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嘘はいけません

いつものように夕食をとり、一人で庭に出た側妃。

心を壊した彼女は腫れ物のように扱われていて、後宮の敷地から出なければ何をしていても誰も何も言わないという。


「――――何となく、陛下のお部屋の方を見上げて、そしたら窓際に正妃さまの姿が見えたのよ。カーテンでハッキリわからなかったけど言い争っているように見えたわ」


この国の夕食は、八時くらいだ。

側妃の話が本当なら、国王はその時までは生きていたということになる。


――――実は、国王の殺害時間は、はっきりしていなかった。死亡原因が石化であったため、推測できないのだ。

死亡推定時刻を割り出す際に、死後硬直の進展状況を参考にすることは、犯罪捜査上よくあることだ。通常は、死後二~三時間で死後硬直がはじまり、十二時間ほどで全身に及ぶのだが。


(でも、石化しちゃったら、もうずっと最初から硬直しっぱなしなのよね)


石化後は変化もないそうなので、完全にお手上げ状態だ。


加えて、その日、国王は人払いをしていたという。

リュシアンたち警備の騎士も、部屋のある階ではなく、一階下の階段付近にいたそうだ。


(だから、私があんなに叫んでも、なかなか来てくれなかったのよね)


あの時の恐怖を思い出した私は、体をブルリと震わせる。

泣いても喚いても扉が開かず、死体と二人きりだったあの時間。

あれは、永遠とも思えた恐怖の時間だった。


そんな私の震える肩に、リュシアンがそっと手を乗せる。

温かなぬくもりが伝わって、私の震えは止まった。

同じこのぬくもりが、あの時も私を助け、落ち着かせてくれたのだ。


リュシアンのぬくもりは、不思議と私を安心させてくれる。

ホッと息を吐いた私は、側妃を静かに見つめた。

今の彼女の言葉が本当ならば、正妃が犯人かどうかとは別に、これは有力情報になる。


(……まあ、本当ならばなんだけど)


私は、困って言葉を探す。

どう言おうかと思っていたら――――




「そんなこと、でたらめだ!」


ポールの大声が、部屋中に響いた。


「側妃さま、あなたは、陛下がお亡くなりになって地位を失うからと、正妃さまを陥れようとしているのでしょう! そんな方の仰る世迷い事なんて、俺は信じません!」


ギラギラと目を光らせながら、側妃を睨むポール。

側妃は、同じくらい強い目で、ポールを睨み返した。


「こんな地位、惜しくないわ!」


吐き捨てるように言い放つ。


「地位が、何よ! 身分が、何よ! そんなもの、陛下の気を引く何の役にも立たなかったわ! あの方は、ただ、私を“必要ない”と判断されて、捨て置かれた。どんなに懇願しても、会ってもいただけなかった私の気持ちがわかる? 私は、何もなくとも、お側にいられれば、それだけで良かったのに!」


側妃は国王に憧れていたと、リュシアンは教えてくれた。側妃に選ばれたことに有頂天になって大はしゃぎしていたのだとも。


私は、それを単純に国王という存在に対する憧れだと思っていたのだけれど――――


(ひょっとしたら、側妃さまは、陛下を本当に愛していたのかもしれないわ)


中学生に見える側妃も十八歳。私と同年代の女性であれば、本気の恋をしていたって不思議じゃない。


だから、心を壊すほどに絶望したのだろう。



だから――――



「側にもいられなかったから、……だから、嘘の証言をして、ずっと陛下のお側にいた正妃さまに罪を被せようとされているのですか?」


今まで黙っていたリュシアンが、静かにそう聞いた。



私は――――



(あ~あ)と思う。


(そんなストレートに言わなくてもいいのに)


そう思ってリュシアンを睨めば、彼はニヤリと笑って見せる。


隣で、ポールがポカンと口をあけた。


リュシアンの言葉を聞いた側妃は、ギクリ! と体を強張らせる。


「う、嘘じゃないわ!」


「少なくとも、今の証言は嘘です」


今度は私がそう言えば、側妃は目に見えてうろたえた。


「……そんな! どうして!? あなたは、私を信じてくれるんじゃなかったの!」


そんなことは言ってない。


「情報提供に感謝すると言っただけです。でも、嘘の証言はいりません。本当のことを教えてください」




「……どうして?」


この「どうして」は、どうして嘘がわかったのかという意味のどうしてだろう。

私は、種明かしをすることにした。

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