全治二ヶ月だそうです
「犯人は、証拠隠滅を図ったんでしょうけれど、……ラッキーだったわね」
ニコニコ笑いながら、私は話す。
国王の部屋を捜査中に、爆破されてしまった私たち。普通に考えれば、ラッキーの「ラ」の字もない事件だが、天は私に味方した!
なんと、壊れた国王の部屋に、隠し部屋が有ったことがわかったのだ!
飛び散った瓦礫の中に、元の部屋の物とは違うものが含まれていたのである。
不思議に思い調べれば、壁の奥に、隠し部屋が見つかった。
ちなみに、見つけたのは、私である!
「エヘン!」
ベッドに横になるリュシアンに、私は威張って胸を張る。
「凄いなー」
苦笑したリュシアンは、――――全治二ヶ月の怪我だった。
肩に、そこそこデカイ瓦礫が当たったのだ。細かい瓦礫は、それこそ無数に当たっていて、額から流れた血もそのせいだ。
「君に当たらなくて、良かった」
普段から体を鍛えている騎士のリュシアンだからこそ、二ヶ月の怪我ですんだが、私なら、全治半年は、かたい。
打ち所が悪ければ、最悪、死んでいたかもしれない爆発だ。
爆破の本当の狙いは、証拠隠滅ではなく、事件を捜査している私を狙った可能性もあった。
(どっちにしろ、許せないけれど)
もしも、これが脅しで、ビビった私が、捜査から手を引くことを狙ったものなら、犯人の思惑は、完全に反対の方に外れたと言っていい。
穏やかで、温厚で、流されやすい、ことなかれ主義の私だが、それでも許せることと許せないことがある!
(今回のことは、絶対、許せないわ!)
人を傷つけてまで脅しをかけられて、黙って引き下がるなんて、女が廃る!
そう思う。
「やってやろうじゃないの!」
私は、闘志満々に叫んだ。
「……あまり、張り切り過ぎないで欲しいんだけどな」
ずっと苦笑したまま、リュシアンは、言ってくる。
「それに、……誰が、穏やかで温厚で流されやすい、ことなかれ主義だって?」
「え?」
なんで、私の心の声を知っているのだろう?
リュシアンは、他人の心が読めるのか?
びっくりして見れば、全治二か月の怪我人は「全部声に出てた」と、呆れ顔をした。
私は、慌てて口をおさえる。
「自己評価が、おかしいだろう?」
「どこが?」
「全部だ!」
言い切られた私は、ブーと頬を膨らませた。
リュシアンは、クツクツと笑いはじめる。
非常に不本意なことだが、彼の笑顔が見られたことに、私はホッとした。
「……よかった」
思わず声が漏れる。
私の耳に届いた自分の声は、少しかすれ、震えていた。
我ながら情けない限りだが、仕方ないだろう。
(……涙が出ちゃう。女の子なんだもん)
……某バレーボールアニメの主題歌は、カラオケにおける私の十八番である。
そんな私を見ていたリュシアンが、スッと表情を引き締めた。
「捜査を、止める気はないか?」
そう言った。
「え?」
「今回の爆破は、とても危険なことだった。命を落とす危険だってあったはずだ。……でも、その反面、君に対する容疑は、ほぼ晴れたと言っていい。……まだ、君を帰すことはできないが、君が無理に犯人を探す必要はなくなった。……身の安全のためにも、犯人探しは止めた方がいい」
リュシアンの表情は、真剣だ。
確かに、今回、私自身危なかったことから、私が犯人だろうという声は随分少なくなった。
もちろん、まだ一部には、今回の爆破のタイミングが私の捜査と同時だったため、私が証拠隠滅を図って爆破したのだという声もあるにはある。
完全に疑いが晴れたかといえば、そうではない。
それでも、私への疑いが減ったのは、事実だった。
しかし、真犯人が捕まらない限り私が帰れないのも、また変わらない事実。
リュシアンは、私を心配して、そう言ってくれるのだろうが――――
「バカを言わないでくれない?」
私は、じっとりとリュシアンを睨み付けた。
「……やっぱり、そうくるか」
「当たり前でしょう! 脅かされたから引き下がるなんて、犯人の思うつぼじゃない! そんなの、絶対嫌よ!」
私は、大声で叫んだ。




