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三十四匹目 決意

アベンは一人、次の町へ向かっていた。久しぶりに一人で旅をする。なんだか三ヶ月ぶりだというのに酷く久しぶりに感じた。これでやっとあいつがいなくなれば巻き込まれる事も少なくなるはずだ。

そんな考えも春の夜の夢らしい。

「はあ…5。鉈」


「じぇり!」

振り返りざまに一撃かますとギリギリで避けられてしまったようだ。

顔は隠してありだぼだぼのローブを着ているため男か女かはわからない。

わかるのは明らかにこちらに敵意があるという事だ。

「一応聞くが誰だお前?」


「……」


「ああ、そう。せっかく邪魔な女売れたってのに…気分良く殺してやるよ」

こちらが鉈を向けると相手方も拳を構える。

逃げるとしよう。まともに戦っても疲れるだけだ。

しかし鏑蟹は籠の中、取り出そうとしたら恐らくは攻撃される。さて、どうしたものか…

「お前には…」


「あ?」


「お前には感情がないのか!!!」

なんだアナグラか。もうちょっと謎の刺客的な行動をとればいいものを何故叫ぶ?こいつは一体なんなのだろうか?水と油の関係なのは明確にわかるが、巻き込んだとはいえやけにこちらと接触してくる。もしかすると世界の眼の連中か?いや、魔眼を使ってこないのを見ると帝国の連中の可能性もある。

左右からの殴打をなんなく避けて腹を切ろうとすると顎を蹴り飛ばされる。

咄嗟に態勢を立て直すが眼前にはアナグラの拳があった。

アベンの顔面に刺さった拳はその勢いのまま後ろへと吹き飛ばす。ボタボタと鼻血を流しつつも痛みなどは特に無くアベンはアナグラを見る。

「ああ、なるほど。もしかしてカルミアに惚れたか?別に俺らそういう関係じゃないし。なんなら貰ってやれよ。そうすりゃ俺のことも追ってく…」


「黙れえぇぇぇぇッ!!!」

元は竜なのだから身体能力は人間になっても桁外れだ。かなり離れていたがそれでも一瞬で距離を詰められ何度も殴られる。

しかし困ったものだ。反撃してもいいがこういう時は確か素直に殴られている方がいいんだったよな。なんか、殴り合いから男の友情が生まれるとかナントカ…そんなもの生まれ切る気はしないが反撃は反撃でかえって相手をやる気にさせてしまう。大人しく殴られるとするか。そのうち気がすむだろう。もういい加減に相手するのも面倒くさい。まあ、痛みはなくてもダメージはあるからそろそろ頭の骨が限界を迎えて中身が溢れそうだけど。

「お前、あの邪竜どもの知り合いだったな!だからそんな簡単に裏切れるのか!だから自分の嫁と娘を売ったのか!」


「お前、そろそろいい加減にしろよ。前も言ったがごっこ遊びならガキどもとやれよ」


「ごっこ遊びだ?ふざけんな、てめえはそうだとしてもな!少なくともエマはお前のことを父親だと思っていたんだぞ!」

胸倉を掴まれて叫ぶ。そうは言われてもどうせ世界の眼に目を付けられた時点でよくて洗脳悪くて解体だ。

それになんでお得意様相手に喧嘩なんざ売らなければならない。薬の儲けが半分以下になってしまう。

ああ、もしかしてこいつの能力が自分達に対して効かないから激昂しているのか?

「何か言いやがれ!」


「羨ましかったんだろ?」


「は…?」


「自分が手に入れられなかったものを俺は簡単に手にした。それが羨ましくて、俺たちに接触してお前の能力で暗示に近しいことをした。まるで知古の友人の様に、場を引っ掻き回す道化にでもなりたかったか?それとも頼れる兄貴分か?どちらにせよ、お前の能力じゃもう誰も騙されない。精々人の考え方を少し変える程度にな」


「何言ってやがる…?俺が?」


「もしかして自覚症状無しか?仲良くしたいんだろ人間と?なのに嫌われる。人の為にやったことなのにな?可能性の書き換えは土着神になったお前の能力だが、人間に成り下がればそんなもん簡単に無くなっちまう」


「ッ!!俺は騙されねえぞ!そうやって騙して、逃げるつもりなんだろう!カルミアはどうなる!エマはどうなる!それに俺はさっきカルミアを救った!俺の能力でだ!世界の眼の連中の魔眼からな!」


「なんだよ、あいつらもいらねえんだったら寄越せよ。心臓に髪、血液に…ノルドなんて貴重なもん捨てるところもねえな…ん?待て、お前さっきなんて言った?」

またもや激昂し殴られる。言葉では余裕だが体の方は限界だ。足もろくに動かない。

腹部に鋭い蹴りが入り反射的に前屈みになってしまう。そこに地面すれすれからのアッパーは見事顎に刺さりアベンを殴り飛ばす。

脳が揺れ立つこともできない。しくったな。余裕かまして他のスライムの瓶開けてねえや。

「こうなったら俺があいつらを守る。俺の能力なら魔眼だろうとなんだろうとあいつらを守れる」

魔眼。確かに攻撃的な物もあるがそのほとんどは精神的な物や自身の能力補助。多分あそこにいた魔眼もヘムリスの死見の魔眼以外は大体精神に何かしらの影響を与えるものだろう。

死見の魔眼…魔眼の王バロールの眼であり、連中の組織の名前の元になったもの…あれは確か概念に直接的死を与える魔眼。なら、何故アナグラは「世界の眼の連中の魔眼から」と言ったのか?精神汚染ならともかくカルミアと言う一つの概念に死を与える様な魔眼から人間に成り下がり能力も殆ど使えなく弱体化メアリースーの様なことも出来ない奴が出来るか?答えはノーだ。なら、何故?ヘムリスが手を抜いた?しかし魔眼など無いし奴の能力もろくに見たことがないからあまり期待できない。

「カルミアに魔眼耐性がある…確証は出来ない…しかしないとも言い切れない。むしろあると仮定したほうがいいか。なら、その特異的な能力のお陰で魔法が使えない可能性もあるか?いや、魔法と魔眼は別のものだ。なら、そこで干渉し合うわけがない。そもそもノルドの時点で魔眼も発現するわけないのに何故魔眼耐性なんて使えないものがある?蛇足だろそれは。なら何だ?いや、ともかく先に確保が大事か。奴を調べて魔眼に対する何かしらの耐性かそれに準ずるものが出来ればそのまま世界の眼の連中に売れる…」


「お、おい…」

考え事をしているうちに無意識に瓶を開けていたようで体の傷は完治している。アナグラの驚いている顔を横目に思考はさらに加速していく。が、結局はカルミアを助けて調べればいいという結果にしか行き着かない。そうだ、荷物持ちは必要だ。なら、奴を助けることにしよう。

魔法の使えないノルド、それに魔眼耐性を持つ可能性。これだけあれば十分だ。

なんとしても奴を捕獲しよう。

「4号、気が変わった。転移魔法使える奴に擬態しろ。取り敢えず町に飛ばせ。それから3号は町に着き次第ミアの捜索を開始しろ。最悪死体でもいい」


「「じぇり!」」


「5号はゼラニウムに擬態」


「じぇる!」

アベンの手にスライムが巻きつくと縄鏢に変化する。

本気で来るのかと身構えるがもう既に終わっていた。わざわざ口に出して命令などして入ればそっちに気が向く。だから簡単に背後を取られ窮地に陥る。

「2号、竜に対する睡眠薬の容量は知らんが…まあいつもより多く打っとけばいいだろ。運が良ければ多分生きてる」

首筋に一瞬痛みがする。同時に強烈な眠気に誘われ、そのまま倒れ込んでしまう。自分を見下ろす感情の籠らない目は既に遠くを見ていた。

自分はこいつらに嫉妬していた?どこにだ?わからない。なんで人間の為に力を使い助けてきた自分は嫌われていて全ての人間から嫌われるような奴が二人の少女や竜たちに好かれているからか?

結局意識は微睡みの中に溶けていく。

ああ、最悪だ…


「早々に町を出たというのに助けに戻るなんてな…だが、それよりも知的好奇心の方が強い。かっこうつかねえな。つけてるつもりもねえが…」

ぶつぶつと独り言を言っていると4号から呼ばれる。準備が整ったらしい。

ついでにエマも助けるか。しかし面倒だ。世界の眼にバレないようにカルミアとエマを助ける…本気で面倒くさい。

「やあやあやあ、ご主人。やっと自分の気持ちに素直になったのかい?なら、笑いなよ」


「黙れ。笑うや嬉しいはトラウマだ。そんなもんやってみろ。今度こそ俺は死ぬぞ」


「まあ、そう言わずにさ。僕も少なからず君と父…いや、母かな?まあどちらでもいいか。とにかく影響を受けた精神構造をしていて情処不安定なのさ。君がしっかりしてくれないと僕までおかしくなってしまう」


「誰が意思を持てって言ったんだよ。お前は忠実に食った人間に擬態だけしてりゃいい」


「はは、まったくだね。他の子もかい?」


「喋らねえ分まだマシだ。さっさと飛ばせ」


「はいはい。スライム使いが悪いね」

老人の姿になった4号は魔法を起動する。若干の浮遊感が襲ってくるとつい数刻前までいた町に戻ってくる。さて、あとはこいつらに任せるとしよう。

エマも探しとけと伝えると3号が膨らみ分裂していき四方八方に散って行く。

アナグラはあそこで寝てるがまあ、大丈夫だろう。





「いたか?」


「すまない、見失ってしまった」


「いや、いい。取り敢えずテルミュードさんに報告だ」

家の前からはそんな声が聞こえてくる。転移した直後にどうやら見つかってしまい咄嗟に隠れたら簡単に見失ってくれた。これで安心だ。

意気込んで来たものの無力な自分に何ができるのだろうか?

「とにかく、誰かしら頑張って倒して…聞いてみなきゃ」

そうと決まれば何かしら武器になりそうなものを探すが何百年も前の都市。大抵が錆びている。それに埃をかぶっているために判別は難しい。

「うぅ…やっぱ誰かについてきて…だめだめ。一人で頑張らなくちゃ。頑張ったところでアベンさん相手すらしてくれなさそうだけど…努力する人間を馬鹿にするのは嫌いって言ってたし嫌いにはならないよね…頑張ろう」

窓からこっそり外を見ると人の気配はない。そもそも一都市全域を連れてきた部下だけでカバーするのは難しい筈だ。

なら、ゆっくりと慎重に進んで行けばいい。

エマの居場所は恐らくは初めてエマと会った場所。あの大きい建物にはいくつもの部屋があったらしい。その何処かだろう。

とにかく行動しないと先には進まない。慎重に周りを確認して家から出る…

「ん?誰だお前?」


「…通りすがりのノルドです」


「こちら、第四区。侵入者を発見。捕獲します」


「どうしてー⁉︎」

絶対確認した。誰がなんと言おうと確認した。でも流石に屋根の上は聞いてない。しかも同じ家の屋根にいるとか…

肩から鉄の棒。銃を下げているのを見ると帝国の兵らしい。どんな武器かは知らないが形状的に近接攻撃だろう。

こんな時だけ魔法が使えればよかったと思うがとにかく逃げるが先決だ。

「待てコラ!というかお前見覚えあるぞ!ビーダとかいうインチキ臭い奴といた女だな!」


「ひぃぃぃ!」

住宅街を抜けて研究所とは違う方向に走る。取り敢えず逃げねば。

走って走って走って…幸いなことに他の人には出会わない。ここまで来れば


ドギュンッ!!


「えっ…?」

何かが高速で頬をかすめた。薄っすらと血が滲んでいく。魔法?いや、仮にそうだとしても痕跡がない。火なら燃える、氷なら凍りつく。なのに何もない。飛んで行った方向を見ると壁に螺旋状の跡が残っている。

風魔法?いや、だったらこの至近距離でも吹き飛ばされる筈。

「止まれ!別に危害を加えるわけじゃない。ただ、我々の計画の邪魔だけ出来ないように拘束するだけだ。終わったらすぐに解放する!」

鉄の棒をこちらへと向けてくる。よく見れば先に穴が開いていてそこから何かしら撃ち出されたのか?あの、トンファーの持ち手みたいなの部分は引くと何やら弾を込める場所が出来るみたいだ。それに持っている部分的に近接攻撃主体と誤認していたがどうやら遠距離攻撃の武器らしい。

「そこの穴から私に向けて何かしらが発射されるのですか?」


「…ああ、そうだ。避けようとしても無駄だからな」

たしかに今は大老さんの加護で元に近い視力に戻っているとは言えど仮に元の視力だとしても見きれる自信はない。

アベンさんみたく痛覚も感じず即座に回復できるならともかく痛み=トラウマの自分にとっては反抗するだけ無駄なのかもしれない。

「すまないな。局長曰く解析して作れるようならあの子も解放するらしいから。それまで大人しくしててくれ」


「解放?解析できたら?嘘ですね。そんなことあるわけない」


「本当のことだ。だから大人しく!」

咄嗟に瓦礫から砂埃を掴むと目に投げつける。近づいてきてくれたお陰で目潰しが成功した。

「このっ!」

自分のひ弱な拳でも怯ませて銃を奪えると思ったが大腿がとてつもなく熱くなる。どうやら威嚇のつもりで撃った弾が当たってしまったらしい。見れば大腿には穴が開きそこから真っ赤な液体が溢れ始めていた。

血、血…血血血!痛い!

『言うことを聞け!このゴミが!』



『おい、魔導師。こいつを治してやれ。チッ』


『おいおい、これじゃあ暫く売り物にはならねえな。商品は大切に扱えよ?俺の懐事情にも繋がんだからよ』


『ああ。だが、奴隷のくせして碌にチ○コも舐めようとしねえこいつが悪い。他の連中は生きたいが為にしゃぶりついてきやがるがな』


『ひひっ。気色悪いなお前』

蘇る記憶。何度も何度も自分を殴りつけてきた奴ら。それは奴らだけじゃない他の奴隷達もそうだ。何で私ばかり…私が何をした?痛いのは嫌だ痛いのは嫌だ痛いのは嫌だ痛いのは嫌嫌嫌嫌嫌嫌!

「あぁぁぁぁ!!!!」

痛む足を引きずり兵士を突き飛ばすと馬乗りになり何度も殴打する。手の皮が裂けようが、骨が軋もうが関係ない。

「や、やめ!ブッ!ガハッ!やめろ!」


「死ね死ね死ね死ね死ね!死んじまえ!お前らなんか死んじまえ!!私の中からいなくなれ!」

怒りなのか悲しみなのか…痛みがさらなる痛みを呼び止まらなくなる。最初こそ抵抗してきた兵士ももう動かない。やっと落ち着いてきた頃には自分の血なのか相手の血なのか拳はわからないくらい真っ赤に染まっていた。

「ガフッ…」


「すみません…借りますね…」

倒れた兵士から銃とそれに弾を盗み出す。確かこのトンファーの持ち手みたいなところを引いて隙間に弾を入れる…筈だ。説明書とかないのかな?

それに回復のポーションも二本…一本はこの人に、もう一本は自分に使う。

腫れ上がった顔は元に戻るが意識は失ったままだ。それは有難いことだがどうにも自分には足りてないらしく足の傷はいまだに痛む。

「なんとか歩ける…かな?とにかくこれで隠れながら攻撃できる…よし、大丈夫。私ならできる」

自分に言い聞かせると銃を構える。確かこの部分を引けば直線上に弾が出る。

射程距離はわからないが弓よりはありそうだ。それに見た目に反して軽い。問題があるとすれば当たるか、そして殺してしまわないかだ。後味が悪い。

「少し離れちゃったけど…いや、急がないと!」

さっきの音を聞いて援軍が来る可能性もある。なら、やはり隠れながら向かうのがいいだろう。今度は屋根の上も気を付けながら。




〈報告 研究所(ラボ)内にて電気エネルギーの発生を確認 侵入者あり 複数の魔眼及びマスターの血縁者の反応あり 機械仕掛けの偽神(デウス=エクスマキナ)の洗脳状態確認及び機械仕掛けの偽神(デウス=エクスマキナ)へのスキャンが開始 どうなされますか?〉


「………!」


〈了解しました 研究所内のセキリュティ解除を実行 完了 現部屋を除き全ての部屋のセキリュティ解除を実行しました〉


「………」


〈命令を確認 研究所内全てのデータを侵入者のいる部屋に転送します〉


「!!」


〈命令を確認 新たに作成された兵器に特異個体ノルドへの攻撃を中止及び未確認種への敵対行動への絶対服従権の刷り込みを行います〉


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