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八匹目 もこもことお薬

「おはよう…ございまひゅ…」


「………」


気分よく目覚めたらいつの間にかカルミアも起きていた。しかしどんな寝方したらそんな寝癖になるのだろうか。芸術的だな。思わず頭をわしづかみしてしまうと何を感知がしたのかカルミアは表情を崩す。


「あ、あの…そんなに撫でられると…えへへ…」


「鳥の癖に飛べなくてふわふわもこもこした種がいるんだ」


「あふぅ…ぜひ見てみたいですね」


「触り心地はあっちの方が良いが」


「えーと…あの…アベンさん?」


「あいつら美味いし羽毛が高く売れるからな。内臓も薬に使える部分がある。捨てるとこなしだな」


 カルミアは顔を真っ青にしながら私も?私も食べられる?どっちの意味で?とくだらないことをぶつぶつと言っているので無視しておこう。


「カ、カニバリズムはダメです!」


「…確かに食べるとこ少なそうだもんな、手前」


「私はまだ成長期ですー!その言い方だとアベンさんは食べたことがあるみたいな?」


「ない」


 否定するとほっと胸を撫で下ろしすぐにいつものように笑顔を浮かべる。


「なんだ?お前は食べたことあるのか?」


「いえ、見たことがあるだけですので…」


 カルミアは遠い目をする。奴隷時代に何かあったのだろう。面倒くさそうだから詳しく聞こうとも思わないが聞いてもいないのにカルミアは饒舌に話し始める。


「…私達の心に反抗心を無くすために奴隷商の店にはお試し部屋ってあるのですよ…そこでお試しで犯されたり、嬲られたり…その映像は各々の牢屋の中に映像水晶で投影されます。次はお前の番だって」


「なるほど…膣内洗浄用の薬液と精神を少し安定させる薬と…あとは…」


「ちょ、ちょっと待ってください!私はお試しされてません!」


「あ、本番?いや、もしかして子持ちか?それなら、半分は優しさで出来た薬もあるが?」


「賛否両論しそうな薬じゃないですか!私これでも一等奴隷ですよ!買う気のある者以外には触れられてすらいませんから!」


 籠の中の薬を漁っているとわたわたと手を左右に振っている。どちらにせよ触られてるのだろう。まあ、正直どちらでもいいが。とりあえず籠を漁るのをやめて椅子に座り再び薬を調合し始める。


「その籠って昨日、血の入った瓶を出したと思ったら調合用の道具一式出てきましたよね?明らかに入る質量とか大きさも超えてませんか?」


「これは俺に薬の作り方を教えてくれた人から譲り受けた物だ。物がいくらでも入る籠らしい。奇妙なもんだ」


「へー。なんだか凄い物なんですね。ちょっと手を入れてみてもいいですか?」


「次に外の景色見れるのは三年後くらいかもな」


 一応冗談くらいで言ったが戦慄している。天秤に血と薄紫色の粉を乗せまた薬の調合を始める。


「え?あ、あの…」


「………」


 しばらく沈黙が続き、特に何も話すことも無く黙っていると扉を開けゼラニウムが部屋に入ってくる。


「おはようございます。アベン。朝食をお持ちしました」


「ああ、どうも。とりあえず今日で…まあ、この女次第だがいい物が作れそうだぞ」


「そんなに作って奴隷は大丈夫で?」


「その飯食わせて寝させとけば大丈夫だろ。今は少ない血で多く作れるか実験中だ」


 …薬包紙に固形状になった薄紫の粉と血を混ぜた物をのせる。数時間後に再び粉状になれば完成だ。


「でしたら奴隷には奴隷用の餌を…」


「俺はいらないからそれ食わせろ。今、手を止めたら集中力が切れる」


「…奴隷。さっさと食べて血を作りなさい。お前にはそれしか価値がないのですから」


「は、はい!」


 優しくしてるつもりはないが、まあこれが普通の奴隷と主人の関係だろうな。ゼラニウムは表情こそニコニコしてるがゴミでも眺めてるようにカルミアに食事を渡し、反対にカルミアは主従関係かのようにビクビクとゼラニウムが持ってきた朝食に手をつける。奴隷の証は昨日の夜に消えたのだから怖がる必要もないだろうに。


「ああ、そういえば王国騎士団の連中がこの近くまで来ているらしいですよ。昨日合流する予定だった連中がほぼ壊滅したそうです」


「そうか。じゃあ作れる量を増やさないとな。今ここには何人いるんだ?」


「36名です。なんせ、片田舎の領主ですからね。そこまで多く雇ってるわけないですから。まあ、この屋敷の代替えした使用人は特に裏でも名の知れた連中です。役に立ちますよ」


「取り敢えず今ここにいる連中に最低でも二包。幹部連中には特別なやつだな」


「まあ、最悪それ死んでも構わないのでお願いしますね?二日以内に何かしら動きがあると思われるので…ちなみに幹部用とはいかに?」


 余程、腹が空いていたのか話してる横でカルミアは朝食を急いで食べている。それが気に食わなかったのかゼラニウムが睨むと横で朝食を取っていたカルミアがびくりと肩を震わせる。なにをされたのかは知らないがよく調教されているな。


「4倍で副作用無しって言ったらいくら出す?」


「銀貨20枚でどうでしょう?」


「作るのがとても大変でな。欲しい連中はお前ら以外にも沢山いるだろうよ。そしたら競りにでもなってとんでもない金額だ。特にお得意様は表より裏の方が多いからな」


「…30枚で」


「効果時間も勿論4倍だ。まあ、1包飲めば近辺の騎士団どもは皆殺しに出来るだろうよ」


「ええい、50枚です!それ以上は無理です!」


「本当は40枚くらいで妥協しようと思ったがそれは有難い。おまけして50枚で薬2個分にしとくよ。お買い上げどうも」


 まあ、副作用を無くすのは簡単な事だけどな。副作用は…さて、何を仕組むかな…


「素晴らしいですね…いえ、寧ろその金額で買えるなど私は運がいいのかもしれませんね…」


「まあ、そういう事だ。ほら、そんな規格外な薬を作れるのもこいつのおかげだ。流石、魔法使いの始祖の子孫なだけはある」


 当の本人は久しぶりのまともな食事を食べ終えてぼんやりと明るくなった外を眺めながらボーっとしている。


「眼球の一つでもくり抜いてやろうと思いましたがまあいいでしょう。ああ、アベン。魔導士と領主娘が探していましたよ」


 そう言い残すと部屋から出て行く。あの連中が探してる時点で面倒事だろう。聞かなかったことにしておこう


「あの人…怖いです…」


「…何があったかとかは話さないでいいからな。相手すんのも面倒だ」


「…純潔だけは守れましたよ」


「知るか」


「それにしても…銀貨50枚って凄いですね」


「…薬は魔法と違って服用者の肉体で効果が現れるものだ。今回の場合は…まあ、かなり肉体に負荷がかかるが…死んだところで特に問題はないからな。調子乗って使用して体が持たなくなったってもっともな言い訳もできるし」


「わあ、外道ですね」


「よせ、照れる」


「しかし、王国騎士団相手にするのは怖いですけどあの人達も凄いですね。王国騎士団ってすごく強い超人集団なんですよね?」


 小さい胸を張りながら、私知ってるんですよとでも言いたげにミアが視線を向けてくる。


「ああ、普通の人間じゃあまず勝てない。剣技もそうだが戦闘する為にだけ洗練された固有技能。まあ、裏の人間や悪者にとっては恐怖の対象だな。関わったら最後だ」


「アベンさん何度も殺しあったのですよね、やっぱり強かったですか?」


「…強いのは頭だけで部下はそこまででもない。ほら、覚醒者とか呼ばれてる6人いるだろう?あいつらが冗談抜きでやばい…あ、お前は知らないか?お前奴隷歴長いって言ってたもんな」


「ふふふ。一等奴隷は見た目もそうですが頭脳もそこそこよいのです。毎日新聞読ませてもらったり本を読んでましたよ」


「自分で見た目いいとか言ってるのはどうかと思うがそれなら話が早い。「目」と「口」と「血」と「腕」…「骨」とそれに「足」か。それぞれの部位に関係した固有技能。普通に殺りあえば…いや、そもそも普通になんて無理か。対峙しただけで死が確定する様なもんだし」


「そして、史上唯一?この場合は唯六ですか?とにかくキラレイスのその6人だけが固有技能が進化した覚醒者なんですよね!」


「そうだ。まあなるべくなら遭遇したくない。多分ゼラニウムの仲間を殲滅したのは「血」の奴だな。あいつは戦闘狂の癖してちまちまとした事好きだからな。普段ほっとかれてるようなこんな田舎にも来るだろうよ」


 つい先日に出会った変態戦闘狂を脳裏に浮かべる。あれも…まあそうだ。そんな事を言うとカルミアは目を輝かせている。


「凄いです!本や新聞でしか見れなかった物語が実際に見れるなんて!じゃあ、アベンさんはその人に対抗する為に凄い魔法が使えるんですね!」


「俺、魔法適正ない」


「え?じゃあ、あの死の街になったのは固有技能?とんでもない規模じゃないですか!」


「固有技能もない」


「え?じゃ、じゃあどうやって街一つ壊滅させたあれはどうやって起こしたんですか⁉︎」


「…気にする必要はない。お前は部屋にある本でも読んで静かにしてろ。時は金なりだ」


 そう言ってまた出来上がった薄紫色の塊を薬包紙にのせる。事実を話したところで信じるわけはなく、長いので説明するのも面倒だし、こいつがもしかすると王国騎士団に俺を売る可能性だってまだある。まあ、話したところで鼻で笑われると思うが。


「勇者も好きだけどやっぱりこういうのも…」


 ボソッとカルミアがなにかを話した気がしたが聞き取れなかった。




「薬師!見つけたぞ!!」


「うわ…」


「露骨に嫌そうな顔…はしてないな!相変わらず表情の読めない奴だな、貴様は。私がわざわざ探しに来てやったのだぞ!礼の一つでも言え!…ん?その女はなんだ?」


 カルミアが本を読み始めやっと静かになった思ったら今度はうるさいのが来た。お前あんなに俺に対してグダグダ言ってたじゃないか。面倒くさい。使用人用の家屋にまで探しに来るな。


「…弟子だ。置いてきた筈がついてきてた」


「え!あ…で、弟子です!」


「そうか…初めまして、王国魔導士。シャガ=トレニアです。以後お見知り置きを。美しい方…おほん。薬師、バーベラ殿がお呼びだ。来い」


 バーベラ…バーベラ…ああ、領主の娘の名前だったかな?たしか。


「弟子、あとであの死に損ない呼ぶから一緒に作っといてくれ。頼んだ」


「あ、あの!行ってらっしゃい!!」


「は?」


「あ、いえ…ごめんなさい…」


 行ってらっしゃい…二度と来るなとか消え失せろとは言われたことはあるがそんな言葉はかけられたことはないな。こいつの頭の中どうなってんだ?もしかしてその寝癖は頭の中身が投影でもされたものなのか?


「行くぞ薬師!バーベラ殿を待たせるな!」


「わかっから大声出さないでくれ…んじゃ後は頼んだぞ」


「わっ!…えへへへ…そんなに撫でられたら照れますよぉ…」


「つむじ押すと禿げるって言うよな…」


 撫でることからつむじを押すことに移行すると「やー!」と反抗してくる。しかし、なんか俺がしたのだろうか…ゼラニウムが領主に掛け合って俺をここに置いてるらしい。それが気に食わなかったのか?

しかし感情がころころと変わる奴だ。さっきまで笑ってたと思ったら今度は涙目でなにかを訴えてくる。嗜虐心が多少擽られる。



「随分と仲がいいようだな」


「そう見えるならお前の目は節穴だ」


「なんだと貴様!」


 領主娘は屋敷の前にいるらしく話しながらその場へと向かう。そんなとこに呼び出されるとは本当に出て行かされるのか?まあ、最悪ゼラニウムがどうにかするのだろう。そういえばお婆ちゃんの目はそろそろ見え始めるころだろうか?


「貴様は礼儀作法がなっていない!これだから薬師は…いや、王都内の薬師でも多少の礼儀は出来る。田舎者め。薬学などというくだらない知識に脳を使うなら礼儀作法でも学んだらどうだ?」


「魔導士、お口チャック」


「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」


 本当にうるさい。お願いだから黙るか最悪、声量だけでも落としてほしい。


「騒々しいですわよ、シャガ。三男といえど王都の貴族としてそのように声を上げるのはよろしくないですわ」


「も、申し訳ありません!バーベラ殿!」


「わかればいいのですよ。さて、ご挨拶が遅れました。この地を治める領主。アーノルド=ロベリアが長子。バーベラ=ロベリアです。薬師様、以後お見知りおきを…」


 何を言っているんだ?廊下ですれ違うたびに睨んだり、無視してきたくせに。


「…アベンです。よろしくおねがいします」


「ふん!無愛想な奴だ。して、バーベラ殿。何故こいつを呼び出したので?」


「本調子に戻ってきたので近隣の森で魔物狩りをしようと思いまして」


「なるほど!不肖、シャガ=トレニア。貴女様にお供させてもらいます!」


「ふふ。頼もしいわ、シャガ」


「それだと俺がいる必要ないと思うので部屋に戻っていいですか?ゼラニウム…さんに頼まれた薬を調合しないといけないのですが…」


「はぁ…薬師様。わざわざ私がお呼びしたのは貴方が危険を伴って薬草を取りに行くのを少しでも安全にしようと思ってのことですよ?」


「薬師!バーベラ殿の温情に少しは甘えろ!貴様の為についてきてくださるのだぞ!」


 二人とも顔に書いてある。どうせゼラニウムが薬師を家に留めておくのが気に食わないから魔物のエサにするか弱味でも握りたいのだろ?


「…ご好意感謝いたします。ありがとうございます」


「礼くらいは貴様でも言えるのだな!」


「シャガ、それくらいにしなさい。では行きましょうか」


 別に貯蓄は充分にあるし、行く必要もない。本当に無駄なだけの時間だ。



「最近、この森ではビックモスキーが増えているそうです。仮にもこの地を治める者の娘。私はこの事態を見過ごすわけにはいきません」


 どんどん森の奥へ進む最中、領主娘はそのような事を言いながら歩んでいく。道中これといってなにかがあった訳でもなくビックモスキーとやらの群生地に進んでいく。多分あのデカイ蚊だろう。


「おい、貴族三男」


「シャガ=トレニアだ!」


「お前のそのトレニアってのはマルクト=トレニアの親族かなにかか?」


「薬師、姉上を知っているのか!やはり貴様と言えど知っているだろうな!なにせ、王国の6人の救世主のうちの一人だからな!ははは!自慢の姉だ!彼女の弟であることを私はとても誇りに思う!」


 ぺらぺらとまあ、言葉が出ることだ。そうか、アレの弟か。そう考えるとなるといちいち毒のある言葉を吐いてくるがまあ多少はよしとしよう。何せ最高傑作ともいえるしな。ピエトロよりはまともだし…多少好感も持てる。


「そうか。似てないな」


「薬師、確かに私は姉上の様に凄くはない。だが、私は私の出来る範囲で事を行い、努力しているつもりだ」


「ああ、すまん。そこじゃなくて性格の話だ」


 急に真剣な顔になり魔導士が語り始める。ただ、憧れるだけでなく部相応に現実は見れているらしい。


「貴様が薬師で無ければ良き友になれたかもしれぬな。姉上はその能力上忌避されがちだ。王国内でも姉上を見るだけで子供が泣くらしい。姉上のことを話せる人間などあまりいないのでな」


「…かもな」


 覚醒者共は人間の形をしているだけで中身も能力も化け物のようなものだ。しかし王国内でも忌避されているようだな。


「だからこそ…だからこそ!あの忌々しい大罪人は許し難い!」


 魔導士の叫びに領主の娘は驚きこちらを振り向く。だが気にせずにシャガは怒りのままに言葉を吐き出す。


「我が姉を凌辱した大罪人めが!絶対に許さないぞ!」


 …知らない罪が追加されているがまあいいか。

 シャガの姉であるマルクトは覚醒者の一人であり、【戦神の豪腕】という固有技能を持つ。その力は女どころか人としての理を超えておりその一撃は大地を砕き人間に当たれば即死どころか一瞬で肉塊へ変わる。


「なにが『隻腕のマルクト』だ!何一つわかってない!姉上の葛藤を!あの日片腕を無くさなければ救えた命の重さを!」


 シャガの怒りは収まらず語気を荒げ始める。


「私は絶対に病魔を招く者を許さない!刺し違えてもこの手で必ず殺してやる!」


「シャガ、落ち着きなさい」


「…ッ!…申し訳ありません、ガーベラ殿、少々取り乱しました」


「全く、すぐに熱くなるのだから…もうすぐ群生地です。気を抜かれると死にますよ?」


「申し訳ありません!薬師行くぞ」


 カルミアに負けず劣らずに情緒不安定な奴だな。


「…ん?」


 森の中は鬱蒼としていて決して見通しがいいわけではない。しかし何故かその場所だけ嫌に目に映った。いや、人を大勢殺してきたからか目に入ってしまった。領主娘と魔導士は気付いてないらしい。進行方向よりかなり右に逸れた場所に所々に赤黒い染みの付いた軽装の人間が倒れていた。こいつらといるよりは幾分楽だろうと話し始めた二人を横目に倒れてる人物の元へ向かうことにした。

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