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怒鳴り合いは、場所を選びましょう

そして、翌日。

私は、リュシアンと、側妃の元を訪ねたのだが――――

側妃の部屋の前には、何故かポールが待っていた。


「……なんで、お前がいるんだ?」


「いや、その質問は俺がする方だろう? お前、松葉杖はどうした?」


重厚な扉の前で、リュシアンとポールは、睨みあう。


「松葉杖は、もう不要だ。――――だから、お前も不要だ。美春を守るのは、俺だけでいい」


人さし指をポールに突きつけ、リュシアンが宣言する。

その言葉通り、今日の彼は松葉杖を使っていなかった。軽く足を引きずるものの、普通に歩いている。


「昨日まで松葉杖をついていた奴が、何を偉そうに! 不要なのは、お前の方だろう!?」


指さされたポールは、カッ! となって、怒鳴った。




――――できれば、どっちにもお帰り願いたいと思うのは、ダメだろうか。


「ポール、だいたいお前は美春を嫌っていたはずだろう? 帰っていいと言っているんだ。さっさと帰ればいい」


「何度も言わせるな! 昨日も言っただろう。俺は、我慢して、こいつに付いているんだ。……それが、仕事だからな」


「我慢の必要は、全くないから、さっさと消え失せろ!」


「断る! なんで俺がお前に命令されなきゃならないんだ!」


二人は、どちらもひこうとしなかった。

どんどんと機嫌を悪くするリュシアンが、ハッ! と目を見開く。


「まさか、ポール。……お前()、嫉妬しているのか?」


「は? なんだ嫉妬って? ……それに、お前()?」


訝しそうに首をひねるポール。

まずい! と思った私は、慌てて二人の間に入った。


「ちょっと! ストップ! 止めてよね!」


このままリュシアンにとんでも発言をさせて、ポールに変な誤解をされたくない。


「別に、昨日も二人だったんだから、二人一緒でいいじゃない?」


両方を宥めるべく、私はそう言った。


――――昨日、あれから私は、今日の警護はリュシアン一人でいいと、宰相さまに言づけた。

なのに、ポールがここにいるということは、きっとどこかで連絡ミスがあったのだろう。

なんでこんなことになったのかは気になるところだが、せっかく来てくれたポールに、実は必要なかったのだなんて、言いづらい。


(それくらいなら、二人に警護してもらった方がいいわ)


そう思った私は、文句を言い出しそうなリュシアンの腕を、ギュッと握って引き寄せた。


「ポールさんは、私よりリュシアンの方を心配しているのよ。だからお願い、仲良くして」


耳元に囁く。

距離がとっても近くて、耳に息でもかかったのか、リュシアンはくすぐったそうに身動ぎした。

キレイな顔が、複雑そうに歪む。


「ね、お願い!」


もう一息だと思った私は、さらにギュッとリュシアンにしがみつく。

腕を抱え込む勢いで体を寄せた。


リュシアンの顔が、……赤くなる。


「絶対、ポールにそんなつもりはないと思うが。……美春がそう言うなら、我慢する」


そう呟いた。


「ありがとう!」


礼を言った私の手から自分の腕を引き抜くと、リュシアンはサッと体を動かす。

気がつけば、私とリュシアンは正面から向かい合っていた。

大きな両手が、私の両肩に置かれる。


「その代わり、後で、もっとイチャイチャさせてくれ」


「………………ハ?」


あり得ない言葉が聞こえて、私はポカンとした。


「…………イチャイチャ?」


「ああ、今みたいなことだ。――――昨日、正妃さまに聞いたんだ。嫉妬するほど仲のいい男女なら、必ずする行為なんだろう?」


どうやら、本格的に耳がおかしくなったようだ。


「へ? 何? ……正妃さまって?」


それでも、律儀に聞き直してしまうのは、日本人の(さが)なのか。


「昨日、美春の部屋から出た後で、偶然お会いして、少し話をしたんだ。」



――――何を?



「正妃さまは、俺が美春のことでポールに嫉妬したと言ったら、とても喜んでくださった。そんな仲の男女がすることを、沢山教えてくださったんだ」


(………………正妃さま)


私は、絶句した。

グラリと、倒れそうになる。


そういえば、以前会った時、正妃はリュシアンを心配していたと言っていた。


(――――確か、どんなご令嬢に誘われても(なび)かなかったとかなんとか、言っていたんじゃなかったかしら?)


優しく気品に溢れていた正妃。

しかし彼女の実体は、――――ただの世話好きのオバチャンだったようだ。


(あれよね。いくら断ってもお見合い話を持ってくる親戚のオバチャン?)


ガラガラと崩れる正妃のイメージに、私は泣きたくなる。


「ポールはともかく、陛下にまで嫉妬するのならば、俺の気持ちは本物だろうと、正妃さまは太鼓判を押してくださった」


自慢げに話すリュシアンは、なんにもわかっていないに決まっている。


(もう! 二人とも、何を勝手に話し合っているのよ!)


私は、ぐったり疲れはてた。

期待の目を向けてくるリュシアンに、どう答えようか悩む。





「…………おい待て。なんだ? その『ポールはともかく』って?」


その時、先ほどから、私とリュシアンのやりとりを、口をあんぐり開けて、驚いて見ていたポールが、突如我に返った。

自分の名が出て、正気に返ったのだろう。


「ああ。――――ポール相手に俺がイラつくのは、『俺よりモテないくせに生意気だ』とか『お前に負けてたまるか』みたいなポールに対する対抗心が原因の可能性があるそうなんだが、陛下相手でも同じようにイラつくのなら、本当に美春が好きで、好きな相手に対する独占欲だけに間違いないそうだ」


淡々と説明するリュシアン。


「なるほどな」と、一旦ポールは頷いた。

しかし、次の瞬間、「あ!」となる。


「俺よりモテないくせに生意気ってなんだ!?」


「事実だろう?」


「お前みたいに、顔だけいい人非人に言われたくない! いつもいつも、女の子の人気を独り占めにして、そのくせ告白してくる子を端から振りまくりやがって! お前のそういうところを知っている奴は、みんなお前より俺の方が、性格(・・)がいいって言うんだぞ。……お前より、俺の方が、絶対、モテる!」



――――確かに、性格はポールの方が良さそうだった。


リュシアンは、フンと鼻で笑う。


「別に俺はモテなくてもかまわない。……ただ、美春だけは譲れないからな」


「誰が、こんな女、譲ってもらうか!」


「こんな女とはなんだ!」


二人の言い争いは、だんだん激しくなっていく。



「……ちょ、ちょっとリュシアン! ポールも!」


さすがにまずいと、私が思った時――――



「うるさい! 何をしているの!」



重厚なドアが、内側からバタン! と開き、中から一人の女性が飛び出してきた。

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