合法ロリではないそうです
「違うから!」
リュシアンが、大声で叫ぶ。
「やだ! リュシアンったら、合法ロリって、言葉がわかるの?」
じっとりと私が睨めば、超のつくようなイケメンは、眉間に深いしわをよせる。
「なんだかわからないけれど、ものすごく失礼な言葉なのは、わかる。……『ピー』って音がしたぞ」
まさかの、自主規制音!
異世界自動翻訳魔法、万能である。
思わず吹き出せば、リュシアンはジロッと睨みつけてきた。
「絶対に、美春の思っているようなこととは、違うからな!」
「だって、二十歳の彼女が、あの外見なんでしょう? ……ってことは、側妃さまも似たり寄ったりの容姿なのよね?」
まるで、中学生のような外見で――――側妃。つまり、国王のお妾さんだ。
これを合法ロリと言わずに、なんと言おう。
片手を額に当てたリュシアンは、ハーッと大きなため息をついた。
「何でもかんでも、君の常識で考えない方がいい。……この国の成人は十五歳だが、結婚できるのは十八からと決まっているからな。それも、結婚が可能だというだけで、子供を作るような行為は、体の成熟を待って行う。――――お願いだから、俺に、こんなことを、説明させないでくれ!」
憮然としてリュシアンは、そう言った。
しかし、そんなことを言われても、聞かなければわからない。
なにせ、私は異世界人なのだから。
「あ! でも、じゃあ、……国王さまの行動って――――」
「ああ、陛下が側妃さまと、そういうことをしなかったのは、特別異常なことではない」
それどころか、この国の常識的には一般的なことだった。
ならば、どうして側妃は、心を病むほどに憔悴したのだろう?
疑問が顔に出たのだろう。リュシアンは、続けて説明してくれた。
「――――ただ、普通、最後まですることはなくても、部屋を訪れ会話をするくらいは、するんだ」
「つまり、本当に、通うだけということ?」
「ああ」
私の質問に、リュシアンは頷く。
「顔合わせみたいなものさ。――――公の場以外で会って、たわいのない話をする。陛下と二人きりで私的に会えるのは、妃となった者の、一番の特権と言ってもいい」
魔族で、本来ならば人間なんて歯牙にもかけない存在でもある国王。
この国の民にとっては、神にも等しいそんな存在と、親しく話せる妃に選ばれることは、女性にとって最高の名誉だ。
なのに、その名誉を得られる立場に立ったはずの側妃が、声もかけてもらえない。
「側妃さまは、陛下に憧れていた。自分が側妃に選ばれたことに、有頂天になって、大はしゃぎしていたとも聞いている。……だからこそ、落胆も大きかったのだろう」
憂い顔で、リュシアンは、そう言った。
「そんな、会って話すくらいなら、会ってあげれば良かったのに」
最後までする必要がないのなら、会うくらい簡単なはず。
どうして国王は、そこまで側妃を拒んだのだろう?
「……今となっては、陛下のお気持ちは、はかりようもないからな」
死人は、話せない。
こればかりは、地球も異世界も同じこと。
この謎が解明されることは、決してないだろう。
「若い女性と会えて、お喋りできるなんて、普通のおじいちゃんなら、大喜びで飛びつく機会なのにね」
なんだか悲しくなった私は、しみじみと、そう呟いた。
「おじいちゃん?」
聞いたリュシアンは、ポカンと口をあける。
「そうよ。だってそうでしょう?」
何歳かも数えられないくらいの年齢の男性を、おじいちゃんと言わずになんと言おう。
リュシアンが、……顔を歪める。
暫く黙っていたが――――
「ハッ! ハハハ! 陛下を『おじいちゃん』と呼ぶなんて! ハハハ! さすが、美春だ」
お腹を抱えて、笑いだした