表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/69

五十六匹目 流転する狂気

「クロウ報告しろ」


「うむ。先ずは蠱毒を司りし竜についてだが…」

フロストと手短に朝食を済ませると闘技場前で別れる。これだけ早く来れば鉢合わせることは無いだろう。

そして現在は暇なので近況報告をしてもらっている。心底面倒臭そうな顔をしていたのは気のせいにしよう。

それと腕と眼を心配してきたが特に話す必要も無いだろうし治すの時間がかかるとだけ言っておいた。

「何やら装置を埋め込まれたり首輪をされたり解剖されたりと拷問されている。あ、序でに血の覚醒者も解剖されてた」


「そっちは別にいい。で、あれか?例の封竜魔法のか?」


「恐らくはな…ああ、そうだ。白き魔竜から伝言だ。どうやら魔法陣の解読が済んだらしい。これでもう我らが操られる心配はない」


「そうか。ああ、スクロールだったか?あの羊皮紙一枚作ってもらえるか聞いといてくれ」


「くく、そう来ると思ってな…既に用意してある」

本当に便利な奴だ。

トレンチコート?なのか。果たして服という概念なのかはわからないがポケットから一枚の羊皮紙を取り出す。

「今更だが…これってよ、俺が魔力流さないと発動しない感じか?」


「いや、紐を解けば発動するらしい。安心せよ」


「助かる」

一応念の為に持っておいても問題はないだろう。

そろそろ人も集まり始めてきた。待機場所の外が騒がしくなってきた。

「で?他は?」


「…我らが王の機嫌がすこぶる悪い。いや、わりと冗談抜きでな。1500年前くらいに喧嘩売ってきた愚か者共が大陸ごと蒸発させられた時くらいにな」


「へぇ…うん?森に集まる前から知り合いだったのか?」


「我の創造主であり、かつてこの世界を掌握した魔眼の王バロール…たしか…えーと…あの人が生きてた頃にだな出会った…多分。もしバロールが死ねば次はこの人に仕えようと、その時に思ったのだ」


「手前の身の上話なんざどうでもいいんだよ。他の話しろ」


「くっ、これからが面白いところだというのに…まあいい。もう一つ、一応小耳に挟んでおいて欲しい情報がある」


「ん?なんだ?」

何やら深刻そうな顔をしている。大老の時よりもだ。そんなにヤバいことなのか?

「実は…この国に強者が集められている?人間の中でも名を馳せる者たちがな…ふっ。愚かなことだ。究極たる竜王と忠実なる僕であるこの我と狂騒の中に蠢く蠱毒竜がいるのにな」


「手前、深刻そうな顔してなんだそりゃ?」


「いやいや、ここから先が重要なのだ。実は連中の集まった理由なのだがな…」


『さあ、本日もバルバトス闘技大会が開始されますッ!今日の1回戦。注目の2人です!』


「あ、お父さんおはよー」


「ああ」

どうやらそろそろ時間のようだ。

「その情報、後でも大丈夫か?」


「多分大丈夫であろう。ああ、そうだ。契約者よ」


「うん?」

腕に絡んできたエマを引き剥がしてると影に潜り込みながら時限爆弾を落としていった。

「王からの伝言だ。いい加減にしろ。とな』


「今言うな」

最悪な言葉を残して消えやがった…

「昨日の夜、お婆ちゃん凄かったよ。めっちゃ怒ってた。めっちゃめっちゃ」


「気に入ったのか?」


「語感がいいよね!」


「ああ、そう」


『さあ、選手入場の時間です!!』


「エマ、本気で戦わなくていいからな?」


「え?」


「いや、だから本気で戦う必要はなくてだな…」


『さあ、先ずは!その可愛らしい見た目に惑わされるな!今大会、初出場でありながらも圧倒的な強さを見せつけています!エマ選手!!』

彼奴わざと無視して行きやがった。

『さあ、対戦相手はッ!昨日の戦いでは凄まじい回復能力と理不尽な武器にてフロスト選手を倒しました!アベン選手!』

嫌という感情がまだ自分の中に思ってだって出るほど残っていたのは驚くことだが、俺がフィールドに入った瞬間に静まり返るのはやめてほしい。拍手しろとは言わないが身内のみの声援が聞こえてくるのは言葉に表せにくいが気分が悪い。まあ今日はそれすらなく背筋が凍りつくほどの寒気がするのだが。

『さあ、両選手。位置についてください!』


「本気で行くね!」


「やめろ」


『第3回戦…始めッ!!』

取り敢えず様子見にと片手剣に擬態させる。今現在、右腕は動かせないし視界も半分しかない。負ける要素しかない。

エマの方はというと…もう何が何だかわからなくなってきた。

「形態機構〈小型武装翼〉(アームドビット)!」

彼女の背中から小さな鳥のような物が4つ出てきた。わけがわからない。左右に伸びる4枚の翼に鋭く尖った嘴らしきもので鳥と判別はしたが彼女の義手や背骨を守っている外骨格同様に金属でできているソレはエマの周りに浮かんでいる。

「新技だよ。頑張って考えたんだ」


「そうか。で?運用方法は?」

兎に角時間を稼ごう。流石にここで眼帯を外すのも崩れ始めた右腕を使うのも無理だ。他の方法を考えねば。

会話をして少しでも考える時間を…

「大丈夫だよ。お父さんが本気出せなくても、私本気出すから。お母さんの分のね」


「ああ、そう」

母親思いとでも言えばいいのか?

「小型機構〈魔奏脚〉!ここからが本番だよ!」

2つずつ彼女の足に鉄の鳥がくっ付くと形を変えて攻撃的なブーツへと姿を変え彼女が少し宙に浮かび上がった。

凛と音が鳴り、彼女の足が輝く。

そして昨日の試合の時以上に巧みに、足の裏から魔力を噴出させこちらへと突っ込んでくる。

「…いや、考えてみれば別に抵抗する必要ねえか。じゃあいいや」


「魔奏二段落とし!」

名の通り美しい魔の音色を奏でながら彼女の蹴りが腹部に刺さる。鳴鏑の様に音による身体強化か?或いは吟遊詩人的な強化か?どちらにせよ元より化け物じみていた力の倍以上で蹴られ前屈みどころの話ではなくせっかく治した内臓が簡単に破裂している。そして一回転して再び魔力を噴出し彼女のかかと落としが頭部に突き刺さる。

地面に顔面を減り込ませ鼻の骨が折れる音がした。

これで終わり…の筈なのだがどうにも意識は飛ばない。なら意識を失ったフリでも…

「お父さん。まだ序盤だよ?本気出すって言ったけどこれじゃあ1回戦の人や2回戦の人以下だよ?」


「…あのな、俺がこのまま負けてもどうせ今夜には目的が達成されるんだ。わかるか?疲れたくないんだよ」

だからそんなゴミを見る様な眼で見てくるな。あとせめて戦う時くらいスカート履くのやめろ。

「だって、お父さん。その手も目も動くくせして、動かないフリしてるし…昨日の巨人さんの時みたいに私とも戦ってよ」


「…娘を傷付けたくない」


「そういう嘘は嬉しいけどいらないよ。お父さんそんな優しい人じゃないもん」

しょうがないから立ち上がることにした。相変わらず観客も実況も五月蝿いがそれ以上にこいつが五月蝿い。

「私はお父さんに少しでも有能で絶対にそばに置いておきたいって思えてくる様な娘になるの。一緒にいれなかった10年間のせいで…まだギクシャクしてるけど…毎日頭撫でてもらいたいしおやすみのキスだってしてもらいたいの!」


「手前ミアみたいなこと言ってんな」


「そりゃあ、私はお父さんとお母さんの娘だもん。それにお父さんと結婚してるからってうつつ抜かしてると私がお父さん奪っちゃうもん。いつまでも喧嘩してるなら尚更!」

結婚してねえよと反論したいがそれを言ったら一層面倒臭そうなことになりそうだから黙っておく。

しかし、現在進行形で命を奪われそうになったのだが。奪うってそういう事なのか?

しかし記憶が戻ったら大変そうだな。父親でもない赤の他人に対して告白紛いのことしてくるなんざ。まあ、血の繋がりは無くとも昨日似た様なことしてきたし類は友を呼ぶというアレだろう。親が親なら子も子ということか。

「買い被りすぎなんだよ。腕も眼も治ってない」


「スライムちゃん達でも治せないものあるの?」


「色々とあんだよ。ほら、相手してやるからさっさと戻れ」

そう言ってやるとはにかみながら「ありがとう」とこちらからすれば何もありがたくない。

彼女の足から鉄の鳥たちが離れると服の中に潜り込んで行く。そして何事もなかったかの様に最初の位置へとてとてと走っていった。

「1、なるべく早く壊れた部分を治せ。あと、そうだな…5。なんでもいい硬くて軽いの頼む」


「「じぇり!」」

1が鼻を治し終わるとそのまま体内へと侵入していく。5はぐにゅぐにゅと姿を変えて、やがてなんの特徴もない鉄の棒へと姿を変える。たしかに硬度は手前の匙加減だがそれはどうかと流石に思う。

「じゃあ今度こそ行くよ!お父さん!!」


「ああ」

彼女の義手が身の丈の倍以上ある剣に変化する。そして背中の噴出翼から轟音を上げ吹き飛ばされる様にこちらへとくると同時に勢いのままに剣を振り下ろしてきた。

下からすくい上げる様に鉄の棒で殴る。彼女の剣とぶつかり激しい火花とともに硬いものがぶつかり合う感高い音がする。

彼女が満足する程度に少し頑張るとするか。




「全く…彼奴はいつもそうじゃ。人の気持ちも考えずに言葉を吐き出すだけ吐き出して逃げる。それは昔から変わらぬ」


「あ、あははは…」


「私の時もそうよ!平気で人を殺すくせして相手が何か言ってきたら神経逆撫でするように挑発して結局私達に任せるのよ!?」


「お嬢様、はしたないですよ」


「わかってわよ!」

ピエトロとエマがいなくともなんというか自分の周りは騒がしいと思った。それは別に悪い意味じゃなくてなんだか楽しかった。まあ2人ともずっとアベンの愚痴を言っているのだが珍しく傷心しているのか聞いてられる。片方は悪意しか感じないが。

「まあ、でも。わしもたしかにお主の事は応援しておるが…もちっと人を選べ?な?」


「大丈夫です。私みたいに頭のおかしい人間は頭のおかしい人間からしか理解されないから、きっとアベンさんもそのうち私の魅力に気づきますよ」


「んー…まあ、ポジティブなのはいい事じゃがなぁ…」

そう言って大老は視線を移す。アベンとエマ。見るからにエマの方が押してはいるものの左手に眼帯とハンデのつもりなのかアベンはいつも以上に面倒くさそうに戦っている。

よーちゃんで治せばいいのに…なにかの考えがあるのか?はたまた単純に別の事なのか?どちらにせよこのまま行けばアベンの敗色が濃いと思う。

「私は戦った事ないし、駆け引きとかもあると思いますけど…どうなんでしょうか…」


「何か言った?」


「い、いえ!なんでもないです!ママレードさんはどうですか?どっちが勝つと思いますか?」


「うーん…そうね…」

しばらく黙り込むがいい笑顔で

「エマちゃんね。というかエマちゃんが勝って。あの男は無様に床でも舐めていればいいのよ。昨日だってピエトロ様がテレポートステーションに来てないって言われたし。絶対嘘吐いたのよ!ああ、ムカつく!」


そういえばママレードさん、ピエトロさんのファンか何かなのですか?」


「えっ、いや、まあ…うん。ファンよ。かっこいいじゃない。引き合いに出すのも失礼だけどあんな男の何万倍も素晴らしい方だわ」

どこかで助けてもらったのかな?或いは単純に近くにいたとか?そういえばママレードさんってどこ出身なのだろう?仮に兄弟がいたらジャムとかコンポートとかそういう名前なのだろうか?ちょっと気にはなる。

「ッ!?ちょ、ちょっと何あれ!」


「む?彼奴…!?カルミア!あれを見ろ!」


「へ?」

考え事をし始めたせいか周りの景色が見えていなかった。何を騒いでいるのだと2人の指差す方向…闘技大会のフィールドを見る。そこで私は何かはわからない。理解できないが悍ましい以外、言葉が出てこないものを見た。




「まだまだ、これからだよ!」


「チッ…固えし訳がわからねえ…」


「ふふん。私そのうちね、お母さんよりお胸大きくなるから。柔らかくなるよ」


「そうじゃねえよ」

はっきり言っておけば普通に勝てない。実力差もあるが何よりもあの「鉄の鳥」が厄介すぎる。

普段使ってる〈巨剣〉や〈細刀〉他にも〈鋼糸〉〈砲腕〉等あるがあの「鉄の鳥」がくっつく事により全く別のものになる。例えば最初に思い浮かべた〈巨剣〉だ。あれは見た感じでは力任せに振り回して戦うものだ。実際にその大きさのせいで隙は大きいものの絶大な威力を誇る。そこに「鉄の鳥」がくっ付くと何故か刃の部分に更に細かい刃が出来た。最初こそ何がしたいのかわからなかったが…手元を見れば真っ二つにされた鉄の棒がある。実際には擬態した5なんだが最高硬度にしておけと命令したが簡単に斬られた。耳障りな鉄を斬る音と自分が斬られたことのショックで現在うんともすんとも言わない。立ち直るのに少し時間がかかる。

機動力を極限にまで落として攻撃力を倍増したような状態なのだろう。翼を使っては来ないがそれでもあの馬鹿力の前ではあまり関係ないようにも思える。

「でも、お父さんまだ本気出してないでしょ?私知ってるよ。お父さんめっちゃ強いって」


「勘違いしてるとこ悪いんだがな。俺はそんなに強くねえよ」


「あはは、謙遜しちゃってー。本気出したらすぐに私倒しちゃうし下手したら死んじゃうもんね。大丈夫だよ。私もっと強くなるから」

本当に洒落にならない。このガキはなんで俺が強者の位置にいると思っているんだ?悪いが実力の半分も出してないピエトロと同程度なんだぞ?どう控えめに見ても勝てる訳ないだろ。もしかして阿保なのか?

心の中で罵倒してると彼女の腕が元に戻り今度はこちらへ手のひらを見せてくる。やがてその手に小さな魔法陣が生成される。そしてゆっくりと何重にも魔法陣が出来ていくと、なんとなくだが似た感覚を思い出す。ついこの間試験機アルファとかいう科学技術のクローンだったかを塵芥どころかこの世に一片の欠片すら残さず消し、挙げ句の果てには地下都市の天井を溶解させたあの魔法だ。

「これぐらいやらないとお父さん本気出してくれないでしょ?あ、でも大丈夫だよ。2匹は私の補佐、もう2匹は多分空間に穴を開けて魔力を逃す。要するにお父さん以外には誰にも迷惑かけないから」


「なあ、エマ。手前怒ってんのか?ミアに突き放すような事言って」


「ううん。それとは別。だってお父さんと本気で戦えるなんて今を逃せば無くなっちゃうじゃん?」

辺りが乾燥してきた。それと同時に彼女の腕の周りがぐにゃぐにゃと曲がってきたように見える。そして彼女の明言通り、2匹は彼女の義手に付くと固定するかのように地面に突き刺さる。そしてもう2匹は俺の背中の後方へ行き何やらぐにゃぐにゃとした名状しがたい空間へと消えていった。そんな事はどうでもいい。

なんたら魔法となんたら魔法の応用だったか?取り敢えず撃たれる前にどうにかエマを…

「ふふふ。そう来ると思ってたよ」

やっと自身の戻った5を取り敢えず戦鎚にし叩きつけようと強くその場を蹴った時、そこまで読めていたとエマが指パッチンをする。するとまるで時を止められたかのように動けなくなる。いや、実際には違う。彼女は一定範囲内の大気中の水分を操ってあの究極の一撃とも言える攻撃を行おうとしているらしい。ならもしかすると体内の水分も自在に操っているのかもしれない。動かそうと思えば動かせるが…無理にやればかえって無駄に回復に時間がかかりそうだ。

「さあ、お父さん!私の本気!全身全霊の一撃!行くよ!」


「馬鹿野郎、本気で殺す気…」


簡略式(ライト)荷電粒子水鉄砲(パーティクルシェル)!!」

前見た時には少し離れていたので無事だったが…直撃した一撃は一瞬にして目の前が光に包まれ音も視界も何もかも塗り潰し全身が崩れ始め、細胞も遺伝子も何もかも破壊尽くされる。

やばい…死ん…だ…

諦めてされるがままになろうとした時、ソレは聞こえてきた。

『ヒャヒャヒャ!オイ!犯罪者ガ死ヌゼ!』


『ソレハ困ル。私達ノ復讐対象ガイナクナラレタラドウシロトイウノダ』


『ドッチニシロ殺スンダシイインジャナイ?』

耳障りな声がした。実際には頭の中に直接響く頭痛のような音だが。兎に角声も話し方も違う。何人も何百人も何万人もいる気がした。

走馬灯か?やけに時間はゆっくりと進み体の崩壊をのんびりと眺めていられるがどういうわけか頭の中の声は普通に聞こえてくる。

『コイツガ今戦ッテタノ、コイツノ娘ラシイゼ?』


『ハ?俺ノ娘ハコイツノセイデ最後マデ苦痛ニ顔ヲ歪マセテ死ンダ』


『私モ旦那ト一歳ニナル息子ガドロドロニ溶カサレテ混ザリ合ッタノ見タ。マア、ソンナノ関係ナイケドネ』


「誰だ手前ら?」


『ウワ、話シカケテキタ。死ネヨ、屑ガ』


『ソウダ、ソウダ!僕ラガ何シタッテイウンダヨ!』


『オ前ニ理不尽ニ殺サレタ!』


『オ前ガアノ街ニ来ナケレバミンナ幸セダッタ!全部オ前ノセイダ!』

死んだ連中の怨念か?それにしても聞き取り辛い声だ。死に際にあの世と繋がりでもしたのか?考え事をしていると連中には見えているのか聞こえているのか『気持チ悪インダヨ!妄想ヤロウガ!』と不快な音が頭に響いた。

『娘殺ソウゼ。内臓引キ摺リ出シテ泣キ喚イタラ。額ガ擦レルマデ土下座サセテ頭踏ミツケヨウ!』


『土下座ッテナンダヨ?』


『東洋ノ最上級ノ謝罪方法ダヨ。教エテヤロウゼ?アンタノ親父ガ俺タチニ何ヲシタカナ』


『ジャア四肢ヲモイデ、レイプシヨウゼ!コイツノ体乗ッ取ッテ、近親相姦ダ!』


『脳ミソニ針刺シテ掻キ混ゼヨウ!』


「だから手前らいったいなんなんだ!」

非常に不快だ。勝手に頭の中で騒がれて。こちらはもう下半身は消え去り眼球は消し飛び脳みそも半分飛んだのか。どこで物事を考えているのかどこから声が出ているのかそれすらも分からなくなってきたのに。

『ハ?バケモノガ人ノフリシテンジャネエヨ!体ノ一部サエ残ッテリャイイクセニヨ!』


『本当ニ気持チ悪イナ。早ク死ネ!』


「質問すら答えられないのか?蛆虫共が。人の頭の中で会議してんじゃねえよ」


『ハァ?アンタ、本当ニ俺タチノコトワカンネエノカヨ?』


『ショウガネエヨ、コイツ見ルカラニ頭悪イシ』

なんで一々煽ってくるんだ?

『俺タチハテメェノ中ニズットイタ怨念ダヨ。オ前ガ3年前ニ滅ぼしてどロドロニ溶かさレたアノ街のなぁ!!』

鮮明に声が聞こえた。同時に脳内に映像が流れ込む。何万もの人間がこちらを睨みつけていた。赤ん坊も老人も、女も男も。畜生や魔物だって。

そして思い出した。全部を忘れていたわけじゃない。都合の悪いところだけハサミで切り取ったように。自分の中にほんの少し良心の呵責があった頃。辛くて、苦しくて、全部無くしてしまったときに捨てた。ある期間の間の記憶を自分に都合のいい部分だけを残して。毎日聞こえてきた幻聴。怨嗟の声。耳からこびりついて離れない人がドロドロに溶けてそれでも蠢き、口なのか眼孔なのか空いた穴から出る苦痛の音。ヘドロの様な感情。

気付けば足も手も服も何もかも元通りになっていた。

いや、違う。右腕だけは白衣の袖を破り何百もの黒い腕がエマへと向かう。自分の意思とは関係なく。ただ少女を蹂躙したいがために。

それらはただ魔力を喰らい自分の復讐のためだけに蠢く手だ。エマの「簡略式 荷電粒子水鉄砲」とやらも一瞬で吸収して何事もなかったかの様になる。



『アベン!なんでだ…なんでお前はそうやって簡単に人を傷つけられるんだ!このバカ息子が!』


『私はな…人は助け合って生きていく生き物だと思っている。でもな…お前がやっているのはそれを踏み躙る。いや、踏み躙るだけじゃない必要以上に踏んだ後にナイフでバラバラにして油をかけて火を付ける。その位非道な事だ』

2人に怒られた記憶。ああ、そうだ。仲良くしよう近づいてきた奴の目ん玉に落ちてた木の棒刺した時だったかな?

怒られた時の記憶だけじゃない。面倒くさいこと、嬉しかったこと、楽しかったこと。2人のことをほとんど忘れていた。

「…お…さ…!お父さん!」

そう言えばあの目ん玉に刺したやつどこで何してるのだろうか?

『あん時ノ事、今デモ恨ンデるに決マッテンダロ?。膿が湧イテ、金ガ無イカラ魔導師モ呼べなくテ。結局俺の目ン玉は腐リ落チたヨ』

ああ、そう。なんだ手前も死んでたのか。

それにしてもこの黒い腕が出てきてから白昼夢でも見てるかの様な気分になる。フィルター越しに世界を見ているみたいだ。

そして腕は俺の意思とは関係なく彼女に攻撃を加える。触れられたら最後、魔力を搾り取られて死ぬか、病魔に体を蝕まれて死ぬか。

あらゆる方向からの伸びてくる手を彼女は避けて、或いは斬って此方へと近づいてくる。それにしたって無限とも言えるほど腕は際限なく生えてきて伸び、また斬り落とされても直ぐに再生する。

「お父さん!しっかりしてお父さん!」


『おおっと、アベン選手!これは一体どういう事だ!?エマ選手の第八門魔法に匹敵する魔法で攻撃された直後に彼の右腕が変化しました!これはいったいなんの能力なのでしょうか!?』


『すばしっこいな』


『足を狙えよ。ほら、そことか』

自分の中に複数の意識があるというのはなんというか不思議な気分だ。いつも以上に自分の言葉も考えも意味の無い文字の羅列になっていそうだし、現に頭の中の声は騒がしくなる一方で頭の中に直接音を流し込まれてる様な気分にもなる。混濁とでも呼べばいいのか?

エマの声も少し聞こえる。まあそれもすぐに掻き消され無くなるから関係ない。

彼女は黒い腕から逃れながらそれらを斬り飛ばし、或いはすり潰し、必死になって父親を救おうとしている。本当に多種多様だ。流動しては直ぐに形を変えて敵対したものに有効な武器へ変化する。まあ、今回は量的にも相性的にも部が悪い。それでも必死になって偽りの父親を助けようと身体中に傷を負いながら此方へと一歩、また一歩と歩を進めていく。本当に愚かで浅ましく愚鈍な考えだ。笑えてくる。

「はは…はははは!!本当に傑作だ。本当に手前はいい娘だよ!」

右半身は完全に黒い腕が生えるだけの部品とかしている。同じく目からも赤ん坊の手や華奢な女の手のようなものが生えてきて必死に這い出ようと何かを掴もうとしている。体はピクリとも動かないし吐き気も頭痛も目眩もする。自暴自棄にもなってきた気がする。

「お父さんが…笑っ!?ゴフッ…」

その気を抜いた瞬間に決着はついた。いや、決着と言うべきではないか。最早、抵抗できない少女を一方的に蹂躙するだけだ。

エマは両手両足を縛られるとヤバイと思ったのか咄嗟に義手を〈細刀〉から元に戻し再度、他の縛っている腕を切り落とそうとした。しかし人間というものは反射的にというか、大して痛くもない攻撃で怯んでしまうものだ。先ずは顔面に一撃。伸びた拳が刺さると次々と腕達が彼女を襲う。自分の意思で動かせないくせして感覚だけは何故かある為に彼女を殴るとたまに鈍い音がしたり何か固いものが折れる様な音がした。最初こそ抵抗をしていたエマも指先1つ動かすこともできなくただ、ただ拳による攻撃が止むのも待っていた。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなんてことわざの通りか、普通の人間より頑丈に出来ている彼女は何百、何千回も殴られ続け血だらけで見るも無残な姿へと変わっていった。

会場中から悲鳴が起こる。そりゃあそうだ。普通に考えてもエマはこのまま行けば死ぬ。可愛らしい彼女の容姿も今はボロ雑巾になっているのだし。

そしてピタリと攻撃が終わると突然彼女の足に腕達が絡みついていく。念入りに両足の骨を砕くとヒュンッと一瞬のうちに視界から消え次に


ゴガンッ!


そんな音がして彼女がこれでもかと言うほどに勢いよく地面に叩きつけられた。


『あははは!痛そー!』

たった一回で終わる事などなく何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、彼女は壁や地面に叩きつけられる。会場は最早地獄にでもいるかの様に阿鼻叫喚の渦を作り、俺を止めろという声も聞こえてくる。止めてくれるのなら是非止めてもらいたいものだ。

『ほら、お前の娘だぞ?泣けよ、喚けよ。じゃねえと次は喉から手ぇ突っ込んでケツから出してやろうか?それとも腸であやとりか?』


「お…どう…ざ……」


『きもっ、こいつこんなになってもまだ生きてんのかよ。やっぱ化物の子は化物か』


『あははは!お前みたいな生きる価値のねえカスは今みたいな姿がお似合いだぜ』


『ねーねー!娘いるってことは嫁もいるよね?殺そうよ」


『いいねー!その考え最高!』

しかしどうしたものか。これ。身動きは取れないし勝手に攻撃は行うしでどうしようもない。

『全員、避難してください!聞こえましたか?避難です!巻き込まれる危険性があるため急いでください!』

流石にそうなるな。そりゃあ今、目の前で人が死にかけてる。一種の恐慌状態と言うべきか逃げ惑う人々はわれ先にと闘技場も出て行く。ロビンと他数人は興味深げにこちらを見ている。

『こいつ、眉ひとつ動かさないの本当に何なんだよ』


『さあ?化物には俺たちみたいな愛なんてものないんじゃないか?どうせ適当にそこらへんの女に産ませた子だろ?こいつ』


『アベン!これはいったいどういうことなんだ!?悪いが彼女はもう戦えない!今すぐに離すんだ!』


「そんなこと言われても困る。どうしようもないんだよ」

声の方を見れば何やらロビンが拡声魔法を使ってこっちに話しかけてきていた。見た感じ緊急事態の対応に追われているらしい。

「ああ、そうだ。たしか逃走防止用に腕に爆弾の腕輪付けてたな?今爆破してくれよ」

何言ってるんだこいつと見てくる。でもまあ、どれくらいの威力なのかはわからないがそもそも右腕につけてはいたが今どこにあるのかもわからないが。

「悪いが爆破するのは構わないがそんな状態の君に対して有効だとは思えないな?」


「何でもいいんだよ。取り敢えず熱があればな。それが弱点だから。まあ、それで治らなかったら首でも刎ねてくれ」

別に苦渋の選択というわけでもないだろうに。むしろここで死んでくれた方がありがたいだろ?そちら的には。まあ、まだ逃げきれてない観客もいるからか。

『王様にも嫌われてんのかよ』


『むしろコイツの事好きになる奴なんて物好きとかじゃなくて人間として終わってるな』

五月蝿い。これ以上は人の頭の中で騒がないでもらいたい。

「ヒュー…ヒュー…」

ボロ雑巾も既に虫の息だ。




「押してよいのでは?」


「それは…そうだが…今の奴の血液を取れば新たな力が手に入るかもしれないって思ってな」


「要件は済みました。後はアレの処理だけです。確実に今ここでトドメを付けるのがよろしいかと」


「…そうだな」

此方の声は拡声魔法を使わなければ届かないがフィールドの声は普通に聞こえる。そういう風に作ったのだが今後どうするかを話し合う前に先ずはやることをやらねば。

爺やに促されて起爆用の魔法陣を展開し、魔法を発動する。ボンっと破裂音がして次にアベンに変化が起こる。アレだけ巨大で悍ましかった黒い腕は見る見る縮んでいき萎びていく。そして最後には肩口から切れて地面に落ち痙攣を始めた。熱に弱いと言っていたがこんな呆気ないものなのか?もしかしたら作戦のうちなのではと内心疑ってしまう。仮に本当の事ならいい事を聞いたが。

体力を消耗したのかアベンが地に倒れ臥す。それを待っていたと言わんばかりに爺やは瞬きの間にアベンに距離を詰め今まさにその首と胴体を離そうとしていた。

しかしアベンの首は繋がったままにこちらまで聞こえてきたゴキリと何かが折れた音。次いで爺やのくぐもった苦痛の声。ロビンが視線を移すと血だらけで今にも死にそうなエマが爺やの腕掴みをへし折っていた。

「お父…さ……守る……ち、近…づくな!」

爺やもまたかなり腕の立つ男だ。それが簡単に掴まれ、彼女の必死の形相に立ち竦んでいた。思わず護衛の兵士達も馬鹿馬鹿しい話だがエマに向かって持っていた槍を構える。手先が震え彼達もまた彼女の悍しいほどの生命力に恐怖していた。本当に死にかけなのか?

「おい、ロビン。今夜の約束違えるんじゃねえぞ。わかってるな?」


「チッ…わかっている!爺や、もういい!戻れ!それと急いで腕のいい回復魔導師を呼べ。エマを死なせるな!」

こうして闘技大会3日目は思わぬ形で幕を下ろした。




「カルミア先に宿に戻っとれ」


「で、でも…エマが…」


「お主に何ができる?悪いがあの傷は根性論で治るようなものではない。横で手を繋いで祈るくらいならそこに1人でも魔導師を置いて回復魔法をかけさせた方がいい」


「…はい」


「ごめんなさい。私も回復魔法は使えないわ…だから…」


「構わぬよ。わしも使えんしな。取り敢えず、あのバカを回収したらエマの回復具合を見て戻る。一緒にいたい気持ちはわかるが…」


「わかりました…」

嗚呼、私はなんて無能なんだろう。今日ほど魔法適性が無いことを恨んだ日はない。本当は側にいたいけど…でもたしかにそうだ。私はきっと邪魔だ。気を取られた瞬間にエマは死ぬ…

「送っていくわよ?」


「ありがとうございます」


「大丈夫、運には波があるから。昨日と今日が最底辺なら明日から運は上がっていく。だから…」

ママレードさんは優しいな。こんな私でも慰めてくれるなんて…

ちらりと視線を移すとエマが何人もの魔導士に囲まれ淡い光に包まれている。アベンは大老に胸倉を掴まれ何が起こったのか、殺気すら感じる様に声を荒げている。

闘技場を出て宿に戻ろうとすると嫌に視線を感じた。街の人間はみんな不安そうに闘技場を見ていてこの3日間でアベンやエマ、それに自分たちの事で何が言いたいことがあるらしい。

「気にしないで行きましょ?」


「いやいや、気にしないとダメさ」

頭の太い血管が切れるかと思った。不快な声、不快な仕草。トレラはその場に膝をつき手の甲にキスをしてきた。

「ねえ、トレラ。貴方が女好きのどうしようもないダメ男ってのは知ってるけど…空気とか読めないわけ?あのね、今カルミアさんは!」


機械仕掛けの偽神(デウスエクスマキナ)が壊されかけてご傷心中かな?」


「トレラ?貴方何言って…」

その言葉を聞いた瞬間思わずトレラの顔面に膝蹴りをした。無論避けられてしまったが彼は変わらずに笑みを浮かべ此方へと歩み寄ってくる。

「どうしてその名を…」


「そりゃあ、彼女は僕にとっても組織にとっても研究対象だからね。勿論、病魔を招く者も。覚醒者だってそうだ。でも、今一番探してたのはそいつらじゃない」

同じ笑顔のはずなのに貼り付けたような不気味さでトレラが笑う。レイとオーが私やママレードさんを守ろうと前に出て構えるが目にも留まらぬ早業と言うべきか一瞬のうちに2人は何かに殴られたかの様に後方に吹き飛ばされる。

「ぐぅぅぅぅっ!!」


「い、痛い!痛いです!」


「雑魚はすっこんでろよ。僕は今そこのノルドに話しかけているんだ。たかがエルダー個体上がりが調子にのるなよ」

そこで初めて言い争いでなく何が起こったのか理解したのか、街の人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。彼女達の苦痛の声が自分の事ではないのに過去のトラウマを呼び覚ましそうになった。

そしていつ抜いたのか彼の螺旋剣に淡い輝きが灯ると…ドシュッ。そんな呆気ないものなのかと言うくらいにママレードの腹部に穴が空いた。

「ガハッ!」


「「ママレード(お嬢様)さん!」」


「はぁあ、あのさぁ…僕が用事あるのそっちだから。邪魔だしさっさと死ねよ」

私はその場から逃げることも動くことも出来なく、立ち竦んだ。怖い。嫌だ。こいつの目は同じだ。私を殴ってきた奴らと。拷問まがいの事をしてきた連中のと。

「さあ、行こうかカルミアさん?僕らの楽園を作る為に」


「離してください!だ、誰か!助けて!」


「はあ、手荒な真似はしたくなかったんだけどなっ!」

トレラの容赦のない拳は腹部に刺さり吐瀉物を戻しながら意識が混濁する。ああ、私どうなるのだろか。まあ、アベンさんにフラれたし大老さんには邪魔者扱い…誰も助けてくれない…私の人生なんていつもそんなものか…

楽になりたい。そう思いながら私は意識を手放した。



「あなた…誰…よ?」


「ん?なんだ、まだ息あったのか。腹に穴空いてるの生きてるとかやっぱりお前も病魔を招く者の仲間だな。気色悪い」


「トレラは…たしかに面倒な性格してたわ…でも…絶対に女に手を出すような人間じゃない!」

トレラの皮を被った何者かはつまらなそうに此方を見ると

「冥土の土産に教えてやるよ。トレラだったか?そんな男はとっくの昔に死んだ。もうこの世にはいない。この見た目も適当に選んだだけだしな」


「っ!?なんて…なんて酷い事を!がふっ…」


「あんまり怒ると血の巡りが良くなって腹の穴から大切な血液が出ちゃうよ?」

しーっと口の先に指を持ってきて黙ってるようにとジェスチャーしてくる。

自分たち以外誰もいなくなった大通りで奥から複数の白いローブに1つの目の描かれた紋様…

「世界の…眼!トレラ、まさか…」


「しつこい女は嫌われるよ?僕はトレラじゃないし君は今ここで死ぬけどこれ以上何も教える気は無い。仮に君が生き残って病魔を招く者に情報が渡ったら大変だしね。ほら、さっさと飛ばせよ」

カルミアを担ぎ上げトレラは…男はその白ローブ達と転移する。

緊張していた訳でも恐怖していた訳でもないが、世界の眼の連中が消えると気が緩んだのか意識を手放す。

「お嬢様!気をたしかに!お嬢様!!」


「……」


「レ、レイ!早く治療して!」


「わかってる!」

レイの手から淡い光が生まれる。とは言ってもあくまで応急処置だ。しかもかなり精度の悪い魔法でほんの少し傷が治るだけだ。そして止血だと布を当てられかなりキツめに縛られるとオーに担がれ魔道院へと向かう。2人のお陰か、偶々腕のいい魔道士がいてくれたお陰か。意識を失った私が起きたのはそれから5時間後の事だった。

病室にいたのは険しい表情をした竜王と泣きじゃくるメイド2人。そして前より一層冷たい視線の薬師だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ