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私の名は……

「まずは、この世界の説明をしよう。――――この世界は、エンドと呼ばれている。君の世界がどうかはわからないが、球形で、太陽を回る内側から4番目の“惑星”だ」


国王がいて、騎士のような人がいて、魔法のある世界で、『惑星』という言葉を聞くとは思わなかった。

私は、ポカンとしてしまう。


リュシアンは、困った顔をした。


「地動説から、説明しなくてはならないかな?」


「あっ! いえ、わかります。……かえって、こちらの世界の人が、わかることに驚いてしまって」


リュシアンは、ホッと息を吐いた。


「あぁ。こちらには魔族がいるからな。魔族は空を飛ぶし、強い者は大気圏外まで行くことが出来る。……エンドは、青いそうだぞ」



魔族スゲェと、思わず思ってしまった。

確かに、空を飛ぶ一族であれば、大地が丸いことに気づくことは簡単だろう。


「この世界の支配種族は、魔族だ」


魔族とは、魔法を使える人型の生物。魔素の溢れるエンドで、自由自在に魔素を体内に取り込み、力を振るうことができるもの。寿命も長く、その知識は、限りなく、深く広いという。


「我ら人間など足元にも及ばぬ絶対支配種族なのだが、……残念なことに、彼らは支配に積極的では、なくてね」


それどころか、出来れば他種族などとは、関わりたくないそうだ。


「ようは、引きこもりの研究家ばかりなんだ。長命種は、えてしてそうなるらしい。この世界の大きな大陸の二つを占有し、それ以外の場所には、滅多に姿を表さない」


この世界に、大陸は三つ。

結果、人間は残る一つの大陸と周辺の島々に住んでいる。


「大陸にある人間の国は、大きなものが東と西に二つ。あとは小国がひしめいている。この国は、西の大国リール王国だ」



言われた情報を、私は必死に頭に叩き込んだ。

魔族だの、王国だの、信じられない情報ばかりだが、覚えないわけにはいかないだろう。


そして、同時に、(え?)と思った。



「確か、死んだ方って、魔族って言っていませんでした?」



あの時、部屋に駆けこんできたリュシアンではない方の騎士が、『陛下は、魔族』だと、確かに言っていた。

なのに、リュシアンは、魔族は、支配に消極的だと、言った。引きこもりで、自分たちの大陸から出てこないのだとも。


私に指摘されたリュシアンは、驚いたように目を見開く。


「君は、かなりパニックになっていたようだったけど、よく覚えているんだな」


感心したように言ってから、教えてくれた。


「部屋で亡くなっておられたのは、確かに魔族で、……そして、君も、もうわかっているだろうが、我が国の国王だ。……陛下は、魔族の中でも、変わり者であられた方だ」


リュシアンは、少し悲しそうに笑った。


なんでも、国王は、魔族の中では『変人』と呼ばれるほどの酔狂な魔族だったそうだ。人間の世界に、時々現れては、人と関わっていたのだという。


「何十年かおきに、フラリと姿を見せられてね。人間の間でも有名な方だったんだが、……百年ほど前、跡継ぎのいなかった、その時のリール女王が、自分の死後この国を治めてくれないかと、請願したんだ。断られてもおかしくない状況だったが、物好きな陛下は、それも一興かと、この国の統治をはじめられた。おかげで、当時は、吹けば飛ぶような小国だった我が国が、今では、人間世界最高の繁栄を謳歌する大国となっている。……いや、なっていた、か。……陛下が、お亡くなりになった今となってはな」



どうやら、この国は、変わり者の魔族の王さまが治めていた国のようだった。

しかも、百年とか、さすが長命種の魔族である。


「我が国の繁栄は、陛下あってのもの。魔族であられる陛下の治世は、まだまだ続くと、誰もが思っていたから、今この国は大混乱を起こしている。動揺する国民や貴族を落ち着かせるために、臣下も兵も手一杯。……陛下の死因は、石化の魔法だった。ならば、誰かが陛下を弑したのは間違いないのだが、正直、その犯人を捜すより、目下の混乱を治める方に、今は全力が傾けられている」


魔族で長命種だった国王に世継ぎはいない。

現在は、宰相が、仮の統治者となって、対応に四苦八苦しているそうだ。



「おかげで、殺された陛下の部屋に、どこからともなく現れた重要参考人である君に対する処置も、俺に一任されて、それきりだ。――――『閉じ込めておけ』と命令されたから、この部屋のベッドの上に『閉じ込めて』おいたのさ」



リュシアンは、ニヤリと笑って私を見る。


――――その『閉じ込めておけ』は、『牢屋にぶちこんでおけ』と同意義だろう。


私は、あらためて自分のいるこの部屋を眺めた。

どこからどう見ても、立派な客用寝室だ。


リュシアンは、全てわかっていて、私を庇ってくれたに相違ない。


確かに、彼は私のことを『守る』と、誓ってくれていたが、それにしても破格の対応だ。



「大丈夫なんですか?」


そんなことをして?


「心配いらないよ。君が、落ち人とわかったからには、俺の対処は、この上なく正しかったと認めてもらえるだろう。落ち人を無下に扱ってはならないと、他ならぬ魔族が定めているからね。――――俺は、この後、君が目覚めたことと、落ち人であることを、宰相閣下に説明してこよう。君の疑いは晴れるだろうが、……犯人が、捕まっていない今、直ぐに無罪放免とはいかないと思う。……閣下は、君から直接話を聞きたいと仰るだろう。すまないが、応じてやってほしい」


リュシアンは、そう言って頭を下げた。

頼んでいる格好だが、はっきり言って断れない命令である。


(断れるものなら断りたいけど)


しかし、それができるようなら、そもそもリュシアンは頼んでこないはず。

嫌だと思う、私の内心が顔にあらわれたのか、彼は、困ったように私の顔をのぞきこんでくる。



「……あ!」



口を開いて、ビックリしたような声をあげた。


「え? どうしたんですか?」


「忘れていた」


「何を?」


「名前だよ。名前! まだ、君の名前を聞いていなかった。……君の名は?」


どこかで聞いたようなセリフを言われて、私もハッとする。

そういえば、名乗っていなかった。



「私は、美春(みはる)です。――――森田美春。どこにでもいる普通の女子大生ですよ」



私は、そう名乗った。

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