五十五匹目 動き始めた狂気
3に案内され目的地へと歩いて行くと町中から段々と分裂した連中が一つに戻っていく。そして件の飯屋の前に着くと最大限に膨らみプシューと間抜けな音を立てて3が縮みここだと言わんばかりに跳ね始めた。ここは確か先日ピエトロと飯を食ったところだったな。そしてタイミングよく店から見知った顔の連中が出てくる。
「いやー…私の財布が大分スリムになりましたよ」
「まあ、ヤバくなったらアベンに頼め。彼奴は金だけは沢山持っておるからの」
「そうさせてもらいますよ」
何やら聞きたくもない話が聞こえてきたが無視して歩いていくとこちらに気付いたのか和かに手を振っている。
「もう我々は食べてしまいましたよ?先に食べていいって聞いていたのでね」
「それは別に構わない。んで、だ。手前殺すって話だがよ。取り敢えず聞いておくが今ここで死ぬか死んだふりするかどっちがいい?」
「えぇ…何ですかその質問…」
「こっちはともかく…他はどうしたんじゃ?終わったのか?」
「終わった。後はこいつだけだ」
とんとんと影を踏むと理解したのか特にそれ以上は聞いてくることはなく。じっとピエトロを睨み付ける。
ピエトロも変に殺気を感じたのが一度大老を見るが何かを察したのか彼の瞳が真紅に染まる。いつでも俺たちの血液を剣に変えれると、目で伝えているように。
「ふう、美味しかったですね」
「ねー!お父さんも来ればよかったのに」
「私はピエトロ様と食事できただけで嬉しいからいいわ。まあ、大勢で食事するのもたまには悪くないわね」
「お嬢様は始終、血濡れのピエロ見てましたね」
「と、届かない想いです…」
「な、何言ってるのよ!?」
女三人よれば姦しいと言うか実際にはレイとオー含めて5人いるのだがぞろぞろと店の扉から出てくる。
思わず気が抜けてしまい戦闘どころではない。ましてや闘技大会に出てるだけでなく先日も街中で戦闘を起こしたのだ。これ以上は目立ちたくはない。
「まったく…お主の選んだ女は本当にいいタイミングでくるわい」
「選んでねえ。勝手について来てるだけだ」
「いやはや、私からすれば救いの女神ですよ。ええ」
「え?え?何の話ですか?」
「手前が都合の悪い女って話だ」
「うっ、なんか…その、ごめんなさい…」
まあ別にいい。どちらにせよピエトロを実際に殺すか他の作戦にするかは本人に話してからにしようと思っていたのだ。それにこいつを殺すには手間がかかる。
「お母さん今だよ。今がチャンスだよ!」
「そうよ、ほら、また面倒臭くなる前に話しなさいって」
「え、あっそうでした…あの、アベンさん!」
「道化師。ちょっと話があるからいいか?」
「え?あー…」
「無視しないでください!」
「黙ってろ。手前のくだらない話よりも優先すべきことだ」
とは言わなかった言えなかった。何故なら大老が物凄い剣幕でこちらを睨みつけて来ているからだ。下手すりゃピエトロと睨み合ってた時以上にだ。それに何故かエマも心底呆れ返ったような視線を送ってくる。ママレードやメイドに関しては昔あった時も最近も常にそうなので別にどうでもいい。
カルミアも今にも泣き出しそうになっていた。ここ数日情処不安定だがどうかしたのだろうか?
ピエトロだけはやれやれと肩をすくめている。
「…先にこっちの話終わらせてからな」
泣き出しそうだったのにぱあと笑顔になる。それに伴い大老の睨みつけもエマの愚物を見るような視線も無くなる。
本当に理解し難いな。
取り敢えず人気のないところに行きたい。あまり人前で話していいような内容ではない。
「手前らはちょっと待ってろ」
ピエトロを連れて近くの人のいない路地裏に入る。
最近なんだか路地裏にばかり行っている気がするが気のせいだろう。
「それで、私を殺すって話でしたよね?どうするつもりです?」
「仮死状態にして城に送るか、両腕切り落として生きたまんま送るか。どっちがいい?」
「貴方の便利なスライムはどうなんですか?」
「手前に擬態するのは可能だがな、どうにも能力が擬態できない。それに仮に4を送ったとしてだ。バレるなら兎も角、4の擬態能力を解析でもされてみろ。考えたくもねえよ」
「まあ同盟国なんでそこは問題ありませんよ。仮に邪魔立てするなら然るべき措置は行いますんでね」
「いや、それだけじゃねえ。もし4の記憶を読まれた場合にだ。4の中には俺の記憶もある。つまりどうやったら病魔を招く者を作り出せるかってのもわかる」
流石のピエトロもこの話を聞くと暫く考え込む。まあ実際そんなこと出来るかどうかは知らないが4がいないと色々と面倒そうなので手元から離したくないというのが一番の理由だ。
「そうですね…ですが私を仮死状態で送りつけたとしてですよ?私の能力を使用出来るようになった場合はどうするのですか?」
「それに関しては適当に何が起こるかわからないから卵返した後にしてくれとでも言っておきゃいいだろ」
「そう簡単に上手くいきますかねえ…アベン君がいっつも詐欺紛いの事や殺してるアホ共と違って一応は一国の主人ですよ?第一に、貴方私のこと助けてくれるんですよね?」
「それくらいはしてやるよ」
「やれやれ…まあ他にいい案私も無いのですがね…で?報酬は?まさか私がここまで体を張って手伝うのですから勿論弾みますよね?」
まあ、確かにこれはあくまでも俺と竜たちの問題なのでピエトロは全く関係ない。都合よく「はい、貴方の命令を聞きますよ」なんて行くわけがない。
「近々、手前の下半身が凄いことになる殺し合いをさせてやるよ」
「ほう…それで?」
「相手は…まあ、言わなくてもわかんだろ?」
ピエトロが何のことやらと少し考え俺の右腕に目を向ける。形はしっかりとしてる。しかし完全には治っていなく、だらんと力無く垂れ下がっている。
それはつい先程、俺自身も気付かなかった。それは3がここまで案内をしてくれていた時だ。
ずっとあの武器の呪いか或いはまだ熱が篭っていて治せないと勘違いしていたのだ。1によって右腕は見栄えだけは元に戻ったが中身はまだボロボロなのだと、治りが悪いのだと。
白衣の袖をまくると右腕はある。ただ、ぱらぱらと割れた陶器から細かい破片が落ちるように皮膚が所々剥がれ落ちていき得体の知れない黒いなにかが見え始めていた。
「…今、意識ははっきりしていますか?今日が何月の何日かわかりますか?」
「むつ月の15」
「貴方、前の時は完全に意識失ってましたよね?」
「いや多少はあった。だがまあ、面倒だから体が勝手に動いている時には放っておいたがな。それに今回は2回目だ。前回と全く同じ通りになるわけじゃねえと思うがな」
何を思ったのかピエトロが俺の付けていた眼帯をむしり取るように外すといつもの様な何を考えているのかわからない笑顔が無くなりどこか哀しげなものになる。
「鏡で顔は見ましたか?」
「いや、見てねえな。ん?あれ、治してねえのに手前の顔が見えんぞ。それになんだか万華鏡でも覗いてるみたいだな」
「時間の問題ですかね…」
曰く眼球ではあるが眼球の中に更に大小様々な眼球が夥しいほどあるらしい。どういう状態だ?あとで鏡を見てみることにしよう。とても興味深い。
「どうした?らしくねえな。もうちょっとすれば俺が病魔を招く者になるんだぞ?手前からしてみりゃ勃起モノってやつだろ?」
「…また大勢が死にますね。それに沢山の涙が流れますよ。それに巻き込まれたらカルミアさんもエマさんも死にますよ?」
「そうだな。別にいいんじゃないか?奴らの勝手…」
この国に来て珍しいものを沢山見てきたがこれはトップクラスだ。いつもの笑顔はどことやら、怒りの表情をしたピエトロに襟を掴まれそのまま壁に叩きつけられた。
「せっかく、貴方のことを理解してくれる方がまた現れたんですよ!?貴方のことを心から愛し、本当の夫婦のように、本当の親子のように…貴方にはその感情がわからないのですか?」
「手前にだけは言われたかねえがな?なあ、俺が作った?のもなんだがよ。仲間の生き血啜って生き延びるてる手前にそんなこと言える義理があんのか?
それに手前、そんなもん俺がわざわざ口に出さなくてもわかんだろ?」
「……」
「ナンタラの船だっけか?駄目になった部分を新しく変えていって最後に全部取っ替えた時、果たしてその船は最初に使っていた船なのか?それとも新しい船なのか?なあ、ピエトロ。手前の体はあとどれくれいオリジナルのパーツなんだ?脳みそは?目ん玉は?臓器は?神経は?精巣は?四肢は?教えてくれよ。気になってたんだよ、ずぅーっとな、素朴な疑問ってやつだ。手前のその心も考えも本当に手前のものか?」
「…怖いんですか?」
「は?」
「貴方は自分が自分で無くなるのが怖いのかって言ってるんですよ」
「どうだろうな?そんな感情は生憎だが便所に流しちまったからな。んで、だ。手前には十分過ぎる報酬だろ?なんなら俺のことぶっ殺しちまっても構わねえ。まだまだ楽しみたいってなら四肢を切り落としてフォアグラ作る為に無理矢理太らせられるアヒルみたく毎日餌でも突っ込んで回復したらまた殺りあえよ。なあ?手前はそういうことが望みだろ?愛
だなんだと手前の口から出てくんのは滑稽だぜ?」
ピエトロが腕の力を緩める。無言は肯定と捉えていいのだろう。俯いたピエトロの首筋に注射器を指す。
ピエトロは諦めとも見える表情を浮かべやがて立っていられなくなってしまい倒れる。
「安心しろ、俺特製の仮死薬だ。ちゃんと後で生き返らせてやる」
「ええ…こんなにも気分悪く死ぬのは…初…め……て…」
即効性はやはりいいな。
2から籠を取り出し更に籠の中から死体袋を取り出す。これにピエトロを入れればいいはずだ。まあ、一応金目の物と他、武器等はこっちで預かっておくことにしよう。
ピエトロを入れチャックを閉めると眩く光り出し袋が跡形もなく消えてしまう。これで大丈夫なのだろう。まあ、仮に何かあったとしてもこちらの責任では無いからいいか。
「ああそうだ…クロウ、こっちに来なくていいから聞いてんなら影から出てこい」
とんとんと影をつま先で蹴ると全身黒ずくめどころか顔も体も真っ黒で目すらない生物が影からのっそり出てくる。
「あー…本体に伝えてくれ。影武者にアベンが何が起こるかわからないから卵返した後にピエトロの血液を取り込めって言ってたとか…そんな感じに適当に頼んだぞ」
こくりと頷くと影の中に溶けるように消えていく。
こっちもこれで大丈夫だろう。さて、次の面倒ごとだ。
店の前に戻るとまだ立ったまま談笑をしていた。暇なのか?それに他の客や通行人に迷惑になるだろう。何を考えているのやら。
「あれ?ピエトロ様は?」
「ああ、国から呼び出しだってよ。さっきテレポートステーションに行ったぞ」
「えっ、聞いてないわよ!」
「急な連絡だったらしいからな。皆さんによろしくって伝えといてくださいだとよ」
「間に合うかしら…レイ、オー!行くわよ!」
「はい、お嬢様」
「りょ、了解です」
「あ、そうだ。カルミアさん頑張ってね!絶対に大丈夫だから!」
「はい!」
そう言い残しさっさとテレポートステーションの方へと2人を連れて走って行ってしまう。まあ行ったところで会えないのはわかっているが。
「そうじゃ、わしエマとちっと町を見てくるから…まあ、お主らゆっくりと話しておれ」
「また後でね!お父さんもお母さんもちゃんと仲直りしてね!」
大老達もまた人混みへと消えていく。一気に静かになったな。
「あ、あははは…えーと、取り敢えず何処か座れる場所に行きません?」
「好きにしろ」
昼も回り人と通りも多くなってきた。まあ、お昼休憩が終われば殆どの人間は闘技場へと向かうのだろうが。
さっさと空いていたベンチを見つけると腰を下ろす。それから数分、特に口を開くこともなくただ座っていたがカルミアが先に口を開いた。
「眼と腕…大丈夫ですか?いーちゃんに早く治してもらったほうがいいんじゃないですか?」
「気にするな」
「あ、はい…」
「……」
何がしたいのやらさっぱりわからない。時折ちらちらとこちらを見てくるが何か言いたいのであればさっさと言えばいいだろうに…本当に面倒くさい奴だ。
「あ、あの!その…こ、この間はすみませんでした…大切な薬だったのに…その…」
「元々調整が必要だったものだ。ちょうどいい人体実験にもなったしな。お陰でいい薬が出来上がりそうだ」
「あの、それで…私のこと見捨てないでくれませんか?」
「なに?」
「いや、だって今回は助けないって。きっと私の事見捨てて卵を回収したらこの国に置いてけぼりかなって…あれ?涙が…勝手に…」
「…今回は手前のこと極力気にせずに卵の回収を最優先にするって事だ。
第一手前は来るなって言ってもどうせ付いてくるのだろう?」
「そ、そりゃあもちろんですよ!だって私はアベンさんに…あの、その…えーと…」
そろそろこいつの態度に苛立ちを覚えてきた。口籠るくらいなら最初から言おうとするな。
「言いたいことがあるならさっさと言え」
「……です…」
カルミアは顔を真っ赤にしながら何やら呟いた。早く話せ。
カルミアは深呼吸を一つして、それから覚悟を決めたかの様に一言。
「一目惚れしてたんです!最初に会って、助けてくれて…吊り橋効果とかじゃなくて!貴方が側にいてくれるだけで勇気をもらえて…冷たい心が暖かくなって!勿論アベンさんの見てきた景色も見てみたかったんですけど…出来るならこれから先も貴方の隣でずっと同じ景色を見たいんです!だから…だから私を置いていかないでください!」
これには流石に驚いた。
どうやら頭だけじゃなくて心も完全にイかれてるいるらしい。俺が言うのもなんだがこんなイかれた女を女として見ている奴なんて盛っている馬鹿どもか奴隷商人くらいだと自分で理解していないのか?アホらしくて思わず笑いかけた。
「で?だからなんだってんだ?」
「えっ…いや、女の子の一世一代の告白ですよ?胸に来るものとかないんですか?」
「無えな」
「えっ、でも。なんかこう…私に対して守ってやりたいとか、ないんですか?」
「小説か絵物語の読みすぎじゃねえのか?そんなものあるわけねえだろ?」
見る見るうちにカルミアの顔から笑顔が剥がれ落ちていく。
しかしまあ、何処で勘違いしたのやら。類は友を呼ぶというやつか?イかれた者同士引かれ合ったのか。
「まあ、なんだ。若気の至りって事で胸にでも刻んどけ」
「…へ?」
「で?用事は済んだのか?」
「わ、私は!本気なんですよ!せめて一言くらい無いんですか!?」
「無い」
「そんなぁ…」
「わざわざリスクの中に足突っ込むバカは嫌いなんだよ」
「うぅ…」
気付けば彼女は泣いていた。こちらを見ずにぎゅっとスカートを掴み嗚咽を漏らさない様に必死に口を閉じ。今ここで泣き叫べば俺の迷惑になるのだと理解しているのか。本当に健気な女だ。
「何も泣くことはないだろ?人間は忘れて成長する生物だ。寝て忘れろ」
何か言いたげだが面倒くさそうなのでその場を後にする。しかし本当に頭がイかれた奴だな。
「さて、と。ロビンからの連絡を待つとするか」
なんだか妙な胸騒ぎの様な靄のかかったようなはっきりとしない感覚が起きてはいるが気にしないでおこう。
そう思いながら泊まっている宿とは真逆の方向へと歩き始めた。
「と、言う訳だ」
「いや、貴殿。流石に…もう少し花を持たせると言うか…言葉があるだろう?」
宿に戻ったら大老に何言われるか分かっなものでは無いから結局はフロストの宿へ向かった。部屋が広いから端っこでも寝るスペースに使わせて貰えればありがたかったが「ベットでもフトンとやらでも余りはあるぞ」と言うのでお言葉に甘えて使わせてもらうことにした。
「無いな」
「ふむ。まあ、私から見ても人間としても貴殿はまだ若いのだ。後悔だけはしないように生きるのだぞ?」
「3年前に全部捨ててきた」
「なら後で拾いに行け」
しかしまあこの男も中々にお人好しだ。そのお人好し加減で今日の宿に困ってないことも事実ではあるのだが。
「しかしそうか、青春の思い出か…私も80を超える頃までは己の無知と弱さを認めずに方々に喧嘩を売ったものだ。懐かしいな…あれは私がまだ故郷から出たことがない頃だった…」
「長くなりそうか?」
「勿論だとも。トール様に初めてお会いした時の事だ」
まあ、泊まらせてもらうのだ。付き合ってやろう。
「まず私はな…」
「…と言うわけで戦後トール様に気に入られた私は故郷の代表としてアスガルド城へ入る事を許可されたのだ。ふむ、少し話しすぎたか?」
「うん?ああ、いいんじゃないか。運命的な出会いってやつだな」
ほぼ寝てたしまっていたが気分よく話していた為に気付かれていないようだ。
しかしフロストの部屋に来た頃は日が出ていたが今、外を見ると夜の帳が下りていた。何時間話していたのやら。
「ああ、そう言えば先ほどの話だがな」
「うん?」
まだあるのか?
「途中で客が来たのだ。貴殿の娘殿と母君らしい?娘殿は何となく察した様だったが、母君は目に見えて怒っているのがわかった。まあ、貴殿が完全に気配を消していたのでな。ここには居ないと言っておいたがよかったか?」
「ああ、助かる。エマの方はまだどうにか出来るが大老に関してはブチ切れたら何しでかすかわからねえからな」
「大老?と言うのは竜王と同じ魔力を持っていたあの少女のことか?娘殿と並んでいてもなんと言えば良いのか…随分と幼げに見えたな。まあ貴殿の一家、側から見れば三姉妹にしか見えぬがな」
「ガワだけだ。中身は手前の国に宝の噂だけで突っ込んだ当時のままの竜王だ」
「おお、本当か!?大英雄シグルトと七日七晩戦い。遂には撃退に成功したと言うあの伝説の!すると貴殿は竜王の子と言うわけか」
「血の繋がりなんぞ無えし第一アレを親だと思ったことは無い」
正直彼奴がどこで何してようがどうでもいいし、そんな嬉々として国の伝説の話などされてもこちらからすれば聞いたこともないし興味あまりわかない。
「そうなのか?まあ確かに怒ってはいたがどちらかと言えばだが、私の妻達もあのような顔をする時はあるな」
「なに?」
「子供達が悪戯や喧嘩をした時に怒られるのが嫌で逃げるとあのような剣幕で子供達を探すのだ。私は家のことは全て妻に任せてる身だからな。そこら辺のことは特に言うつもりはないがな」
そもそも親ではないのでそんなこと言われても知ったこっちゃ無いって話ではあるが。
「ん?考えてもみれば貴殿の妻殿が15、娘殿は10…」
「ここも血の繋がりなんて無えよ。アレが俺を親と呼ぶからフリをしているだけの話だ」
「フリ…か。ならばさっさと正体を明かしてみないのは何故だ?」
「そりゃあ勿論、科学技術なんて貴重な物持ったガキを捨てるなんて幾ら何でも勿体無さすぎるだろ」
「本当にそれだけか?本当は心の奥底で…」
「フロスト」
言葉を遮る。それ以上は意味の無いただの言葉の羅列だ。
察してくれたのかフロストもそこで黙り「寝るか」と再び口を開く。
無言で人間サイズのベッドに潜り込むと特に何か言葉を告げることなくフロストも自身のベットへ横になった。何か辺な空気になったが気にしないことにしよう。
「一つだけいいか?」
「…うん?」
「貴殿は何を怖がっているのだ?」
「ピエトロにも同じこと言われた。何も怖がってねえよ」
フロストの疑問に返答すると目を閉じる。体自体は恐怖を覚えていても感情は恐怖という物をとうの昔に無くしている。何が怖いかなど聞かれたところで答えられるわけないのだ。
次の日、珍しく早く目を覚ますと昨晩、どうやらロビンから連絡が来ていたらしい。
「…今日の夜だ?」
「はい、場所は闘技場にて受け渡すそうです。受け取りにはもちろん1人で頼むとの事です。どうなされますか?」
影の1人が口を開く。どうなされますかって聞かれたところで皆殺しか否かとしか答えようがない。
「ロビンの方はそれで問題ない。それと、クロウに伝言頼む」
すっかり忘れていた。たしかシャードとか言ったか?どうやらロビンのそばにいたジジイの娘らしい。いい事を聞いた。どうせバレているのだ。精々役に立ってもらうことにしよう。
「娘の方は準備終わり次第逃がせってな。他は手前の好きにしろ。以上だ」
「「了解!」」
そして影に潜行し消える。そう言えば連中も影の中を移動していたがもしかするとロビンによって与えられた能力なのかもしれない。一度再現すれば何人にでも渡せるのか?聞いてみることにするか。
「さて、今日の試合どの程度で負けようか。その前に大老にも会わねえようにしないとな」
泣き疲れて眠ってしまっていたのだろう。気付けば私は宿のベットで寝ていた。エマが隣で静かに寝息を立てているし起こさないように部屋を出る。
昨日はあんな事があって顔を合わせ辛いが…まあ、あの人が気にしている事も特にないだろう。
「もっと私に魅力があればアベンさんの気を引けるのかな?」
彼と出会ってから毎日髪を梳かす様にしてるし何なら髪だって長いままだが切り揃えた。服だって気にしてる。これ以上何が足りないのだろうか?
「色気…?うっ、そこに関しては周りに聞けそうな人がいないなぁ…」
エマはまず論外としてもミストやホワイト。彼女らは何と言うか人外的美しさ…実際に人外ではあるのだが。大老さんも…いやあの人に関しては色気とかはない。私が言えた義理ではないが胸だってあまり…怒られそうだからやめておこう。深呼吸をしてノックする。一応寝てると思うが仮に起きていたら「手前はマナーも守れねえのか?」とか言われそうだし。
「あの…アベンさん?」
静かに扉を開け中を覗くと使われた形跡は無くアベンが昨晩帰ってきてないとわかった。
「んー?あれ?もしかして私たち置いていかれた?いやでも卵…うーん…」
考えても無駄だ。見つかるとは到底思えないが町に出てみることにしよう。
朝靄の中、陽の光を受けてキラキラと輝いて見える筈の世界はやはりアベンが側にいなければヘドロかゴミ溜めの様にしか見えない。
身支度を整えて宿を出る。
たまには散歩も悪くない。鼻歌を歌いながら朝方の町へ出かける。
「ふえへへへへへ、姉ちゃんよぉ。こぉーんな朝早くに俺っちに会いにきてくれるなんて…なぁ?」
「ちょっと、離してくださいよ!」
案の定と言うかなんとなく気分良くゴミ箱の中にでもいないかなと探していたら酔っ払いに絡まれた。毎度毎度何でこんな事ばっかり…
「ちょっと、本当にやめてくださ…」
「あぁ!?お前、女の癖して俺に刃向かおうってのか?いいかぁ?俺はなぁ」
ドシュン
「んー?あれ?俺の腕どこ行った?」
「ああ、それなら先程酒場に落とされてましたよ。早く取りに行った方がよろしいのでは?」
「…そうだなぁ。おい女ァ!お前ちょっとここで待ってろよな、俺が腕取ってくるまでよぉ!」
ゴミ箱の中にさっきの男の腕が落ちている。何やら螺旋状の魔力が飛んできたがそれのせいか?そして声の主はどこかで聞き覚えのある様な、無いような…
「怖かっただろう。大丈夫だよ、僕が君を守ってあげるから」
「あの…やめてもらえますか?」
そういえばこのキザったらしい言葉と急に抱きしめてくる頭のおかしさ思い出した。たしか…
「トレラさん…でしたっけか?助けてくれてありがとうございます」
「礼には及ばないよ?今日も変わらずに美しいね。カルミアさん?」
反吐がでる。
挨拶だと毎回手の甲にキスをしてくるのは本当にやめてもらいたい。嫌な人だっているって考え付かないのか?今度アベンさんに行って神経毒でも調合してもらおうかな。
「それで?どうしたってこんなに朝早くからこんな場所へ?君の様な可憐な花はゴミ溜めの様な場所でも咲き誇るが君は薔薇ではなくカルミアだ。茨は無いのだから危ないじゃないか」
「絡んできただけの人の腕落とすのもどうかと思いますけどね」
「ははは!どうやら言葉には茨を持っている様だね」
いちいちウィンクしてこないでほしい。
「じゃあ、私はこれで…」
「いやいや、折角偶然にも会えたんだ。よければ朝食を一緒にどうだい?勿論僕が持つからさ?」
「すみません、急いでいるんで」
何だか今日は不幸な一日になりそうな気がする。どうせ闘技大会が始まれば会えるのだ。さっさと宿に戻ってシャワーでも浴びることにしよう。
朝靄も晴れ始め日が本格的に出てきた。でも私の気分はやっぱりアベンさんがいないと晴れない。
「ふーん。やっぱりそうだ」
トレラは1人。カルミアの背中を見つめる。最初は違うと思っていたのだがまさかこんなところで出会えるとは…そう思うと心の中どころか今すぐ大声で喜びを叫びたくなる。
「欲しいなぁ、あの子…」
やがて見えなくなっても彼女の歩いていった方向を見て呟く。
「おい、お前!俺の腕無かったぞ?血も止まんねえし!どうしてくれんだよぉ!」
「は?ああ、あんたか」
不快な音がすると思えば先程の男がいた。酒の飲みすぎて痛覚まで馬鹿になってるらしい。それでも腕にシャツを巻きつけて止血代わりにしてるのは多少は理性が戻ってきたのかと考えられる。
「おい、聞いてんのかよ?なぁ?」
「五月蝿いなぁ。今僕最高に気分がいいんだからさ黙っててくれない?」
それは持っていた螺旋剣では無い。ただ彼が何の事もなく瞬きをした。それだけで男は何かに殴られた様に飛ばされ自分の腕の入っていたゴミ箱に突っ込む。
「っだぁぁ!!何しやがるてめぇえ!!」
「ゴミはゴミ箱の中にいるのが一番似合ってるよ」
そして螺旋剣を構えると男の頭部に螺旋状の魔力を撃ち込む。この武器は扱いにくさもあって使う者が少ないのも事実だが何よりも忌避されている要因がこれだ。
「ひっ、や、やめ!…」
螺旋状の魔力は男の頭部に刺さると捩じ切る様に頭を吹き飛ばす。殺傷能力が高過ぎてしかも獲物を必要以上に傷つける。魔物の皮や肉を売って生計を担っている冒険者等からすれば邪魔なだけの武器だ。まあ、そんな事も自分には関係ないのだが。
カチンと音がなり鞘に剣が収まったのを確認すると彼もまた人がちらほらと出始めてきた町の中に消える。邪悪な笑みを浮かべ「僕もそろそろ動き出すかな」としかしそれは誰も聞く事も無く今日もまた人々には闘技大会を楽しみにする変わらない日常が始まろうとしていた。




