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灯台下暗し

「で、どうするの? この後は、正妃様のところへ殴り込みかな?」


宰相の部屋から出たところでリュシアンが笑って聞いてくる。私の腰には、まだ彼の手が回されたままで、当然のことながらものすごく顔が近い。

私は、某有名スケート選手のイナバウアーなみに体を反らした。

結果、背中から倒れそうになってしまう。


「危ない!」


リュシアンは、腰に回した手に力を入れた。ギュッと抱き締めようとしてくる。


「ス、ストップ!」


私は、慌てて制止の言葉をかけた。同時に、なんとか踏ん張って倒れるのを防ぐ。

その後、両手を伸ばしてリュシアンの胸に置き、つっかい棒みたいに突っ張った。


「ええ~。どうして?」


距離を取られたリュシアンは、ものすごく不満顔だ。


「どうしてもなにも、近すぎよ!」


怒鳴りつければ、しぶしぶと離れてくれた。


このところの急接近でかなり慣れてきたのだが、リュシアンの顔はまだまだ私には危険物。近くで見れば見るほど、心臓がバクバクと騒ぎ出す。


(心筋梗塞にでもなったらどうしてくれるの!?)


美人は三日見れば飽きると言われるが、美形は飽きるどころか日々威力を増すのはどうしてだろう?

これは、私がイケメンに弱いからでは絶対ない!

リュシアンの顔が美形すぎるのがいけないのだ!


胸を右手で押さえながら、私はリュシアンを睨み付けた。

なのに――――


「そんなに熱く見つめられると照れるな」


ポジティブなイケメンは、そんなことを言い出してくる。



「……もういいわ。部屋に戻りましょう。正妃さまのところには行かないから」


私は、ガックリと肩を落とした。


「それでいいの?」


離れたばかりの綺麗な顔が、再び私に近づいてくる。

私は、その顔を左手で押し退けた。


「きっと、結果は宰相さまと同じよ」


隙のなかった正妃のスケジュール。しかし宰相同様おそらくそこにも穴があって、突けば正妃は国王と会っていたことを認めるかもしれない。


(でもそれだけだわ。会って解任されたことを黙っていたのだとしても、それで犯人だなんて言えないもの)


国王の変化について正妃視点の話を聞けるかもしれないが、問題なのは正妃の話を丸々信じていいのかというところだ。


(どうにも正妃さまって、曲者という感じがあるのよね)


悪い人ではないと思う。

ただ、きっと彼女は自分の信じる正義のためならば、なんでもするタイプの人間だ。


別にそこは嫌いではないのだが……尋問相手としては、最悪だった。


(勝てる気がまったくしないもの)


だから正妃をすっ飛ばして宰相にターゲット絞ったのだ。宰相も百戦錬磨のタヌキのはずだが、彼は若い女性である私を侮っていた風が見えた。

今回はそこに付け込ませてもらった。


(もう二度と使えない手でしょうけれど……とりあえず今回は、この成果で良しとしましょう)


勝てないだろう正妃には早々に白旗を上げて、私は新たに与えられた部屋へと足を向ける。


当然のように、リュシアンも後をついてきた。先ほど私に押された頬を嬉しそうに撫でるイケメンは、なんというか情けない。


(確かリュシアンたちの住む騎士の宿舎は、別方向よね)


わざわざ部屋まで送ってくれるのはいつものこと。今さら遠慮するのもなんなので、私はかまわず歩く。



「そう言えば――――リュシアンは、国王さまの変化について何か気づいたことはあった?」



ふと思いついて、歩きながら聞いてみた。

リュシアンは国王の護衛騎士。あの日も国王の寝所の一番近くで見張りをしていた。


彼も、国王について宰相のような違和感を覚えていたかもしれない。


(そうよ。よくよく考えれば、一番に聞いてみなきゃいけない相手だったんじゃない?)


なんで今まで気づかなかったのだろう?


(私が聞く前に彼の方から積極的に情報提供してもらっていたから、あらためて聞くことを忘れていたのかもしれないわ)


こういうのを灯台下暗しというのだろう。

近過ぎて見落とすということだ。




「――――変化? さあ、俺にはさっぱりわからないな」


背後からは、少し間が空いたものの、のんびりした声が返ってきた。


「わからない?」


いったいどうして?

思わず足を止め振り返る。


リュシアンは、うっとりとした笑みを浮かべていた。


「うん。黒髪の後ろ姿もキレイだけど、やっぱり俺は正面から俺を見る黒い目が好きだな」


一瞬何を言われたのかわからなかった。

次いで、顔がボッと熱くなる。



「なっ!? 違うでしょう! ――――どうして“わからない”の!?」



不意打ちの『好き』に跳ねる心臓を押さえて、私は聞いた。

今はそんな場合ではないと思う。


リュシアンは、小さく首を傾げた。



「だって仕方ないだろう。俺が陛下の側近く仕えるようになったのはごく最近なんだから。前の陛下となんて比べようがない」



――――そう言った。

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