最低最悪なのは?
「陛下のお部屋の窓のカーテンは、ものすごく重そうな厚いカーテンだけでした。先ほど側妃さまは、『カーテン越しでよく見えなかった』と仰いましたけど、あのカーテンでは、よく見えないどころか、まるで見えないだろうと思います」
一度も陛下の部屋に呼ばれなかった側妃。きっと彼女は国王の部屋のカーテンが、ぶ厚いカーテン一枚だけだなんて思いもしなかったに違いない。
天井も壁も白く、当然窓にも白いレースのカーテンのかかった側妃の部屋を見ながら、私はそう考える。
薄いレースのカーテンには、日中カーテンを開けた時の目隠しや紫外線対策等々、いろいろ役割があるのだが、魔族の国王は、そんな必要ないとしたのだろう。きっと、どれもこれも魔法一つでどうにでもできることなのだ。
(案外、カーテンそのものをいらないとか、言っていそうよね? あのカーテンだって、カーテンっていうより装飾品みたいな感じだったもの)
部屋の体裁を整えるため、人間側が無理にお願いしてカーテンをかけさせてもらったのかもしれない。
「そんな――――」
側妃は、呆然と呟いた。
「少なくとも、部屋の中で国王さまと王妃さまを見たという、あなたの証言は嘘です」
「嘘じゃないわ!」
私の言葉に、それでも、側妃は否定の言葉を叫んだ。
「嘘じゃない! ……だって、陛下は、これから王妃さまとご自分の部屋で会うのだと仰ったもの!」
そう言った。
思いもよらない言葉に、私はビックリする。
「……陛下が?」
側妃は、「あ!」と言って、慌てて口を押えた。
もちろん何もかも手遅れである。
「あの日、側妃さまは陛下にお会いになられたのですか?」
私が聞くより先に、リュシアンが落ち着いた口調で問い質した。背の高い美丈夫が、静かに話しかける姿には、想像以上の迫力がある。
側妃は、落ち着かない様子で、キョロキョロと視線を彷徨わせた。私やポールを見るのだが、誰も助けてくれないとわかったのか、……ようやく首を縦に振る。
「……そうよ。あの日、陛下は私の部屋に、はじめて来てくださったの」
泣き出しそうに顔を歪めて話し出した。
ポツリポツリと言葉を続ける。
いつものように、自分の部屋で塞ぎこんでいた側妃の元に、前触れもなく突如国王が現れたこと。
驚く彼女に対し、平然と話しかけてきたこと。
「私と今まで会わなかったことなど、何一つ気にかけてもおられないご様子だったわ」
ギュッと唇を噛む側妃。
「それで?」
冷静に話を促したリュシアンを、キッ! と睨みつけた。
「陛下は、私に『側妃の任を解く』と仰ったのよ!」
叫ぶ側妃の目から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。
見た目中学生の美少女が涙する姿は、憐れを誘う。
わずかな間うつむいた側妃は、グィッと頬の涙を拭い、頭を上げた。
「私、陛下は、私を解任して正妃さまをずっと留めておかれるのかと思って、お聞きしたのよ。――――そしたら陛下は『違う』と、これから正妃さまと会って、私と同じように『解任を告げる』のだと仰ったわ」
だから側妃は『あの日、正妃が国王と会っていた』と証言したのだった。
実際に会っているところは見なかったが、国王がそう言ったからには、会ったのだろうと思って。
ただ、自分が国王から『解任』を告げられたことを話したくなかった。
そのため、見てもいない正妃と国王の対面場面を、あたかも見たようにでっち上げたのだ。
「――――やはり、貴女さまの証言は嘘だったのですね。解任されたことを我々に話したくなかったのも、結局は側妃の地位から離れたくなかっただけでしょう? 陛下のお言葉だって、本当かどうかわからない。……貴女の言葉など、信じられません!」
ポールが、それ見たことかと言うように、側妃を責める。
側妃は、ギュッと歯を食いしばった。
何も言い返さず、小さな体がプルプルと震える。
「そうとばかりも言えないでしょう?」
さすがに可哀想になって、私はポールに反論した。
「――――側妃さまが、私たちに本当に知られたくなかったのは、解任されたことじゃなく、国王陛下に自分が全く顧みられていなかったことだと思うわ。……突然現れて、自分が今まで会おうともしなかったことを謝るでもなく解任するだなんて、最低最悪なゲス野郎のすることだと思うけど……この国では、その場合責められるのは、国王さまじゃなくて側妃さまなんでしょう? だとしたら、そんなこと自分から言いたくないに決まっているわ」
ここまでの話を聞いて、ムッとしていた私は、遠慮なく国王をこき下ろした。




