四十二匹目 熔岩の一撃
携帯の移行がががが。無理しないことですね。うん。
「ぐっ…う…ここ…は?」
瓦礫の下敷きになっていた。体に力が入らない。何が起こったのかすらも。最後に見た光景は…
「そうだ…機械仕掛けの偽神が…何かをした。一体何を…アルファはどうなった?くそッ、早くここから抜け出さなくては…」
「その必要はない。しかし、よく生きてたな」
「お前…っは!」
白衣をボロボロにした少年は自分の下へと歩み寄ってくる。背中には件の機械仕掛けの偽神を背負って。どうやら寝ている様だ。
そんなことはどうでもいい。それはアベンを見上げる様に上を見た時。絶句した。ここは地下深くの都市。それも帝国に長年見つからない様にと。さらに結界の様なものや地下深くなのにずっと明るかったりと何かしら魔法による隠蔽もされていた…なのにだ。穴が開いていた。熔解した岩石が未だに穴から垂れてくる。そして焦げ臭い。
「何が起きたか?言いたいことはわかる。だがら端的に言おう。試験機アルファは原子消滅した」
「……」
言っている意味がわからなかった。消滅した?原子から?奴にはかなりの回復能力が備わっていた。それを原子から消滅させるなどと…
「アベンさーん、手伝ってくださいよー!」
「それくらい運べ」
ズルズルとカルミアが引きずってきたのは汚い肉の塊。いや、それはそう見えるだけであって実際にそれは人型をしていた。両の眼は何処かへと飛び出し頭部や腹部は破裂している。とてもじゃないがまともの死に方ではない。
「これはさっきのエマの攻撃の余波を食らった世界の眼の奴だ。まるで人間が沸騰した見たいだろ?」
「何が言いたい?」
「このガキは魔力も物質も何もかも崩壊させることができる様になった」
「なっ⁉︎」
絶句するしかなかった。『炉心融解』という魔法がある。現状人の辿り着ける最大の魔法である第七門の魔法であり、特殊な結界内部で起こるあらゆるものを誘拐させ同時に人体へ被害を及ぼす毒を散布する魔法。恐ろしいのは結界内部の鉄をも簡単に溶かす熱。似てはいるが根本的に違う。まさか、自分が調べても見つからなかったのか?
「いいや、違う」
心を読まれたかの様にアベンが否定する。
「自己進化。常に自身を最適な状態へと進化させる。今回はアルファをこの世から消し去ることが自己の最適と考えたんだろうな。それで結果としてこのザマだ」
「そんなものあり得るわけがない!魔法の領域をとっくに超えてるじゃないか!」
「あのー、これもう捨てていいですか?」
「なんでまだ持ってるんだ?汚いしさっさと捨てろ。ああ、すまない。話が逸れたな。結局のところ、お前は先祖に負けたんだよ。あいつの方が何枚を上手だ」
「ッ!!」
ギリっと歯軋りをする。なんでだ、あんな男に…ほんの少しでもあいつの血が自分に混ざっていることに物心ついた頃から絶望していた。オーロラと名乗るだけで石を投げられたこともあった。
だから超えてやる。先祖がした事を帳消しになるくらい立派な偉業を成し遂げでやる。
「試験機アルファ。あれも実際はお前が作ったんじゃない。エマの後継機としてナターリアが作ったものだ。じゃなきゃあんな短時間で作れるわけがない」
「……」
「確かに後継機はエマよりスペックは高かったかもしれない。それに加えお前の持てる全ての技術をつぎ込んでな。だが結局は自己進化回路を持つエマの方が強くなったわけだ。そのお陰で興味深いものも見れたからな」
「それは…アリシャ君のこともか?」
「ああ、アレもだな。素晴らしい逸材だった。使い捨てってのがもったいないくらいにな」
「使い捨て…だと?」
「投薬したのは試験薬だ。あとは微調整して…彼女に敬意を払って獣化薬って名前の薬にするか?」
「お前は…お前はなんなんだ!」
テルミュードが激昂する。何を怒っているのかわからない。そもそも俺が何者かなんて知ってるだろ。
「だから薬師だって何度言ったらわかる、覚えろ」
「違う!人を簡単に殺して、何も思わないのか⁉︎」
「んー…これといってないな。話は終わりか?」
正直な話、人が傷付こうが、死のうが、殺されようが他人だ。結局この世界で大切だった者は3年前に死んだ。大老達を除いて。あの人たち以外はどうでもいい。勝手に死ね、勝手に傷つけ、勝手に殺されろ。
「あ、そろそろ濃度下がってきたみたいですよ」
「ん?そうか。じゃあ、さっさとここを出るか」
濃度?なんのことだと考えていると目の前に小瓶が置かれる。黒い粘性の液体…これはまさか…
「おいおい、薄情な奴だな。さっきまであんなに喚いていたのに欲しいものが手に入るならそっちはどうでもいいのか?」
「ち、ちがッ!」
「これさえあれば、エマを簡単に越える半覚醒や下手したら覚醒者を作ることも可能だ」
「…」
「欲しいか?欲しいよな。お前はその為にここに来た。そして仲間は死んでも命令を守らなければならない。彼女の為にも、これは受け取っておけよ。な?帝王サマも願ってるぜ?」
「おれ…は…」
「アリシャさんは最後まで帝国の繁栄を願って死にましたよ?じゃあ、貴方も国の為に私達を逃してその薬を国に届けるのがいますべきことですよね?」
「そうだ…俺が国のために…キラレイスに勝つ為に…」
「さて、そこから出してやろう。そしたら国の連中に連絡して迎えに来てもらえ。それと帝王サマに伝言を頼むぜ? 」
テルミュードの瞳がとろんとどこを見ているのかわからなくなる。白昼夢のようにただ、ただ目の前の男の発言を聞くだけ。
そうだ、連絡しないと…
「それとこれはアリシャへの礼だ。獣化薬をやろう。是非、帝国内の獣人に使ってやってくれ」
「ああ…わかった…」
「あの穴から外に出る。一応聞いておくが狭いところがダメとか無いよな?」
「暗いところじゃなければ大丈夫です!それに暗くてもアベンさんがいれば平気です!」
「そうか。4、頼む」
足元から藍色のスライムが染み出してくるとぐにゅぐにゅと変容していきやがて大きな鳥に変化する。
「頼んだぞ。カルミアもさっさと乗れ」
「クェーッ!」
「はい!しっかひと掴まりますね!」
「せめて4の背中に掴まれ。今、エマを背負っているんだぞ?安定しない」
「大丈夫ですって。私こう見えてもバランス感覚いいので!」
4を見ると自己責任だろ?とでも言いたげに見つめてくる。
それもそうだ。こいつが落ちてもどうでもいい。そもそもなんでこいつのことを心配しなくてはいけないんだ。
「行け。取り敢えずは…町に戻れ」
「了解したよ」
「あ、話せたんですぅぅぅぅ‼︎」
振り落とされそうになりながらも天井に空いた穴を通り抜けていく。
今回もまた面倒なことに巻き込まれた。しかもオマケ付きで。
「出発は明日にするか。こいつ重…い…」
「お父さん?」
「私、重くないよね?軽いよね?」
「重いのは義手だよね?」
「聞いてる?ねえ?」
本当に面倒くさい奴だ。あとでナターリアと会ったら金巻き上げるか。
「やれやれ、デリカシーの欠片も無いのかい?」
「本当ですよ」
すぐに結束しやがって。これだから人間は嫌いなんだよ。
ドクター!私ね、やっとお父さんとお母さんに会えたよ!優しくていっぱいいっぱい暖かくて大好きな2人に!博士と話してるときみたいに胸の中があったかくなって、ずーっと一緒にいたい!
だから、ありがとう!私ちゃんと2人の言うこと聞くね!私、2人の為に沢山邪魔な人を倒すね!
だから心配しないで、いつもみたく見守っててね!ドクター!!
「こちらアンドラス。地下都市に到着しました。地面に巨大な穴があり潜入に簡単に成功しました」
『了解。引き続きテルミュードの捜索を頼む』
「ダー」
壊れた地下都市に1人の男が降り立つ。
真っ黒な翼を仕舞うと魔力の残滓を辿り傷の手当てをされたテルミュードを見つける。
他に何人かいたらしい。魔力反応は二つだけだがもう一つ。自分の魔眼に映るのは不気味な残滓。
「なんだこれは?魔族か?いや、連中なんかより余程ドロドロした…まあ、いい」
「起きろ、オーロラの末裔」
「……ぐっ…アンドラス…か?」
「呪われた一族は仕事も碌に出来ないのか?呆れてモノも言えないな。陛下がお待ちだ」
「ああ…だが、悪いがもう俺は…俺たちはそう呼ばれる筋合いはない」
懐から取り出したのは一本の小瓶と「粗品」と書かれたラベルの書かれた薬瓶。
小瓶の中、真っ黒な液体から感じるのは先程の得体の知れない残滓。まるで、濃縮された人間の怨念のような…
「今すぐにそれを捨てろ!」
「アンドラス、声を荒げるなよ。傷に響く…くく…はははは!!第一にお前が俺に命令をするな!これは陛下からの勅令だ!」
「その蠱毒みたいな液体がか?」
「ああ、そうだよ!これさえあれば陛下も落ち着く!無意味に命を散らす者も少しは減る!」
その瞳に映るのは決して喜びだけじゃない。悲痛な叫びが、大切なものを失った悲しみが見えた。
「…他の連中はどうした?アリシャは?部隊の連中は?」
すると再び壊れたように笑い始める。
「はははははは!!死んだよ!全員、そこら中に破裂した死体や、ミンチみたくなったのがたくさん転がってる」
「どこのどいつだ?」
「やめておけよアンドラス」
羽を再び展開し今まさに飛び立とうしたアンドラスに声をかける。楽に2人は殺せるだろう。だが、それだけだ。
「返り討ちにあって死ぬだけだ。気付かないのか?この場所だけ異常に空気も魔力も薄いことによ」
「チッ…国に戻ったら根掘り葉掘り話してもらう」
「ああ、わかっている。それより遺体の回収を手伝ってくれ」
テルミュードの言わんとしてることはわかる。魔力すらも崩壊させる攻撃。「この都市はたった一撃で終わった」テルミュードはそう呟いた。
自分の中にもそんな知識はない。溢れ出る欲求を押さえつけ任務を遂行する。一つはテルミュードを生かして連れて来いという命令、もう一つはロックとリムという冒険者の誘拐。後者はもう完了した。
「空間収納使えたよな?頼んだぞ」
「葬いなんてのは性に合わないが…まあいい、さっさとしろ」
文句を言いつつもアンドラスが遺体の回収を始める。どうやって死んだのか調べればだそれだけ敵の戦力も知れる。
方々に散らばった遺体を回収していると啜り泣く声が聞こえてくる。見れば一つの遺体。特に損傷が酷く何故か腐敗して異臭を放つ遺体の前でテルミュードが泣いていた。魔力の残滓を見ればすぐに誰かはわかる…アリシャか。
「必ず…仇を…」
「……」
たかが数人死んだところで簡単に人を恨む。これだから人間は面白い。
「おお、英雄様!」
「は?」
町へと戻ると夜にも関わらずかなりの人間が通りを歩いていた。
別段、ここ数日人が少なかったという訳ではないがいつもと比べればかなり多い。
大体の人が血まみれ…いや、返り血か?
そして、そのうちの1人。老人が話しかけてくる。
「あの、憎き病魔を招く者を倒し町に平穏に戻して下さったあなた様になんとお礼をすれば良いやら…」
「感謝されるようなことはしていない。ところで死んだのか?」
「ええ…息子を殺した奴はどんなに謝ろうが泣き叫ぼうが許すつもりは毛頭ありません。最後の最後まで無様に死に果てました」
「そうか。遺体はなるべく町から離れた所に捨てておけ。疫病の元になるし、魔物が寄ってくるからな」
「勿論ですとも」
にこやかに返事をするが人間、恨みが重ねれば一般人でもこうなるのか。気を付けないとな。
「アベンさん…私も眠くなって…きて…」
「安い部屋のある宿あるか?あと、バルバトスへの近道も教えてもらうと助かる」
「宿でしたら一番いい宿を取りますよ。それが我々町民の感謝の印です。
しかし、バルバトスですか?もしや…闘技大会に出るので?」
「そうだが?」
申し訳なさそうに爺さんが縮こまる。なんだ、もしやバルバトスまでへの道に魔物でも出たか?それとも、盗賊か?
「今年の優勝商品が竜の卵なのは、ご存知ですよね?」
「ああ。眉唾だろ?」
「孵化間近らしく。今、魔法で抑え付けているらしいのです」
屑共が。
「それで、開催を早めるらしいのです。一ヶ月後なんて急ですよね?確か近くのサンミュルという街にバルバトス行きの飛行船がくるらしいので、卵を求めて強者が大勢集まるらしいです。まあ、飛行船乗るにも色々とあるらしいのですが実力があれば安く乗れるらしいので」
「そうか、サンミュルまで徒歩でどれくらいだ?」
「そうですね…2週間前後ぐらいかと。ぎりぎり間に合うと思います」
のんきに立ち話をしていたせいかカルミアが寄っかかってくる。いや、寝ていた。エマも背中で寝ている。しょうがないから担いでいくか。
「おや、お連れ様もお疲れのようで」
「色々とあったんだ。まあいい。今回ばかりは大目に見といてやる」
「奥方も娘さんも無事で何よりです」
「…そうだな。さっさと案内しろ」
「はい」
あとは、アナグラにナターリアからの伝言を伝えればこの町ともおさらばだ。
宿に着き2人をベットに寝かせると、今日出来たばかりの獣化薬の仕上げに取り掛かる。
とは言っても入れてた体液量を少し減らすぐらいだ。エルダー個体の体液なぞそのままで売ればとてつもない値段になる。本当かどうかはわからないが、飲むと魔力量が上がるらしい。魔法を使えない自分にとってはよくわからない効能だが…
「ああ、これが世間からの薬学への見方か」
確かに胡散臭いことこの上ない。なら、直ぐに効果の出る魔法の方が重宝されるはずだ。
「…俺がそんなこと考えたら終わりだな。さっさと完成させよう」
熱中していたからだろう。それに、貴重な実験データのお陰か。完成したのは日が昇り始めた頃だった。




