イイ人
ドアを開けて一歩踏み出せば、そこにいたのはポールだ。
まるっきり面識のない護衛騎士――――という名の見張りを付けられるかと思ったのだが、その辺りは宰相も少し譲歩してくれたのかもしれない。
(私の反抗的な態度を軟化させたいのかもしれないけれど)
平民出身の騎士は何とも言えない情けない表情で私を見てきた。
「あ~、その……リュシアンのことは――――」
話そうとして言葉が見つからなかったのか、気まずそうに黙りこむ。
(たぶん私が落ち込んでいると思っているのよね。……ポールは案外イイ人だから)
彼は自分に嘘のつけない正直者だ。だから最初のうちは私を目の敵にしていて、その後私がリュシアンを庇ったり真剣に犯人捜しをしたりする姿を見て、態度を変えた。
(リュシアンなんかよりよっぽどまともな感性の人なのよね。……私も、どうせ好きになるならこういう人の方が幸せになれるんだろうけど)
少なくともポールは牢屋に放り込まれたりしないだろう。
そう考えた私は、なんだかおかしくなる。
「……協力してくれる? 私、リュシアンを助けたいの」
だから私は真っ正面からポールにそう言った。
誤魔化したり言葉を飾ったりする必要はないはずだ。
ポールは――――ビックリして目を丸くした。
次いで嬉しそうに破顔する。
「ああ。もちろんだ! リュシアンが陛下を殺したなんて、あるわけがないからな」
リュシアンからかなりぞんざいに扱われていたポールだが、彼はリュシアンにきちんと仲間意識を持っていたらしい。
本当にイイ人なのだと、あらためて認識する。
(何よりポール自身の性格が真っ直ぐなんだろうけど)
リュシアンには当てはまらない性格で、それはとても好ましいことだ。
(……ホント、私って趣味が悪い――――っていうか、イケメンに弱すぎよね)
密かに反省していれば、
「それで、どうするんだ?」
意気込んでポールが聞いてきた。
私は気を引きしめる。
「いろいろ確かめたいことがあるのだけれど……私が一人で行動するのはダメなのよね?」
まずはそこから確認した。
ポールは申し訳なさそうに頷く。
「ああ、お前の行動には全て張り付いて逐一報告するようにと命令されている」
イイ人で根が正直者のポールは、その命令に逆らえないだろう。
「――――報告するのは私の行動に関することだけ?」
「あ? ああ、そうだが……」
私が聞けば、ポールは少し不審そうに答えた。
私はニンマリと笑う。
「なら問題ないわ。私はこれから少しあちこちに聞き込みに行くから、ポールは一緒についてきてそれを宰相さまに報告すればいいわ。……その後であなたに少し“お願い”があるんだけど――――」
私の“お願い”を聞いたポールは、ポカンと口を開けた。
「……お前って奴は」
そう呟いて絶句する。
「あなたが自分一人で行動したことまでは報告する必要はないわよね?」
確認すれば、頭痛をこらえるみたいに頭を押さえた。
残念だけど驚くのはまだ早い。
私は意を決して、この殺人事件のからくりと犯人――――と私が思っている者の名前をポールに告げた。
これは賭けだが、しかし事件を解決するにはポールの協力が必要不可欠なのだ。
この賭けを避けて通るわけにはいかない。
(もしもポールが私の護衛に付かなかった時は、なんとしてでも彼に連絡をつけてもらおうと決意していたくらいなんだもの。絶対協力してもらうわ!)
決意を込めて、私はポールの返事を待つ。
「……それは本当なのか?」
やがて、ポールは呆然としながら呟いた。
「それを今から確かめるのよ。お願い力を貸して!」
ポールは一瞬口を引き結ぶ。真剣な表情で考えて……そして、頷いてくれる。
「それが本当ならば、俺も確かめたい」
きっと、彼ならばそう言ってくれると思っていた。
「行きましょう」
「ああ」
頷くポールを伴って、私は殺人事件解決への一歩を踏み出したのだった。
短いですがきりがいいのでここまで。
本日中に、もう一話更新予定です。