夕食会当日
本日は2話更新しています。
こちらからお読みになった方は前話にお戻りください。
その日と翌日、私はポールと城中のいろいろなところに出向き、現場を見たり話を聞いたりして過ごした。
次の日は一人で考えたいからと部屋の中に籠る。
午後遅く顔を出したポールと少し話し合い、そのまま彼に付き添われ夕食会の行われる一室へと向かった。
(猶予の二日なんてなきに等しかったわよね)
あれから二日。今日は夕食会当日だ。
用意された夕食会の席に着いた私の有り様は無惨の一言だった。
「……あなた、大丈夫なの?」
側妃が心配そうに聞いてくる。相変わらずのゴスロリで、黒地に白のヒラヒラレースが可愛らし過ぎる。
「あんなことがあった後ですもの。心境はお察しするわ」
正妃も優しい声をかけてきてくれた。御年五十歳の貴婦人は、慈愛溢れる微笑みを浮かべ落ち着いた青のドレスを優雅に着こなしている。
キラキラと眩しい美魔女(?)と美少女(?)を前に、私は「ハハハ」と乾いた笑い声をあげた。
顧みる私は――――くっきりとした目の下のくまに血走った目。ボサボサの髪という淑女にあるまじき姿である。
(淑女って柄じゃないけど……)
しかも、この後直ぐに元の世界に帰ると決まっているため、私が現在着ているのはジーンズとチュニックブラウスというこの世界に落ちた当初のラフすぎる格好だった。
(アウェー感ハンパないわよね)
それでも――――
「大丈夫です。やれることはやりましたから」
私は前を見てはっきりと言葉を伝える。
側妃はビックリしたように目を丸くして、正妃は僅かに瞳を揺らした。
「――――後顧の憂えがなくなったのなら何よりだ」
横から声をかけてくるのは、この夕食会の四人目の出席者である宰相だ。
私たちの目の前には豪華絢爛な料理が並び、脇には一人一人に給仕が付いていた。壁際にも侍女が整列していて指一本、視線一つの指示に従おうと待機している。
「足りないものはあるか? あれば直ぐに何でも用意させよう」
太っ腹な宰相の言葉に私は苦笑した。
「十分です。こんなにご馳走が並ぶとは思っていませんでした」
「“贅を凝らした見たこともない珍しい料理を”という要望だったからな。満足しているようならそれでいい」
宰相の言葉は半分以上嫌味だろう。
「……よく覚えていらっしゃいますね」
「以前、そこを突かれて痛い目に遭ったからな。今後は一カ月前の食事のメニューも自信をもって答えられるように訓練している」
――――どうやら私は宰相の認知症予防に一役買えたようだ。
「本当に。これほどの料理は私も久しぶりです。さあ、遠慮なくいただきましょう」
にこやかに正妃がその場をまとめて夕食会がはじまった。
難しいテーブルマナーはわからないからそこは無礼講ということにして、会は進む。
料理は文句なく美味しく会話も弾んだ。
主に日本の政治制度や教育福祉制度について宰相や正妃から質問を受け、私が答えるというのがその会話の内容だ。
他にも側妃は私の着ている日本の服にいたく興味を示した。日本のファッションについて教えれば身を乗り出して聞いてくる。
(なんか、ガールズトークみたい)
複雑な心境で、私は和やかな会話を続けた。
死んだ国王や殺人事件――――リュシアンについて、誰も一切触れない。
(あらかじめ宰相から釘を刺されているのかしら? それとも、彼らなりの気遣い?)
どっちにしろそんなものは不必要なのに。
デザートに種類の違うプチケーキが五種類乗ったお皿が出てきて、私は覚悟を決めた。
「――――夕食会もあと少しで終わりそうですし、それでは日本に帰る前に、宰相さまにお約束しました国王陛下殺人事件の真相をお話したいと思います」
居住まいを正した私がそう言えば、三人は目を丸くして私を見つめてきた。




