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新たな容疑者?

リュシアンは、呆気にとられた顔をする。


「――――美春、俺の話を覚えている? 俺は、魔族と人間の間に子供はできないって言ったはずだけど」


「覚えているわよ! いるけど! でも――――」


リュシアンは大きなため息をついた。


「俺は陛下の子供じゃないよ。それだけは断言する。そういうことは、あまりに不敬になるから言わない方がいい」


冷静に諭されてしまった。

わかってはいたのだけど、聞くだけ聞いてみたいと思ってしまったのだ。


(でもそうよね。同じイケメンとはいえ、リュシアンと国王さまはタイプが全然違うし、親子だからといっても考え方が同じとは限らないわよね)


むしろ親の悪いところを反面教師にして、子供の性格が親と全く違ってくるのはよくある話だ。

迂闊な先走りにショボンとした私を、リュシアンは複雑な表情で見つめてくる。



「……ああ、でも」


と呟いた。


「思い付きとしては、いい線かもしれないな。……俺じゃないけれど、自分は陛下の子供だって言い張っている奴がいる」


そんなことを言い出す。


――――初耳である。

今までそんな人物の話を聞いたことはない。


「誰も相手にしていなかったから忘れていた。前の正妃さまの子供にそんな奴がいたんだ」


怪訝な視線を向ければ、リュシアンはあっさりとそう言った。



――――国王の二人目の妃であった前の正妃は、四十歳で今の正妃と交代した。

そして、交代して一年後に男の子を出産したのだという。

産後の肥立ちが悪く、前の正妃はその後すぐに亡くなったのだが、産まれた子が成人した後で自分は国王の子供だと言い出したそうだ。


「もちろん陛下は否定した。そうでなくても魔族と人間の子なんてあり得ない。――――だいたい前の正妃が、四十代とまだ若いうちに退任した理由は”陛下以外の男を好きになったから”だからね。誰が考えたって、子供の父親はその男に決まっている」


ただ何故かわからないが、前の正妃は退任後好きになった男と結婚しなかった。

それどころか他の誰とも結婚せず、産まれた子供の父親だと名乗り出てくる者は、肝心のその男も含め誰もいなかったそうだ。


「だからって、父親が国王陛下だと言い張るなんて、愚かだとしか言いようがないけど」


子供は生まれた当初、母親の生家である高位貴族が世話していた。父親はわからずとも母がその家の人間なのだから当然だ。

しかし、自分が国王の子供だなどとおかしなことを言い出した途端、縁を切られ追い出されたそうだ。

よりによって国王の正妃が、国王以外の人間を好きになって退任を願い出ただけでも、高位貴族にとってかなりのスキャンダルだったのに、その子がとんでもない不敬を言い出したのだ、縁を切られるのも仕方ない。


ちなみにこの世界でも普通の妊娠期間は十月十日。

前の正妃は退任後一度も国王と会っていず、計算上も子供だなんてありえないそうだ。



「全然、全く、存在自体を忘れていたけれど……国王の子供を名乗るくらいだ。陛下を弑してほとぼりの冷めた頃に後継者を名乗り出るくらいのバカはやるかもしれないな」


急遽浮上した有力容疑者。

否応にも私のテンションは上がる。


しかし――――


「……まぁでも、無理か。世話をしてくれていた高位貴族に追い出されてなんの伝手(つて)もない奴が、王宮に忍び込み、あまつさえ陛下を弑するなんてできるはずがないからな」


上がりはじめたテンションは、あっという間に叩き落とされた。


「リュシアンったら――――」


「真実なんだから仕方ないだろう?」


確かにそうなのだろう。

今まで、リュシアンはもちろん宰相さまや正妃さまからも、そんな人の話は出なかった。


つまり容疑者にものぼらないくらい問題外の人物なのだ。


私は正直がっかりする。


「推理小説のストーリー的には、犯人は国王の隠し子で、狙いは復讐と王座(ぎょくさ)とか――――王道だったのに」


殺人事件が全部王道ストーリーだったなら、推理小説は全く売れなくなるだろう。


(犯罪捜査をする警察は、楽でいいんでしょうけれどね)


世の中そんなに甘くない。



ため息をつく私の肩をリュシアンがポンと叩いた。

なぐさめてくれるのかと見上げれば、なんだかひどく物騒な笑みを浮かべている。



「残念だったね。まあ、それはそれとして―――――ひょっとして、美春は俺を犯人にしたかったのかな?」



そう聞いてきた。


確かに私は最初リュシアンを国王の落とし胤ではないかと疑った。

あげく『犯人は国王の隠し子で、狙いは復讐と王座』が王道だと言ってしまったのだ。


「え? いや、それは一般的な話で――――っていうより、最初に『思い付きとしてはいい線だ』って言ったのは、あなたじゃない!」


「そうだったか?」


「そうよ!」


飄々としているリュシアンを、私はキッと睨みつける。

リュシアンはニヤリと笑った。


「まあ、これに懲りたらおかしなことを考えない方がいいよ。陛下がどうして俺を気に入っていたのかなんて、今となってはわかるはずもないことなんだから。そんなことより考えなきゃいけないことは他にたくさんあるだろう?」


確かにその通りだ。

今は考えてもわからないことに頭を悩ます暇はない。


(やっぱり犯人は、あの三人の中の一人なのかしら?)


国王に等しく解任を告げられた宰相と正妃と側妃。

そして、その夜に国王は死んでいる。

動機があって、犯行を企て実施できる権力も持つ三人が怪しいのは間違いない。



――――間違っていないはずなのに、何故か釈然としないものを私は感じていた。


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