証拠隠滅
結果から言えば、何も見つからなかった。
(わかっていた、ことだけど)
事件から、既に1週間以上が過ぎている。これで見つかるようならば、今まで部屋を捜した者たちは何をしていたんだという話になるだろう。
「でも、本当に密室殺人事件の見本みたいな密室よね」
国王の部屋は、広さ二十畳ほど。
窓は一つで、重々しいカーテンがかかっている。
キングサイズのベッドに、重厚なテーブルと椅子。
壁際の棚も、その中の食器も、どこの美術館の展示品かと疑うようなアンティークで、総額いくらになるのか見当もつかない部屋だ。
絨毯もフカフカで美しく、ここを私が土足で歩いていいのか、不安になってしまう。
王宮の、しかも国王の部屋なのだから、豪華絢爛なのは当たり前。
それと同時に、この部屋は、外からの侵入防止にかなり力を入れて作られていた。
厚いカーテンの向こうにある窓は、はめ殺しで、ドアは1ヶ所のみ。
他に出入できる場所はなく、コンコンと叩いてみたが、窓ガラスもかなり厚そうだった。
「これじゃ、換気が悪いんじゃない?」
「陛下は魔族であられたからな。換気などの空調は、ご自分でどうにでもしておられた」
魔族、万能である。
一家に一人魔族がいたら、電気代が浮くだろうなと、不敬にも私は思ってしまう。
「あ、だったら、事件の時、私がこの部屋から出られなかったのも、陛下の魔法のせいなの?」
あの時、私は、死体のある部屋から逃げ出そうとして、できなかった。
ドアには鍵がかかっていて、どんなに叩いても開けられなかったのだ。
(外から入れないのは当たり前として、中から出られないのはどうなの?)
私でなくとも、誰でも思う疑問だろう。
「ああ、陛下は部屋の施錠を魔法で行っていたからな。施錠の魔法は、それほど難しい魔法ではないが、魔力量が桁外れの陛下が閉めたドアを、人間が魔法で開けるのは無理だ。警備に立っていた俺でさえ、力業以外では開けられなかったしな」
そういえば部屋から出られなかった私を、リュシアンがドアを吹き飛ばして助けてくれたのだ。
あれは力業だったのかと私は呆れる。
「――――力業で開けられる施錠の魔法って、どうなの?」
「魔族は、力業なんて使わないからな」
ハハハと、楽しそうに笑うリュシアン。
なまじ魔力の強い魔族は、それ以外の方法について、思いつきもしないらしい。結果、単純な力技に弱いというわけだ。
まあ、よく考えてみれば、日本のドアだって、どんなに複雑なカギがかかっていても、力技には弱いかもしれない。音や振動を気にしなければ、カギのかかったドアをぶち壊すことは、それほど難しいことではないだろう。
(木製のドアなら、チェーンソーでもあれば、一発よね?)
決して、確かめたいとは思わないが。
「魔法って万能じゃないのね」
私の言葉に、リュシアンは苦笑した。
同時に私は、ふと思いつく。
魔法を万能だと思っていた国王。その思い込みが、国王の隙になったのではないだろうか?
まさか、自分の魔法が破られるはずがないと思っていれば、もしもの備えや対処に遅れてしまうだろう。
国王は、その隙をつかれたのかもしれない。
(って言っても、その隙が何かわからないけど)
ともかく、そのへんを考慮して、部屋の捜査をやり直そうと、私は思う。
「――――魔法の力を使わない隠し通路とか、手動式の秘密の出入口とか、案外、隠し部屋とか有ったりして?」
我ながら冒険小説の読みすぎかなと思える発想をブツブツと呟く。
ちょっと笑いながら、部屋の捜索を続けた。
しかし、リュシアンは真面目な顔で考え込む。
「そうか。そんなことも――――」
そこまで言って、――――突然立ち止まった。
体を、ピクリと震わせる。
「まずい!」
叫ぶなり、ガッ! と、私の体をつかまえた!
「なっ?! 急に、何をするの?」
叫ぶ私に返事もせず、そのまま強引に抱き込んで、ドアから外へと飛び出す!
「なんだ?」
驚くポールに、「伏せろ!」と、リュシアンが叫んだ!
次の瞬間、ドドォ~ン! と大爆発が起こった!
グラグラと床が揺れ、暴風が吹き付ける!
私は、リュシアンに深く抱き込まれ、体を床に押しつけられた。
「グゥッ!」と、リュシアンが呻く。
「なっ! リュ、リュシアン! 大丈夫!?」
「……ウッ、クッ……大丈夫だ。美春は? 怪我はないか?」
ひどく苦しそうな声が聞こえた。
私を気遣ってくれる内容に、カッ! とする。
(そんな場合か!)
心の中で、怒鳴った。
「無事よ! 無事! だからリュシアン! あなたは大丈夫なの?」
ゆっくりと体が動き、リュシアンが私の顔をのぞきこんできた。
「そうか。良かった」
彼の額から流れた血が、私の頬に落ちる。
美形は、どんな時でも、――――例え血まみれでも美形なのだとつくづく思った。
(でも、そんなことどうでもいいわ!)
私は、リュシアンの腕から抜け出ようと、ジタバタもがく。
「まだ危険だ。もう少し我慢しろ」
血の気の失せた顔で、リュシアンは、そう言ってきた。
「危険なのは、私じゃなくて、あなたでしょう!?」
またまたカッとした私は、大声で怒鳴る。
「まだ危険で、爆発する可能性があるのなら、これ以上傷ついちゃいけないのは、私じゃなくて、あなたよ! さっさと私をはなして、避難するなら二人で避難しましょう! ほら、早く動いて!」
叱りつけ、彼の体を押し退ける。
リュシアンは、びっくりしたような顔をした。
「……やっぱり君は、普通じゃないな」
そんなことを呟いた。
なんて失礼な言いぐさだと、私はちょっとムッとする。
「それだけ憎まれ口がきけるなら、大丈夫みたいね。……さあ、さっさと避難するわよ」
「憎まれ口って、……俺は、君を誉めたんだけどな」
「どこが誉め言葉よ! 思いっきりバカにしてるでしょう!」
「そんなことはないよ」
ギャアギャア喧嘩しながら、私たちは避難した。
側にいたポールが、呆然とした顔で見ていたけれど、そんなことにかまっていられない。
――――結果、私たちは無事に避難できたのだが、国王の部屋は、めちゃめちゃになった。
もちろん、部屋にあったかもしれない犯人の痕跡も、全部消えてしまったのだった。
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これも、応援してくださる皆さまのおかげです!
ありがとうございます。
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当然のことですが、いただいた個人情報は、本の送付以外に使うことはありません!
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皆さまのご応募をお待ちしています!




