三十二匹目 観察者の困惑
これ、毎度他方に話が進むからごっちゃになりそう…
しかし毎日投稿いつまで行けるかな…
「うっぷ…オェェェェェ!」
アベン達が去った後、それを見ていた者は路地裏に入りビシャビシャと不快な音を立てながら胃の中身を吐き出す。
無理だ耐えられない。込み上げて来るものを我慢などせずに吐き出す。そのうち胃酸しか出てこなくなってきた。
「はぁ…はぁ…なによあの人!」
アリシャはテルミュードの命令でビーダが連れて行かれた場所を探していた。
そして魔力探知でなんとか郊外のこの辺りだとは判明したが魔力妨害があるのか場所までは割り出せなかった。
しかし閉店した店からビーダ達を連れ去った男らしき人物が出てきたのを見た。即座にテルミュードに伝え隠密魔法を自身にかけ後をつけるとどうやら町を出るらしい。
だが…横から黒い塊が飛んできたとともに辺りに霧が発生し始める。
そこからは惨劇としか言いようがなかった…常に魔力で出来た霧を纏っている為男が戦っている相手の姿は見えない。何度も殺されかけてもポーションを使い続け、抵抗虚しくやられてしまう。そこにまた一人別の人物が現れた。
「ビーダさん!よかった無事…⁉︎」
しかし彼は左腕が無く身体中血塗れだった。すぐに回復魔法でと思ったが違う。たしかに最初から表情は固く何を考えているかわからなかったが悪い人には見えなかった。カルミアさんとエマさんを守る父親に見えた。しかし今、目の前を歩いて行った男は違う。
それに痛みすら感じないかのように男の前に現れると回し蹴りをする。
「なんなの…何かがおかしい…」
そして男が何やら霧の中の生物達に話しかける。
おそらく何かしらの取引でもしようかと思ったのだろうか?しかし一瞬だが霧の中にとてつもない魔力反応があり次いで男の背後にあった建物が崩れ始める。
それのせいか次第に霧は晴れていき。その生物の正体がわかった。
「嘘!なんでこんなところに!なんでビーダさんと一緒に⁉︎」
地面に這い蹲る男の頭の上に小さい竜が1匹。後方には巨大な異形の竜が1匹。
それだけでも信じられない事だがビーダが男の落とした籠を拾い上げ刀をしまう。どう見ても入りきらないだろうと思ったが簡単に入り見えなくなってしまう。そしてポーチから緑色の液体の入った小瓶を取り出すと地面に垂らす。それは手乗りスライムだ。
スライムを使用した再生魔法は未だに成功した例はない。それどころか逆に捕食されるなんて事も多々ある。そしてビーダも同様に切り落とされたであろう左腕と白い…歯か?それをスライムが捕食すると、ビーダの全身にまとわりつく。
そこでまたもや、あり得ない光景を目にする。無くなったビーダの手が再生した。そして全身の傷も何もかも。そして、髪の色も黒から緑色へと変わった。
「あれは…でも違う。きっと似てるだけの」
なんとか他に情報を掴もうとさらに近づくと話している声が聞こえて来る。どうやら男の方がビーダに腕を治してくれと懇願しているらしい。
しかし無情にもその願いは届かない。それどころかもう一つ魔力反応が上空に生まれた。
そして何かが落ちてきて男の前に転がる
「 ッ!!!!!」
男の叫びが夜の町に響く。その転がった物に目を向けると…吐き気が込み上げてきた。
人…いや、人だった物。
ここまでやるか普通?周りの竜達も何か言っている。
『アベン…任せる』
なんて言った?この男の所存について聞いたらしいがそう返答した。巨大な異形の竜は嘘などつけるのかわからないがそう答えた。アベン?じゃあビーダが?ならばいつからだ?騙していた?それともビーダに成り代わっていた?
もう少し近づいてみようと半歩進んだ時、全身から冷や汗が流れる。足は震え、呼吸もろくに出来ない。
ビーダの周りを飛んでいた小さな竜がこちらを見ていた。自分が見えているのか?これでも帝国一の隠密だと自負しているが…
「おい、大老どうした?」
『む?おお、すまん。敵意がないなら構わぬわ。お主の好きにすれば良い』
それはビーダの問いに対してか…それとも自分に対してか…視線逸らされると体が動くようになる。
びっしょりと濡れた服に不快感を感じながらも彼等を追う。そして、男を木に縛り付けると彼らはどうやら別れたようだ。
そして現在に至る。極度の緊張か、遺体から転がり落ちた眼球と目を合わせたからか、とにかく一旦落ち着きテルミュードに連絡を入れなければ。
『通話』を使用しテルミュードに念を送る。するとすぐに声が返ってきた。いつ以来だろうかこの人の声を聞いて落ち着くなんてことは。
『お、アリシャ君どうした?』
「報告…します。ビーダさん…いえ、アベンが病魔を招く者を惨殺しました。それに竜種が2…いえ3匹出現しましたがどうやらアベンに使役されているようです。テルミュードさん、奴は本気でヤバイです。人の皮被った化け物…いえ、恐らく人に擬態している竜種かと思われます」
『ビーダが…?いや、悪いが見間違えか何かしらの魔法の影響かもしれない。とにかく一旦来てくれ』
そう言われると『通話』が切れてしまう。なんだか歯切れが悪いなと思いながらも取り敢えず男の出て来た飯屋へと向かう。
「カルミア、起きろ!おい!しっかりしろ!」
アリシャが中に入ると両手を淡く光らせたビーダが必死になってカルミアに回復魔法をかけていた。
「お母さん!お母さん起きてよ!」
エマも声をかけている。どうやら辛うじて生きているようだが全身の痣が痛々しい。
「アリシャ君、ちょっとこっち来て」
「あ、はい」
テルミュードに言われ物陰に入るとどうやらこちらで何が起こったのかの説明らしい。曰く連中は仲間割れを起こし殺しあっていた。そしてカルミアさんは元より暴行されていて更にそこで深手の傷を負ったらしい。
「それで先ほどの報告なんだがね…俺がこの場に来た時点で既にカルミアさんの治療を行っていた」
「それじゃあ私が見たのはなんだったんですか?こっちは死にかけたんですよ!」
「落ち着いてくれ。恐らくだが、突然発生した霧…解析班の話によると微量な幻覚作用を持っているらしいんだ。その影響だと思われる」
幻覚?あれが?じゃあ私が見たあの光景も?大老と呼ばれていたあの竜も?惨殺されたあの男も?全部幻覚?
「兎に角まずはカルミアさんだ。救護班を呼び出しといてくれないか?」
「わ、わかりました…」
「ありがとう。だが君の話も興味深い。後で聞かせてくれ!」
テルミュードはそう言い残しビーダ達の元へ向かう。先ほどの見てるだけで寒気のする様な瞳とは違い今のアベンは…いや、ビーダは優しさの様なものを感じる。必死になってカルミアさんを救おうとする気持ちが伝わってくる。
「エマ、お母さんは大丈夫だ。テルミュード達が助けてくれるらしい。お前は寝てろ。あとはお父さんがちゃんとお母さんの事見ているから」
「うん…わかった…」
そうだ。こんな優しい目をする人があんな残酷に人を殺すわけがない。この人は単に表情が固いだけなんだ。だから別に疑う事なんてないじゃないか。
「んん…うぅ…」
「ありがとう。俺もアベンについて何か他に思い出したらすぐに伝えに行くよ」
救護班の人たち礼を言うとアナグラのいる宿へ戻る。正直彼にはもう微塵も興味は湧かない。それに主人の命令だ。この子を早く届けないと。
背中で眠る少女を見ると余程こちらの方が興味深いと思う。
「しかしご主人も人が悪い。まさか僕をカルミア君の服に仕込んだまま忘れるなんてさ…はあ、なんとも言えない気分になるよ」
やれやれと肩をすくめる。カルミアは既に治療を終え宿に運ばれており自分は礼を言う係というわけだ。まあ、ご主人も明日にはビーダとしてまた生活するのだろうし関係ないか。
「お?ビーダか…災難だったな」
「ああ…ミアが生きてたから良かったがよ…酷え目に遭ったぜ。見ろよこいつの泣きはらした目を。寝てろってのに一晩中泣いてやがって…今は安心したのか泣き疲れて寝ちまったがな」
「ガキはいくつになっても親が心配なんだよ。ああ、あと部屋なんだがどうやら連中の手先が娘攫おうと来たらしくてな。壁が壊されてて部屋の場所変わったからな」
「そうか」
親っぽいことを取り敢えず言ってみたが擬態したこともない物を真似るのは苦手だ。部屋に入ると寝息を立てるカルミアと兄弟達に何やら渡している主人がいた。
「ご主人。ただいま、何をしているんだい?」
「ん?ああ。いい肉が手に入ってな。食わせてた。お前も食うか?」
「ああ、いただこうかな。それと無事に帝国軍と周りの連中への催眠は完了したよ。精鋭部隊と言う割には呆気なかったけどね」
アベンが肉をつまみ上げ投げると口で上手くキャッチする。どうやら人の肉の様だ。
「あ、もしかして偽物ご主人のかい?」
「正確に言えばソレの母と妹。流石に放置はまずいしな。偽物様は今頃広場で石でも投げつけられてると思うぜ」
まったくこの人はいつもいつも必要以上に人を痛めつける。まあ、とっくの昔に倫理観のブレーキなんて壊れてるんだからしょうがないか。見れば2は既に頭骨を溶かし始めている。どちらかと言うとグルメなので人肉よりは魔物の肉の方が自分は好きだが。
「さて、俺も寝るとする。お前らは自由にしてていいぞ。外に出ても人は食うなよ」
「おや、ご主人。カルミア君が心配で起きてたのかい?それともエマ君が帰ってくるのを待っていたのかい?随分と丸くなったね」
「なに…?俺太ったか?いや、最近森でだらけていたのは自覚してるがまさか…」
そっちじゃないよと苦笑する。
エマをカルミアと同じベッドに寝かせると少し目を開けカルミアに抱き着く。怪我人なんだからあまり無茶はさせない方がいいと思うけどそれくらいはわかっているのだろう。
「否定しないなんてね…さて、諸君。家族の寝室に僕らは邪魔さ。散歩にでも行こうか」
昔食べた老人の姿に擬態すると4匹をポケットに入れ部屋の外へ出る。空は既に明るくなってきている。
ご主人にはもう少し眠っててもらおう。また今回もこれだけじゃない、もっと嫌な予感はするからね。
「んう…あ、あれ…?」
気付くと宿の部屋にいた。陽はもうとっくに上がりもう少しで頂点だ。
「あれ…私」
「起きたか」
「アベンさん?よかった…無事だったんですね」
横に視線をそらせばアベンがいた。相変わらず声音は変わらない。だが今日はいつもと違う。寝ぼけているのかよく顔が見えない。
目を擦ってもやっぱりよく見えない。
「アベンさん…私…」
「頭潰されるのは防いだが、どうやら殴られた時に目もやられたみたいでな。4号曰く視力が著しく下がったらしい」
「そう…ですか…これじゃあアベンさんの見た景色も見れませんね…」
「そうだな」
「…私、足手まといですか?アベンさんいっつもなにか面倒ごとあると私をどうやって置いてくかって…私ずっと一緒にいたいんですけど…でも、アベンさんが嫌なら私…私…‼︎」
邪魔なら捨てていく。それはアベンさんの性格ならわかっていることだ。ろくに目の見えない人間など側に置いていくだけでリスクになる。逃げる時も戦う時も。わかっていても、目の奥が熱くなる。目は悪くなっても涙は出るらしい。頬を涙が伝う。涙のせいで余計に前が見えなくなってきた。
今アベンさんはどんな顔をしているのだろう?いつもみたく無表情でもその眼はいつもの様に私にだけ優しく微笑んでくれているのだろうか?それとも逆に自分達に敵対した者達に向ける冷たい殺人者の目をしているのか?それすらももう見えない。
「生きているのにどうして泣く?」
「だって…だって!もうアベンさんの顔が見えない!こんなにも愛おしいのに、こんなにも見たいのに!あなたの顔が見えない!」
「落ち着け。別に俺の面なんざ見なくても生きてはいける」
「そうじゃない!そうじゃ…ないんです…」
三ヶ月も一緒にいればなんとなくわかる。アベンなりに励ましてくれているのだろう。それでも涙は溢れてくる。
そっと自分の頰に暖かな手が触れる。
「お母さん…泣いてるの?」
「ううん…大丈夫だよ…優しいねエマは…」
「はあ…取り敢えず俺は用事があるから出かける」
さっさとカルミアを無視して出て行ってしまう。
そうだ、まだ諦めるな。何か別に方法があるはずだ。
「エマ、頑張ろうね」
「?うん!」
「おい、ビーダ…面貸せよ」
宿の下に降りると待ってましたと言わんばかりに数人の男たちとアナグラがいる。無理やり首根っこを掴まれると路地裏へ連れてかれる。
昨日あんなことがあったのだから放っておいてほしい。
「おい、お前カルミアのこと泣かしてたよな?」
「いつまでごっこ遊びしてる気だお前?」
変わらぬ態度は勘に触る。しかし我慢しろ。ここでキレたらおしまいだ。
「お前、エマだけじゃなくカルミアも捨てていく気だろ」
「ああ、それがどうかしたか?」
「どうかしたかじゃねえよ!昨日も話したよな!忘れたとは言わせねえぞ!」
「忘れたもなにも何一つお前と約束等した覚えはねえぞ?それにお前の客人は俺じゃねえ」
カァーカァー
アベンの指差したところを見るとゴミを漁っているカラスしかいない。
まさかあそこに仲間でも隠れているのか?
「おい、ちょっと見てきてくれ」
「お、おう。あんま乱暴にすんなよ。その人はこの町の…」
「早くしろ!」
どうやらコイツらはアナグラの知り合いというよりは無理やり連れてこられたという方が正解のようだ。
「何考えてんのか知らねえが…俺はお前みたいな仲間を大切にしない奴が大嫌いだ。使い捨ての駒程度にしか見てないだろ?違うか」
「それを言うならわざわざ危険な場所に連れてきたお前もそうだろ?」
ゴミを漁っていたカラス達が一斉にその場にいたビーダとアナグラ以外を襲い始める。
「な、なんだこのカラス!『火炎』!『火炎』!!」
「う、うわぁぁ!!助けてくれ!」
「クロウ。関係ない連中だ。軽く皮を啄む程度にしとけ」
『ああ、我が眷属達が腹を空かしていてな』
狭い路地裏に降り立つのは真っ黒な竜。
その怪しく輝く赤い眼はアナグラを捉えると細められる。
『久しいなアリグナク。我らが王がお待ちだ。来てもらおうか』
「⁉︎お前は !っ⁉︎どうしてだ!なんでお前の真名が発音出来ねえ!」
『くくく…宵闇の顕現者たる我の名をそう易々と呼べるか。とにかく貴様には来てもらうぞ』
人々を襲っていたカラス達は一斉にアナグラに襲いかかる。いや、正確に言えばその影に入り込む。影から生えてきた無数の黒い手はアナグラを自身の影へと引きずりこむ。
「おい!なんだってんだ!ビーダ!いや、アベン!竜どもと繋がっていやがったな!」
「俺は頼まれただけだ。朝から…いやもう昼か。うるさい奴だ。じゃあなクロウ。またどこかで」
『ああ、契約者よ。再び汝と出会うは魔女達の宴か、妖魔降臨か…くく、楽しみにしているぞ』
そう言い残し影に消える。奴は何故か自分の影をカラスにし分体として扱っている。まあ、彼なりのユニークな戦い方なのだろう。
「あんたら偽物にはもういいのか?」
「あ、ああ…俺たちは最近越してきたばかりだからな…それよりもさっきのなんなんだ?」
「触らぬ神に祟りなしって奴だ。それ以上踏み込むと影に引きずり込まれるぞ」
「わ、わかった!もう話さねえ絶対にだ!誰にも話さねえから…許してくれー!」
一人が逃げ出すと全員が逃げ出す。やっと静かになった。さっさと用事を済ませて他の街へ行くとしよう。
路地裏を出て大通りへと向かう。目的地はすでに大勢の人がいる。無論祭りなどの楽しげなものじゃない。呪詛の言葉に罵詈雑言、町は昨日以上に血みどろになっていた。
「死ね!死ね!!よくも、俺の妻を!」
「あたしの息子が何をしたってんだい!なんで殺されなきゃならなかったんだよ!」
「返せ!僕達の友達を返せ!」
一応魔法禁止、石ころのみと書いた看板は首から下げておいた。じゃないとつまらないからな。
ボロボロになり泣いて許しを請うても、人々の声に掻き消される。偽物の病魔を招く者は未だに生きていた。正直あの男が何をしてきたのか一切興味が無いが人間、恨み辛みが溜まれば少年ですらこんな顔を出来るらしい。
確認も終わったことだしさっさと町を出よう。
「まあ、あと2日くらいは生きてんだろ。死ぬその時まで永遠に悔やみ続けな」
「何がですか?」
後ろから声をかけられる。4号の分体で黒髪になっているが突然声をかけられればびっくりもする。
「ああ…アリシャだっけか?テルミュードは?」
「別に私達がいつも同じ行動をしているわけではありません。それで、貴方について聞きたいのですがよろしいでしょうか?」
「話せる事ならな」
「…わかりました。ここではなんです近くの喫茶店にでも入りましょう」
おかしい。確か4号は洗脳が完了したと言っていた。俺を見ても疑問が湧かなくなるようにと言ったはずだが…失敗したか?
「すみません。コーヒー二つください」
「畏まりました」
「飲む飲まないは勝手ですが形式は取らないとですね。で、貴方がアベンですよね?」
「ビーダだ。ビーダ=フォリナス。アベンじゃない」
「あくまでシラを切るつもりですか…ならこちらもそれ相応の手を打たせてもらいます」
スッと手を挙げると何人かの人が集まってくる。全員の共通点を言えば白いローブに口元まで隠されたフード。そして顔の部分に描かれた大きな一つ目の模様。
おそらく背中の部分にも同様の物が描かれているだろう。
「世界の眼の連中か?」
「ええ、そうです」
人の波が割れ同様に白いローブを着た長身の男性が歩いてくる。しかし他と違う場所もある。白いローブなのは変わりないが金の刺繍が施されている。
そしてその男は席の前で止まると口を開ける。
「お久しぶりです、アベンさん」
「お得意様じゃないか。で?何か用か?」
「ええ…実は地底都市の落とし子を探していまして」
机の上に重い袋を置かれる。中身は確認するまでもない。
探せということだ。この連中は本当に唐突に現れる。
ヘムリス…いや、世界の眼とは、言葉の通り薬をよく買ってくれるお得意様だ。色々と薬を買ってくれるしなんなら倍以上の値段で買ってくれる。勿論それは連中の行なっている人体実験の為に使われていることも知っている。
それに過激派組織だとしてもそれで被害があっても俺には関係のない話だ。
「500年ほど前に起きた、帝国の王族貴族の大量虐殺事件は知っていますか?」
「ああ、確か当時研究員だった男の作った兵器だったか?国を乗っ取ろうと思ってたんだろ?それがどうした?」
「ええ…当時、魔法などは無いにしろ敵のいなかった帝国…それは偏に兵の強さでした。が、帝国の軍人の約半数10万もの兵士を殺し尚且つ当時の王と上位貴族どもを殺した兵器…それに私達の魔眼が合わされば敵などはいなくなる…そうでしょう?」
「それを探せと?」
「ええ」
顔の半分が隠れていて表情は読み取れないが口元は笑っている。
元は世界魔眼保護機構なんて名前の魔眼を持って生まれた者たちの保護、育成を目的とした組織だったがどこで間違えたのかこうして犯罪に手を染めている。
「そこの女はなんだ?確か帝国軍人だったろう?狂信者みたくなってるぞ?」
「ええ、彼女の真実の目を開けてあげましたら私に心酔しましてね。いやはや、照れるものですよ」
もう一つ机の上に袋が置かれる。今回は随分と太っ腹だ。それだけ本気という事なのだろう。
「で?特徴とかはあんのか?流石にスライム達でも特徴のない、大雑把ってのは見つけるのは困難だ」
「ええ。心配ありません。先ずは人型であり半分がクローン体のような生物兵器のために見た目が悍ましいほど良いです。次に義手。これは流動形状合金と呼ばれものでその密度や質量さえ変化させることが出来る物です。使用者の脳波で形を変えるらしいですよ」
「それは…もしかして科学技術か?」
「ええ、失われし叡智。貴方の薬学と同じですよアベンさん。今の薬師の殆どはその本来の使い方を知らず文字通り効くかもわからない薬ですが、一部…いえ、私の中では一番貴方のものが信じられる。それに貴方のことですからもう目星は付いているようですしね」
鋭い奴だ。まあ、大体わかる。いくつか疑問は残るがそれでもほぼ確定と言ってもいい。馬鹿だって気づく。
「因みにそいつが仕舞われてた場所ってのはどこなんだ?探してるってことは現存してるんだろ?」
「ええ。貴方と帝国軍が鉢合わせた場所…そう、古代都市リリウムです。その研究者は一平民でありながら複数の貴族と結婚してたようで領土を与えられていたみたいなのですよ。まあ、逃げた先は地下だったんですがね」
「広場を突き抜けてすぐにパン屋がある。そこを左に曲がったところに獣人が店主の宿がある。そこの二階の道沿いの一室にいる。片方は魔法の使えねえ出来損ないノルドだ。実験に使うってんなら髪の毛と血だけは寄越せ」
口元だけ満面の笑みを浮かべるとさらにもう一つ袋を取り出し机の上に置く。
「今回は凄いな」
「ええ、全ての魔眼保持者を救済するために…所長も本気です。気が向いたら是非我々と共に道を歩みませんか?」
「冗談はそのローブだけにしろ」
「おや、これは手厳しい」
「ああ、あと一つ。多分その地底都市の落とし子ってのが抵抗してくると思うからこう言ってくれ」
その言葉を聞くと自然と笑いが込み上げてくる。なるほど、同士の中には信用ならないや魔眼を持たないのに計画に加えるのかと聞いてきたのもいたがそうだ。間違いない、彼は間違いなく自分の知るアベンだ。
コーヒーが運ばれて来る頃には白ローブもアリシャも既に店を出た後だった。取り敢えず中身の確認を一応全部しておこう。
「金貨300枚か…こんだけあれば少しゆっくりして飛行船で余裕持ってバルバトスに行けるな」
カルミアとエマには申し訳ないが元奴隷に古代兵器。どちらにせよ手に余るものだ。
一気にコーヒー二杯を飲み干すと会計を済ませ店を出る。
あとは4号達と合流して町を出るだけだ。ついでに新薬等を売りつければよかったな。
「あの、ヘムリス様。あの様に大金を渡されてもよろしかったのですか?」
「ええ、問題ありませんよ。寧ろもっと渡したいくらいです」
道すがらそんなことを聞かれていた。
彼はフードで隠れて見えないが細い目をさらに細めて言う。
それにあんな端金程度これからの計画からすれば微々たる物だ。
「あの程度で彼が我々に興味を失うのであれば問題ありません」
「はぁ…」
「貴方も上司を上手く使ってくださいね。失敗などすれば…ねえ?」
「は、はい!わかっています」
そして件の宿に着く、中に入れば下は食事場になっていて獣人の店主もいる。
「お、すまねえな。流石にこの人数は…っておい、あんたどこ行くんだ?」
「ええ、大丈夫です。私は少し知り合いに会いに来ただけなので」
言われた通り二階のの部屋には2人の少女がいた。
少女達は驚愕の表情をするが即座に灰色の髪をした少女が前にでる。
作られたかのように可愛らしい容姿、左腕の義手…いや、その左腕の義手は流動すると巨大な剣に変わる。
この程度か?いや、過去の兵器ならそうか。それに本来の力には目覚めていないようだ。
あとは抵抗してきた時に言えと言われたことを口ずさめば終わりだ。
「君のお父さんに頼まれてね、お母さんの目を治しにきたのさ。エマさん?少しいいかい?」
ああ、本当に彼は面白い。怪しく目を輝かせながらヘムリスは笑うのだった。
「おや、ご主人。随分と嬉しそうじゃないか」
「そうか?それよりもさっさと此処をでるぞ。世界の眼の連中がやらかすらしい」
「ああ、わかってるよ。籠もポーチも今2号の中さ」
老人の姿から今度は若い男の姿に擬態するとポケットから黄色いスライムを取り出す。
「ここではいい。ああ、あとカルミアとエマは連中の実験材料になった。まあ、あの眼なら旅を続けるのも難しい」
「はは、もっと相変わらず捨てる時は簡単に捨てるね。あんなに熱心に出来損ないノルドって観察していたのに。そらに一ヶ月前に仲直りしたのにね?まあ、僕らには関係ないさ」
そうは言いつつも若干カルミアの事が気になる4号だった。
恋する少女は時に難攻不落の城になるなんて捕食した誰かの記憶にあったが…あの病的なまでにアベンへの固執は見ていても面白かった。彼女の眼にはきっと主人の言葉も態度も都合よく見えていたのだろう。
愚かな人だ。あの人の心はそんな簡単に開くわけない。未だにトラウマになっているらしいが別に話す必要もないしね。
「どうした?さっさと行くぞ」
「おや、待ってくれたまえよ」
これで彼女達が身を呈して庇いでもすればまた何か変わるのかもしれないけど二度と機会なんてものは訪れるわけもないか。
「アリシャ君。この子が…そうなのか?」
「はい、間違いありません。なんなら真実の魔眼で覗きますか?」
「いや、いいさ。しかし君が世界の眼の構成員だったとはね…」
「あまり大きく言えることではないので…まあ、そんなことはどうでもいいことです。私はヘムリス様を敬い陛下に忠誠を誓っています。何も問題はありません」
「まあ、元から外れ部署みたいなものだから大丈夫だよ」
テルミュードはそう言いつつアリシャの連れてきた兵器を観察する。なるほど可愛らしい。そして何故気づかなかったのか?
答えは簡単だビーダが…アベンが自分達に催眠をかけていたらしい。
アベンから話を聞けなかったのは残念だが今はこれでいい。
「陛下にはもう連絡を?」
「いや、まだだ。もう一度地下都市へ行こう。確か古代兵器がいくつか隠されていたはずだ。それも持って帰るとしよう」
「了解しました。一応同士のうち何人かが手伝うと言っていましたがどうしますか?一応技術部らしいのですが」
「ああ、問題ないよ。なんなら陛下に魔眼部隊でも進言してみようかな…そちらの方が君らも動きやすいんだろ?」
「ッ!!流石は21歳の若さで局長の座に就いただけはありますね…丸わかりですか」
「アリシャ君…君ね何か隠してると服の中にしまってる尻尾出てくるんだよ…」
「えっ…」
アリシャは魔眼持ちの獣人だ。まあ、魔法で耳も隠して尻尾も常に服の中にしまっているから下手したら長年の付き合いがあっても知らない人もいる。
真実の魔眼は相手の嘘や正体を見破れる。諜報部隊である彼女らしい能力だ。
しかし世界の眼の連中が来るとは…アリシャ君も操られてるわけじゃなく純粋に彼らの元へ向かったのなら特に言うこともない。他の連中は何か言いたげだが…
気を紛らわせるように先程から直立不動のまま瞬きすらしてない少女を見る。
覚醒者相手にこの少女の…クローンかホムンクルスか…やはりあまり気乗りはしないな。
それにこの子が戦うってのは見栄え的にどうなのだろうか?幾ら500年前に造られたとはいえ女だしなぁ…
「と、とにかくです!世界の眼も全力で兵器製造を手伝うつもりです!なので…」
「一部を売る…とまでは行かなくても欲しいんだろ?わかっている。じゃあ君のそっちの上司への連絡よろしくな〜。俺は仮眠する」
「は、はい!」
そう言って借りている部屋からアリシャが出て行く。こっちでは副局長でもあちらでは下っ端なのだろう。
「局長、よろしいのですか?」
「流石に世界の眼と言えど喧嘩売る相手くらいはわかってるだろうよ。それに魔眼の事や彼らの技術力は俺らにとっても有益だ。まあ、お互い尾っぽ踏まないように付き合っていくとしようぜ」
「は、はぁ…」
「ああ、あとそれ。一応動かないらしいけど念には念を入れて次元結界にでも入れておいて」
「了解です!」
しかしなんとも可哀想な子だ。記憶が弄られてたとは言え仮の父親にはとっくに見捨てられ、助かったと思った仮の母親は眼の前で殺されたのだから。
扇動の魔眼。単純な能力故にとても強力な魔眼だ。対象を自分の思い通りに使う。今はお互いの主人…その魔眼の持ち主と俺だけが命令できるらしい。それが帝国で言えば一兵士の力なのだから恐ろしい。確か幹部連中はもっとヤバいのや二個持ちなんてのもいるらしいから嫌になってくる。
「エマ=フォリナス…いや、機械仕掛けの偽神…精々上手く使わせてもらうぜ」




