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疑惑

「無事で良かった」


「大丈夫。私はどこも何ともないわ」


むしろ心配なのはリュシアンの方である。

さっきの叫びは何だったのだろう?


私は、ハッとする。


(そ、そうよ! リュシアンが、私のために必死そうで……う、嬉しいっとか、ドキドキする……っとか、思っている場合じゃないわよね!)


私は自分の心を落ち着けようと、服の胸の辺りをギュッと握った。

顔を左右に向け、周囲を確認しようとするのだが――――できない。


理由はリュシアンだ。

私をギュウギュウに抱き締めている彼の手は、私の首の後ろにまで回り、顔を固定させるようにがっちりホールドしているのだ。

おかげで私の視界は、世にも麗しい美形の顔でいっぱいだった。


「リュ、リュシアン。……ちょっと、離――――」


離れてほしいと言いたかったのに、ますますリュシアンは私を抱く手に力をこめる。その上、私の頭を自分の胸に押し付けた。


(ちょっ! これ以上は、頭が潰れるんじゃない!?)


そうでなくとも窒息する。

命の危険を感じはじめた私は、バシバシとリュシアンの背中を叩いた。


すると、少しは痛みを感じてくれたのか、リュシアンの腕の力が少しだけ緩む。



「美春? 本当に大丈夫かい? どこにもケガとかない? 具合が悪かったりは?」


紫の目が真剣に私の様子を確かめようと覗き込んできた。

現在進行形で私の悪いところは、締め付けられて潰れそうなことだけである。


「大丈夫だって言ったでしょう? それより、リュシアンの方はどうなの? ……なんだか大騒ぎだったみたいだけれど?」


私はあらためてそう聞いた。

リュシアンはまだ心配そうに私を見ながらも、安心させるように笑ってくれる。


「こっちも大丈夫だよ。ちょっと騒ぎは起こしたけれど――――」


……………やっぱり騒ぎは起こしたらしい。

先ほどのポールらしき人の声を思い出した私は、眉をひそめる。


リュシアンは、もう一度「大丈夫だよ」と言って笑った。


「――――まだ(・・)、塔は壊していないからね。……まあ、あと少しでも遅れていたら入り口くらいは木っ端微塵にするつもりだったけど」


何でもないようにそう言った。

しかし、言っている内容は――――絶対大丈夫ではない(・・)だろう。


「……木っ端微塵?」


「美春を閉じ込めたんだ。当然だよね?」


当然でもない。


「じょ、冗談よね? ……だって、結界! そうよ! 塔には結界があるから、木っ端微塵は無理でしょう?」


確か、塔の管理人が『やりようはある』とかなんとか言ってはいたが――――“普通”の人間ならば気づかないはずなのだ。

リュシアンが“普通”の人間であることを祈り、私は彼を見つめる。


とんでもない美形は、ニヤリと悪そうに笑った。



「そうでもないよ。塔には入り口があって、人とか食料とかを入れることはできるんだから。一方通行だけど、その時その瞬間だけは結界に穴ができる。まあ、開いた結界は直ぐに閉じてしまうから、ものを入れる以外のアクション――――攻撃とかは出来なかったんだけど……それなら、通り抜ける瞬間を狙って通している食料とかを“石化(せきか)”させてしまえばいいのさ」




――――“石化”と、リュシアンは言った。




私は、耳を疑う。


「……石化?」


「ああ、そうだよ。石化の魔法は強いからね――――それこそ、魔族も殺せる(・・・)くらい。石化して固まった食料は、結界が閉じようとする強さに耐えられる。固まった食料が結界が閉じるのを邪魔している間に隙間から魔法爆弾を際限なく投げ込めばいいのさ。結界は外からの衝撃には強いけど内部からは弱いから。塔の入口くらいは壊せるさ。さらに同じ要領で攻撃を続ければ、結界発生装置だって壊せるかもしれない。……まぁ、俺としては、その前に塔を作った魔族が、自分の最高傑作を壊される恐怖に音をあげるだろうと思ったんだけどね」


――――まさしくリュシアンの読み通りだった。

私の脳裏に、塔が壊されると焦りに焦りまくっていた管理人の悲痛な声が再現される。




「……滅茶苦茶だわ」


「まあ、多少無理はしたかな? でも仕方ない。美春を助けるためだからね」


リュシアンは笑って言うが、仕方ないの一言では済まないだろう?


「それでこの大騒ぎなの?」


ようやく少し動かせるようになった首を回して、私は周囲の様子を確認した。

あまり多くは見えないけれど、それでもモクモクと黒い煙が上がっているのはわかる。

火事現場並みの大騒ぎだ。


それなのに、



「これくらい大騒ぎの内には入らないさ。美春を閉じ込めたんだから。……もっと手酷く破壊してやってもいいくらいだよ。――――それこそ、国ごと滅ぼすくらいにね」



リュシアンは、そう言った。


(……………………冗談きつい)


人一人閉じ込めたくらいで、国ごと滅ぼすなんて冗談でも言っていいことではないだろう。

そう思うのに、紫の目は物騒に光っていてジッと私を見ている。


タラリと冷汗が背中を流れた。




それに――――

先ほどリュシアンは、「石化」と確かに言った。


石化の魔法を使うには、メデューサの目という魔道具が必要だ。この国には元々二個あって、一個は危険な魔道具を保管する倉庫の中にあり、もう一個は国王暗殺に使われて以来行方不明。


リュシアンはどうやって石化の魔法を使ったのだろう?


(保管庫の中から持ってきたの? ……危険な魔道具を保管する倉庫って、一介の騎士が自由に出入りできるもの?)


私の冷汗は止まらない。



それでも黙ったままでは、疑問は解決できなかった。

意を決して私は口を開く。



「リュ、リュシアン――――」



それと同時に、私の体が無理やりリュシアンから引き離された!




「リュシアン・レイク・マルブランシュ! 国王陛下殺害容疑でお前を逮捕する!」




厳しい声がその場に響き渡った。


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