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異世界トリップ先は、殺人現場の密室でした!  作者: 九重


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隠し部屋の幻影

いつもお読みいただきありがとうございます。

お知らせですが――――

梶山ミカさまに描いていただいた「悪の女王の軌跡」コミックス2巻が先月末より発売されています。

お買い求めいただけると嬉しいです!

外見は人間と同じでも、種族の違う魔族である国王。

彼が妃となった人間を愛せなかったとしても、それは仕方のないこと。

それが一般論であり、この世界の常識だ。


「――――それを信じていられたならば、母はここまで絶望しなかったんだと思う。最初の頃の母の日記には、諦めはあってもそれほど悲しい感じではなかったから」


どれほど焦がれても自分と同じ想いを返してくれない国王。

しかしアシルの母は、そうと知りながら国王を愛した。

人知を超えた力で自分たちを正しく導き、強さと優しさで守ってくれる男。そんな男の王妃となった女が、どうして王を愛さずにいられるだろう。


(それに国王さまは、ハリウッドスターも真っ青な美形だもの)


アシルの母の気持ちが、私にはよ~くわかる!


自分の愛は報われない。それでも愛さずにはいられないのだと、切ない女性の心情が日記には綴られていたそうだ。

国王がどれほど素晴らしい男性か。

そんな国王を自分がどんなに愛しているか。

叶わぬ想いを抱えて、切なく苦しく、でもそれ以上に誰より国王の側にいられることの幸福を、アシルの母は情熱的に書き記していたという。


「正直、ちょっとゲロ甘でね。読むのを止めてしまおうかと思ったくらいだよ」


アシルは苦笑しながらそう話す。


「……止めておけばよかった」


小さな声で呟いた。




「日記が変わったのは、偶然母が陛下の部屋にある隠し部屋に気づいた時からだ」


確かに、国王の部屋には隠し部屋があった。

誰も――――国王自身も知らない隠し部屋だと思っていたのだが、どうやら国王は知っていて部屋を利用していたらしい。


「その部屋は、魔法の記憶部屋だったそうだ。入室すると同時に過去の幻影が流れる仕組みらしい」


自動再生装置付きの3D映画シアターみたいなものだろうか? ドアの開閉がスイッチか何かになっていて、映像が流れるみたいな感じだ。


(テーマパークやお化け屋敷なんかにありそうよね?)


隠し部屋自体、例の爆破で吹っ飛んでしまっていて、今は跡形もないから確かめようもないけれど。


「幻影は、黒髪黒目の一人の女性だった。くったくなく笑っていてね。振り返って『テオ』と呼ぶのだと書いてあった」


「――――テオ?」


私の疑問の声に、アシルは悲しそうに笑った。



「テオというのは、口にするのも畏れ多いことだけれど――――テオフィル・ナコス・ヴェルヴァディア・ファリスドール――――国王陛下の御名の愛称だと思う」



………………



長っ!

名前、長っ!

『テオ』と愛称で呼ぶのも無理はない!


私はそこに納得する。


国王を愛称で呼ぶ幻影の女性。その存在に驚いたアシルの母は、動くこともできずに、ずっと幻影を見つめたそうだ。


……そして、気づいてしまったのだ。



「母は、その女性を知っていたんだ。……いや、知っていたというのは違うかな? 実際に会ったわけでも話したわけでもない。だけど母は、その女性の姿をよく見知っていた。……場所は、王宮の大広間の奥の壁。そこで毎日のように見上げて(・・・・)いたという」



私はパチパチと目を瞬かせる。


見上げて(・・・・)いた? ……壁を?」


さっぱりわけがわからないのに、アシルは大きく頷く。


「ああ。君は見たことがないのかな?――――壁の上にあるのは、我が国の先代女王陛下の肖像画だ。黒髪黒目の神秘的な女性の絵だよ。」


残念ながら、私はそんな肖像画、見たことはない。のんびり肖像画を眺めるような暇がなかったんだから仕方ないだろう。


慈愛深く微笑みながらこちらを見おろす先代女王の肖像画は、絶世の美女かと言われるとちょっと困るが、でも不思議に人を惹き付ける魅力を持った姿なのだと、アシルは語る。


「母が見た陛下のお部屋の幻影と肖像画は、まるで違う笑い方をしているけれど、それでも、幻影は間違いなく先代女王陛下だとわかったそうだよ」





後継ぎのいなかったリール女王。

彼女のたっての頼みで、国王はこの国の統治をはじめた。

魔族の中でも『変人』と呼ばれるほどの酔狂な魔人で、人間の世界に時々現れては、人と関わっていたという国王は、女王に請願され物好きで国王になったのだと言われていたけれど――――


彼が王位を引き受けた理由は、伊達や酔狂からではなかったのかもしれない。


(リール女王が頼んだから?)


他の誰でもない、女王――――いや、彼女個人の頼みだから引き受けたのではないのだろうか?

彼女亡き後、彼女の遺した、彼女にとっては我が子同然の国民を導き統治することを。


(だって、国王さまが自分の隠し部屋に幻影を残しておくような女性(ひと)だったんでしょう?)


そんなこと、好きな相手でなかったらするはずがない!

誰だってそう思うだろう。


それは、好きな人の写真を大切に手元に置いておくようなもの。


国王は、リール女王を愛していた。


私は、そう思う。




――――そして、アシルの母もそう思ったのだ。


活動報告でもお知らせしますが、今月末「僕を見つけて」がいよいよ出版されます。

これも、応援してくださる皆さまのおかげです!

ありがとうございます。

つきましては、恒例の本のプレゼントを行いたいと思います。

ご希望の方は、メッセージで、「本希望」とお知らせください。

〆切は9月22(土)で、その後抽選し、当選の方には九重からメッセージを送ります。

その返信にて、本の送付先を教えてください。

当然のことですが、いただいた個人情報は、本の送付以外に使うことはありません!


皆さまのご応募をお待ちしています!

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