六十二匹目 目覚め
お久しぶりです。ちょっと今回色々とヤバめです
「どいつもこいつも、やれ家族だ娘だ、嫁を大事にしろだ…嫌になってくる。あと、どこからともなくやってくる手前らもな」
「愚痴だ愚痴ー、酒もってこいー」
「愚痴だ愚痴ー、肴もってこいー」
「「って、肴はあるじゃんー!あはははははは!」」
やる事はやったので足早にこの町を出ようとした時、またしても捕まった。
赤と青の髪がちょうど真ん中で分かれ顔の右半分を泣いてる仮面で隠している者と左半分を笑っている仮面で隠している奇抜なピエロ衣装に身を包むもの達だ。
「竜王様が超泣いてたー」
「竜王様が自殺しようとして海上都市に突っ込んだー」
けたけたと楽しげに笑う2人で1人の道化竜サーカスの人間態はどこから現れたのか国を出ようとした俺の前に現れると強引に腕を掴まれ倒壊した街へと連れ戻した。そして今だにバルバトスから出られない。
「アベンに嫌われたーって」
「アベンに家族じゃないって言われたーって」
「そうかよ。憐れな海上都市に線香でも添えてこい。
で?手前らなにしにきたんだ?」
「もちろん、馬鹿にしにきたんだよ」
「もちろん、揶揄いにきたんだよ」
真面目に話していても動き回り手を組んで踊ったり何処から取り出したのか玉乗りやジャグリングしたりと落ち着かない。だから道化竜サーカスな訳だが。お陰で周りに子供まで集まってくる始末だ。むしろコイツらからすればそれが目的なのだが。
「お姉ちゃん達すごーい!」
「そうだろ、そうだろ。人間には真似できないぞー」
「そうだろ、そうだろ。空も飛べるし、巨大化も出来るぞ」
「収集つかなくなってくる。さっさと要件を言え。連中に追いつかれたら面倒だ」
笑顔の仮面のサーカスが手元から杖を取り出すと瞬きの間に杖の先から鳩の様な何かを作り出す。それは決して鳩ではない鳩らしき何かだし、マジックでもなんでもなく生命体を作り出しているだけだ。そんな事を知る由もせずに子供達は歓声の声を上げる。
泣き顔のサーカスが手元にシルクハットを取り出すと鳩らしき物が中に入り、今度は10匹近くの鳩らしき物が出てくる。それも同様に中で増えただけなのだが…
一向に話が進む気配がない。
「……おい」
「あははは、怒ってる怒ってる」
「あははは、頭に血が上ってる上ってる」
「俺は感情がなーい」
「俺は感情を知ってるけど理解できなーい」
「「あははははは!!」」
「チッ…」
こうなったらどうしようもない。昔から話の途中でもサーカス達は人を…特に子供を笑わせている時には話を進ませられない。彼女達が満足するまで待っていないといけない。
「ねえねえねえ、君たちー?」
「ねえねえねえ、もっとイイ所に行かないー?」
「え?どこ?」
「私行きたーい!」
「とってもとっても、楽しくてねー?」
「とってもとっても、気持ちいいよー」
涙のサーカスのシルクハットを笑顔のサーカスの杖で叩くと物量を無視してシルクハットから巨大なサーカス小屋が現れる。
中から楽しげな音楽が流れ子供達は音色に誘われるかのようにふらふらと吸い込まれてサーカス小屋の中に入っていく。それでも何人かは怪しいと感じたのか入らずに帰ったが。
「ふふふ、楽しいねー」
「ふふふ、悲しいねー」
「さっさと終わりにしろ」
子供達を取り込んだサーカス小屋は現れた時と同様に涙のサーカスのシルクハットに吸い込まれ消える。
2人が舌舐めずりをしたのを確認すると改めてここにきた理由を聞いた。
「実は実は、お話が3つあるよー」
「実は実は、結構ヤバめなんだよー」
「さっさと話せ」
「1つめは、指輪のお話。前の機能にプラスして、今度は貴方も竜に呼びかけられるよー」
「1つめの続きは、貴方は転移出来ないけど今度は竜が魔力消費して貴方の所に来るよー」
そう言って笑顔のサーカスがポンと音を立ててどこからか花を取り出すと手渡してくる。なんだこれ?これが指輪になるのか?と疑問に思っていると突然花に牙と手足が生えて鼻に噛み付いてきた。
「花に鼻ー」
「鼻に花ー」
「「あはははははは!!」」
「死にてえならそう言えよ」
「ごめんごめん、本物はこっち」
「ごめんごめん、お肉美味しいね」
噛り付いていた花を取ると泣き顔のサーカスの手元に飛んでいき消える。理解しがたい。そして今度こそ指輪を渡される。まあ、コイツらがいなくなった後にでも質屋にいれれば金になるだろう。
しかしそんな考えとは逆に渡された指輪は生きてるかのように流動し指にまとわりつくと、まるでこの場所に最初から着けていましたと言わんばかりに指に装着された。無論外そうとしても外れない。どうせなら黒い腕の方に着けばよかったものを…
「外せるわけないじゃん、それは呪い」
「外せるわけないじゃん、それは執念」
「……で?他は?」
しょうがないので話を進める。まあ別にいいか。害が前より多少マシになったからな。
「次は憐れな少女のお話ー」
「次は囚われのお花のお話ー」
「カルミアか?助けに行く気はねえぞ」
「彼女の瞳は竜王の加護を受けた」
「彼女の瞳は今や抉り取ってでも欲しい人間が多い」
「「彼女の瞳は今やノルドの眼じゃない。竜王の眼だー」」
「…?」
首を傾げる。どういう事だ?竜王の眼?なんじゃそりゃ。たしかに彼奴、頭部と眼球を傷付けられた所為で視力が著しく下がっていたのを大老に治してもらっていたが…はて?それが悪い方向に向かったのか?
「竜王の瞳は万物を見通す」
「竜王の瞳は魔を極める」
「そんな便利なもの持ってたのか」
「でもでも、カルミアには宝の持ち腐れ」
「でもでも、カルミアには猫に小判」
「「でもでもでも?普通に魔法が使える人からするとー?それは喉からもう1つ肉体が出てきちゃうくらい欲しい」」
「…手前らみたいに?」
「そう!私みたいに!」
「そう!僕みたいに!」
コイツらと話すのは疲れる。合わせてやらないと点で話が進まない。
「そして誰よりも欲しい人はー?」
「そして誰よりも求める人はー?」
「なるほど。それでカルミアが誘拐されたのか」
「「世界の眼の掲げる心理はたった1つ、魔眼保持者による世界の管理。そう!要するに世界征服だよ!あははははは!」」
「でもー?魔眼だけじゃあ無理」
「でもー?強くても国や覚醒者は無理」
「「じゃあ、どうする?だったら竜王の加護を得た魔眼。魔竜眼を移植すればいい。魔法の到達点、第八門魔法へ至ればいい」」
けたけたと腹を抱えて2人が笑い転げる。昔、連中の代表を名乗る奴に嬉々としてそんなこと話されたなと今更ながら思い出した。せっかく視力が治ったのに今度は眼球抉り取られるとかアイツ眼に呪いでも受けているのか?
「…魔眼で世界統治するとか抜かし説いて結局魔法に頼るってことか?」
「面白いよねー」
「アホだよねー」
「そうだな」
「それで3つ目は簡単、カルミアを助けてあげてー!」
「三つ目の続きは、貴方の大切な可愛いお花を救ってあげてー!」
コイツらもか…大方、大老に入知恵されたのだろう。そも、コイツらが知り合いとは言え人間の為に…餌の為に動くこと自体ないのだから。
「 あのなぁ…」
「あの、すみません」
面倒だなとサーカスに言い返そうとした時先ほど帰って行った子供達がぞろぞろと大人たちを連れてやってきた。そしてその中の1人が話に割り込んできた。
「お話中に申し訳ありませんが…その、消えるサーカス小屋はそちらのお嬢さん方と貴方が出した物で間違い無いですか?私たちの子供や彼らの兄弟も中に入って消えてから戻ってきてなくて…」
「…話は後だ。泊まってた宿の場所はわかんだろ?大好きなヴェノムがいるからさっさと終わらせてこい。ああ、なるべく証拠は残すなよ。この国は今王が死んで色々と面倒だからな」
「はーい、やったね!」
「はーい、やったー!」
「あ、あの!」
そこで何かに気付いたのか俺の腕をつかもうとしていた1人が手を下げる。ひそひそと「闘技大会の…」「娘殺し…」と聞こえてくる。相手にするだけ無駄だ。どうせ2度と会うことは無い。
「テレレレー!レディースアンドジェントルメン!ようこそ!」
「テレレレー!今から始まるは摩訶不思議でとっても楽しい殺戮ターイム!」
「「ッ!?」」
「あっ、そうだった。貴方達の子供たちはとっても美味しかったよ!」
「あっ、そうだった。大丈夫!最後まで気持ち良く、楽しく、ドロドロに溶けたから!」
道化竜サーカスはそう言うと仮面をつけてない顔を愉悦と狂気に歪ませ集まっていた人間に襲いかかる。
何の反応も出来ずにサーカスの言葉を必死に理解し、或いは否定していたところを襲われた。2人ほどの胴体と首が離れ頭部から沢山の花が咲き乱れ胴体が1人でに踊り始める。流石に異変に気付いたのか悲鳴や叫び声を上げる。
「楽しいね!サーカス!」
「悲しいね!サーカス!」
霧の森の問題児の1人、道化竜サーカス。曰く人間が一番美味しく食べられるのは楽しい時と絶望した時だそうだ。生憎カニバリズムには興味ないが。
悲鳴と断末魔、血飛沫と赤い固形物が飛び交うのは流石に見てて気分が悪いので宿に戻ろうとすると足に血まみれの男が縋り付いてくる。
目立った傷はなく全部返り血だ。死んだふりしてここまできたのか?
「お、お願いアベンさん!貴方闘技大会に出てたアベンさんですよね!助けて!わ、私は関係ない!子供達の事はどうでもいい!だから私は!私だけの命は!」
「さっさと戻りてえんだが…
しかし酷え親だな。普通はガキは助けてくれ、私の命はどうなってもいい、だろ?まあいいか。
あー…じゃあ1つだけ、正直に答えろ。手前は昨日の試合で…あれ?もう一昨日か?…まあいいか。で?俺を嗤ったか?」
「へ…?あ、わ、嗤いました!ごめんなさい!ごめんなさい!私にできる事はなんでもします!だからどうか、どうか命だけは!」
「あのさぁ、話しにくいから顔上げてくんない?あと1ついいか。それ」
「へ?」
足に縋り付いてきた男は鼻水とヨダレで汚なくなった顔を恐る恐る上げると見計らっていたかのようにタイミング良くボトンと横に落ちてきた人の生首と目を合わせ胃の内容物を吐き出す。
「ゲェッ!オェェ…」
「うわ、ちょっとズボンにかかった…最悪。
まー…あれだ。言っただろ?不幸になるって。冗談だと思った?」
「あっ…あ、あ……そん、な……」
「あとは貴方1人だけー」
「あとは不味いお肉だけー」
「な、何言って…や、やだ!来ないで、お願いだから!やだやだやだやだ!やめろぉぉぉ!!!」
最後に今日一番の猟奇的な笑みを浮かべながら男の腹に噛み付くと腑を貪り始める。気付けばあたりは静けさに包まれ男も最初こそ苦悶の叫びを上げていたが虫の息か死にかけなのだろうブツブツと走馬灯らしきものを見ているのか人名らしき単語を何度も繰り返し呟いていた。
朝飯は食ってないが流石に人間らしい感性が戻ってきた為にか多少は食欲が失せる。
「ふぅー、お腹いっぱい。内臓は美味しいね」
「ふぅー、ごちそうさま。内臓はクセがあるね」
「「ゲフッ。おっと失礼」」
顔中を返り血で真っ赤に染めたサーカスはゲップすると再び逃すまいと俺の手を掴んでくる。
「じゃっ、宿まで行こうか」
「じゃっ、ヴェノムのとこまで行こっか」
「せめて顔拭いていけよ…汚ねえなあ」
結局途中で逃げ出す算段だったのだが捕まり再び宿に戻らされる羽目になった。
くだらない事だとクロウは話し始めたピエトロ達を眺める。結局のところ、契約者であるアベンはアベンなのだから気にすることでもないだろうと。だが、人間が割り切れない生き物なのは知っている。過去のしがらみに囚われて生きる生物なのだ。くだらんなぁ。ヴェノムも飽きたのか丸まって眠り始めた。食うか殺すか寝るか。相変わらず自由奔放な奴だ。
「まずはですが…そうですねぇ…固有技能と魔法の違いってわかりますか?ええ、時間無いので質問はしませんけど要するに魔力を使用するか否かです。魔力を使えば魔法、使わなければ固有技能です。番外魔法なんかは元々は固有技能でしたけど派生して今の魔法系体に加わりましたね」
「それがどう、お父さんと関係してるの?」
「まあまあ、落ち着いてください。大きく分ければその2つに分類されるんですがね…例えば弱すぎたりだとか自分でコントロールできなければそれは固有技能や魔法を使えないのと一緒。要するに仮に魔法適性があっても、固有技能を保持していたとしても持ってない扱いされるんですよ」
「ねえ、だから!お父さんとどう関係してるのって!」
「せっかちですねぇ…言ってしまえばアベン君は自分でコントロール出来ないタイプの固有技能を持っていたんですよ。それが彼の今の性格に繋がってきます」
「くぁぁあ…おっと、すまない。続けてくれ」
欠伸をしてしまうと睨まれた。しかし本当に奇妙な連中だ。自分を見捨てた者、或いは敵、もう1人は…知らないが過去を知ろうとする。はっきりとアベンへの侮蔑や嫌悪感を抱いているのに気になるとは…本当に見ていてつまらない生き物だな、人間と言うのは。
「ママレードさん…いえ、ティナさん。貴方の姉君であるシーナさんは言うなればアベン君の持っていた能力の上位互換だったんですよ」
「えっ?」
「おや、流石に私も一国の王位継承者の顔くらいわかりますよ。それとも他のことで?
まあ、言い方は悪いですが貴方の国は国民が少ないからこそ王族と一国民の繋がりが強く貴方が外で遊んでいても国に支障をきたすことはありませんがね…流石にそろそろ戻られた方がいいですよ?」
「うっ…」
「ねえ!お父さんのお話!」
「失礼しました。貴方の…お婆ちゃんに当たる方ですね。シーナさん。彼女の固有技能は生体造変。肉体のある一定部位を他の物体に作り変える能力です。
そしてアベン君のは持っていた固有技能は…名前はありませんが、そうですね生造置換とでも言っておきましょうか」
ピエトロの言葉に何となく過去のアベンを振り返ってみると…そういえば妙に傷の治りが早かったり。何かで珍しく感情的になったアベンが一度ミストと大喧嘩した時に腕一本喰われて無くなったな。次の日には生えてきていたが。ホワイトもその事に関しては魔法は使っていないと言っていたし。しかし今になってそんな都合よく思い出すものか?普通。
「言ってしまえば無意識下に傷ついた肉体部位を造り出し、置換するのですよ。クロウさん。あなた先程何か思い出したのでは?」
「我を話しに巻き込むな。くだらん」
「…とにかく、アベン君自身もこの事は知りません。生まれた環境もそうですけどね。なによりもそう言う事は実際に解剖でもしてみないとわからない物なのですよ」
「解…剖…?」
「…ああ、エマさんにはわかりにくいですかね?言ってしまえばお腹を裂いて内臓とか見るんですよ。どうなってるかって。私も昔は研究員だったのでね…まあ、とは言っても助手だったので横で中身をスケッチしたり器具を渡したり後は…身寄りのない子供なんかを適当にそこらへんから拉致してきたりしましたね。アベン君もその時に初めて会いましたよ」
その言葉に一瞬本当にこの男を殺そうと思った。なるほど。自分がアベンを誘拐したと自白した。大老がいれば恐らく言うか確実に飛びかかっていただろう。だが、そうする前に先に動いた者のせいで殺すタイミングを失った。
「おま、おまままえが、にににいさんを、ををををおをお」
「ヴェノム落ち着け。最後まで話させてやれ、どちらにせよ其奴は自分より周りを重きに置く人間だ。やり方が違う」
どろりと体にまとわりつく魔力を放出させこの部屋にいる者を誰も逃さないような、そんな感覚がする。そしてヴェノムはふらりと立ち上がり今まさにピエトロを殺そうとしていた。
「クククロウ、こいつ、こいつがににいさん、にいさささん。殺さないと、殺さないと殺さないとぉぉ!!」
「だから落ち着けと言っている。その者の身辺調査は既にマザーが済ませた。
それに貴様も30近い男の肉より10代の若い女の肉の方が好きだろう?」
「…まさか!?」
「我らが同胞を嘗て貴様は誘拐したのだったな?…ならば貴様のあの蠢く薄気味悪い妹が餌になるのは構わんだろう?寧ろ感謝しろ。人間の餌よりも最近は植物用の栄養剤の方が高いからな。良かったではないか、餌代が浮いて。それに最後は人間らしく強者に抗う事なく喰われるのだからな」
「…随分と卑怯な手を使うものですね」
「卑怯?笑わせるな、貴様が今国中で英雄視されてるそうだがな…別に我らは貴様や貴様の周りの事情を含めてわざわざ貴様の国の王に話させてやってもいいのだぞ?」
「……」
「ヴェノム、コイツは抑えておくから後でゆっくりとコイツの妹の足先から捕食してやれ。ああ、毒で感覚と脳を狂わせてな」
「りょりょりょ、いひ、いひひひ。若い女のないずぅお…いひひひ」
「ヴェノム涎垂れてるぞ」
「……」
なるほどアベンの言っていた通りだ。この男は自分よりも他人を心配する稀有な種類の人間だ。大抵は恐怖に怯えて保身に走るがコイツの様な奴は自分自身でなく近しい仲の人間を人質に取った方が動かしやすい。
「何を黙っている?さっさと続きを話せ」
「…本当に邪竜ですね。貴方は」
「人間程度の物差しで測り、都合が悪くなれば敵と見做すその愚鈍さはいつまで経っても変わらんな」
「……」
「……」
一触即発と言うかヴェノムは縮こまってしまったが、人間らしくない凄まじい殺気を放ちピエトロが睨んでくる。先程よりは楽しめそうだ。
「ストーップ!ストップ!ここ病院よ!ピエトロ様もそっちの竜も正気!?」
「…ママレードさんはメイドさん方とエマさんを連れて離れた方がいいですよ。悪いのですが…これに関しては私もそれ相応の覚悟を持って対峙しなくてはなりません」
「ピエトロ様、ここ私の病室なのだけど?」
「相応の覚悟か…本当に人間はくだらんな。どれだけ足掻こうが、どれだけ努力しようが全て無駄だ。大人しく死ね。終焉の刻を待たずに死に急ぐと言うならば我が引導を渡してやろう」
「ねえ、本当にやめてって。エマちゃんも何か…エマちゃん?」
「…何か来る」
「へ?」
その言葉とほぼ同時に壁が破壊されクロウやヴェノムにとっては見覚えのある2人組みと1人が部屋へ乱入してくる。
「あははははは!ヴェノムみーつけた!」
「あははははは!ヴェノムもつーかまえた!」
竜同士は魔力で互いの場所を把握できるのだがコイツは随分と隠れるのがうまくなった。そして全くもってここに来るとは考えもしていなかった。王が傷心してるせいか少し森の規律が乱れたか?
魔力とは別に何かで察したのだろうか、ヴェノムは縮こまってたのではなく身構えていた。そして涙目のサーカスに既に首根っこを掴まれ、されるがままにされていた。それは同様に連れてこられたアベンもそうだ。
「こんにちは!私はサーカス!」
「こんにちは!私はサーカス!」
「「ヴェノムと美味しいご飯の匂いに釣られて来たよ!!」」
本当に心の底から嫌だ。会話するのも面倒だし1から話すのも面倒だ。気絶したフリでもしておこう。
「見てみてサーカス!5匹もいるよ!」
「見てみてサーカス!エルダー個体の魔物だ!」
「な、何!?」
「新手の…竜ですか?」
その闖入者に流石のピエトロも面食らったのだろう。剣を構えることなくただ2人を見ていた。
「ねえねえ!どの子がいいかな!」
「ねえねえ!エルダー個体は2匹いるし1匹ずつにしようよ!」
「待て!サーカス!」
クロウの抑止を無視して襲いかかる。離してくれ首が座ってない赤ん坊のようになる。
苦痛に呻く声の主はたしか…レイスのエルダー個体のレイだったか?生霊のエルダー個体は随分と人間らしいな。人間から魔物になってまた人間になるのも興味深い。
「「レイ!!」」
「あっ、ぐっ…お嬢様…オー…」
「このッ!レイを離して!」
「オーっ!
アベン!貴方なんとかしなさいよ!気絶したフリなんかして!」
「……はぁー、いいですかママレードさーん。つるつるの脳みそでよく理解しながら聞いてくれ。全員が全員俺の話聞くような奴だと思うのか?」
ぐわんぐわんと揺らされ違った意味で意識を失いそうになりながら鼻腔に再び血の臭いがこびりつく。
まあここにくる前にも病院にいた殆どの人間を貪り食ってきたのだ。ここの連中はさしずめデザート感覚なのだろう。
「チッ…貴様ら後で王に折檻してもらうからな。鈍重ナル縛影!」
レイの左右の腕が喰い千切られる前にクロウの影はサーカスをレイから引き剥がし影で縛り上げる。それでもサーカス達はカチカチと歯を鳴らし食い足りないとでもいうのか先程まで捕食しようとしていた獲物をヴェノムを手放してまで噛み付こうとしている。
「お父さん、やめて!お願いだから!」
「おい死体人形。さっきの話聞いてなかったのか?
コイツらは俺の話を聞かないし俺は手前の父親じゃない。理解出来ないのか?」
「うっ…でも、お父さんはお父さんで!」
俺の言葉に対してなのだろうか。ピエトロやママレード、クロウも何か叫ぼうとした時、笑顔のサーカスの口からどろっとした液体が溢れ出てきて俺とエマ、囚われたままのサーカスがその謎の液体に沈んでしまう。
息はできる。四肢の感覚もあるし何よりも目の前で死体の様に四肢を投げ打ったサーカスが楽しげに笑っている。多分何かしらの能力なのだろう。
そして巻き込まれたエマの方を向くと嬉々としてサーカスは話し始めた。
「ねーねー、サーカス。見て見て、記憶も感情も肉体も弄られた人形さんがいるよー。憐れで傲慢な殺人鬼の道具として作られただけの消耗品だー」
「ねーねー、サーカス。見て見て、血の繋がりもないし、アベンに利用されてるだけなのに自分を殺して居場所を求めて必死になってる人形がいるよ」
「ち、違う!私は!」
「だってー、親ってどんな状態になっても子供を愛するんだよー?」
「だってー、僕は大老に愛されてるし悪いことしたらちゃんと怒ってもらえるんだよ?」
「「今日みたいにねー!
ねえ、君は?何かアベンと家族ごっこらしいことしたの?」」
そう言えばコイツらは森の兄弟の中でも何故か多分雌だから妹なのだろうかどちらかと言えば皆んなの子供がいいと前に言っていたな。愛を求めてるーって口を揃えて言っていたが娘と言うものに嫉妬でもしてたのか?
「何してもらったの?頭撫でてもらった?笑いかけてもらった?楽しい思い出を共有した?」
「何してもらったの?間違いを正してくれた?一緒に泣いてくれた?辛い時に優しく背中を押してもらえた?」
「「偽りの記憶を植え付けられたその脳みそとくだらない感情しか無い作り物の心でアベンと通じ合えた?」」
「ねえねえ、教えてよ。たった数週間だけの付き合いでも本当の親子なら1日1日が楽しくて輝いていたでしょー?」
「ねえねえ、教えてよ。10年もの間離れ離れになった家族の再開はきっととても綺麗でまるで悲劇みたいだったんでしょ?」
「「貴方みたいな醜悪な肉人形でも!あはははははは!!」」
道化竜サーカスの本質は他人を笑わせる道化師では無い。ピエトロのように見た目だけの道化師でも無い。己自身を楽しませる道化師だ。だから分裂しお互いがお互いを笑わせ合う。人の心を引き裂き、壊し、ぐちゃぐちゃにし、そして最終的に喰らう。悪食であるヴェノム以上に悪食で森の問題児に含まれる竜の中でも特にイかれ、ホワイト以上に人間を嫌っている竜だ。
「そんなこと…私に…ヒック…うぇぇぇぇ…グスッ」
ズキズキと再び胸の痛みが始まる。今の内に直しておくか。まったく、1号がいないと不便だな。この体は。
「あーらら、泣いちゃったよサーカスー」
「あーらら、じゃあ愉しませないとねサーカスー」
外からこちらの声が聞こえているのかはわからない。少なくとも中からは外の音が聞こえないが。だが、わざとらしく耳に手を当てふんふんと何か聞いてるように楽しそうに一頻り笑うと再び泣き崩れたエマの前にサーカスが座り込む。
「ねえねえ、きっと貴方って世界で一番不幸だよ」
「ねえねえ、きっと貴方って世界で一番不憫だよ」
「「だってさ、誰も貴方を心配してない。外の人間も竜もアベンの心配だけ。貴方は誰にも愛されてない。貴方の愛は500年前にとっくに砂になっちゃったもの。
それに貴方はアベンの真似して平気で人を傷付ける。いくら見た目が良くたって、いくら出生が特別だって。貴方は今も昔も変わらない醜悪な人間なんだから!ふふ、あははは…きゃははははは!!」」
その言葉がキッカケになったのかもしれない。或いは精神的限界はとうに超えていて偶々今ダメになったのかもしれない。泣きながら笑う。それは昔村ぐるみで襲ってきた連中の目の前で1人ずつ大切な人間を殺していった時に見たものだった。
狂気、特に精神的面が壊れた場合にこうなる事が多い。と思う。多分。
「もう、もう嫌だ!全部!お父さんも、お母さんも、ピエトロさんも、ママレードさんも、みんな死んじゃえ!嫌だ…嫌だ!いやだあぁぁぁっ!!あは、あははは!!!あははははははッッ!!」
「愉しいよぉ!ねえサーカス!!私もうびしょびしょだよ!イっちゃいそう!きっととっても気持ちよくなれるわ!」
「哀しいよぉ!ねえサーカス!きっと、とってもこの子美味しいよ!でも気持ちよくなるのは食後がいいよ!」
ガクンとエマが意識を手放す。白目を剥き泡を吹いて生きているのか死んでいるのかもわからない。
バルバトスに来て色々あった。いつも通りに任された仕事をこなし何回も見たことあるサーカスの捕食前の行動も……
痛い。何年振りかの痛みだ。どれだけ心臓を弄っても直らない。壊れたなら新しいのを作るか、或いは取ってくるか。
痛い。今、狂気に堕ちたエマの頭に笑顔のサーカスが齧り付こうとしている。痛い。痛い。痛い痛い。気付けばサーカスの腕を掴んでいた。
「あれれー?どうしたのアベン?ご飯中にソレは不味くなるからやめてほしいなー」
「あれれー?食べれないよアベン。どこか痛いの?だってだって、おかしいよ?」
「「何でそんなに泣いてるの?」」
笑顔の次は涙かよと頬を伝う涙はそんなに流したこともないが3年前にとっくに枯れたと思っていたが…血以外にも随分と温かな液体が流れてたもんだ。
「…知るかよ。イかれたんじゃねえのか?」
「私は知ってるよ。それは家族を2度と失いたく無いから」
「僕は知ってるよ。それは絶対に無くしたくない感情だから」
「「だからサーカスが大老に言われて来たんだもん。ショック療法プラスちょっと常識知らずで調子に乗った孫への罰。そして愚鈍で愚かでどうしようなく屑で下衆で最低最悪の糞以下で人を簡単に裏切るし、人の気持ちを知ろうともしないゴミの中のゴミな最愛の息子が間違いを起こさないようにって」」
どんだけ悪く言われんだ。自覚はしているが。
「そもそも、今の貴方は精神面では5歳児程度」
「そもそも、難しいことは理解できない。なら、体に覚えさせればいいって」
「ねえ、カルミアは大切?エマは大切?2人は貴方の家族?」
「ねえ、理解出来ないからって突き放しちゃ駄目だよ。そうやって全部捨ててくと」
「「ムサシやシーナみたく死んで、皆んないなくなっちゃうよ?」」
はあ、阿呆らしい。くだらないことこの上ない。
「ごめんね、私はサーカスだから。私が喜ぶことしかできない」
「ごめんね、僕はサーカスだから。私が悲しむことしかできない」
「はぁー…くだらねえ茶番劇に付き合わされたのかよ。これ直んのか?完全にぶっ壊れてんだろ」
これをショック療法と言えるのが竜という種族なのだろう。メンタルも最強なのか…
「ごめんね、本当は壊すつもりなかったの」
「ごめんね、楽しくなっちゃってつい」
「どう考えても人選…竜選間違ってんだろ…どうすんだコイツ」
頬を軽く叩いてみるが一向に起きる気配がない。
「どうしよっかー?食べちゃう?」
「どうしよっかー?腕は取らないと」
「今しがた家族云々説いた奴の前で娘喰うのか手前ら…」
とは言うものの本当にどうしようかと悩んでいると突然エマが目を覚ます。
「あ、起きたね」
「あ、生きてるね」
『機械仕掛けの偽神に自己進化型都市リリウムに接続を完了機械仕掛けの偽神の記憶領域内の解析 不要な記憶を検出 リリウムによる記憶の上書きを開始します』
「なになに?どういうこと?」
「なになに?どうなってるの?」
「あー…やべえ。一番面倒な事忘れてた」
口を開いたと思ったらそんなことを言い始めた。
…どうせ何処かから見ていたのだろう。やってしまったな。と言うか本気でやばい。
何言われるかわかったもんじゃねえな。




