五十三匹目 強力無比
王城から出たあと人通りの少ない道を選び闘技場へと向かう。
一先ずは頼まれた仕事をこなすしかない。なにせ死ななそうとは言えヴェノムが実質人質の様なものになっているのだ。どうにかしてそちらも救いださねばならない。
時折興味深げに大老は街行く人々の顔や露店に並ぶ商品を見ている。人の街に来ることはあまりないのだろう。ましてや今は魔法の時代と言っても過言でないほど魔法技術やそれに属する物が毎年の様に新しく作り出される。玩具を探す子供の様な気分なのだろう。
「これはまた随分と賑わっておる」
「人が少ないから賑わってるとは言えねえだろ」
「まあ、どっちでもいいじゃろ」
「そうだな」
数日後には大勢の死体の山が出来上がると思うと何だか心の奥底が必死になって止めようとしている気がする。まあ、どれだけの惨状を見ようが肉塊に興味などない。
ぼーっと他にやるべきことを考えていると突然大老に腕を掴まれそのまま大老が走り出す。とは言っても少女が走る様にぱたぱたと遅くだ。されるがままに腕を引っ張られ闘技場を通り過ぎると人が全くいない区画に着く。皆闘技場にいるのだろう。辺りはシンと静まり返っていた。
「どうした?糞か?」
グシャ
「おっとすまん。つい腕を砕いてしまったわい」
「違うのか?なら、なんだ?こんなところまで連れてきやがって」
「お客さんじゃよ。ずーっと城を出てから着いてきておる」
砕けた腕に1を這わせ治し始める。壊れても直ぐに治るとわかってから扱いがだんだん雑になってきた気がするのは気のせいにしておこう。
「こっちの声とか聞かれてんじゃねえのか?」
「ホワイトの認識型催眠魔法とやらで全部ただの会話にしか聞こえぬし、なんなら変な行動してもあちら側からすれば何もしていないようにしか見えぬ」
「便利だな魔法」
なら安心だと小瓶から黒い粘性の生物を出すと貰った石ころを食べさせてしまう。
暫く咀嚼らしいことをしていると時折赤だったり青だったりと色を変え数分すると落ち着き、口らしき部分から質量保存を無視して巻物が出てくる。
「えぇ…」
「解析した魔法をスクロール?に書き換えた物らしい。ホワイトに渡せばどうにかしてくれんだろ」
「そのスライム共はどこまで万能なんじゃ?」
「万能なら今頃俺は楽して暮らしてる」
「十分楽してるじゃろうが…」
「どこがだ。毎回騎士団の連中に追われ、増えた馬鹿の面倒見させられるだけじゃなく頭の逝かれた奴隷の相手も面倒くさい…万能ってなら俺の代わりに相手ぐらいしてもらいたいものだ」
何やらにやけているがあんたも十分面倒な奴だと自覚してほしい。いつまでも人間なんぞに固執してないで竜同士仲良くやってりゃいいんだ。どうせ50年もしないで斃るのに。
5を小瓶にしまうとどうするんだと大老を見る。脳みそだけはマシな作りをしているのでこういう時は俺が考えなくても済む。
「ふーむ…」
「襲って来ねえなら放っておけばいいだろ。どうせ監視だ」
「戯けが!気を抜いた瞬間に素っ首切り落とされるやもしれぬのだぞ!ましてや封竜の魔法など嘘か本当かもわからぬ脅威!絶対に世に広めてはならぬ!わしやミストの様な邪竜ならともかく、罪の無い竜も大勢いるのじゃぞ!」
「落ち着け。取り敢えずホワイトにこれ渡して解析させりゃいいだろ?俺らは黙ってオウサマの御使いしてりゃいいんだからよ」
スクロールを大老に渡すと「それもそうじゃな」と手元でくるくる回してその場で煙になって消えてしまう。もしかすると指輪なしでヴェノムがこちらへ来たのもも大老の魔法なのかもしれない。前から思ってはいたがホワイト同様に様々な魔法を使い、息吹は最強などと随分と恵まれているな。だから竜王になんぞなれたのかもしれないが。
「よし、完了じゃ…してピエトロの方じゃ。お主の友なのだろう?どうするつもりだ?」
「ん?そんなの嘘に決まってんだろ。俺に友人なんていねえよ」
「寂しい奴じゃのう…」
「痕跡なんぞ残してったら今頃とっくに捕まって生首抱いて墓の下だ」
冗談のつもりだったが何やら琴線に触れたのか無言で握り拳を突き出してくる。やっぱり扱いが雑になってきた。
しかし拳は俺にではなく地面にに写った影に突き刺さると俺の影から何やら人間を引き出した。訳がわからない。
「ぐっ…!馬鹿な!?」
「クロウ、チンタラしとらんでさっさと捕まえぬか!」
「御意!」
常人では理解出来ないと言うかこの場にいたアベン自身も理解出来ないまま影から引きずり出されたフードを被っていたロビンの部下の女。そいつが逃げようと大老の手を振りほどき他の影へと潜行する。
それと同時に影からもう一つ。サイズ的には小さいが真っ黒でボロボロの布切れを纏っているような竜が現れた。
女の方は恐らくは影から影へと移動してきたのだろう。だが、クロウの方が動きは素早くあっという間に彼女は影から引き摺り出され動くことが出来ないよう質量を持った影に縛られてしまう。
「やはり、竜種と繋がっていましたか…私のことはいい!全員、急ぎ連絡を!」
『ふっ、この我があの程度の者共を見逃すとでも思ったか?全員既に我が影の中に捕らえた』
ずるりと今度は複数の男が影から上半身を出される。全員意識はなくされるがままになっている。
「アベン。気付かなかったのか?お主勘が鈍っておるのう」
「手前らと違ってこっちは感覚器官が発達してねえんだよ。
んで?どうすんだこいつら」
「んー!んんー!」
舌を噛みちぎろうとしたのか口の中にクロウの影をねじ込まれフード女がこちらを睨んでくる。
「…まあ良いか。卵を盗んだのもこうやって影に潜り込んで盗んだのだろうしな。多分此奴で間違いなさそうじゃ。
あの時も周りに人間が沢山おったし聖女の魔法で弱体化しておったからのう。見逃してしまうわい。まあ、わしならそんなの関係ないがのう!」
『流石です王よ!して、必要とあれば今すぐにでもこの女の喉を搔き切る事も内側から斬殺する事も我には出来ますが?』
「どうするかのう」
「断定の仕方が雑すぎるだろ」
「気にするな気にするな。
ああ、そうじゃ。なんかこう…拷問に適した感じの薬、お主持っておらんか?」
「ねえな。最近薬作りサボってる。なんかいいアイデアが思い浮かばねえんでな」
「そうか。趣味じゃからな」
まあ良いかと大老が倒れている女の頭に足を乗せる。苦痛に顔を歪めているのを見ると相当力を込められているらしい。大老も顔こそ笑顔であるが相当怒っているのだろう。それに拷問なんて言葉は彼女の口からは初めて聞いた気がする。
クロウも何か察したのか無言で俺の影へと戻ろうとする。やめてほしい。
「どうにかしろ」
『無理に決まっているだろう。それに王の贄となった供物供を助ける道理など我にあるわけないだろ?くく、このまま黒き邪竜となって国を破壊するのだろうな。実に楽しみである』
「ああ、そう…」
「あっ、そうじゃった。エマの試合始まるんじゃったの。クロウ、ちとこいつら影の中に入れておけ」
『えっ、』
「あと、影武者的なのを作り出せ。お主影を操るのじゃろ?」
「影武者の意味違くないか?」
「まあ、似たようなもんじゃろ」
『え、えーと…か…いや……よし!影繰リシ人形!』
バッバッと決めポーズを決め技名を発すると彼の足元の影が複数に別れ、それぞれの捕まえた者たちに変化する。便利だな。
『影とは即ちもう1人の己自身。貴様らの影を作り出せばそこに立つはまた貴様ら自身というわけだ』
「要約すると?」
「まあ、簡単に言ってしまえば幻術みたいなもんじゃろ」
「なるほど?」
『行け、我が僕どもよ。強さだけを求めた哀れなる国で荒唐無稽な芝居を演じよ!』
無言で頷くと各々が持ち場だと屋根の上へと登り始める。
行動が終わったのをクロウが見終わると次に本人達を影の中に引き摺り込み始める。そして当たり前の様に俺の影へと潜行してきた。面倒だし何も言わないことにしよう。
「さーてと、エマの試合見に行くぞ」
「俺は他に行く場所が…」
「行くぞ?」
「わかった」
リストの中には魔道院で治療受けている奴らもいる。そいつらから血を先に抜き取っておけば後が楽だと思ったが…その可愛らしいナリからは考えられないくらい殺意を漂わせている。余程家族ごっこがお気に召したらしい。竜王様は気軽でいいな。
「ほれ、手を繋がんか。迷子になったら大変じゃぞ?」
「……」
もう本当に全てがどうでもよくなってくるくらい面倒くさい事この上ない。
「おや、お早いおかえりで。国王に呼び出されるなんて何やらかしたんですか?」
「うん?ああ、手前が邪魔だから殺してくれって頼まれた」
「ブフッ!ゴホッゴホッ…え?それ、私本人に言いますか、普通」
「汚ねえ」
エマの試合はまだ始まっていなく丁度タイミングよく選手入場の時に闘技場へ着いた。相変わらずカルミアは何か言いたげだが放っておいてピエトロの隣に座り事の顛末を話した。
勢いよく噴き出したビールは綺麗な虹を作り出していたが何も言わないことにしておこう。
「えぇと…どうするんですか、それ?私悪いですがこんな所で死にたくなんてありませんよ?まだ子供の顔も見てないのに」
「手前子供いたのか」
「いえまだですけど…ちょっと色々ありまして子供作ってないんですよ。あっ、パパとしてはアベン君の方が先輩ですね」
「気色悪いからそれ以上口を開くな」
「ふふ、わしの方が8年早く親になっておるがのう。先輩と呼んでもいいんじゃぞ?」
「そんな…ピエトロ様が結婚なさってたなんて…」
「お、お嬢様、ふられた?」
「違うよオー。そもそも告白してないからふられてすらいない」
「ちょっと2人とも!」
「え、あ…わ、私も…その…」
帰りたい。
『さあ、闘技大会2日目!第1試合でのフィールドの補修が完了しました!皆様、大変お待たせしました!2日目第2試合!その愛らしい見た目からは想像も付かない強さ!43番!エマ選手!!』
「あっ、お父さーん!ちゃんと観ててねー!」
手を振るな。これ以上こちらに視線を向けさせるな。
『さあ、対するは全大会でもかなりの実力を見せつけたこの方!荊の鞭は既に自身の一部!美しき女戦士!26番!トーン選手!!』
「お嬢ちゃん強いんでしょぅ?お姉さんもすこーし本気出してあげるね」
「本気で来ないと死んじゃうよ?」
「ううん、大丈夫よ。お姉さんはお嬢ちゃんよりもずっとずうーっと強いから」
「へえー…」
「あ、あの…アベンさん…」
「なんだ?」
「いえ、その…エマ勝てますかね?」
「知るか」
「あ、そ…そうですよね…あはは…はぁ…」
毒でも盛られたのか?
「のう…もう少しやさ「おい、試合始まるぞ。黙ってろ」」
「被せるでないわ!戯けが!」
『第2試合…始めッ!!』
「「わあぁぁぁぁぁっ!!」」
お母さんが見ていてくれている。突然出来たお婆ちゃんもピエトロさんもママレードさんとメイドさん達もそれに今日はお父さんが見ていてくれている。
「うふふ、お嬢ちゃん先に攻撃してきていいわよ。その鉄を自在に操る能力。全部見切ってあげるわ」
「ありがとう。お姉さん強いんでしょ?じゃあ私も本気で行くね」
〈形態機構 刃振指 噴出翼〉
左腕と背中が変化していく。左腕の義手は手の甲からぐにゃぐにゃと流動的になり振動する刃の指へと変化し、背骨を守っていた外骨格もいつものような刃のような鋭さや飛び立つための形ではなく筒状の翼になる。圧縮した魔力を噴出して超加速する。これで一気に距離を詰められる。
魔力を吸引し始めた翼から重低音が響き始める。こちらから攻撃をさせてくれると言っているのだ。最大限にまで魔力を溜めさせてもらおう。
やがて魔力の吸入が終わり辺りの魔力濃度も下がる。準備は出来た。
静かに敵を見据える。お父さんの様に決して気を抜いたりない。相手が死ぬか心の底から怯え、泣き喚き、許しを請うまでは攻撃を止めるつもりはない。
「行く…よっ!」
タンっと軽やかに地面蹴る。瞬間的に噴出された魔力によって推進力を得た体は目にも留まらぬ速さでトーンの目の前へと移動する。
「速っ!?」
咄嗟にトーンも鞭でガードをしてくる。
そんな物はそこらにある紐切れとなんら変わりはないというのに。
鞭など関係なく勢いのままに左手を振り下ろす。常に超高速で振動し続ける刃の指は簡単に鞭を切断しトーンの胴体に深く傷をつける。
「くっ!薔薇の一撃!」
前に母から聞いた事だが魔法付与された武器と言うのは本人の魔力次第で簡単に治るという。おそらくトーンの使っている鞭もそうなのだろう。魔力の流れを感じ取ると鞭全体が赤く発光し切断された部分も直ってしまう。
そして余程鞭を操るのに自信があるのか或いは苦し紛れの一撃か。この距離だと言うのに赤く発光した鞭で攻撃をしてくる。取り敢えずは様子見程度のつもりと魔力を噴出させその場から距離を取る。
「はぁ…はぁ…中々やるわね…」
先ほど自分がいたところには何やら薔薇の刻印の様な物が出来ている。鞭自体に何かしらの魔法か或いは彼女自身の固有技能か?恐らくは攻撃力の上昇。当たったら痛そうだ。
どちらにせよその顔には先ほどの余裕ぶった表情など無く腹部から血が流れ出ているせいで頭に登るはずだった血も登らなく逆に冷静にさせてしまったのかもしれない。どうかは知らないが。
「いいわ…中々やるようだから私も…」
「もうその台詞はさっき聞いたよ」
〈形態機構 砲腕 噴出肘〉
先程同様に目前まで迫ると弓を引きしぼるように構えながら義手の形を変える。戦闘中に気を抜いて呑気に話し合ってる時点で弱い。父やあの巨人の様に話したとしても常に相手の首の肉を削ぎ落とすような。そんな気持ちでいないといけない。
今度は巨大で無骨でただ殴る為だけの形態。それに威力のかさ増しにと肘から背中の翼と同様の魔力の噴出口を作り出す。せっかくお父さんにいいところを見せられると思ったのに結局は口先だけで大した事なかった。一回戦の相手と同じだ。
「ちょ、ちょっと待ちな…ガッ!?」
ほんの僅かな時間に防御結界を張ったのは彼女の生存本能からなるものか。或いはまた別の何かなのか。
エマが殴りつける。ただそれだけだ。トーンに拳が当たった瞬間に噴出口から魔力が噴き出す。凄まじい打撃音とともに身の丈以上の腕に殴りつけられ、昨日以上に力を込めすぎていたせいかトーンは殴られた衝撃のままフィールドの壁へと突っ込む。ちょっとやりすぎたかなと思ったがお父さんもたまに過剰な程相手を痛めつけていた時もあったから大丈夫だろう。
べちゃっと熟れたトマトを地面に叩きつけたような音がしたが気のせい気のせい。
『やはり圧倒的な強さ!勝者エマ選手!!』
「「わぁぁぁぁあぁあああぁぁ!!!!」」
「いいぞー!」
「かっこいいじゃねえか!!」
さっさと2人の元に戻ろう。きっと沢山褒めてくれるはずだ。それにさっさとつまらない意地を張ってないで早々に喧嘩はやめてほしい。
「〜♪」
自然に体がスキップを始めそうなくらい軽やかな気分で私はフィールドを後にした。
なんかTwitter始めてからなんとなく読んでくれる方が増えたような気がしなくもなくもない気がしますね




