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五十二匹目 取引

今更なんですが初期のアベン君と今のアベン君話し方も性格も違いすぎでは…?

ゆっくりと目を開けると次第に視界がクリアになっていき今自分は何かにもたれかかっていたのだとわかる。

てっきりエマの試合が始まってるものだとばかり思っていたが闘技場内部は観客席やフィールドの修復に運営側の人間が慌ただしく駆け回っていた。

「あ、お父さんおはよー!」


「…熱くないのか?」

横でにこやかに挨拶してきたのはエマだが、未だに熱を放っている腕を握っていた。義手だから平気なのか?

「やっぱり私のお父さんは世界一強いんだね!かっこよかったし!」


「…あの欠陥品さえ使えりゃ誰でも強くなれる。俺の実力じゃねえ」


「でも、そこら辺にいる人が使ったら触れた瞬間に半身溶けるし仮に保ったとしても全身を雷が駆け抜ければ死ぬよ?」


「1が最大出力で全身を治し続けなけりゃ俺だって即死だ」


「それでもお父さんは最強なの!」


「…ところで試合はもう終わったのか?」

陽はそんなに動いていないような気もするが実際にどれほど気を失っていたの

かはわからないがどうせまた相手を一撃で倒してここにいるのだろう。

しかし眼球が片方ないと言うのは不便だ。非常に見辛い。眼帯でも付けておくか。

「んー?あのね、お父さんと巨人さんの壊した会場直してて試合続行不可能だって。でも会場内にはいろって、王様が言ってたよ」

会場どころか何人か死んでたな。まあ、どうでもいい話だ。体の傷はほぼ治っているが未だに右腕は熱を発し力を込めようにも麻痺してるようであり内臓類も機能はしているが酷使すれば簡単に壊れてしまいそうだ。重要器官は治すのに時間がかかるのは弱点とも言える。周りの連中さえ無視すれば本当に些細なことだ。

ぐるりと俺とエマを囲む様に大老やピエトロ、ミアにママレードとメイド2人、何やら暴言を言いにきた連中を宥めていた。

「俺の息子が何したってんだよ!おい!ふざけんじゃねぇ!」


「知らぬわ。運が悪かったと思って諦めよ」


「そうだ!俺たちだってもう少し近くにいれば巻き込まれて死ぬところだったんだぞ!」


「それ、私じゃなくてアベン君に言ってくださいません?」

なんだ巻き込まれた連中が愚痴を言いに来たのか。

「おい!聞いてんのかよ!」


「ひいっ!ごめんなさい、ごめんなさい」


「…なんだフロストに一喝された腰抜けどもが、何の用だ?」


「何の用だと…ふざけんじゃねぇ!俺の息子が死んだんだぞ!お前も子供いるんだったら死んだら悲しいとかわかんだろ!」

カルミアの首根っこを掴んで後ろに引き戻すと怒鳴っていた男も気付いたようで胸ぐらを掴んでくる。

「あの場にはな、俺の子供がいた!毎年闘技大会を楽しみにしてたのに…お前みたいな卑怯者が出たせいで!俺の息子が!」


「卑怯なのは関係ねえだろ。それに、なんでお前そこにいなかったんだ?便所か?締りの良さそうな女のケツでも眺めてたか?どちらにせよ、よかったじゃないか。手前は生きてんだから。どうせまた生殖すりゃ出来るだろ?」

昔スラム街に捨ててあった絵本に人が怒ると顔が赤く描かれていたが本当のことらしい。顔面を真っ赤にして殴りかかってくる。

しかし目の前できらりと何か光り、拳が頰に当たる前に男の腕は宙を待っていた。

「ぎゃああああッ!う、腕が!」


「汚い手でお父さんに触んなアイタッ!」


「すぐ暴力で訴えかけんな。誰に似たんだ」

極細の鋼の糸は男の腕を容赦なく切り上げていた。綺麗な切断面だ。くっ付けりゃそのまま治りそうなくらいに。

「お、おい!衛兵連れてこい!こいつら狂ってやがる!」


「クソ!今助けてやるかな、少しだけ我慢してろ」


「なあ、アベンよ…ちょっとわしとあっちで話してこようかの?今後のエマの育成についての」


「おい、怪我人だぞ。もうちょっと丁寧に扱え」

ミシミシと脳に響く音もそうだが流石は竜と言うべきか片手で俺を引きずろうとする。面倒毎に衛兵も駆けつけ、目の前の惨状に目を丸くする。

ママレードとメイド以外は特に表情も変えずに痛みでのたうち回る男を見ていた。

「おい、何事だ!」


「衛兵さん!こっちです、来てください!あの卑怯者が!」


「待て」

混沌とした場に凛とした声が響き渡った。

大老の行く手にはローブを着た者が立っていた。フード深く被ってはいるが声的には女だろう。その場にいた者誰もが突如現れたその人物に気を取られ動きを止めていた。

「その犯罪者共を連れて行け。陛下はお怒りだ」

スッと指差したのは抗議していた者たちとのたうち回る男。衛兵も敬礼するとすぐにその連中に縄をかけ始める。わけがわからない。

「お騒がせしました、アベン選手」


「どういうことだ?」


「というかの、お主邪魔じゃ。今から此奴にキツイ説教をせねばならぬ。そこを退かぬか」


「あんた達!ふざけんじゃないよ!あたしらの何処が犯罪者だって言うんだい!ちょっと、離しなさいよ!」

連れてかれる最中、1人の女が叫んでいた。腫れた目をしているところを見ると泣いていたのだろう。誰が死んだ?親か、子か、友か?

「…この国に住んでいたということは知っていましたよね?この国では強いものは優遇され弱い者は搾取されるだけ。まあ、陛下の御温情のお陰で税もそれほどとってはいませんでしたがね」

ローブの女が口を開く。

「一昨日、貴方のお子さんが魔物に襲われ死んだ時も陛下は大層御心を痛めていました。一市民程度の貴方の子が為にです。そんなにお優しい陛下でも。弱者如きが強者に刃向かうのは許されません。わかりましたか?」


「街中で魔物に襲われるなんて!どう考えてもおかしいじゃないですか!ありえませんよ!」


「ああ、もしかしてミルとかいうガキかもう片方の奴の親か?」


「っ‼︎」


「まあ、どっちの親でもいいけどよ。ミルって奴は腹の中で生きながられ溶かされて、もう片方のガキは腹わた引きずり出されて死んでたな。流石に気色悪かったが貴重な体験をありがとうよ」


「殺してやるっ!!絶対に殺してやる!離せ!あの男だけは許さない!離せ!離せぇぇぇッ!!」


「お前らだって俺のこと嗤ったんだろ?言ったじゃないか、笑えば周りが不幸になるってな」

頭を掴んでいた大老の指に更に力が込められた。これ以上は本当に頭部の穴から脳みそが出てきそうだ。

「目障りだ、さっさと連れて行け」

最後まで呪詛の言葉を吐きながらその女含め複数人は連行されて行った。この国は強ければ何をしてもいいなんて本当に素晴らしいな。

「さっさと行くぞ」


「大老、素が出てるぞ。いつもの方が可愛らしくて好きだ」


「…そんな事を言っても説教はするぞ?よいな?」

指の力緩めたくせして何言ってやがる。

「あ、お父さん。私の試合もしかしたらやるかもしれないから…ちゃんと戻ってきてね!お婆ちゃんも!」


「うむ、待っておれ。カルミアとえーと…ヘカテロじゃったな。あとジャムも大人しくしておれよ」


「私の名前はピエトロですって」


「…ママレードです」

もうなんかどうでもいいのでズルズルとされるがままに引きずられていると先ほどのフード女が寄ってくる。

「あ、あの。申し訳ないのですが…陛下がお呼びなのでよいでしょうか?」


「…その陛下ってのはわしより偉いのか?」


「手前、国の頭に対して強気になんなよ」


「わしじゃって森の王じゃぞ」


「言ってんのクロウくらいだろ」


「よろしいでしょうか?」

もう一歩。こちらへローブの女が寄ってくる。大老も流石に面倒だと思ったのだろう大人しくなった。

「では、こちらへ」


「…ほれ、行くぞ」

その後王城まで引きずられて行った。流石に城の中では離してもらえたが街の人間に何やら噂されないか心配である。




バルバトス王国の城は絢爛豪華とは逆の作りをした城だ。城壁は勿論、内部にも様々な罠、仕掛けがあり闘技大会を行うだけあっていつでも戦争おっ始められそうな城だった。

「ふーむ…」


「どうした?」


「あそこの隠し通路の奥からお宝の匂いがぷんぷんしてくるわい。ちょっと行ってきてもいいかのう?」


「手前は義娘夫婦の卵と光ってるだけの石っころのどっちが大事なんだ?」


「う、うぬぅ…」

そこは迷うところではないだろう。

「た、卵じゃな!」


「じゃあよ、せっかく国の頭が用事あるってんだ。取り返すか或いは何かしらの交換条件でも取り付けるか、考えろよ森の王サマ」


「絶対にそう思っとらんじゃろ!」

だらだらと長い廊下で暇になって話しているとやけにキラキラした扉の前に着いた。

「こちらが陛下の御座す間です。申し訳ありませんが妹さんは彼方でお待ちください」


「わしはアベンの母親じゃぞ!で、でも…そんなに若く見られていたとは嬉しいのう…」


「し、失礼しました!」

怒るのか喜ぶのかどちらかにしろババア。


パカァンッ!


「手前、本当に人の心の中を覗き込むな」


「母からすれば息子の考えおることなぞ手に取るようにわかるわい」

否定したら何かと面倒そうなことになりそうなので口を挟まないでおこう。

それにこれ以上騒いだらいくら呼び出しされたとは言え兵士の目が痛い。

「まあでも、たかが一国の王如きの言葉なんぞ聞く気は無いがな。ほれ、扉を開けぬか」


「王の間に親同伴とか頭沸いてるな」


「お主の頭なんぞとっくの昔に沸き上がって気体じゃろうが」


「何言ってんだ手前?」


「あ、ちょっと!おやめください!」

フード女が何か言ってるが無視して大老は扉を開ける。ガラスの割れるような音がして薄ぼんやりと光っていた扉の光が消えた。

防御魔法でも貼っていたのだろう。邪竜様には何の意味も無かったようだったが。

「やあやあやあ、初めまして…あれ?もしかして子持ちなの?」


「随分と気さくな王だな」


「母じゃ」

豪奢な椅子に座って偉そうに踏ん反り返ってる奴が居ると思ったが山の様に本が置かれた場所で青年はにこやかに挨拶をしてきた。それにあわせて周りの屈強な男達も膝を折る。

図書館というわけではないのだろう。本棚らしきものは見当たらないし、無造作に置かれているところを見ると整理整頓とはかけ離れた感じもする。

「お母上?えー…まあいいや。国は違えど王と次期王の語らいを始めようじゃないか。それに君の国を敵に回したくはないからね。トール王子」


「…のう、アベンよ」


「悪いが偽名はたくさん作ってきたがトールなんて名前は使った覚えねえぞ」

そう言えばフロストも使える者は1人しかいないなんて言っていたし、どうやらその使用者…トールという人物と間違えているらしい。

「しかし、まさかお忍びで我が国に来ているとは驚いたよ。お父上とは一度だけ面識があってね。聡明なお方だった。俺の全てを見透かしているようでもあったな。うん、うん。しかしお母上は美しいね。まるで天女のようだ。いや、君の一族は神とも言われているしいつまでも美しいのはそのお陰なのかな?」


「おい」


「しかし、あの見事な槌捌き…相手も同じ北の出身だったが素晴らしかったな。お父上程ではなくても中々の強敵じゃなかったかな?それにしても聞いていたよりも肉体への負荷が大きかったが体の調子は大丈夫かな?よかったら我が国一番の魔導師を」


「話を聞け、カツラ頭」


「カ、カツラ!?トール君、いつか君の国と国交を結ぶつもりだったが幾ら何でもその言い草は失礼だとは思わないのかい?」


「手前こそ勘違いしてこんなところ呼び出しやがって失礼だと思わねえのか?第1に俺の名前はトールじゃなくアベンだ」

くるくると巻かれた髪を撫でながら「え?そうなの?」とでも言いたげに見てくる。国交結ぶだなんだ言ってるなら相手の顔くらい普通覚えておくだろう。

「…契約者よ」


「クロウか。どうした?」


「この城の地下に巨大な空間がある。そこに蠱毒を司りし竜がいた。状態は…非常に悪いがな…」

服の影に潜行しクロウがそう伝えてきた。何やら話し始めたバルバトスの王を横目に大老にそのことを話す。直接報告しろと言いたいが大老の影に潜行しているのは失礼に値すると言って頑なに断っていた。よくわからない奴だ。

「地下にヴェノムがいるらしい。手傷を負っているか或いは拷問でもされているか。で?どうする」


「まあ、一応は森の一員じゃからな。助けに行くとするかのう。あと卵の場所も探知できた。奪って逃げるとするか」

こちらも色々と考えを巡らせていたとき、再び陽気な声が話しかけてきた。

「いやー、申し訳ない。まさか人違いだったとは。何せ使っていたものが聞き及んでいた武器と酷似していたものだからね。あ、じゃあ俺のことも知らないよね。俺はロビン=バルバトス。この国の王様だ」


「そうか。なら、その申し訳なさのついでに手前に頼みがあるんだが」


「おい貴様!先程から不敬であるぞ!今貴様が前に御座すはバルバトスが王であるロビン兵科であるぞ!」


「弱そうな兵士じゃのう、デコピンで頭吹き飛ばせそうじゃわい」


「第一何故こんなところに母親を連れてくる!呼ばれたのは貴様一人だろう!」

おそらく兵士なのだろう。一人の男はつかつかとこちらへ歩いてくる。今にもその腰に携えた剣を抜いて切りかかってきそうなほどの剣幕である。

「兵士長、貴重な時間を奪ってしまったのはこちらだ。それに君程度が粋がったところでだ。10秒も持たずに死ぬ。返り血が本に付着でもしたらどうする気だ?」


「も、申し訳ありません!出過ぎた真似を!」


「はは、仕事熱心なのはいいことさ。で?頼みってのは?お金かな?それとも女?」


「地下の空間。何がある?興味深い、そこに連れて行け」

ぴくりとロビンの眉根が動いた。どうやら秘密にしていたことらしく先程兵士長と呼ばれた男も他の連中と何のことだと顔を見合わせている。

「国の一部の人間しか知らないはずなんだけどなぁ…誰が教えてくれたの?」

ぼりぼりと頭を掻いた直後和かな表情から一変して冷たく鋭い目つきになる。

「少なくとも今ここにはいるが、手前らには認識できない奴だ」


「…そっか、そっか。じゃあいいかな」

付いてきてと手を招くと壁のように高く積み上がった本の迷路の中に入っていく。意外と広いなここ。

「アベン。王もそうじゃがあのフードの者と奥のジジイ…わしから見れば赤子じゃが…兎に角、お主がロビンとやらに話しかけていた時、常にお主の首を取ろうとしておったわい」


「そん時は回収さえしてくれりゃ治せる。それよか演技頼んだぞ。バレなきゃ上手く交渉に、バレりゃ手前が皆殺しにすりゃいい」


「わーっとるわい」

だんだんと本がトンネルの様になっている場所に付くと奥に鉄で出来た頑丈そうな扉が見える。

「あ、君って知り合いとか大切にする人?」


「場合による」


「じゃあいいかな。あ、兵士長と他兵士諸君はここで待機。誰一人ここを通さないように」


「はっ!」

全身に響く重い音を立てながら扉が開けられる。

真っ黒で全てを飲み込むような暗闇にポツポツと魔法によって火が灯っていく。

「あ、お母様はここにいたほうがいいかもしれないけど…」


「構わぬ。ほれ、さっさと案内せい」


「うーん…一応俺この国の王なんだけどなぁ…」


「……」

ジジイが物凄い剣幕でこちらを睨んでくるが無視する。

ローブの女が先行して階段を降りていく。周りはほぼ影しかないので仮にここで襲われたとしても対処はできる。

「…この先はね言わば俺の国の研究施設。最重要機密を取り扱っている場所さ」


「そんなところに一般人二人入れて大丈夫なのか?」


「まあ、アベンに関係のある話だからね。あ、俺の事はロビンって呼んでくれよ。ここまで来たらフランクな付き合いにしたいからさ」

最後の付き合いかもな。

「今俺らの国ではこの世界にとって最も忌み嫌われる敵の研究をしている」


「魔族か?」


「いいや、もっと下卑で存在の必要性の感じない連中だ。なあ、アベン。この世界の頂点にいるのは人間だと思うか?本当に俺らみたいな惰弱な種が亜人や魔族どもより優れていると思うか?」

答えは否だと階段の先にあったもう一つの扉を開けさせる。暗闇に目が慣れてしまって光に目が眩む。

「あばばばばざはざざざびゃびぴ」


「ッ!?」


「大丈夫か、母?」

思わず叫びそうになったのを必死に抑え込む。

「今あそこにいる磔にされた奴。見覚えあるよな?アベン」

指差した場所にいるのは磔にされたヴェノム。下半身は無く臓器のようなものが見える。人間のようなピンクの鮮やかなものでは無く垂れ流している血液の様に黒々したものだ。顔の皮?マスクは剥がされ4つの眼球らしきものと歯茎が見える。鳥型の頭部かと思っていたが意外と剥がされたマスクの下に人間のような口はあるらしい。

「最も下賤でゴミのような種族。その圧倒的な力を無尽蔵に振るう連中。竜種だ。あれの前じゃ人間も亜人も魔族もなんだって等しくゴミだ。それに知らないなんて言わせないぞ?」

スッとロビンが手を挙げるとジジイの姿が消え次に現れた時は大老の腕を掴みその首筋に剣を突き立てようとしていた。

「…情報を知った者は全員殺すってか?」


「いいや、違うさ取引しようって話だ」


「じゃあそこのジジイに言え。人の母親に剣を向けて行うのは取引じゃあねえ。脅迫だってな」


「この国にいる以上はこの国のルールに則ってもらうよ?強者は何をしても許され弱者は搾取されるだけ」


「ア、アベン…」


「囀るな。今、口を開いていいのは貴様以外の人間だけだ」


「さて質問だ。先日、あそこで磔になってる竜種と話していたな?ヴェノム=ウォーカー、それが奴の真の名か?それとも仮の名か?それと、仲間は他に何人いる?」

大老もう少しだけ我慢してくれ。

「悪いが、確かにアイツとは知り合いだがな。あくまでも俺は卵を手に入れて来いって雇われただけだ」


「誰に?」


「本当は雇い主を売るなんてことしたくは無いが…身内が人質に取られてる以上はまあしょうがない」

結局は自分の事なのでいいか。大老の我慢が切れる前にどうにかしないとならないしな。

「病魔を招く者。本人かどうかは定かではねえがな。んで、あそこにいるのは其奴のお目付役って訳だ。金貨200枚で雇われた。中々に割に合わねえ仕事だがな。これで満足か?」


「それを真実と足らしめる証拠は?」


「なら、あそこで磔にされてる奴に聞いてこいよ。俺と母はここを動かねえからよ。動けねえなら口裏合わせも出来ねえだろ?」

トントンと足元の影につま先で合図を送る。意図を汲んでくれよクロウ。

「…聞いてこい」


「りょ、了解しました!」


「しかし、アイツとてもじゃねえが言うこと聞くような奴には思えなかったが何であんなに大人しいんだ?」


「それを話す義理ない」

人間態になっているからだろうか?ジジイがそう言い剣を少し大老の首に刺し首元の柔らかな皮膚からほんの少し血が出ていた。

取り敢えずこのジジイは殺す事にしよう。

「爺や。何も傷つける事はないだろう?」


「…恐らくはこの女は亜人種です。母親と言うには明らかに見た目が若すぎる。魔法で歳を誤魔化しているにしても維持するには膨大な魔力が使われます。亜人などと竜の次に下賤な輩は今ここで殺すべきでは?」

さっさとしてくれ。これ以上は大老の我慢がもたない。

「はあ…爺や、いい加減にしろ。少なくとも今は目の前の怨敵に対してだな…」


「陛下、あの竜種も似たような事を言っていました。魔法での検査も行いましたが、特に嘘をついているようには…」


「だ、そうだ。さっさと母を離しやがれ」


「…チッ」

ジジイが剣を鞘へ納める。今回だけは素直に親子のふりをしておいた方がいいだろう。抱きかかえると顔を真っ赤にしているのは相当怒っている証拠だろう。

それにしても抱きかかえてるとどっちが親だかわからないな。別に親じゃないが。

「大丈夫か?」


「み、耳元で囁くでないわ!戯けが…」


「…で、だ。疑いが晴れたんだ。どうすんだ?」


「いや言ったろ取引しようってさ。雇われた倍の金を出すから少し頼みたい事があるのだが…」

此方としても有難い話だ。

「取り敢えずお母上に対し私の部下が非礼をしたことを謝るよ。すまなかった。おい、回復魔法をかけてやれ」


「疑いが晴れたとは言え今しがた母親の喉元に剣突き立てられて、はいよろしくなんて任せられると思ってんのか?」


「それもそうだな。本当にすまなかった」


「へ、陛下!そんなに頭をお下げにならなくとも!」


「そもそも、爺やが手荒な真似をしなければよかったんだ!」


「私は陛下の為を思って…」

面倒臭いなこいつら。

「アベンよ。ヴェノはどうする気じゃ?」


「あんたでも手に負えねえ奴が大人しく捕まってんだぞ?ましてや強さを欲するのに代名詞とも言えるような竜種を憎んでる様な連中だ。今はああしとくのが一番だ」

それに人間態と言ってもアイツの体は不定形に近かった。魔法か?別の何かか?思い当たる節と言えば百足と酒くらいしか思い浮かばない。

「こほん。さて、取引と言ったが受けてもらえるか?」


「ああ。いいぞ」


「よかった。じゃあ先ずはそちらの要求…と言ってもお金かな?」


「卵だ。優勝商品の竜の卵を寄越せ」


「…それは幾ら何でも高すぎないかい?」


「こっちは人殺しからゴミ掃除までなんでもやってんだ。それに俺にだって欲はある。家族を守る力も欲しい。この際だ、面倒毎を一手に引き受ける。どんなことでもな」

何やら大老がニヤついているが無視する。

暫く話し合っているとやがて答えが出たようだ。にこりと笑って握手だと手を差し伸べてくる。

「君の実力は試合を見てわかってるからね。卵持っていっていいよ。もちろん仕事が先だけどね?」


「ああ、で?そっちの条件は?」


「二つほどね。先ず一つは今大会で上位入賞した連中の血液もしくは頭髪。どちらでも構わない。あ、小分けにはしてね。君と君の娘さんの分も。あ、リスト作っといて、それアベンに渡してね。うんうん」


取り敢えずポケットから未使用の注射器を取り出すと腕に刺し血液を採取する。なんだか非常に疲れたのでもうどっちの血管に刺しているのかもわからない。

それとエマのなら確か籠の中に実験用として採取したのがあったからそれでいいか。

「あ、そんなにはいらないけど…まあいいか。それともう一つ。こっちの方が優先してほしいな」

はいこれと渡されたの丈夫そうな袋。人一人くらいは入れそうだな。

「死体袋さ。まあ、中に死体を入れてくれれば袋ごとここへ転送されてくる。キラレイスの青い炎と似たような物だね」

あれにそんな効果あったのか。死体処理の為に使ってるだけだと思っていた。

「あ、そうだ。先に話しておいた方がいいか。俺の一族は代々血操術っていう固有技能に近い魔法を使ってきてさ。まあ、名前の通り血液を自由自在に操ったり対象の血液等を体内に取り込むことによって永続的に能力を使えるように出来るんだ」


「ピエトロの能力に似てるな。あっちは血液を取り込んだ場合は回復するだけだが」


「いやいや、俺は回復しないから。で、欲しいんだよね〜ピエトロの能力。それに君のその武器を作り出す能力も君の娘さんの金属を自在に操る能力。他にも色々」

指先から血液を出すと人型になり刃物を持った人型と何も持っていない人型になる。なんだそういうことか。

「あの血濡れのピエロ…いやピエトロとさ互角に戦った君に頼みたいのはピエトロの血液採取とそれに僕と似た能力ってのも気にくわないからさ。殺してきてくれないか?って訳だ。彼奴が死ねばこの世界で血液を操る能力を持つのは俺の一族だけだからね」


「ふむ…話に割り込んですまないがお主のその言い草なら余程強いのだろう?何故自分で戦わぬ?」


「そうだな。まあ簡単に言えばキラレイスとは今後も良い関係を続けたい。けれどピエトロは邪魔だ。もし俺がピエトロを殺せば国際問題となるってところかな」


「じゃから、アベンの手を汚させると?」


「母、気にするな。汚れは石鹸付けて洗えば落ちる」


「いや、そういう問題じゃあないが…まあ良いか」

取り敢えずいい加減に降りて欲しいが、またジジイに人質にでもされたら面倒だ。別段重い訳ではないので暫くは放っておくか。

「じゃあ、取引成立だ」


「ああ、そっちこそ約束を違えるなよ。あともう1つ私的な事だがいいか?」


「ん?なんだ?」


「あの竜種が大人しくしてんのは卵にかけた魔法と同じ物か?」


「っ!!お目が高いね!シャード、ちょっとアレ持ってきて」

シャードと言うのはどうやらフード女の事らしい。ギョッとした顔をしたかどうかはわからないが国家機密だ、術式漏洩だとよくわからないことを言っていたが王の命令だと一蹴されてしまっている。

「もうちょっとだけいいかな?」


「ああ」


「お持ちしました」


「ありがとう。さて、アベン。君から見てこれは何に見える?」

シャードの持ってきたものを掌に乗せ此方へと見せてくる。

扉に魔法が付与され淡く光っていたようにこの石にも何やら魔法がかけられているのか淡く光っている。それ以外はなんの変哲も無いただの石のようだ。

しかし大老はそれを見るなり腕に力を込める。結果的に若干首を絞められてる事になり絞め殺されないか心配だ。

「君、魔法適正は?」


「無い」


「なるほど。じゃあ、あの能力は固有技能か。観察眼系の固有技能ならわかったかもしれないけどね。これは封竜魔法を応用した魔法道具。まだ試作段階だけどね」


「へえ、でも竜ってのは高い魔法耐性あるんだろ?効くのか?」


「それは今あそこに磔にされている奴を見ればわかるだろ?これは竜の特性や能力を封じ込める魔法。だから高い回復能力を持つあの竜もああやって逃げられないように下半身を捥いでおける。凄いだろ?うちの技術顧問は世界一さ」


「へえ…それあれか?体に埋め込むのか?それとも石に魔法をかけて加工でもするのか?」


「どっちも出来るけど基本的には埋め込む感じかな」

なるほど。大老からすれば恐怖に感じるのか。いかに自分が究極とも言える魔法生物とは言えど得体の知れない、ましてや今、目の前で同族がああして力無く磔にされているのだから。より一層力を込められる。少し息苦しくなってきた。

「それ、貰っていいか?連絡が途絶えて新たに竜でも送り込まれたら悪いが俺や俺の家族が死ぬ。それは勘弁だ」


「あ、まあ大丈夫だよ。一応解析は出来ないようプロテクトはかけておくけどね」


「ああ」


「さて、今日という日を祝うとしようか。せっかくだから一緒に闘技を観ないか?もうそろそろ君の娘の試合が始められると思うし」


「いや、すまないな。先客がある。悪いがそっちを優先させてもらうぞ」

奥さん怖い?などと聞いてくるがそもそもあの2人との関係など此方が一方的に利用出来ればするだけなのでそんな感情すら向けた事ない。まあ、イカレ具合で行けば中々に怖くはあるが。怒るとなとだけ言っておこう。

「なるべく早めにお願いな。なんせ、大会はあと3日しかないのだからね!」

最後にリストを渡され案内されて出口へと向かう。

自分とエマを含め6人。フロストの名前には横線が引かれているのでもう採取したのだろう。他はまあ見覚えのない名前だが手短に済ませられることを願おう。

大老は相変わらずガッチリと腕を頭の後ろに組んで離そうとしてない。取り敢えずさっさと行動に移るか。





「…爺や、例の件は?」


「はっ、既に多くのものが賛同し我らが国へと向かって来ています」


「そうか…シャード、首尾は?」


「はっ、影数名がアベン及びその関係者の追尾を行なっています。今から私も監視に戻る予定です。それと、おそらくですが今日中には霧の森の関係者…竜と接触するかと」


「ふむ…わかった。小型封竜爆弾は渡した。後は一網打尽にして、残った竜は俺が狩る。それに邪魔な男もアベンと相討ちか手傷を負わせられる。全て上手くいくとは限らないからな。次の一手も考えておかないとな」

上手く言ったと内心ほくそ笑みながらも油断はしない。竜種を手名付けているような奴だ。そんなに簡単に殺せるとは思えない。

黒い感情を押し潰しながらも気を抜けば頬が緩んできてしまいそうだ。

「覚醒者も、帝国も何もかも。この俺の前に平伏す日が近い。研究を進めよ。国ではない、俺の為にだ」

若き王はその野心を胸に行動を開始しようとしていた。






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