かを感じ取ったのか、宰相は口を閉じ黙り込む。
同じくアシルが塔に入っていることを知っていそうな正妃もギュッと唇を噛んでいた。
「……それ誰?」
アシルの存在自体を知らないだろう側妃は不思議そうに首を傾げる。
コテンと首を傾げた可愛らしいその姿に癒されながら、私は口を開いた。
「これから私の話が事実だということを証明します。――――その前に人払いをしていただけますか?」
私の依頼に宰相は一瞬考え込む。しかし、直ぐに「いいだろう」と頷いた。
これ以上この話を自分たち以外に聞かせるわけにはいかないと判断したのだろう。
「皆下がれ。部屋の外に出て私がいいと言うまで誰も入るな」
宰相の命令に、給仕と侍女は黙って従った。
部屋の外に立っていた騎士が心配そうにこちらを窺ってくるが、その騎士に対しても宰相は手を振りドアを締めろと命令する。
大きな音を立ててバタンとドアが閉まった。
私はホッと息を吐く。
「それで? これはいったいどんな茶番だ」
誰もいなくなったと確認してから、不機嫌そうに宰相が聞いてくる。
「茶番と言い切られるのですね?」
「当たり前だ! そなたも塔にいたのなら知っているはず。アシルに陛下を弑することなどできるはずがない」
絶対脱出不可能な塔に閉じ込められているアシルに国王殺害は不可能だ。
「そうですか? 案外いいシナリオだと思ったのですが。――――アシルさんには国王さまを殺したい動機がきちんとあります。自分を我が子と認めてくれなかったことへの逆恨みというものが。脱出不可能な塔に入っていることだって、実際に私がここにいますからね。何とでも言いくるめることができるはずです」
そう。現段階でアシルくらい犯人役に相応しい人はいない。
(何がいいって、濡れ衣を着せたとしても誰も捕まえたり罰したりできないところが最高よね。アシルさんはいやかもしれないけれど……塔の外のことなんて中の人にはわからないはずだもの。きっと大丈夫よ!)
それでも罪悪感はあるので、塔に足を向けて寝ないことを心の中で誓う。
「バカも休み休み言え! そんな戯言誰が信じるものか!」
怒鳴る宰相に、私は肩をすくめてみせた。
「そこを信じさせるのが宰相さまの腕の見せ所でしょう?」
ギロリと睨まれて、今度は「仕方ないですね」とため息をついた。
「では、もう一つのシナリオです。こちらはきっとお気に召さないだろうと思うのですが――――」
私は背筋をピンと伸ばす。真っ向から宰相と正妃を見つめた。




