六十四匹目 ダストボックス
新しい小説書こうかなって思いつつも筆が遅いから始めたら収集つかなくなってくってわかってる
「え?それじゃあ…」
「まあ、もうじきだろうな。今さら罪の意識が多少芽生えはじめてきた。殺した奴の顔なんざ覚えてねえのにな」
エマに話した。肉体のこと、それと何故か昔のことを聞きたがっていたのでそっちは適当にはぐらかした。
正直な話、殴られ過ぎて欠けたり破壊された脳を無意識に置換した結果現在に至るまで色々と体に不具合が起きている…と昔ピエトロに言われたが今でも何のことだがさっぱりわからない。感覚が無くなったのも視界がぼやけるのももっと前から起きていたことなのだ。多分関係ない。
「お父さんはつらくないの?」
「そう見えるのか?」
「全然見えない…」
「ふむ…なら何故泣くんだ?」
家族という定義は知っていた。サーカスに諭されて改めて実感した。だが赤ん坊が親の真似をして言語を習得する様に俺も真似はできるが其れの意味をまだ理解し始めたばかりだ。過去にも何度か理解したつもりだったがどれもこれも的外れなものだった。だからこそ関係あるかどうかは知らないが急に泣き出したエマに困惑していた。
「俺が何かしたのか?」
「ううん、お父さんの代わりに泣いてるの」
「代わりに?いや、俺も泣くことくらいは流石に出来るが?」
「いいの、私の勝手だから。だからね、お父さん。お母さんの前でもそういう優しい眼をしてね」
彼女の瞳に自分がどう映っているのかはわからない。瞳を覗き込んでも眼球代わりのガラス玉に反射した自分の顔が変わらずに写っているだけだ。
「お母さんきっととっても辛い思いしてるし…泣いてると思う」
「ああ、まあ。あの連中は目的の為なら手段選ばねえからな。俺以上に一般人巻き込むし。痛み止めとか無しで眼球抜き取られたりしてるんじゃないか?」
そう言うと先程よりも一層、今度は声を上げて泣き始める。わけがわからない。
「ふむ…まあ、取り敢えずだ。泣き止め。いつまで経っても行動を開始できない」
「うん…」
「さて、問題はここからだ。かなり距離があるからな。クロウに連れて行ってもらえるか或いは…誰か呼ぶか。いや、これ以上増えるのまずいな。倫理観ガバガバでも口は堅い3人はともかく…ううむ…」
「テレポートステーションは?」
「ああ、あれか。一番近場の街まで行ければ…だが機能してるか?ホワイトの事だから逃げる為の道具は優先的に狙ってそうだしな…」
「ホワイト…?」
「知らないのか?…そういや会ってないもんな。森の竜だ。真っ白で透き通る翼を持つ。それで魔法を極めてる」
「へえー」
そういえばホワイトはエマの事を知っていたがなんだかんだでエマはホワイトに会ったことがなかったのか。今度森に連れて行くか?いや、エマは自力で魔法適正を得た。仮にあの森の霧を吸ったら魔力が逆流してしまうかもしれない。
考え込んでいるとしかめっ面にでもなっていたのかエマが額に手を当ててくる。
「難しい事はみんなで考えよ?ね?」
「…短時間で随分と精神年齢が成長した…気がするな」
「いつか私もお母さんになるから。そしたらお父さんが私の旦那さんになるんだよ?」
「…手前もまず倫理観とかその他諸々の事を学べ。近親相姦って知らねえのか?」
「血の繋がりがないから大丈夫だよ!」
「そういう問題じゃねえんだよ、クソガキ」
「大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない」
外に出ると待ちくたびれたとクロウが愚痴ってきた。そんなに待たせてないだろうに。
「こっちの事はいい。んで、どうやって連中の…施設?の近くまで行く?」
「む?それは汝が考えているとばかり…」
「…ヴェノムに付いてきゃよかったな。こっから最短で何日だ」
「最低でも2週間だな」
「カルミアが拉致されたのが昨日…魔眼の移植云々で詳しい奴は流石にいないよな?」
「うむ。我も流石にそこまでは知らぬ」
八方塞がりだ。基本的と言うか根本的と言うか…どうするか…考えている時間も今は惜しい。だが焦れば焦るほど考えは纏まらない。
「我の影は我以外は入った場所からしか出られぬ。死体になるか似た様な能力を持っていれば別だがな。それに竜態となったとしても流石に距離があるからな…人1人運ぶのがやっとだ。それに我は飛ぶのより影を潜行する方が速い」
「エマ…は無理だな。どう考えても魔力切れを起こす」
どうしようか。どうしようもないのか。三人寄れば文殊の知恵と言うが…上手い方法は見つからない。やはり背中に乗せて飛べそうな奴…ホワイト辺りを呼び出すしか…指輪の使い方は知らないがホワイトの事を考え始めた時聞き覚えのある声に話しかけられる。
「困ってるようなら助けようかしら?」
「なんだ、まだいたのか」
声の主はママレード。彼女は心底嫌そうな顔でいつもの馬車を携えて立っていた。
「額を地面に擦り付けて懇願すれば乗せてあげてもいいわよ?」
ぱちぱち、ぱちぱちぱち。くるくると回るウサギの踊り子を拍手で出迎えると、8つに分かれた陶磁器から丸い蛹が現れる。そうだ、きっとこれは悠久の歴史の魔力がまるで山茶花のように優しく私をなびって行くようで、これはきっと下着の狭間で起こるトランポリンの…
「もし?もし、お嬢さん。大丈夫ですか?」
「うわぁ!ベットの角から飴玉の革命が!」
「ど、どんな悪夢を見ていたのですか?」
極彩色に彩られた世界は冗談抜きでトラウマを植え付けるかのように鮮明な夢だった。しかし起きた直後に脳を使ったせいなのか何時間か或いは何日か前に口内に侵入してきた悍ましい物の感覚を思い出してしまった。とっさに手で抑えようとするが体に纏わりつく何かが外れなく逆流してきた胃の内容物はびちゃびちゃと汚らしい音を立てて溢れ出した。
ここはどこだろうか?前が見えない。目は開けているはずなのに。何とか自分に纏わりつく物を外し、それからそっと瞼に触れるとぐにんと歪み指が自分の眼孔へと挿入される。そこで漸くどこまでが現実でどこまでが妄想かわかった。
「あっ、そう言えば私。眼球抜き取られたんでした…」
真っ暗で何も見えない。途端に恐怖と言い知れぬ謎の倦怠感に襲われる。
ここがどこかもわからない。ただ、何か柔らかいものがあったり硬いものがあったりとどうなってるんだここは。
「あの、大丈夫でしょうか?どこか痛むところは?」
「あ、はい。大丈夫です。取り敢えず口を濯ぎたいのですが…水とかってあります?」
「ちょっとお待ちください……はい、どうぞ」
先程から話しかけてくる随分としわがれた声の男性は分かりやすく手元に器らしきものを渡してくる。口に水を含むが口内に入る異物は再び思い出したくもない記憶を呼び覚まし渡された器に戻してしまった。
「大丈夫ですか?楽になるまで吐いて平気ですから。
余程酷い目に遭わされてきたのでしょう…両目とも持っていかれるなんて…」
随分と優しい声だが…信用出来ない。もしかすると気を抜いた瞬間に…そう考えたが声は正面から聞こえては来るもののそれ以外は全くわからない。ここが狭いのが広いのかさえも。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。僕はエグサ=マルベリー。ここでは一番の古株です。君の名前は?」
「あ、私…カルミア=フォリナスって言います。ええと…」
「ああ、見えていないからしょうがないですね。ここはダストボックスと呼ばれる世界の眼の施設内にある一室です。部屋というよりかは名前の通り僕や他の…ああ、今は夜だからみんな寝ているのけれどね、魔眼を抜き取られて人体実験用に生かされているけど…ゴミ捨て場として利用される事の方が多いかな。今君の下に居る子も2週間ほど前に投げ込まれた子だよ」
「わっ、じゃあどきます。おわっ」
両手にある柔らかな2つの塊は胸だった。硬いと触っていたのは多分顔だ。つまり女性。どういう状態でこうなったのかはわからないが急いで退こうとすると上手く立てなくて転がってしまう。とっさに丸まったが何も見えないのだ。転ぶだけでも怖い。
「落ち着いて、彼女は君が昨日捨てられてから看病してくれていた子ですよ。丁度君くらいの子を彼らに殺されたらしくて…」
つまり殺された子供の代わりに抱き枕にされていたわけか…母親と一緒に寝る行為。そんな事は今まで一度も無かった。赤ん坊の時でさえ糞曰く隔離されていたそうだ。甘えられていたのはいつまでだっただろうか。そもそも甘えさせてくれていたのだろうか?結局私が売られる日までろくに顔も見せてくれなかったな。
「兎に角今は夜だからね。僕も今しがた寝ようとしていたところなんだ。悪いけどもう少し静かにするか寝ていてくれるかい?」
「あっ、ごめんなさい」
「何を謝るんだい?別に怒っているわけじゃないさ」
エグサの優しい声に諭されるままなんとか手を取り自分を抱き枕代わりにしていた女性の元へ案内される。途中で何人か踏んでしまったが…見えないのだ、どうしようもない。
「明日になったらみんなと話すといいよ。ここからは出らないけど…みんな家族。君のお話をたくさん聞かせて、ここではそれだけだ楽しみだからね。さあ、おやすみ。カルミア」
「あ、お、おやすみなさい」
これから先はずっと真っ暗で奴隷時代より悪いかもしれないが…再び自分を抱き枕にしていた女性に抱き付かれると不安がなんとなく消えていく。アベンの隣でもない、真っ暗なのに…とっても安心して眠れた。
エグサ曰く、ここには11名の人間が収容されているそうだ。食事は一日二回、おかゆを更にふやかしたようなべちゃべちゃした食感に少し血生臭さが口に残るもの。水は壁にあるチューブから直で飲むそうだ。生かしてもらっている。それしか言葉が出てこなかった。
そしてここに住む人達は私同様に眼を抜き取られた者達だ。とは言っても見えもしないし警戒されているのかこっちに話しかけもして来ないので年齢も性別もわからない。そして自分を膝の上に乗せ延々と頭を撫でてくるこの女性…ツゥバルキーという名前の女性もそうだ。何か話しかけてくればいいものを何も言わずにただ頭を撫でてくるだけなのだ。こっちからも話しかけづらい。
「皆んな恥ずかしがり屋なんだよ。ごめんね。さっ、僕らの楽しみの開始だ。君のお話を聞かせてよカルミア」
「あ、えーと…は、はじめましてカルミアって言います…その…」
君の話を聞かせてと言われても私も外に出た半年ほどの記憶とアベンとの思い出と彼の虐殺行為くらいしか話すことがない…
「あの、そのー…私元々奴隷だったのですが…」
結局何も進まないので話す事にはした。どう思われるか、何を言われるかは知らないが、彼らがどんな表情で私を見ているのかそれはわからない。けど、何だろうか…よくわからない気持ちが私の心を満たしていた。
「君の言うそのアベンという男は悪魔にでも乗り移られているのか?」
話が半分くらい、ちょうどエマとの出会いを話していた時そんな事を言われた。聞き覚えのない声。どう反応したら良いやら。
「まあまあ、いいじゃないですか。我々にはちょっと刺激が強いですがね」
「刺激の問題じゃあないだろう。まあ、でもここに入ったのはある意味幸運だったのかもな。そんな男の側にいるのは危険すぎる」
危険は確かにあるけど楽しい…なんて事は言えなさそうだな…
「世間から見たらそうかもしれませんが少なくとも私から見たらその…と、とても魅力的でっ!」
その言葉に見えないけど明らかにどよめいた。本当に11人この部屋にいるんだなって。そりゃあ確かに普段から雑に扱われてるしエマが来てから相手されることも少なくなったが…自分の短い人生の中で暗い檻から出してくれた人なのだ。それだけで十分にあの人に尽くしたくはなる。
「ねえねえ、どんなふうに告白したの?」
それは小さな子供の声だった。声変わり前のせいか男なのか女なのかもわからない。
「え、えーと…」
告白…と言うよりは自分が一方的に言い、若気の至りで済まされた。あれ、無いはずの眼から涙が出てくる…
「なんか、ごめん…」
「べ、別に大丈夫です!ぐすん…」
フラれてたっていいもう一度会いたいな。何か話したいわけじゃ無いけど…また怒られるかもしれないけど…
「あっ、話の続き始めますね!」
もしかしたら本当に死ぬまでここにいる羽目になるのかもしれない。ならもうちょっと強引に責めておけばよかった。それに…もっと思い出や記憶も…それからも話は続けたがずっと、なぜか涙は止まらなかった。まるでぽっかり空いた心と眼孔を満たせるように。
「移植は完了しました。こ気分はどうですか?」
豪華なベットに横たわる男性に声をかけるのはカルミアから眼球を抜き取った男…プリズムと呼ばれる世界の眼の技術顧問だった。そして彼は主人に対し質問を続ける。
「痛みはありますか?目眩や幻覚症状、および吐き気等は?視神経は繋げたはずですが、視力はどうですか?慣れるまで時間がかかると思いますが、魔力はどうですか?こちらではまだ測定は出来ていませんが高まりを感じますか?或いは今まで見えていなかった世界…例えば第八門魔法やそれに準ずる何か、他にも古文書に記されてる古代の禁術、解読等は?」
「少しうるさいぞ…術後何分だと思っている…」
「まだ、五分と少しですね。魔眼の移植は神経と同時に体内の魔力も同調させないといけませんから麻酔無しでの手術はさぞ辛かったでしょう。ああ、包帯は取らないでくださいね。一応念のためです。後で回復魔法を使える職員を連れてくるのでしばしお待ちを」
「…いや、いい。魔法に頼るのはこの世界を我が手中に収める時のみと決めている。プリズム、ポーションだけで十分だ。どうせ奴らが…騎士団が来るまでに時間はある」
「畏まりました、バロム様。ああ、そういえば報告しますが竜魔眼を抜き取った少女はダストボックスへ入れておきましたが問題ありませんか?利用価値は多少あるので処置はしときましたが」
するとバロムは包帯で目元こそ見えないが少し声を驚かせて「アベンはどうした?」と一言聞いてきた。
そうは言われたもののアベンとは一体誰のことだ?
「…ああ、病魔を招く者と言った方が良いか。カルミアは元々奴の物だったのだろう?抵抗されなかったのか?」
「そもそも助けにすら来なかったらしいですよ。エッダがそう報告してきました。ああ、あと機械仕掛けの偽神は壊れかけているらしいので…どうなされますか?」
「設計図はヘムリスが手に入れたのだろう?ならば何も問題なかろう。早急に増産を進めよ」
「それが…アレの機構部分。内部装置はなんとか外付けで問題無く起動するのですが…義手を構成してる軟鉄が不明なのです」
「ほう?どういうことだ」
「はい。言ってしまえば未知の金属。我らが誇る生命増産装置で現在稼働している機械仕掛けの偽神のクローンを作成し同様の装置と鉄の義手を付けました…が、起動は上手くしたのですが…どうにも義手は本物同様の流体の様な動きが出来ません。ぎこちなく、それでいて形態変更が非常に遅い。はっきり言って兵器としては最悪です。
毛髪1本で完璧に同じ生命を短命で作り出せるのですが…まあ、短命な部分はどうにか出来そうなのですがね。とにかく病魔を招く者のクローンをどれだけ作り出しても病魔を招く者にならず唯の魔眼を持たない人間になる様に機械仕掛けの偽神もまた精々攻撃から我らを守る肉壁程度にしかなりません。ああ、ご安心ください。魔竜眼の複製は行なっておりません。貴方が持つ、その両の眼こそこの世でただ1つの至上の魔眼です」
「ふむ…オーロラの始祖の能力か…問題ない。ならば1度全ての研究を止め早急に戦闘の準備をしておけ。恐らく世界を手中に収める前に…騎士団が訪れる前に…客は来る。少人数だからとくれぐれも侮るな。そして必ず生かして捕まえよ。そうすればプリズムの難題も解決できよう」
「は…?はっ!御身の仰せのままに!」
それは未来視とも呼べる力。魔眼の王バロールの血を引くバロムが生まれ持って宿していた力。その力で未来を見た、そして魔眼を持つ者がこの世界を支配すると。
馬鹿げた話でもなんでもない。現に何度もその力で世界の眼は偉業を成し遂げてきた。魔竜眼の出現、病魔を招く者の正体。これから先生まれてくるだろう魔眼を持つ者たち。選ばれた神に等しき力だ。そして今や魔竜眼を移植し一度だけとは言ったが、この世でかつての誰も成し遂げたことの無い第八門魔法。そしてそれに到達した賢者シリウスをも超える魔導士にもなった。
「頼んだぞ」
「はい、必ずやご期待に応えられるように精進します」
楽しみだとウキウキ気分でバロムの部屋から出ると同時に言い忘れていたことを思い出す。
「あっ、いっけねえ。失敗したクローン共は磨り潰してダストボックスに餌として放り込んでるって報告してないや…
まあ、いいか。そこら辺は一任されてるしな」
鼻歌を歌いながら施設内の長い廊下を抜け自分の研究室へと向かう。次はどんな実験をしようかと心を弾ませながら。
「君ってさ…ひょっとしなくてもだけど…こう、精神を患っているというかイかれてるようなのが好きなのかい?」
話が終わった後、開口一番にエグサにそんな事を言われた。
ツゥバルキーは相変わらず何も言ってこなかったがぎゅっと先程よりも強く抱き締められ若干首を絞められた。他の人もそうだ。エクザ以外口を開こうとしない。見えてはいないが。
「い、いやー…アベンさん別にお仕事もしてますしそこまで駄目ってわけでは…」
「いやいや、やばいって。そんな目の前で人殺されてるのに…」
「まぁ…正直な話言いますと私以外はどうでもいいって考え方でずっと生きてきたので…なんか目の前で人が死んでもなぁ…という感じですね」
そりゃ親に売られた頃は目の前で殴り殺されたり首を絞められて泡を吹いて死ぬ仲間たちを見て何度も吐いたり気絶もした。だが、結局のところそんなことしても無駄なのだ。何1つ変わることはない。どうせ弄ばれて殺されるくらいならばと何度舌を噛み切ったことか。何度食事で渡されたフォークを首に刺したことか。
「だって、私は醜く生き延びて必ずあの場所に帰り私を捨てた連中を私の手で殺すって決めましたから。勿論アベンさんが手伝ってくれるっていうならそれもありですけどね」
「君は…」
「あ、ところで皆さんは両目とも抜かれてるのに何で平気なんですか?私、支えがないと動けなくて…」
「…僕らは君と違って片目しか抜かれてないからね。本来魔眼は片方の眼にしか宿らない。勿論例外はあるけど」
「ああ、たしかに大老さんに両眼とも加護で治してもらいました。だからですかね?私のは両方ともくり抜かれたの」
「うーん…かもしれないね。俄かには信じがたいよ。竜がそんなに沢山いて人の生活にも紛れ込んでいるなんて。
そのアベンって言う奴も実は竜なんじゃないのかい?」
竜の話はあまり詳しくは言ってない。知ってるのは大老さん、ホワイトさん、ミストさん、クロウさん、ヴェノさん、あの時に森にいた竜たち。十分知ってはいるつもりだったが大老さん曰く越夏を行う為に涼しい場所で夏眠しているものもいると言っていた。越夏って何なのだろうかと疑問に思ったが聞きはしなかったが。
兎も角、現状話せることは本当に全部話した。
「じゃあ、お姉ちゃんは竜触ったことある?」
「ありますよ。普通に鱗だったり毛が生えてたり後はぬめぬめしてる方もいましたね」
「へえー。じゃあ今度見せてよ」
「うーん…私に言われても困りますね…アベンさんならどうにか出来るかもしれませんが…」
「えー!じゃあやっぱり嘘じゃん!嘘つきー!」
「あ、これ無限問答ですね」
話が纏まりそうにないので強引に終わらせる。
こんなものでいいのだろうか?と言うかこれで暇つぶしになるのか?これから何十年と監禁されるかもしれないのに。
まあ、どちらにせよ彼の人助けに来ないだろうし、この世に未練もないので舌を噛み切るのもありか。
そんなことを考えているが先ほどよりずっと頭を撫でてきているのが気になる。
「…あのー?ツゥバルキーさん?」
「?」
「そろそろ撫でるのをやめていただきたいのですが…恥ずかしいです」
「……。」
「もしもーし?」
「嫌だって顔してるよ。ああ、ツゥバルキーはね、ショックで今言葉は話せないのさ。ごめんね」
「あ、いえ…」
なんかもう1人くらい子供らしき声は聞こえてきてたがどうなのだろうか?まあ、いいか。悪い気はしないし。
非常に奇妙な子が捨てられたなと内心エグサは思った。ここに入れられて十数年、未だに自分が生かされているのは謎だがここにいる者たち以外にも何人も連れてこられ、何人も死んだ。老人、大人、子供、赤子。男、女、その他。人間、魔族、獣人。魔法は何かしらの結界が張られているのかここでは使えない。だから傷を負っていたとしても回復魔法も使えない。衰弱するのをただ見ていることしかできない。
眼球の傷口が膿み脳に達した者、出された食事が何から作られているか知って発狂した者、或いは連中に改造をされ生きる肉塊にされた者…ここはゴミ捨て場だ。
だが、今回捨てられた少女…カルミアは何か違う。大抵眼球を抜かれた後は何かしらの人体実験をされる。自分は2度、1度目は魔物の肉体の一部の移植、2度目はさらに違う魔物の腕を移植。神経も繋がり使えているが今だに夜中に目が覚め魔物の腕があるのは慣れない。
他の者もそうだ。運良く生き延びてここにいる。だが彼女は見た感じどこも改造されていない。不思議なものだ。それどころか抜かれた眼球の傷口に回復魔法をかけられ止血もされている。別に羨ましいだとかそういのではない。ただ、気になるのだ。小さな波はやがて大きくなる。
「……さ…?エグサさん!」
「ああ、ごめんね。少し考え事をしていたよ。それよりも…えーと…?」
「ツ、ツゥバルキーさんの腕が心なしか増えているのですが!?」
「あー…まあここでは日常茶飯事だから気にしないでね」
「え、ちょっと!ムグググ…」
考えすぎかな。彼らの被害者とは言えどこれだけ元気なのだ。ダストボックスの中で唯一、此処から出ても暮らしていけそうなのだ。歳をとったせいなのか、最近頻繁に仲間達が死んでいったせいなのか…素直に人の無事を喜べないとは…
「ムグゥゥゥ!!」
「ははは、こらこらツゥバルキー。カルミアが死んでしまうよ?気持ちはわかるが離してあげなさい」
「………。」
「うんうん。いい子だ。ほら、まだ他のみんなはあまりカルミアに触れてないからね」
「うわー!!ちょ、どこ触ってるんですか!ひぅッ…」
「我慢してカルミア。ツゥバルキーみたくね、話せない子もいるからそうやって優しく触れてね、僕、私に敵意は無いよって言ってるんだ」
「そうだぞ」
「なんか久しぶりに柔っこい肌触ったわ」
「話せる人は別に触らなくてもいいじゃないですかッ!!」
彼女の話していたアベンと言う男のことも気になるが…カルミアは此処に慣れてくれるだろうし。仲間が増えて嬉しいな。
「助けてアベンさぁぁぁぁん!!」
「ふふふ。楽しい仲間が増えたね」




