三十五匹目 カルミアの戦い
今回少し短めです…申し訳ヌゥェ
「で?見つかった場所が…」
「じぇり!」
「地下都市か…」
暫く待っていると3号達が戻ってきてそう報告してきた。しかしまたあの場所か。洞窟まで結構距離あるから面倒くさい。
「はぁ…行くか」
「じぇり!」
少年はぼやきながらスライムについていく。
死体であれ生きているであれまた彼女と会うことになるのだ。適当に言い訳でも考えておくか。
「大丈夫、私なら出来る。私なら出来る」
銃を構える。狙うはかなり離れた場所にいる白ローブ。こちらには気づいてない。殺さないように肩を撃てばいいはずだ…
「えい!」
引き金を引くと発射される。肩に凄まじい衝撃が走り足にも響いてくる。威力の分の反動は中々にあるらしい。おそらく魔法でどうにかしていたのだろう。自分にとってはあと数発撃ったら肩でも外れそうな気分だが。
そして結果は…
「ゴフッ…痛ええええ!!!くそッ!どこからだ!」
「い、一応殺してないから大丈夫だよね?」
そっと物陰に隠れるとまだ苦痛に呻く声が聞こえてくる。その声に誘われて人が来れば上々だ。
もう、研究所は目の前だ。しかし他と違い警備の人は多い。確実にここに何かある。エマもここにいる筈だ。
「でも、どうしよう…弾は一発一発込めないといけないし…それにあの魔眼の人に会ったら今度こそ死んじゃう…」
死見の魔眼は視界内に入った人間を殺す魔眼。なら、自分など簡単に殺されてしまう。
見つからずにエマだけ助けるのが一番だが、もうかなり騒ぎは大きくなっている。おそらく私がいることもバレてる。どうしよう。なにかエマのところまで…行ける方…ほ…う…?
「………」
何かあからさまに穴が開いていた。入ってくださんとばかりに。空気穴かなにか?いや、仮に入ったとしてももし変な薬でも調合していたら…アベンさんじゃないからないか。
それにさっきまでこんな穴あったかな?屈めば入れるほどの穴…え?本当にあった?全然見覚えがない。
「もしかして入れってこと?罠?いや、あからさますぎる…よし、入ろう!」
謎の誘惑に負け穴に入る。一応研究所の方に進んでいるのかな?途中外の様子を見てくださいとばかりに覗き穴があり兵士や白ローブの人たちが私を探していた。ところでこれ、どこまで続くんだろう?
「……!」
〈報告 特異個体ノルドが研究所へ向けて移動を開始 目的は機械仕掛けの偽神の救出 〉
「…………」
〈命令を確認 自己進化型都市リリウム 特異個体ノルドを最適かつ安全に機械仕掛けの偽神への誘導を開始 熱源を探知 未確認種が自己進化型都市リリウムへ接近中 命令を〉
「!!…?」
〈命令を確認 未確認種が侵入時物質転送で研究室への誘導を継続します 報告です 特異個体ノルドが道に入りました 誘導を開始〉
「うぇぇ…真っ暗でなにも見えない…やっぱ入らなければよかった…」
そんなことをぼやいていても虚しく穴に響くだけだった。もうかれこれ10分は穴を進み続けているが一向に出口が見当たらない。それどころか覗き穴すら無い。
クロウの影の中のようになんだか自分が進んでいるのか後退してるのかわからなくなってきた。
「うう、銃は軽いからいいけど弾が意外と重い…エマぁ…どこなのー?」
返事など返ってくるはずもなく途方に暮れていると前方に薄っすらと光が見えてくる。やっと出口かと思ったが覗き穴だった…もうやだ。
「おや、テルミュードさん。それはなんですか?」
「ん?ああ、機械仕掛けの偽神を元に作り出した魔道科学兵器って奴だ」
「ほう。見た目は趣味で?」
「どうにも作ると人型で美形になる。まあ、取り敢えず試作機だな」
覗く前からそんな声がしてくる。そして除けば中の様子がわかった。テルミュードに自分を殺した魔眼使い。そもそもここに帝国の兵士がいるのだからテルミュードもいるか。白ローブと仲良さげに話していると言うことは裏切り…と言っても何一つ信用してなかったからそうはならないか。
その二人とは別にもう一人……灰色の髪に作られた美しさとも言うべき美丈夫がいた。
「流石、一代で科学技術を作り上げ一代で滅んだ男の子孫。素晴らしいですね」
「…あいつとの血の繋がりなどどうでもいい。国に仇なしたせいで今の俺やあいつの血を引く連中は大迷惑してんだ。だが、まあ…たしかに凄かったが所詮過去に作られただけのガラクタ。今の時代からすれば大したこともない。滅んだ科学技術と魔法学を駆使し最強の兵器が完成した。それに見ろ、過去のガラクタの中にも色々と使い道がある」
「おや、これは…映像水晶の様に映し出しているのですか。それにいくつかの兵器の作成方法…素晴らしいじゃないですか!」
「ああ、これで帝国も馬鹿げた戦争を終わらせられる。あんたらも適当に見繕ったら本部に帰ればいい。俺は『世界の眼が手伝ってくれたお陰で』兵器が完成しましたって陛下に伝えとく」
「ありがとうございます。あなた方と良い関係を持てたことを感謝しますよ」
「わざわざ密偵まで仕込んだんだ。それに戦力は多い方がいいからな。今後とも帝国との付き合いを頼むよ」
そう言って手を差し出すよヘムリスもその手を握る。
どうやら横で直立不動で立っている人はホムンクルスか何からしい。エマの面影が少しあるのはそのせいか?
とにかくエマをガラクタ呼ばわりしたのは解せないがせめてエマの場所くらいは聞けるかもしれない。
そう思い待っていると一人の兵士が部屋に入ってくる。
「局長、会談中申し訳ありません!侵入者です!第四区にて気絶してる兵が見つかり他にも多数の負傷者がいます!話によるとビーダと共にいたノルドらしいのですが…」
チラリとヘムリスを見るとフードで隠れて見えないが少し驚いた様な顔をしている。それはそうだ。なんせ私は魔眼で殺されたのだから。アナグラさんがいなければ今頃は本当に土の下の冷たい棺桶の中で眠っていた。そこだけは感謝しなくては。
「そうか…抵抗してくる様なら少し痛い目を見せてやれ。殺すな…いや、もう死んでいるはずだが?まあ、いい。とにかく見つけたら捕縛しておけ」
「了解しました!失礼します!」
慌ただしく兵士が部屋から出ていく。テルミュードは狐疑の目でヘムリスを見るがローブで顔のほとんどが隠れているためその表情まではわからない。
まさかなと思いつつも止めていた手を動かし始める。もう少しでこいつが完成する。そうすれば俺たちは救われる。あの馬鹿が、クソッタレの先祖がやらかしたことが帳消しになる。
「ふふふ、まさか私の魔眼をくらっても生きているとは…興味深いですねぇ。では、テルミュードさん。私は部下達に少し伝えることができたので失礼させてもらいますね」
「ああ、わかった」
ヘムリスが部屋から出て行くと舌打ちをして作業を続ける。
「…どうしよう。こっそり兵士に変装すればバレないと思ったけど…ノルドって分かられてたら意味ないよね…とにかく進まなきゃ」
覗き穴を後にしてまた進み始める。今更だがこの穴は本当に何のために作られたのだろうか。わざわざ壁の中に覗き穴を作りどこまでも続いているかの様に思えるほど長い。もしかしたら何かあった時のための逃げ道なのかもしれない。でも、それにしたら狭い様な気もする。
考え事をしてる間に顔を何かにぶつける。
「うぅ…これくらいの痛みならなんとか…でも、鼻が痛い」
どうやら壁の様だ。暗くて手元は見えないが特に他に通じる道はない。仮に逃げ道だったらあちら側からしか開けられないということもあるのか?
しょうがないから下がろうとすると後ろにあった空間も無くなっていた。
「…嘘⁉︎閉じ込められた⁉︎やだ、凄く不安になってきた!人間の精神が持つのは確か3日間…いや、そんなたつ前におかしくなる!だって狭いもん!」
慌てふためいても体力の無駄だ。それになにもならない。
必死なって思考していると今度は足場が無くなった。そう文字通りなくなった。
「なんでぇぇぇぇぇぇ⁉︎」
結局私は落ちていった。そう、落とし穴である。いや、閉鎖空間の中で唯一の足場だったものがなくなり落とされたのは落とし穴って言うのだろうか?
とにかく落ちた。
少女は冷たい水の中を漂うように静かに息をしていた。自分が何をしているのかわからない。
「 」
記憶の中にある暖かい物に触ろうとしても手は動かない。
「 、 」
優しい物と話したくても声は出ない。冷たくなった体も心もなにもかも。もうどうにもならない。自分の意思ではなにもできない。
やっと出会えたはずの二つの光はやがて遠ざかっていく。また、一人だ。
誰にも見つからずにこれから先ずっと、広くてなんでもある冷たい部屋にいるんだ。
「 !!」
でも…それでも会えた。ずっと会いたかった人達に。成長した私を見てくれた。頭を撫でてくれた。抱きしめてくれた。十分だ。それだけで…
「 ! ? !」
私は静かに私を手放す。だってほんのちょっぴりの時間で沢山の暖かい物をくれたんだから…
「エマ!ねえ、エマ!起きて!!」
カルミアの落ちた先は研究室の様な場所。その中央の研究台の上エマは寝かされていた。確か魔眼で操られていた筈だが今は寝ているのか寝かされているのか呼びかけても一向に起きる気配がない。息はしているところを見ると生きてはいるみたいだが…
「と、とにかく早く運ばなきゃ!んっ…意外と思い…いやいや、女の子に重いなんて言っちゃダメだよね。これは、義手の重さ。うん、そうだよね」
その無駄のない体つきからは想像されないほど重い体をなんとか背負い部屋を出る。問題はどうやって見つからずに脱出するかだ。
先ほどの通路はもう使えない。なんかこう上手い具合にもう一個くらい無いかなと辺りを見回していると他の部屋から人の気配がする。咄嗟に違う部屋に隠れると危機一髪だったのか、なんとかバレないで済んだ。
「お、おい!検体がいなくなってるぞ!!目を覚ましたのか⁉︎」
「そんな訳あるか!魔眼によって強制的に眠らされてたんだぞ!」
なにやら言い争っているがこちらに向かってくる気配はない。なら、このまま部屋に隠れて隙間を見て脱出を…
「おんや〜?どうか〜なされましたなかな〜?」
「あ、ペールさん。実は検体がいなくなってしまって…」
声だけでどんな人物かはわからないが間延びした少年らしき声が聞こえてくる。
「な〜んだ。そんなら〜、命令すれば〜いいじゃない」
「え?あの」
「僕の玩具。今す〜ぐにその女を殺してで〜てこい」
「命令を確認」
何をしても起きなかったエマが目を開けるとカルミアの首を絞める。どうやらペールという少年にはバレていた様だ。
その細い腕からは考えられない程の力で首を絞めてくる。
ダメだ、息も出来ないし首の骨も折れかけている。抵抗しないで本当に死ぬ。
なりふり構っていられないとエマの顎を蹴り上げるが手は一切緩まない。それどころか先ほど以上に絞め上げてくる。
もう限界だ。
「んっんー。ノルドじゃないか〜。離して〜やれ」
「命令を確認」
「ゴホッ、ゴホッ…」
声の通り少年だった。しかし、その目は左右で色の違うオッドアイ。フードを外していてもローブを見てわかる。魔眼使いの仲間だ。
「おかしいな〜?な〜んでヘムリスさんの魔眼で死んだのにここにいるのかな〜?」
「エマを解放して!この距離なら絶対に外さない!貴方の頭を撃ち抜ける」
一瞬驚いた顔になるがすぐに先程の様に余裕のある笑みを浮かべている。
何がおかしい?魔眼が発動する瞬間は発光する。仮に操られたとしても光った瞬間に撃てば終わる。なのに、なんでこんな余裕ある顔をしている。他の研究員達も興味深げにこちらを見ているだけで何もしてこようとはしない。
「そ〜んな物騒なもの向〜けていいの?」
「大人しく解放ー⁉︎」
銃が半ばより切断された。見ればエマの手は巨大な剣になっておりそれを今まさに自分に振り下ろそうとしていた。
「マスターへの敵対を感知 対象の破壊を開始します」
「スト〜ップ。ノルドは貴重な〜研究材料だ〜から。牢屋に入れと〜いて」
鼻先にはエマの巨大な剣があった。完全に殺す気だった。虚ろなその目は自分を写してるがそこに感情といったものは感じない。命令されるがままに行動するだけの人形だった。
「僕の〜扇動の魔眼は…どうだ〜?ノルド?」
「人の心を操るなんて最低ですね!絶対許さない!」
「どうでも〜いいことだよ。僕の〜可愛い〜玩具の前ではね〜」
うっとりとした表情でエマの顎を撫でる。何も感じず、何も答えず命令だけを聞く人形。
笑顔の花を咲かせることはなく、虚ろな目でただいるだけの少女。
「じゃあ〜あとはよろしくぅ〜」
「「了解しました!」」
武器もない、魔法も使えない。どうすることもできない。
「エマ!大丈夫だからね!絶対助けに行くから!!」
拘束されながらもそう叫んでも帰ってくるのはペールの「茶番お疲れ〜」という言葉だけだった。絶対に助けて、笑顔を取り戻すんだ。




