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四十七匹目 ピエトロ

あけましておめでとうございます(激遅)

ちょっと忙しくて投稿遅れました。今年一年も無理のないペースで頑張っていきますんでどうぞよろしくお願いします。

「はは、はははっ!いいですねぇ!やはり、これくらい骨があると楽しいですよ!アベン君!」


「手前、騎士のくせにこんな人前で暴れまわんじゃねえよ」

防戦一方。そもそも、この男相手に近接で挑もうものなら簡単に細切れにされる。生憎と遠距離から攻撃できるのは縄鏢のみ。

往来の人間は慣れているのか自分達の周りを囲み、楽しんでいる。

国を挙げて闘技大会なんて行っているのだ。もしかすると日常茶飯事なのかもしれない。

「右、左、左、右、右。ほらほらほら!どうしましたか!?」

両手に持った剣を無造作に振るってくる。

タイミングを外しているせいか見切ることは不可能。そもそもスライムがいないとろくに戦闘のできない自分からすれば関係のない話ではあるが。

「本当に面倒な野郎だな」

やられてばかりではいられない。反撃をしなければ。左右3本ずつ、計6本の縄鏢があらゆる方向からピエトロに襲いかかる。擬態した武器は意思を持ち人間の死角からの攻撃を同時に行う。しかし、それすらまるでわかっていたかの様に簡単に片手でさばき、こちらへと向かってくる。

「おい、本物の血濡れのピエロが戦ってるて本当か!?」


「ああ!しかも相手も中々だ。多種多様な武器を使って血濡れと戦ってやがる!」


「お父さん頑張れー!」

だからこの国は嫌いなんだ。どいつもこいつも頭の中は戦いのことだけ。いっそ戦争でもすればいいだろ。

そして、エマは助けろ。今目の前で殺されかけているというのに呑気に応援などしてるんじゃない。

しかし考え事する時間も無く、跳躍で一瞬のうちに距離を詰められるとお返しとばかりに左右から切りかかってくる。

いや、分身していた。

「三年も使ってりゃ上手くなるか」


「「ええ、お陰様でね!」」

長期戦は無理だ。この男の無尽蔵とも言えるスタミナに加えこちらは先程の左腕の出血、それに何度か食らった斬撃による切り傷。1で治してる暇などとてもじゃないがない。出血多量でこのままでは普通に死ぬ。

左右からの攻撃を人垣に突っ込む様に跳び後方へと避ける。

見抜いていたかの様に先に左側から切りつけてきたピエトロが着地すると同時に右から切りつけてきたピエトロを蹴る。右のピエトロも上手い具合に靴で蹴りを受け止め、勢いのままこちらへと向かってくる。無理だ。避けられない。

「いいのをいただきますね」


「チッ…」

後方のピエトロは役目を終えたのかドロドロに溶け血溜りになる。

こっちが本物か。

体を回転させながら切りつけてきたのは一瞬ガードが遅れてしまいもろで食らってしまう。

薄皮一枚、綺麗に切り取られた。鮮やかとしか言いようがなく滅多切りされた顔面は鏡でも見ればわかるだろうが無残なものになってるだろう。

歓声が響き渡る。血が出れば出るほど相手が有利になり、周りのテンションも上がっていく。キラレイスなんかより余程恐ろしい奴らだ。

「どうしました、アベン君!もっと私を楽しませてくださいよ!」


「黙ってろ、変態戦闘狂が」

ヤケクソだ。赤く染まった視界からピエトロを見据えると5を変化させ思い切り薙ぎ払う。予測できなかった攻撃だったのか、それともわざとかピエトロもピエトロで頬に深い傷を受けながら後方へ跳ぶ。しかし、その目に宿る狂気は未だに消えることなくギラギラと不気味に輝きこちらを見ている。

「穂長槍ですか?リーチこそ長いですが、私相手にソレは不利では?懐に入られれば終わりですよ?」


「違う。これは薙刀だ」

槍術なんざできる訳がない。5が勝手に体を使うだけだ。今度はこちらからだと薙ぎ払いからの斬り付けで攻撃を行う。難なく避けられてしまうが一歩前に出てさらに攻撃を与え続ける。

しかしピエトロも痺れを切らしたのか新たに血の刀剣を作り出し投げつけてくる。別に首に刺さったくらいどうとでもなる。無視してピエトロに薙刀を叩きつける。

ピエトロも剣を十字に構え受け止めるが擬態武器はスライムなので自在に変更できる。傀儡の流血よりも使い勝手はいい。槍は溶けるように剣をすり抜けると右腕に巻きつきながら歪な鉄の塊を形作る。


ドズンッ


「ゴブッ…」

薙刀から蒸気杭に擬態した5をピエトロの腹部に押し当てると腕の骨が砕ける感覚と共に腹部に大穴を開けたピエトロが後方へ吹き飛ばされる。

無理な体勢で打ったせいか衝撃は腕だけではなく全身を伝いアベンも背骨を折りながら地面に頭を叩きつけた。

「お、おい!急いで魔導師呼んでこい!どっちも重体だぞ!」


「わかってるけどよ!凄えよ本物の血濡れのピエロだ。それにそっちのニイちゃんもだ。今年は凄えな!あとでサイン貰わねえと!おい、回復魔法使える奴は早く回復を…!?」

魔法をかけようと杖や手を向けた人の手を二つの手が掴む。それは今しがた倒れた二人だった。

しかし大穴の空いた腹部は既に治り始め、同様に首に穴の空いていた者も気付けば座ったまま何やら瓶に入っている錠剤を貪り食っている。

「ふぅ〜久しぶりにいい運動ができましたよ」


「手前、人の首に穴開けといて何、呑気言ってんだ?お陰で増血剤が空っぽになっちまう」


「それを言うなら私は腹部に大穴ですよ。あ、もう治りましたけどね。やっぱり内蔵と違って穴くらいなら簡単に塞がりますね」


「チッ。腸詰めにしてやろうと思ったが上手くいかねえか」


「噂通りだ!やっぱり血であらゆる傷を治しているのか!」

気付けば周りには先程以上に人が集まっている。

こんな血の海を興味本位で見ることはおろかガキですらそれを見て目を輝かせているのは薄ら寒さも若干感じる。

「お父さんすごかったよ!」


「その砂糖まみれの手で触んな。拭け」


「はーい!」


「…なるほど、また罪を重ねたのですね。洗脳罪?誘拐?どれでしょうか」


「さあな」


「すみませんどいてください。あ、ちょっと失礼しますね。ピエトロさーん!ちょっと、何してるんですか!」

ピエトロが何かを言おうと口を開いた時、人垣をかき分け部下らしき男が近付いてくる。面倒なことになる前に退散するか。

エマの手を掴み強引に連れて行こうとするが周りの人間は皆どんな体してるんだと体を触られ、武器を見せてくれと腰に巻きつけてある鉈籠に触ってきたりと好き放題してくる。

「おや、フィン君。今しがた友人とじゃれあっていた所ですよ」


「じゃれ合うって…うわ!なんですか血だらけじゃないですか!お相手さん無事なんですか!?」


「ええ、そこの人垣に紛れ込もうとして逆に質問責めされている彼です。ああ、気にしないでくださいね。私の友人なのでね」

フィンと呼ばれた30代半ばの男はそう言って楽しげに見ている上司を見て次いで友人という少年を見る。あちらもかなりの出血量で服もボロボロでとてもじゃないが立って歩くのすら出来なさそうだが目立った外傷はない。国の中でも化け物と呼ばれるピエトロ相手に本気でないにしろあの程度ならもしかするとかなり強いのかもしれないと考え始める。

「やめておいた方があなた自身のためですよ」


「…わかっていますよ。ピエトロさんの友人。今はそれだけで十分ですので」


「忠告はしましたので。直属の部下ならともかくアイツの部下など私は身を削って守るなどゴメンなので勘弁してくださいね。どうせ監視でしょう?半年の有給もパァですよ。やれやれ」

肩をすくめながら落ちていたブロードソードを鞘にしまうと少年の元へと歩いていく。遅れてしまってはいけないと急いで走り寄ると食事の誘いらしい。着替えくらいはして欲しいものだ。

「チッ…ほら、挨拶しろ。覚醒者さんだ」


「は、初めましてエマっていいます!」


「おや、偉いですね。どこかのアベン君とは大違いですよ。私はピエトロ=アウナレスです。よろしくお願いしますね」


「はい!」


「まあ、近くに私オススメのお店あるのでそこでゆっくり話しませんか?ソックリな娘さんについても是非」


「ピエトロさん!お母さんも呼んできていい!?」


「ええ、構いませんよ。でしたら手分けして…」

〈形態機構 飛翼〉

いつもと違い比較的丸めな翼を背中から生やすと上空に飛んでいく。ピエトロも一瞬大口を開けていたがすぐにいつもの笑顔に戻ると「びっくり箱みたいですね」などと言ってくる。こちらが言いたいほどだ。

先程ピエトロにあった直後に右の人差し指の先に5個ほど卵を植えておいた。エマが飛び立つと即座に肉を食い破り指先から飛んでいく。これで早く見つけられるだろう。

「しかし随分と女性運が良くなったじゃないですか。羨ましいですねえ」


「そうだな。欲しけりゃくれてやるよ。ミアはともかくエマの方は相当腕が立つ。下手すりゃお前ら以上にな」


「では、貴方を捕縛するか殺した後にでもゆっくりと話すとしますよ。ああ、こちらフィン君。双脚の部下です」


「ああ。どおりで育ちのいいボンボンみてえな面してると思ったら」


「むっ。聞き捨てなりませんね」


「喧嘩しないでくださりません?面倒なので」


「同感だ。で、手前なんでこんなところにいんだよ」


「はぁ…休暇ですよきゅ、う、か。クソッタレな王に嫌気がさしたので有給半年取ってせっかくだから見にきたんですよ。闘技大会」


「はっ、愚王も手前の価値と手前の給料天秤にかければ前者とるか」


「ええ、休んで金貰えるなんて最高の職場ですよ。どうですか?貴方も」


「冗談は心臓止めて細切れにされてから言え」

アホなことを言い合っているとフィンが口を挟んでくる。

「ピエトロさん。いくら陛下から優遇されていると言えどその物言いはどうかと思います。最悪国家会議ものです」


「構いませんよ。無能な団長の下や王の下で働くくらいなら傭兵にでもなった方がマシですしね」

フィンは少しイラついた様な顔をしたが即座に切り替え今度はこちらへと話しかけてくる。

しかし直属でないにしろこいつの下で働くなんて可哀想な奴だ。補充できるゴミってことか。なら、別に気をつける必要もなさそうだな。

「貴方がピエトロさんの友人ですか…取り敢えずよろしくお願いしますね」


「安心しろ。こいつを一度だって友人だなんて思ったことはねえ」


「は?」

怪訝そうな顔をするが気にしない。

こいつの上司の名はパドル=ズーマス。ピエトロと同じ覚醒者の一人。瞬天の双脚のパドル。王国騎士団現団長だ。ピエトロから団長の座を奪った奴でもある。

貴族の一男ってこともあり記憶の中にある奴も随分と下民下民と叫んでいた記憶がある。

国一の実力だなんて呼ばれているが真偽の方は知らないし興味も湧かない。奴の部下ってだけで女どもは寄ってきて金も勝手に懐に入ってくる。甘い汁だけ吸ってた奴が急に危険な役回りを任されたってことはそういうことか。

「いやァァァァァァッッッ‼︎」


「おや。早いですね」


「優秀な眼を持ってるんでな」

上空からエマが優しく降り立つが義手に抱き抱えられたもう一人は未だに涙を流しながら絶叫している。

「お母さん、地面着いたよ」


「え?え?あれ本当だ。って、アベンさん!酷いじゃないですか!あんな奴と一緒に行動させるなんて!」


「行動と言動が噛み合ってない」

口ではそう言ってきたが今まさに抱き付こうと駆け寄ってくる。ギリギリで避けると後ろにいたフィンに抱きついたが本人も気づいてなくてフィンも満更ではなさそうなので放っておくことにしよう。

「す、すまない。お嬢さん、いくら私とは言え急に抱きつかれると照れてしまう…」


「うわっおっさん臭!ちょっと避けないでくださいよ!」

自分から抱きついておいてフィンを突き飛ばすとこちらへと来る。自由な奴だ。

「おっさんとは失礼な!これでも32だ!」


「あーはいはい、どうでもいいので。寄らないでください」


「失礼じゃないか!」


「おや、まだアベン君と旅をしていたのですか。悪運が強いのですね」


「うわっ!血濡れのピエロ!アベンさん敵ですよ敵!さっさと殺してくださいよ!」


「随分と貴方に毒されている様ですね」


「残念ながら元からこれだ」

ピエトロが可哀想なものを見る目で見てくるがこの女は会った当時からこんな感じ…だったはず。あまり記憶に無いが。

「まあ、集まりましたし食事でもしながら話しますか」


「そうだな。ああ、服寄越せ。血抜きする」


「おやおや、これはどうも」

どうせ2号の餌台が浮くのだ。ついでだとピエトロから血の付着した上着とシャツを受け取り2号を服に這わせる。あっという間に血を食べ終わると次だと言わんばかりにアベンに纏わりつき体内に取り込んでしまう。

「ぼば、べぶばぼ」


「相変わらず便利ですねえ」


ぺっ べシャア


「丁寧に扱え。ああ、そうだ。そっちの女はカルミアだ」


「知ってますとも。さて、揃いましたし行きましょう。代金は私が持ちますので」


「わーい!」

未だに何が起こったのかさっぱりわからないと困惑しているカルミアを横目に歩き出す。

エマはピエトロに慣れたようだし時間の問題だろう。

フィンは突如現れたスライムに剣を向けていたが無害とわかると即座に剣を収める。

そういえばここ数日ママレードを一切見ないが生きているのだろうか?まあ、いいか。これと言って興味を掻き立てられるものも持っていないことだしな。




「あ、あの本当にいいんですか?」


「ええ、構いませんよ。お金の使い道などこうやって友人と食事を取るときか魔導師を雇う時くらいですからね」

連れてこられたのはそこそこ外観の整った店。そして渡されたメニューを見れば「でかい、安い、美味い」と大雑把に書いてあるだけだった。

ピエトロがオススメですよと全員分頼み直ぐに飲み物が届く。

エマもカルミアも楽しげに話していてこちらを見向きもしない。

ピエトロは相変わらず楽しげにこちらに話しかけてくるが。

「ここ、いいワインがあって好きなんですよ」


「酒が飲みたきゃ酒場に行けよ」


「たまには年代物も飲んでみるのもいいですよ。ああ、貴方は無理でしょうけどね」


「わかってるならそのりんごジュースを渡せ」


「まるで子供ですね」


「黙れ」


「…」


「言いてえことあるなら見てねえで言えよ」

先程から店に入るとじーっと見てくるだけで何も話さなかったフィンは驚いたような顔をすると口を開く。

「アベン殿?は職業の方は?」


「薬師だ。笑いたきゃ笑えよ」


「い、いえ!そんな!」


「コラコラ。そんなに睨んだら怖がりますって」


「黙れ変態戦闘狂が」


「おや、そうしたのは貴方じゃないですか。アレを知ってからではとてもじゃないですがマトモな人間とやりあってもつまらないんですよ」


「鎧骨辺りと楽しくやってりゃいいだろ」


「ドレート君は今、帝国との和平に向けてイクゥアさんと頑張ってますよ。近々王同士の会合を行うらしいですよ。まあ、敬語頼まれましたけど蹴ったんですけどね」


「一番任せちゃダメな2人だな」

世間話のつもりなのだろう。だが、聞いていたフィンは顔を真っ青にしている。

「国家機密…」などと聞こえたが気のせいにしておこう。

「シート君は相変わらず国の中に引きこもっていますよ」


「ああ、あいつなら国から出なくても見通せるだろうしな。だが、そう考えると外回りはお前だけか」


「いえいえ、マルクトさんも頑張っていますよ。まあ私は相変わらず出来損ないの覚醒者なんて呼ばれてますけどね」


「3年前はだろ。今はもう手前の勝てる奴なんざドレートくらいだ」


「パ、バドル団長もです!あの人は誰よりも…」


「あれはダメだ。つまらないし興味もわかない。むしろキラレイスの連中が出来損ないと呼ぶ奴の方がよっぽど完成度が高い」


「貴方に何がわかるのですか!先程からずっと上から目線で!」


「少なくとも手前以上には覚醒者について知っている。それにこいつは進化していく。前は視界内の全員を無差別にだったが今は視界内の対象のみ絞って攻撃してきた。それに比べて奴は何も変わらない。非常につまらん」

しかし面倒臭いなこいつ。唯一のいいところと言えば見下してこないところだ。それだけいい暮らしをして来たのだろう。羨ましい限りだ。

「アベン君、あまりフィン君を虐めないでくださいね。彼は糞団長に憧れて騎士団に入ったので」


「手前も少しは言葉を選べ、副団長」


「はは、ああ料理が来ましたね。冷めないうちに食べましょうか」


「「いただきまーす!」」


「おやおや」

ピエトロは先程からカルミアとエマを優しげな目で見ている。こいつにそういった感情があるのかは不明だが、この先何があったらこいつにでも預けておけば多少はまともな人間になるのだろうか?

パンパンになった頰を動かしながら目を輝かせて次から次へと運ばれてくる料理を食べている姿は微笑ましいとでも言うのだろうか?

「アベンさん?食べないんですか?」


「ああ、考え事していた…お前ら鱈腹食えよ。ピエトロが金払うってんだ。財布の中身が素寒貧になるまで食ってやれ」


「わかりました!」


「ほへ、おふぁはりくらふぁい」


「見かけによらず沢山食べますねぇ。いいですよ、じゃんじゃん食べてください!足りなくなったらアベン君も出してくれるそうなので!」


「ふざけるな」

結局彼女達はその引き締まった体のどこに入るのかと言うほど食べた。フィンもドン引きするほどに。ピエトロは楽しげに。俺もほんの少しだけ財布の紐を開けたがまあ、誤差の範囲だ。





「いやー、いい食べっぷりでしたよ。払う私もいい気分です」

食後に街を散策しましょうと連れ出されるとカルミアとエマは行きたいところがあるとそそくさ行ってしまった。フィンはなんだか上に呼び出されたらしく遠距離通信用の魔法陣へと向かった。そういった物のある施設があるらしい。魔法の使えない自分には無縁な話だが。

そして特に見るものもなく適当な木陰で2人して座って涼んでいた。

「あいつらの食費だけで俺の金が吹き飛ぶ」


「あ、でしたら私の部下になります?三食寝床付きですよ?」


「蛆でも湧いてんのか手前の頭は?」


「冗談ですって。ところで薬以外どうやって稼いでるんですか?結構持ってましたよね」


「うん?小麦粉売りだろ、この間はコンゴウダケを取りに行ったが失敗したな。それにゼラニウムからふんだくった分に世界の眼の…死見の魔眼のあいつ。上客だったな」


「過去数度。貴方と世界の眼のヘムリスの接触が目撃されてます。証拠はバッチリですよ」


「そうか。連中が手を出して来なけりゃこっちも騒ぎにはしねえよ」


「やれやれ…最近活動が活発になってきましたんでね。気を付けてくださいよ?たかが過激組織如きに殺されるなんざ笑えませんからねえ」


「そうさな」


「……」


「……」

敵対しているにもかかわらず2人の間に流れる空気は穏やかなもので先程殺しあっていたとは全くと言っていいほど思えない。

静かに時間だけが過ぎていった。

「……ああ、なんだか久しぶりですよ。こんなにまったりと過ごすのは。覚醒者になってからは毎日慌ただしかったのでね。気を抜ける日があるのはいいですね」


「手前は部下さえいなけりゃただの唐変木野郎だからな」


「相変わらず口が悪いですね。

私は結構まっすぐな性格だと思いますよ?」


「どうだか。さっさと女でも見つけて腰を下ろせよ」


「まあ、いるにはいますが…もう、何言わせるんですか」


「30近いおっさんが顔を赤らめるな気持ち悪い」


「ははは」


「「……」」

街はお昼を過ぎても尚、人が大勢行き来するほど賑わっている。

なんだか、これだけの人間を見ているとまるで…

「死の街…かつてはあそこもこれほど賑わっていましたね」


「…」


「もう3年も前の話になるんですよね。貴方が病魔を招く者になったの。いやー、私も流石にあの時は死ぬかと思いましたよ」


「人一倍楽しんでいたくせしてよく言うな」


「おや、覚えているのですか?そんな体になる間のこと」


「断片的にな」


「ちゃんとカルミアさんとエマさんに話したんですか?家族に隠し事は良くないですよ?」

冗談くらいの気持ちでピエトロが言うと珍しくアベンは感情を表に出しながら睨みつけてくる。

とは言っても眉間にシワがよっているだけでいつも通り色の付いたガラス玉のように感情の籠らない目をしている。

「そんなものはこの世界にない。あってもどちらにせよ自分自身のせいで無くした」


「ですが彼女達は…」


「ピエトロ、それは連中の思い込みだ。考えてもみろ。こんな頭のイカれた野郎についてくる奴はいるか?」


「…元奴隷に、もう1人は?」


「帝国の殺戮兵器。500年前のアレの実行犯だ」


「とんでもないもの拾いましたね」


「勝手についてきているだけだ」


「ははは、これは失礼しました」

絶対にそうは思ってないな。

「最悪、俺はこの国を滅ぼす。流石にあの馬鹿どもでも怯えて離れてくだろうよ。そん時は頼んだぞ」


「はぁ、卵盗んだ方だけで勘弁してくださいよ。私だって自由に観光したいですしね…でもまあ、今回だけは大目に見ますよ。この世に唯一残された家族の頼みですものね。邪魔者、頼みましたよ?」


「だから違うと言っているだろう。それに竜どもが勝手にそう言っているだけだ」


「その割には頼みごと聞いてるじゃないですか。今回もそのせいで闘技大会なんて出てるのでしょう?」


「話した覚えはなかったが?」


「監視くらいつけてますよ」


「そうか」


「そうです。森で確か5人くらい殉職しましたね。あの霧はなんなんですか?」


「冥灯蛾の鱗粉と同じだ。魔力を使える奴なら体内に入れただけで魔力が勝手に増えていく。容量が越えれば運が良ければ寝込むだけだが一生起きねえだろうな。まあ、悪くて普通に死ぬ」


「言っていいんですかそれ?」


「手前はあそこに何がいるか分かってるんだろ?なら、不用意に手を出せば…なあ?」


「はは、竜とも戦ってみたさはありますが…そうですね。まだ死にたくはありませんからね」

少しだけ寂しげな表情を浮かべるとすぐにまた何を考えているのかわからないニコニコ笑顔に戻る。

「ああ、そうだ。腕のいい魔導師知りません?裏の人間でも構わないので」


「薬師に対して魔導師知ってるかなんて馬鹿なのか?」


「それもそうですよね。すみません」


「病人か?俺がみてやろうか?」


「勘弁してくださいよ」


「冗談だ」


「貴方でも冗談とか言えたんですね。驚きですよ」


「俺だって冗談くらいは言える」


「なら、笑いましょうよ?ね?」


「死ね」

そう言い残すとこちらを見ることもなくさっさと歩いて行ってしまう。もう少し話をしていたかったと思うが我慢することにしよう。

特に否定することもなく話を流したと言うことは了承してくれたのだろう。

何度か頼んだことがある。決まってその時は食事を奢り、こうして2人きりでどこかでのんびりと過ごし頼むのだ。

「これでやっと自由に観光できますよ。それに毎年殺し合いを好き好んで行なっている国ですし良い魔導師がいるかもしれませんね」

ふふっと笑みをこぼすとピエトロも立ち上がり人通りの中に消える。

その数分後だった街の中でサインだなんだと絡まれていた時、騎士団らしき人物の惨殺死体が見つかったと息を切らしながら走ってきた者に言われた。パドルからの監視もいなくなった。これでゆっくりと休暇を味わえる。

「おや、それは大変ですね。案内してくれますか?フィン君のところへ」

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