ドッキリだと言って!
お久しぶりです。
お楽しみいただけたら、嬉しいです。
ノリで入った大学のミステリー研究会。
別に、推理小説がそんなに好きなわけじゃない。趣味の読書が雑食で、SF、ファンタジー、ミステリー。なんでもござれと読んでいて、同じ趣味の友人が入ってみようと誘うから『じゃあ!』って、入っただけなのだ。
……なのに、なんでこうなった?
(敗因は、あの、超適当な魔方陣に入ったことよね?)
研究会の先輩が、部室の床にフリーハンドで描いた魔方陣。あんまり下手くそだったから、大笑いしてしまったら、『お前、最初に入れ!』と命令されたのだ。
いや、入るはいいけれど、その後、どんなリアクションをとればいいのかと、考え考え入ったら、その途端、視界が真っ白な光に包まれた!
たかが、サークルの集まりに、ずいぶん派手な趣向だなと、感心して――――
そして、気がつけば、そこは薄暗いながらも落ち着いた部屋の中だったのだ。
本当に、どうしてこうなったのだろう?
どこをどう見ても、大学の中とは思えない、アンティークの家具や美術品が、冗談じゃなく高そうな、その部屋。それらをほの暗く照らし出すランプだけを見ても、美しく品があり、何百万としそうに見える。
刺繍どっさりの重々しいカーテンが、部屋の一面を覆っていた。
たぶん、カーテンの向こうは窓なのだろうと思うけど、隙間から、少しも光が漏れていない。
なんだか、夜みたいだなと思った。
(ううん、そんなはずないわ! だって、ついさっきまで午後四時くらいだったもの!)
講義が終わって、サークルの部室に行ったのが三時だから、四時は過ぎていないはず。
なのに、見回した部屋の奥には、どでかいベッドがあって、人が寝ているような膨らみまで見えた。
(なんで、寝ているの? 本当の本当に、もう夜なの? この見覚えの無い部屋といい――――)
「――――ひょっとして、私、異世界トリップしたりして?」
声に出して呟けば、その声は、思いの外、大きく響いた。
ビクッと震えて、慌てて寝ている人の方を見るが、盛り上がった布団は動かず、起きた様子はない。
(いやいや、状況を考えれば起きてもらった方がいいのかもしれないけれど)
まさか本当に異世界トリップをしたとは、さすがに思わない。
しかし、そうとでも考えないとわからない状況に置かれているのは、間違いない事実だ。
寝ているのだから起こさずに部屋を出るという選択肢もあるかもしれないが、出来ればあまり動きたくないとも思った。
(知らない場所で、訳もわからず移動するのは危険よね?)
いや、場所自体は大学の中のはずだとは思うが、違ったら、怖い。
これが、盛大なドッキリで、部屋を出たら研究会の面々が大笑いしているみたいなオチなら、まだ良いのだが、……出た先に何があるか、わからないのだ。
(ともかく、あの寝ている人に起きてもらって、……それから考えよう。これがドッキリで、起こそうとしたらゾンビが襲いかかってくるっていうシナリオでも、このまま何もしないでいるよりマシだわ)
この時、私はそう思った。
元々、ウジウジ考えるのは苦手なのだ。
まさか、ゾンビの方がまだマシな状況になるなんて、思ってもみなかったし!
起こすのだから気にしなくても良いのに、何故か私は、そうっとベッドに近づいた。
(だって、先に起きられて問答無用で攻撃されても困るし)
ベッドの膨らみはかなり大きい。どれだけ厚い布団をかけているのかわからないが、その人が成人男性であることは間違いないだろう。
(ベッドも大きいし、ひょっとして外国人かも?)
恐る恐るベッドをのぞきこめば、――――そこにいたのは、まさしく外国人に見える成人男性だった。
しかも、
(うっわ! 超美形! ……彫り、深っ! 彫刻みたい。……ハリウッド俳優だって、これだけの美形はいないわよ!)
心の中で、私は叫んでしまう。
本当に、そうとしか言えないような超絶美形が、そこに寝ていた。
「……人間じゃ無いみたい」
思わず、私がそう呟いてしまったのも仕方ないだろう。
この時の私は、まさかそれが真実だなんて、思いもしなかった。
……声を出しても起きる気配の無い美形男性に、安堵しつつも寝ぼすけだなぁと呆れる余裕さえ、あった。
そして、意を決して、声をかける。
「あの……すみません」
男性は、ピクリとも動かなかった。
「あのぉ、……すみません!」
心持ち大きな声で、呼びかける。
それでも、男性は起きる気配がなかった。
(どこまで寝坊助なのよ!)
内心、ムッとする。
「すみません! 起きてください!」
私は、その男性の耳元で、怒鳴った!
なのに、男性は動かない。
……さすがに、おかしいと思った。
(これでも起きないって、変じゃない?)
ピクリとも動かない男の顔をジッと見る。
むかつくくらいのイケメンだが、青白い肌には、ほんの少しの赤みも見えない。
――――そのことに、ようやく気づいた。
「ヒッ!」
見れば、唇が紫色をしている。
長くプールにつかりすぎた子供よりもヒドイ紫だ。
ガクガクと、足が震えた。
(いやぁ~ッ! ま、まさかっ!?)
ギクシャクと頭を動かし、視線を下げて、男性の布団の胸のあたりを見る。
――――わずかな動きも、なかった。
(ちょっと、ちょっと、待って! これがドッキリなら笑えないって! ……って、いうか! もう、ドッキリでもいい! 冗談! 冗談、よね!?)
心臓が、バクバクいって、頭がガンガンした。
(驚きすぎて、死んだらどうしてくれるの!?)
絶対、絶対、触りたく無かったけれど、……でも、このままじゃ、私は、間違いなくこのままショック死しそうである。
(今なら、私、鉛筆が転んでも死ねる自信があるわ!)
いったいそれは、どんな自信だと、自分で自分に突っ込んでしまう。
――――そうして、私は、プルプル震える指で、……眠っているはずの男の頬を触った。
――――氷のように、冷たい頬である。
………………………………
「…………ウッ! ギャァァァァッ!!」
大声で、怒鳴った。
恥も、外聞もない。
腰が抜け、ドスン! と、その場に尻もちをつく。
その男性は、間違いなく、死んでいた。
またまたツィッターで呟いているお話のまとめバージョンです。
ツィッター先行のため、不定期、ゆっくりめの更新です。