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四十四匹目 ママレード

なんか久しぶりな気がする…

「なによ、なによ。あの殺人鬼もそんな人間らしいとこあったの」


「お、親心とかあったんですね」


「あは、あははは…散々な言いようですね…」


「おっと、ごめんなさいね。私達は思ったこと全部話しちゃうの。でも悪気があったわけじゃいのよ。許してね」


「はい」

レイと呼ばれていた長い髪を左右で縛っている女性はおしとやかに笑い、オーと呼ばれた短く髪を切り揃えた女性はおどおどと、なんだか不思議な人たちだとカルミアは思った。

エマは旅の疲れからか膝を枕にして寝ている。本当に愛らしい子だ。アベン以外に見ているだけで心が軽くなるのは初めてだ。

「まあ、それはいいとしても。お嬢様が

迷惑をおかけしてるわね」


「ご、ごめんね」

そう言って部屋の端に視線を移すとママレードともう一人少女が何やらもめていた。

「私と契約したらね、絶対にあの男以上にいいことなんだって!」


「それを決めるの…アベン…ミスト…アベンの物」


「だーかーらー!契約を切ってちょうだいって!もしくは他の竜を紹介してよ!」


「それも…無理…今繁殖期…ミストも…アベンと繁殖?」


「な、ななな何言ってるの!?あんな男のどこがいいのよ!」


「アベンと…ミスト達…本質が一緒…」

聞き捨てならないことが聞こえたが聞かなかったことにしよう。それにあの人が異常なほど竜に好かれてるのはわかっている。何故かこぞってアベンの元へ来るのだ。無論アベンからすれば発情した竜種という貴重な観察対象としか見てなさそうだが…

「繁殖期終わったら…ヴェノ…来る…ホワイト…マザー…スパイク…大老は…いいや」


「1匹くらい私に合う竜いないの⁉︎」


「大老に…聞いて」


「ねえ、カルミアさん!貴女竜達のいた森にいたんでしょ!もっと話のわかる方いないの?」


「え、えーと…多分ミストさんがマトモだと思います」


「ねえ、お嬢様。そもそもこいつ本当に竜種?さっき元の姿見たけど、竜というか異界種にしか見えなかったわよ。そう名乗ってるだけじゃないの?」

突然そんな質問をレイがしてきた。ミストがこちらへやってきた時レイだけは訝しげな眼で見ていた。確かにミストの姿は竜の中でも特殊らしく普段収容されている翼にあの顔なら信じられないのも無理はない。

「私やオーの最優先事項はお嬢様の身の安全の確保。なら、得体の知れない貴女を疑うのはおかしくないでしょ?」


「そ、そうだよ。それにわ、私達も強いから貴女からな、何も感じないし強くなさそう」


「レイ、オー。その位にしなさい。その人は竜。それは私が知っているわ。だから…」

やめなさいと言葉を続ける前にミストに遮られる。

ニヤリじゃないにちゃりと粘着質な笑みを浮かべたミストは待ってましたと言わんばかりに拳を構える。

「よかった…お腹…空いてた…エルダー個体…美味しいし好き…」


「エルダー個体⁉︎え、人間にもあるんですか?」


「いえ、二人とも魔物よ。魔法使いの生霊レイスに豪腕無双のオーガ」


「まさかこんなにも早く…あれ、もしかしてアベンさんってこのこと知らないんですか?」


「え?ああ、そうね。話してなかったわ」

これは褒められるのではないか?エルダー個体見つけましたと。アベンの言う通りエルダー個体は人間になる事が実証されてたと。もっと言うなら知り合いだったと。

やったと内心ガッツポーズしていると騒いでいたせいかエマが起きた。寝起だからか、それとも図太いのか今の状況を見ても特に反応もせずにおはようと呑気に言っている。

私も私で展開が急すぎるにも関わらずこんなにも落ち着いてられるのは慣れたということなのだろうか?

「エルダーレイス…エルダーオーガ…勘違いしてる…」


「なんです?」


「下級魔物と…中級魔物が手を組んで…

も…勝てる訳ない…分をわきまえて…」


「ちょっと本当にここではやめて!せめて外で!」

一触即発とはこの事だろう。巻き込まれないうちに離れるとしよう。

立ち上がったのが合図になったのか、たまたまか先に動いたのはレイとオーだった。

「『氷結槍』!」


「おりゃあっ!」

レイは何十にも及ぶ氷でできた槍を。

オーは何処から取り出したのかメイスをミストへと叩きつける。

しかしミストの言葉通り衝突した魔法はまるで最初から無かったかの様に霧に溶け込み、オーのメイスも宙を切る。

「はは…本当に…知能上がった…?」


「このっ‼︎」


「ならこっちはどうです!『紫電の剣』‼︎」


「あは…あはは…それは知らない…エルダー個体も…個性魔法…使えるんだ」


「ねえ、本当にやめて!馬車が壊れちゃう!オー!レイ!ストップ!ストーーップ!カルミアさんも竜を止めて!」


「個性魔法…確かその魔法を使う者以外には使えない魔法でしたよね。そうだとするとやはり、完全に人間になったということ?でも、ゴブリンメイジや多少知性のある魔物は使えるはずです…と考えると紫電魔法…確か18年前に紫電のゼニスと呼ばれる方が使っていて、そうなると確か魔物に食われて死んだはずだったから、オーさんが魔物の時に食べたのかな…食性によって人間になった時に使える魔法も、固有技能も使えるようになるのか?どうなんだろう…」


「あ、ダメそうね…」

しかし幸か不幸か本気を出したオーとレイ相手にしても子供と戯れるが如くミストは片手軽くあしらい背中から新たに生えてきた腕で2人を掴むと床に叩きつける。

「所詮は…雑魚…」


「くっ…」


「どこから…食べる…腑…眼…脳…」


「ちょ、ちょっとミストさん!その人たち殺したらアベンさん怒ります!」


「アベンが…じゃあ…いらない」

大きく口を開け今まさにレイの頭に噛り付きそうだったのをすんでで止める。

あの人は冗談や脅しじゃない。本気で今食べるところだった。流石にエマの前でそんなえげつない物を見せられては困る。それに殺されるのも困る。

「人間…」


「⁉︎」

鼻先がぶつかり合うほどの距離でミストがママレードを凝視していた。

その瞳に映るのは魔物達の主人ではなくただ、ただ圧倒的な力の前に為す術なく殺される寸前の女性。そうカルミアの目には見て取れた。

「竜は…たかがエルダー個体…如き…使役できた程度で…契約しても…喰われるよ?」


「……」

再び笑顔を浮かべると床に叩きつけられ気絶した者、或いは今だに敵意を向けて来るものを一瞥するとスキップでもするかのようにこちらへと歩いてきてじっと、興味深げにエマを見る。

「……」


「えーと…」


「大丈夫…妹…弟…どっちかだから…人型か…竜型か…」


「なんの話ですか⁉︎」


「新しいお母さん?」


「エマーっ⁉︎」





アベンが部屋に入ってきたのはどのくらいだっただろうか?エマとミストはすっかり仲良くなり楽しげに話している。そう2人だけがだ。オーとレイ、それにカルミアとママレードの間には重い空気が流れていた。日が沈んだせいなのか天井あたりの装飾品の1つが淡い光を放つと部屋の中が明るくなる。魔法道具の一種か?

この馬車も契約者…ママレードの魔力によって空間を作り出し屋敷丸ごと一個収納して、馬車として移動できるという物らしい。伝統云々だ下界の魔法や道具は魔の道から外れただ、古臭い教えや純血ばかり気にしていたような生まれ故郷では決してお目にかかれないものだっただろう。そんな事を考え始めた頃だった。扉を開けアベンが部屋へと入って来る。それを合図にそそくさレイとオーは夕食の準備に取り掛かりますと部屋を出て行った。

「どうした?」


「ミスト…運動した…」


「そうか。いい竜は教えてもらえたか、ママレード?」


「そんなわけないじゃないの!床をこんなにして!2人を傷つけて、なんでこんな話の分からない子なのよ!」

激昂されるが指輪から勝手に出てきているのでどうしようもない。

それに話の分からないってのはおかしい。

「こいつは竜たちの中でマトモな部類だ。喧嘩さえ吹っかけなければ」


「えへん…」


「絶対嘘でしょ?他にどんなのがいるのよ、独り占めしたいのはわかるけど強欲は身を滅ぼすわよ。さっさと教えなさいよ」


「他、他か。そうだな、人の体内に卵を産み付ける奴。人間嫌いで見ただけで襲いかかってくる奴。卵を奪われて今まさに国を滅ぼそうとしている奴。言動が訳わからないがエゲツない能力の奴…話わかるのはあとどれくらいいる?」


「んー…いない…」


「だそうだ」


「契約違反よ。やっぱり私も出る!」

別に出るのは構わない。どうせ昔1.2週間行動しただけだ。どこで死のうが興味はない。正直今回も再会しなければ思い出さなかっただろう。その程度だ。

「あのー…もしかして私あの時やばかったのですか?」


「少しでも離れてたら今頃頭が水風船見たく破裂してたな」


「ホワイト…人間嫌い…アベンと…それに今度は…カルミアも」


「私は?」


「エマ…大丈夫…ミスト伝えとく…それと一番いいのは…生まれたばかりの子…」


「え?あの無視…」


「マグネスとエレクト。2人が卵を奪われた、それを取り返す。さっき話したな?それさえあれば温厚で砂鉄と静電気食って生活してるような連中だ。多少人間不振にはなってるだろうが竜が欲しいならそれくらいはどうにかしろ」


「うっ…わかったわ。本当に?本当よね?絶対ね?契約書にサイン書かせてもいいかしら?」


「信じられないなら別に構わない」


「ならいいわ。サンミュルに着くのは早くて一週間後よ。それまでは交換で馬車の運転頼むわよ」


「悪いが御者できるのはこっちには俺しかいないからな」


「構わないわ。元からカルミアさんはともかくエマちゃんにはやらせる気は無かったから」

まあ、子供だしな。見た目だけは。

中身は覚醒者と同様か下手すればそれを超えるほどの化け物兵器…ああ、ナターリアと面識あったからガキの形した兵器ってのが嫌がってたのか。

アナグラが成長した姿は知らなかったところを見ると映像の中にあった生き返った直後以降は会っていなかったのか。

「お父さん、私も今度森に行きたい!」


「そのうちな」


「約束だよ。指切りげんまん」


「…ああ」


「仲良いわね」


「ガキ相手に嫉妬する馬鹿はいるがな」


「当たり前じゃないですか!もっと私も相手してくださいよ!」


「ミスト…いない子扱い…悲しい…」

本当に面倒くさい連中だ。いっその事4号に全部任せるか。

いや、むしろその方がいい気がしてきた。

「今思ったのだけれどここに今、男なの貴方しかいないのね。どうでもいいことだけど」


「…居心地悪いから外で過ごす」


「あ、ちょっと待ってくださいよ!」


「お父さん大丈夫、怖かったら私一緒に寝るから」


「星の下で…寝るの久しぶり…」


「…いいかエマ。お前はミアとミストを引き留めておけ。俺は少しやる事があってな。危ないから2人を巻き込みたく無いんだ。わかるな?」


「うん、わかった!」

なんとなくこいつは扱いやすい。懐かれていて洗脳されているとは言え戯言をよくもまあ信じられる事だ。

「そういう事だ、ママレード。そいつら頼んだ。明日の朝になったら戻ってくる」


「わ、わかったわ」


「アベンさんちょっと待っ」


「お母さんお風呂はいろ!」


「え、あ、うん」

洗脳か…投薬実験でもしてみればエマを最優先に考えるように作り変えることも可能かもしれないな。そうすれば色々と楽になる。

「あ…ミスト…そろそろ帰る…」


「じゃあ、お前は来い。むつ月の末には闘技大会が終わってる。その時に卵を取りに来てくれ。仮にマグネスとエレクトが来るなら人間態で来るように伝えといてくれ。上位個体じゃなくても出来るんだろ?」


「わかった…子の為なら…親は頑張る…」


「そういうものなのか?まあ、いい」

ミストを連れ廊下に出ると一番大きな扉を開ける。

一瞬くらりと脳を揺さぶれられるような感覚と共に馬車の外に繋がった扉をくぐり抜ける。あたりは完全に暗くなっており夜行性の魔物達も動き始めている。ご丁寧に馬小屋まで馬車の中にあるのだから最早これは馬車と呼んでいいのか動く屋敷とでも呼べばいいのかよくわからない。

「クロウが…我が盟約の友を受け継ぎし者が動き出す、注意せよ契約者よ。しかし、安心しろ。汝が危機に陥しとき、我もまた汝の元へと向かう。それが運命なり…って…うわ言みたいに…」


「一切理解出来ねえが、なんだ?敵対してる竜種ってことか?」


「ミスト…よくわかんない…」


「それもそうだな」

クロウは確かグレイとほぼ同年代らしいが…グレイ自体も俺のいない間に来た竜らしくよくは知らないがクロウは森の中では5番目くらいに来た昔馴染みで真名も知っている。それに言動はともかく実力は本物だ。それに影繰の竜なんて呼ばれる上位個体でありミスト同様に実体があるのか無いのかよくわからない。

上位個体と言えばあの森には何匹いるのだろうか…区切りはよくわかってないがエルダー個体の一歩手前程度に考えればいいのか?

「そういえばグレイ…息吹吐けた…」


「やっと一人前か」


「相変わらず…灰被りの竜(シンデレラ)…というか灰…灰を吐き出す…」


「まあ色々とあるんだろう。相手する時は手加減してやれよ」


「わかってる…あと当面の目標は…アベン…ホワイトのお気に入り…」


「訂正だ。死なない程度に殴れ、ついでなら去勢でもしとけ」


「殴るのはいい…でも去勢はダメ…竜少なくなった…1人でもオスは多いといい…メスも多いといい…」

そもそも万年以上生きるような種なのだから毎年繁殖期など要らない筈なのに毎年来るのはミストの言う通り数の減少のせいなのかもしれない。

「あっ…ミスト…アベンと交尾…」


「そのうちな。ほら、さっさと戻れ繁殖期はお前や大老くらいしか森を守れないんだからな…いや、どっちか1人でも十分だと思うが」


「約束…エマみたく…指切り…」

前に大老が同年代と言っていたあたりだと言っていたが人間で換算すればとの話ならカルミア同様に異性を意識し始める時期なのかもしれない。正直、同種扱いされているのかは不明だがどうせ80年後くらいには忘れているだろうし俺も死んでいるだろう。気にすることもない。

「指切りげんまん…嘘ついたら…アルトの触手…のーます…指切った…」


「誰だそりゃ」


「友達…人間嫌いなのに…町に住んでる…」

たしかにあの森だけじゃなくて他にも友好関係があるのは普通か。しかし触手のある人型生物か或いは人に擬態する生物か…どちらにせよミストの友人ならヤバイ分類の奴なのだろう。関わりたくもない。

「アベンの話…興味津々…」


「先手を取られてた」

それからいくつか話すと指輪の光に包まれ森へと帰っていく。

正直暖かい飯や柔らかなベットで寝たい気もするがエマはともかくカルミアは面倒くさい。それを見れば朝からママレードも不潔だわと騒ぐだろう。オーとレイもそれに続くだろう。

面倒な事この上ない。スライム達を小瓶から出すと地面に寝転ぶ。どうせ魔物はミストの匂いで寄ってこない。

夜なのにもかかわらず元気に跳ねているスライム達を無視して瞳を閉じる。

ああ、本当に頼まれなければあんな国には行きたかねえな…


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