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異世界トリップ先は、殺人現場の密室でした!  作者: 九重


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20/61

まさかのヤンデレ?

楽しそうに笑うリュシアンに、私は首を傾げる。

そこまでウケるセリフだっただろうか?


「まぁ、確かに、国王さま、ものすごい美形だったけど」


あの美しさは、凄かった。

まさしく人外の美しさで、ご遺体でさえなければ、拝め奉りたいほどの姿に対して、『おじいちゃん』は、なかったかもしれない。

なにより、この国の国王だ。


不敬だったかな? と、ちょっと反省した私なのだが……私の言葉を聞いたリュシアンは、突如、ムッと顔をしかめる。



「――――美春は、陛下の顔が好みなのか?」


顔をズズイッと近づけて聞いてきた。


今さら言うまでもないだろうが、リュシアンも十分に美形である。

私は、動揺した。


「へ? え、ええっと? ……好みっていうか、なんというか――――」


美形は、美形だ。世の中の大多数の人が好む顔を、美形というのである。

そして、私は、人一倍美形好きな自信があった。


間違いなく、国王の顔は“好み”である!


(――――で、でも。なんだか、そう言っちゃいけないような気がする)


「……か、顔が近いんだけど」


そう思った私は、返事をはぐらかした。――――実際、リュシアンの顔は、ものすごく近い!


「どうなんだ?」


なのに、リュシアンは、ますます私に顔を近づけてくる。


いやいや、なんでそんなこと聞かれなきゃいけないんだろう?


「ど、どうだって言われても――――」


どう答えるのが正解なのだろうか?

だいたい、どうしてリュシアンは、そんなことが気になるのか?


(あれかしら? 美形同士の対抗心? あんなおじいちゃんに、俺は負けないぞ! ………とか?)


焦りながら、私は考え込む。


いろいろ考えて、フッと、バカみたいな考えを思いついた。

我ながら“ない”と、思うのだが、今のリュシアンの追究を逃れるためには、有効な返しかもしれない。


そう思った私は、自分からリュシアンに近づいた。




「やだなぁ。………リュシアンったら、ヤ・キ・モ・チ?」


言いながら、人さし指で、リュシアンの胸を、ツン! と突く。

私の言葉に、リュシアンは、ビックリした顔をした。


「ヤキモチ?」


「そうよぉ。そんなに、私の好みが気になるなんて、立派にヤキモチでしょう? 大丈夫、私は、リュシアンを、愛してる(・・・・)から」




――――もちろん、私、渾身の冗談である。

大笑いされるか、冷たい目で見られるかの覚悟を決めて放った、捨て身の冗談だったのだが……


何故か、リュシアンは、真面目に考えこむ。



「………………嫉妬? …………これが?」



私は、指をリュシアンの胸についた形のまま、動きを止めた。


「へ? ……何? ひょっとして、リュシアンったら、嫉妬したことないの?」


そんなバカなと思いながら、聞いてみる。

なんと! リュシアンは、真剣な顔で頷いた。


「ない」


簡潔な肯定の言葉に、ドンびいてしまう。


(うわっ! さすがイケメンね)


リュシアンくらいイケメンなら、いつでもモテ放題。他人に嫉妬することなどないのだろう。

ヤキモチをやいたことが無いとしても納得だ。


「モテる人は、違うわね」


少しひがんだ私の言葉に、リュシアンは、今度は首を横に振った。


「いや、そうじゃない。……なんというか? それほど、他人に興味を持てないだけだ。他人が誰を好きでも関係ないだろう?」


「……は?」


「自分以外の者が、何をどう思おうが、どうでもいいと思っていた。そんなものは、ただの情報で、感情を揺さぶるものではないとも思っていたが……そうか。これが嫉妬か」


うんうんと頷きながら、しきりに納得するリュシアン。

彼は、何故か、胸をついたまま固まっていた私の手をとった。



「――――美春が、俺より陛下の顔が好きだなんて言われたら面白くないと思うし、……この前、ポールを頼ろうとしたのも嫌だった。……俺は、美春のことで嫉妬していたんだな」



キュッと手を握ってくるリュシアン。

私の顔は、……カァ~ッ! と、熱くなった。



(も、もうっ! リュシアンったら!)


このイケメンは、自分が何を言っているのか、自覚があるんだろうか?


(嫉妬? 嫉妬って!? 私に? ……それって、ようは、私を?)


いやいや、そんなバカな! と、私は首を横に振る。

握られた手を、えいやッ! と、ばかりに引き抜いた。


リュシアンが、寂しそうに眉尻を下げたが、見ないことにする。



――――きっと、リュシアンのこれは、小さな子供の独占欲みたいなものなのだ。


最初に自分が保護し、守ると約束した異世界人。

何もわからぬ異世界人は、赤子も同然だ。

リュシアンは、私に対し、親鳥みたいな保護欲を抱いているに違いない。


(うちの子が、よその親になついたら腹が立つってヤツよね)


心が狭いだろうと、思わないでもないが、……まあ、その気持ちも、わからぬでもない。

うんうんそうだと、私が納得していれば、リュシアンは、何故か晴れ晴れとした表情で笑いかけてくる。


「そうとわかれば、簡単だ。ポールには、俺が嫉妬するから、美春に近づくなと言っておこう」


「ええっ!」


とんでもないことを言い出した。


「ちょっ、ちょっと! 止めてよね!」


「何故だ?」


不思議そうに、聞いてくる。



「当たり前でしょう!」



普通、男性が、特定の女性のことで他の男性に嫉妬するなどと言えば、当然その女性に恋情を抱いていると、誰だって思う。


「ポールさんが、勘違いするわよ!」


「勘違い? 何をだ?」


まったくわかっていませんといった風に、首を傾げるリュシアン。

それを見て、こいつはダメだと思った。


(リュシアンったら、イケメン過ぎて、無頓着なのよ!)


世の中の人間というものは、他人の恋バナが大好きなのである。

一度噂が立ってしまえば、あとからそれは間違いでしたと言っても、なかなか信じてもらえないものなのだ。

しかも、噂の当事者がイケメンのリュシアンと異世界人の私となれば、どんな尾ひれがつくか、わからない。


(絶対、変なことを言わないように釘を刺さなくちゃ!)


どう言って止めようかと、私は考え込む。


リュシアンは、まだ首を傾げていたが、途中で考えるのを止めたのか、私に話しかけてきた。


「ああ。そうだ。念のため聞いておくが、――――美春は、俺よりポールの顔の方が好みだなんて言わないよな?」


「え? なんで?」


リュシアンはイケメン。一方のポールは平凡顔だ。

当然、私の好みはリュシアンだが、返事をする前に一応理由を確認する。



「いや、もしそうだとしたら、ポールに言ってくるついでに、アイツの顔を一発殴ってこようと思って。……少し変形させてやれば、美春の好みから外れるだろう?」



実に爽やかな笑顔で、リュシアンはそう言った。


私の体は、ブルリと震える。



(ヤンデレ? リュシアンったらヤンデレなの!?)



いやいや違うと思いたい!


「私、リュシアンの顔が一番好きだから! あ、あと、明日の側妃さまとの面会も、リュシアンと行くわ!」


叫ぶようにそう答えた。


「そうか、良かった。それが正解だよ。君の側で君を守るのは、俺だけだ」


リュシアンは嬉しそうに笑う。




今後は、自分の精神と周囲の物理的安全のためにも、リュシアンには逆らわないようにしようと、決めた私だった。

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