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四匹目 薬と見える世界

「おぉ!バーベラ!」

 領主は娘に抱きつきながら泣いていた。俺が部屋に入った時にはこうなっていたので…まあ、どうやら上手くいったようだ。だが、どうにも魔道士が睨んできているが無視しよう。相手をすると面倒くさい。


「お、お父様…?私は一体…?」


「私が治したのですよ。バーベラ殿」


 魔導士は娘の前に立つとなにやら自分の胸に手を当て会釈する。俺としてはこの空間にいたくないので早く出ていきたい。


「あ、貴方は?」


「王国魔導士。シャガ=トレニアと申します。バーベラ殿を治すべく遥々来ました」


「そうなのですか。あの…ありがとうございます」


 面倒くせえな。無言で出ていってもいいかなぁ…


「そちらの方は?」


「時代遅れの薬師など放っておきましょう。ささ、お体に触るでしょう。おやすみになられた方が良いかと…」


 そう言って寝るようにシャガが促している。役に立つじゃないか。話しかけてきても話したくないので助かる。


「すまない。薬師殿」


「いえ。よくあることなんで。娘さん起きられて良かったですね」


 小声で領主…アーノルドが話しかけてきたので心にもないことを適当に言っておく。彼の娘も魔法使いである以上何かしら言ってくるだろうし、用が済んだのなら早く帰らせてもらいたい。


「お父様。私はもう少し寝ることにします」


「わかったよ。ああ、よかった。このまま目覚めなかったらと思ったら…」


「大丈夫です。私はお父様を置いて…逝きません」


 そんな会話している横で先ほど咲いた花を回収しにいく。咲けば種をつけてまた再利用できる優れものだ。まあ、本来は貧しい土地で育つ花だから即座に種をつけるのは半身達の品種改良のお陰だ。


「おやすみなさいませ。お父様」


「ああ、ゆっくり休んでくれ」


 領主に促され、そう言って部屋から全員を出る。…帰っていいよとも言われないので先ほどの奴隷と話でもしに行くか。


「はははは!!薬師!どうやら私の方が有能のようだな!」


「有能有能。凄いな。流石、王国魔導士様だ。さぞ、モテるんだろうな」


「はははは!お前のような低脳でもわかるか!私の回復魔法で治せぬものなどない!」


 それは流石に言い過ぎだと思うが…面倒臭そうだし上機嫌だから放っておこう。できればこれ以上は関わりたくない二度と。


「お二方。ありがとうございました。娘が起きられたのはあなた方のお陰です」


「アーノルド殿!おやめください!私ならともかく薬師風情に頭を下げるなど!」


「あのー…えー…帰っても?」


 特に顔色も変えずに言っていると隣でシャガが睨みつけてくる。そんなに嫌いならいちいち突っかかって来なければいいじゃないか


「もうじき、夜になります。どうか今日は泊まっていってください」


「ええ!バーベラ殿もまだ回復したばかり本調子に戻るまでは私も尽力を尽くしましょう!」


「…」


 テッドの家の布団よりは寝心地はいいだろうし…すまないなテッド。




 豪勢な食事をご馳走してもらい。泊めてもらえる。中々幸運だったな。部屋の中は娘程ではなくてもかなりいい。高級宿屋なんてものもこんな感じなのか?試しに今度泊まってみるのもいいな。


「…ああ、そうだ。お婆ちゃんの薬作りに行くか」


 いけない。心労がたたり過ぎて寝そうになったが忘れるところだった。ドアから出るのは誰かに見られるかもしれないので窓から出ることにする。窓を開けると夜風とかすかに聞こえる虫の声が部屋の中に入ってくる。生憎と灯も無いので月明りだけを頼りに村へ戻る。


「3号。村まで案内を頼む。暗くて迷いそうだ」


 小瓶から橙色の液体を床に垂らすとスライムへと変わる。基本的にいくらでも分裂はできるので奴隷のとこに付けてきた分裂体がいなくても問題はない。


「ジェリルゥゥ…」


 橙色のスライムは鼻も目も無いが辺りを見回すと問題ないとでも言いたげに頷く。


「村の匂い覚えてるか?もしくはあのデカイ蚊の匂いでもいい。死んでから半日経ってるから微妙に屍臭な奴だ」


 待ってましたと言わんばかりにその場で跳ねる。


「ジェ…ジェリリリ!」


 窓から這いずりでると、こっちだとでも言いたげに淡く光りながら先導してくれる。


「よしよし。いい子だ」


 そのスライムはずりずりと体を擦り付けて移動する割にはどんどん加速していき、やがて馬車程の速さになる。それを少年はやっとのことでついていく。正直速すぎて若干見失いかけたが。案内を任せるといつも調子に乗ってああだ。


「あれ?あの蚊なんて言ったんだっけかな…ああ、パラモスキートだ。我ながら酷いネーミングセンスだな」


 とりあえずそんな名前付けたが実際なんて言われてるのかは知らない。まあ、あれに刺されるバカなんてそうそう居ないから大丈夫か。


「ジェリ!ジェリィイ!」


「はぁはぁ…もう村か。よくやった3号。あとで半身戻ってきたらご褒美をやろう」


 そう言うとまるでその言葉を理解してるかのようにくねくね…いや、ぐねぐねして小瓶へと戻っていく。相変わらず訳の分からに奴だ。


「さてと」


 走ったせいで上がった息を整えると昨日お世話になった家へと向かう。まあどうせ寝てるだろうしと思い近づくと家の中に灯りがついていた。


「なんだ、起きてるのか?それとも偶々か?」


 まあどちらでもいいかとドアを叩く。パタパタとドアに知数いてくる足音がして続いて声がする。


「…こんな夜中に誰だ?」


「俺だテッドさん。薬作りに来た」


「おお!アベ坊か!入れ入れ!」


 返事した瞬間に勢いよくドアが開き腕を掴まれ中に入れられる。力強すぎるだろ、こいつ…


「よく無事だったなお前。あの領主の屋敷に行ってよぉ…」


「中々いい人でしたよ。なんか娘が目覚めねえから部屋に花飾って来たら覚めた。それより台所借ります」


「いい人…いい人なぁ。しかし花?なんだ神頼みか?」


「まあ、そんなところです」


 そんな話をしているとお婆ちゃんの部屋とは違う部屋からミリアが出てくる


「あら?アベンさんじゃないかい。こんな夜更けに如何したんだい?」


 少し驚いたような表情を見せたもののすぐにいつものようにもどるミリアさん。多分チコを寝かしつけて来たのだろう。


「薬作りに屋敷から抜け出して来ました。あのデカイ蚊ってどこにあります?」


「ああ、あれなら裏にあるよ。チコが『お婆ちゃんの薬!」ってご飯の時まで離さなかったよ」


「わかりました。鍋は…まあいいか。熱魔法とか使えます?」


「ああ、使えるよ。言っても私は第二門。テッドはまあ第三門まで使えるが土系しか無理だね」


 門…たしか魔法には第一門から第八門まであるとか…そういう話を聞いた覚えがある。いや、正直に言えば使えないものに興味など湧かなく聞き流していたのだろうが…練習すれば第三門あたりまで使えて。魔法を学ぶ学校に行けば第五門。そして人の最高である第八門まであるとか…だったはずだがまあ、楽させてもらうとするか。


「あー、熱魔法でえーと…パルモスキートを温めてもらって大丈夫ですか?」


「構わないけど…うん?そいつの名前パラモスキートじゃなかったかい?」


「…噛みました」


 もう、蚊でいいか。


「アベ坊。俺はどうしたらいい?」


「えーと…土系なら『圧縮(プレス)』でしたっけ?あれ使えますか?」


「出来るぜ。ガタガタだけどな…」


「それじゃ温めたら『圧縮』で押しつぶしてください」


 なにを言われてるのかわからない状態のままミリアは蚊を温め始める。しばらくすると辺りに甘い匂いが立ち込め始める。吐きそう。


「あ、大丈夫です。そしたらテッドさん。潰してください。なるべく体液を飛ばなさいように…」


 テッドが魔法を使い蚊が魔力に包まれるとゆっくりと全方位から蚊を潰していく。ミシミシ、ギシギシと音がし始めてそれからぶちゅんと汚らしい音がして…見たくもない。


「こ、こんなのから薬作るのか?」


「そうです。まあちょっと慣れてないとこの甘ったるい匂いも気持ち悪くなりますからね。大丈夫です。あとはこっちでやるので」


 この甘ったるい匂いの正体は毒だ。体内にある毒袋が温められ破裂して出てきたのだが直接体内に入れるわけではなくあくまで毒の匂いなので害はない。少なくとも前に実験したときはなかった。あとはある程度混ぜ、無駄な脚や他の部分漉しとれば完成までもう少しだ。体内に毒消成分が含まれているため今回は楽にできた…いや、実際は体を熱して焦がさないようしてから毒袋を破裂させ…いや、マジで面倒くさい。魔法が使えれば体液中から解毒成分だけを取り出せるが残念ながらできない。


「ネトネトしてるねぇ…」


「しかし、婆ちゃん。こんなデケエ蚊が目の前きたら普通気づくだろ」


「これは成体だからな。何回か脱皮する前は普通の蚊のサイズだよ」


「脱皮すんのかよ。ますます気持ち悪いな…」


 テッドがそんなことを言ってる間に摘んできた薬草と体液、それに市販の解毒ポーションを少し混ぜ、ミリアが用意してくれた椀に入れる。しばらくすると粘性のある緑色と黄土色を混ぜたような粘性の物が出来る。これで完成だ。相変わらずつなぎとして使える薬草は便利だ。こいつ無かったら廃業してるな…いや、そもそも顧客なんてほぼいないが。しかし、最初に薬草を見つけた時代が薬学活性時代だったとはいえ、そのまま薬草なんて名前つけるのもどうかと思う。覚えやすくていいが。


「完成したよ。あとはお婆ちゃんの瞼に塗れば治ると思う。夜、寝る前に塗るだけで大丈夫だから。見え始めたら少しずつ量を減らして言って。使い切らなくてもいいから残ったら保存しとけばまた刺されたときに使えると思うよ」


「おお!まじかよ!アベ坊、薬師みたいだな!」


「薬師だって」


「アベンさん。ありがとうございます」


「いえ。薬師は薬を作ることが仕事ですから」


 二人は礼を言うとお婆ちゃんの部屋へと入っていく。まあ、一宿一飯の礼だからな。あとでアフターケアにも来るとしよう。しかし相変わらず考えのまとまらない人間だな俺は。


「じゃあ、俺はそろそろ戻るので」


「おう!またいつでも来いよ!」


 あの毒で目だけが見えなくなるなんて運がいいのか、悪いのか。どちらにせよいい被検体が

出来た。ドアを静かに閉じてアーノルド邸までまた走りだす。今度は道覚えたから大丈夫だな。

 まあなんというか…色々と疲れたから早く寝よう。



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