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三十一匹目 末路

今回自分なりにちょっとやばいかなーってとこあります…あひぃえ…

〈通信 未確認種及び特異個体ノルドに精神的、肉体的苦痛の発生を確認 機械仕掛けの偽神(デウス=エクスマキナ) 対象の保護を推奨〉


え…?


〈確認 未確認種呼称父及び特異個体ノルド呼称母の生死に関わる問題 早急に対応せよ〉


また…私置いてかれちゃったの?お父さんとお母さん私を見捨てたの?


〈肯定及び否定 未確認種及び特異個体ノルドの救出を優先 死亡してからでは肯否の確認は不可能 外敵対象の殺害を推奨〉


殺すのは駄目だよ!お父さんと…お母さんに嫌われちゃう!


〈否定 未確認種及び特異個体ノルドは機械仕掛けの偽神(デウス=エクスマキナ)の純粋さに精神的距離を取る行動に移行〉


私は…どうすればいいの!ずっと一緒にいたいだけなのに!もっとお父さんに甘えたい!お母さんと笑いたい!


〈肯定 機械仕掛けの偽神(デウス=エクスマキナ) 心への問いかけを要求 殺し方は貴方自身が一番理解している〉



「今行くね…」


「お、おう、起きたか。今2人は…」


「邪魔、どいて」

日は既に落ち月が顔を出し始めた頃。糸で天井から吊るされてるかの様にエマが起き上がる。

目覚めたエマは明らかに様子がおかしかった。作られた様に可愛らしい容姿にキラキラと輝いていた目は先程までとは違い硬質なものになっている。思わずアナグラも心に思ったことが口に出てしまうほどに…

「お前、誰だ?」


「アナグラさん。聞こえなかった?どいて?」

彼女の義手が流動すると巨大な爪になる。

〈形態機構 大爪〉

少女は窓に向けて腕を振り下ろす。

それは斬りつけると言うよりは叩きつけると言うべきか。轟音と共に壁に穴が開く。

確かに簡単に止める事は出来るだろう。だが、彼女を無事にとはいかない。

あの男はわかっていて置いていったのか?

「今行くよ、お父さん…お母さん」

〈形態機構 翔翼〉

外骨格から4枚の羽が生えてくる。それは触れただけで全てを切り裂きそうな…いや、事実彼女を止めようと出した手は無残にも切り裂かれている。

ほんの少し動かすだけで当たりのものに傷を付ける。

「待て!おい!」

その声は届かない。

一瞬にしてその場から消える。

言葉に表せられない…そもそも見捨てていったあいつらが悪い…俺は悪くない…俺は…

「おい、アナグラ!でけえ音したが大丈夫か…なんだこりゃ⁉︎」

クソが…



笑い声が響く。先程から爪を剥がされ指の骨を折られて一本だけ指を切り落とされた。それに確か鎖で吊るされて何度も腹を殴られた。余程腹が立っていたらしい。今は木の棒で何度も顔を殴打されている。一切痛みは感じないがコイツらにとってそれでもいいらしい。しかし瞼が切れたのか視界が赤く染まってきた。

一度止められると泥水をかけられる。

「おい、生きてるか?」


「お前は一々生存確認しなきゃ人を殴れないのか?」


「…舐めてんじゃねえぞ、クソが!」

再び殴打が始まる。しかしいつになったら気がすむのだろうか?荷物も全部取られてしまったしなぁ…

「病魔様!コイツの持ってた籠なんでも入りますぜ!それに籠の中から刀が出てきました!」


「なんじゃこりゃ?この…錆びついてて抜けやしねえ。おい、棄てておけ」


「それに触んな」


「あ?」


「それに触んなって言ってんだよ三下が」

ニヤリと笑う。どうやらこのボロボロの刀はこいつの何か大切なものらしい。なら話は簡単だ。いつも通りやるべきことはやる。

「おい、あの女連れてこい」



「嫌!嫌だ!助けて!もう痛いのは嫌だ!アベンさん!助けて!」

予想以上に…そういえばこいつ痛みにひたすら弱かったな。奴隷時代に痛めつけられてなんども回復させられてトラウマになってるんだっけか?

初めて会った時も一等奴隷なんて言ってたが架空の制度だしな。本を読ませられてたのも精神を落ち着かせるためか?

爪を剥がされただけで発狂しかけるとは情けない。

「今からこの鈍でこの女を撲殺する。錆びた刀と脆い女どっちが先に壊れるかなっ!」


バキィ!


「痛い!痛い痛い痛い!アベンさん!助けて!嫌だ!私はもう奴隷じゃない!」


「ぎゃはははは!逃げんじゃねえよ!奴隷はいつまで経っても奴隷だ!どんだけ自由に暮らそうが魂に刻まれた鎖はいつまでも断ち切れねえ。おい!足の腱切れ。逃げられない様にしてやれ」


「お願いです、やめてください!なんで?私は奴隷じゃないのに!痛いのは嫌だ!痛っあぁぁぁぁ!!」

ああ、これは駄目だな。ナイフで足を切りつけられて立つ事も出来ない。

それにこいうい連中からすれば痛がってる奴の方が興奮するらしい。

「そーら、もう一回」

再び打撃音が響き渡る。口先だけの男かと思ったがわざと死なない様に殴っている。それがカルミアにとってひたすら苦痛にしかならない。泣き叫んでも血を吐いても止まらない。

何度も、何度も何度も何度も何度も何度も…彼女の端正な顔立ちは歪み、顔とすら判別出来ない。

可哀想に。俺なんかに着いてくるからこんなことになるんだ。

「ぎゃははは!見ろよこいつもう女かどうかもわかんねえぜ!これじゃあ勃つもんも勃たねえな!」


「違いねえな。しかし女も刀も随分と出来がいいじゃねえか?ええ?」


「…それは錆びてるんじゃねえ。特殊な刀だ。てめえの貧弱な力じゃ傷一つつかねえよ。無駄な事はやめやがれ」


「なんだ?女が殴られて気をそらす気か?じゃあよ、その抜けねえ鈍でてめえの女を殺してやるよ!」

都合よく誰かが助けに来ることもなく振り下ろされた一撃は無慈悲なまでにカルミアの頭を潰す。

こっちの方まで中身が飛んできた。それに刀にも脳漿がべったり付着している。洗えば落ちるか?

「はは、はははは…ふはははは!いいかてめえら!これが俺に!病魔を招く者様に楯突いた奴の末路だ!この死体を町の広場に捨ててこい!見せしめにしてやれ!」


「いひひひひ!見ろよこの女死んでもまだ体が震えてるぜ?」


「さて、次はてめえだ。その女みたく頭潰されてえか?それとも喉を潰した後、達磨にして便所にでも埋めてやろうか?」


「どちらでも構わないがな。一つ忠告だけしてやるよ」


「あ?」


「名乗りてえなら、この町だけにしときな。外になんざ出たらお前みたいな野郎はごまんといるからな。精々死なねえ様に逃げ足だけは鍛えとけ」


「目の前で女が殺されたってのに涙どころか表情一つ変えねえとは大したタマじゃねえか!冷血野郎、なら確認しねえとな。鋸もってこい」


「へい!」

部下の持ってきた鋸を持ちアベンの左肩にかける。

やることはわかっている。別に鋸で人体切断など何度もされているから慣れている。鋸の歯が肉を裂く感覚と骨を切る音はあまり好きじゃないが…

「おい、普通ここまでやったら泣き叫ぶぜ?どういう神経してんだお前?」


「一々質問してくんなよ。殺したきゃ殺せよ」


「はは!なら遠慮なく達磨にしてやるよ!」

鋸が体内に侵入して来る。魔法付与もない錆びて鈍色になった鋸は切れ味も悪く必要以上に肩口を傷つける。

その場にいる全員の瞳に宿るのは狂気。

他人を傷つけどんな反応するか?

毎度思うがこういう時に限って昔のことを思い出す。

そうこうしているうちに左手が地面に落ちる。馬鹿なことにわざわざ回復魔法で止血までしてくれるとは気がきく。

「おい、こいつ本当になんなんだ?表情が一切変わらねえ…気色悪いな」


「病魔様、さっさと殺しましょうよ」


「ああ、そうだな。俺もこんな気持ち悪い奴は見た事ねえ」


「お前らさっきから黙っていれば気持ち悪いだなんだ。失礼な話だ」


「チッ。さっさと女のところに連れてってやるよ!」

今更ながら高い所から撒き散らす様に頭が割れたならともかく打撃で頭を潰されたらどうなのだろうか?死ぬか?それとも肉塊になっても生き残るか?

ゆっくりと下ろされていく鞘を見ながらも余裕もって考えられるのは死ぬ間際に見る走馬灯というやつか。

特に心残りもないし別に思い出すこともないか。




偽病魔を招く者はほくそ笑んでいた。今まで自分が病魔を招く者と言い確かに歯向かってきた者もいた。が、英雄気取りの馬鹿相手でも結局は多勢に無勢。

そうして何度か痛めつけ見せしめに町に吊るしていくうちにこの町で歯向かって来る者もいなくなった。

正直覚醒者など呼ばれ調子乗っている奴らも名前だけだろうし勝てる自信はある。噂が噂を呼び吹聴されまくった結果だろうしな。

そして今回もそうだ。歯向かってきた女と男。髪色を変えた程度でバレないと思ったのか?馬鹿な奴だ。女の方は簡単に泣きながら許してと言ってきた。愉悦感が心を満たす。この世界の支配者にすら俺はなれる。

そして男の目の前でその短い人生を終わらせてやった。正直犯してやりたい所だったが仲間を殺した。なら快楽を与えるより死ぬまで苦痛を与えた方がいいだろう。

なのに目の前の男の表情は何一つ変わらない。女が嬲られても、女が死んでも。それ以上に苦痛な事があったのか。血だらけなのに涼しい顔をして見ている。

ムカつく野郎だ。こいつも殺して今度は外から来た奴らにも俺の恐ろしさを教えてやる。この町は…いやこの世界も俺たちのものだ。

〈形態機構 砲腕〉

男の頭に鞘が当たる本当に数秒前。瞬きの一瞬。確かに聞こえてきたその声は同時に衝撃を生む。

地下深くにある自分たちのアジトの天井は崩れてきた。何人か巻き添えをくらい潰される。

「見つけた」

ふわりと羽の様に…舞い降りてきたのは天使…いや、降りると同時にその背中の鋭利な羽が消える。その姿に似合わないほど大きな腕はすぐに少女の体と釣り合う様な大きさに戻る。

灰色の髪の少女は作られた容姿で笑う。

「だ、誰だお前!」


「私?私はエマ。エマ=フォリナス。これ以上お父さんとお母さん…を…そんな…間に合わなかった…」

少女は絶句した。守るべき母は今や全身痣だらけで頭部も潰された無惨な遺体になっているのだから。

「ぎゃはははは!そうか、助けにきたのか!だが一足遅かったな!ええ?お前の母ちゃんはとっくに死んでんだよ!無様に泣きながら許しを請うてな!」

物音に気付いた部下たちも部屋に入ってくる。

どんな能力かは知らないが所詮はガキ1人。簡単に捕まえられるだろう。しかし可愛らしい。それに劣情をそそっているくるように薄い布一枚しか着ていない。

そこの女の娘ということあって顔も中々に美形だ。犯せなかった分コイツにするか。

「…お父さん、私ね。何も知らなくて…だから2人とも私の事置いていくから…だから私ね」

少女は微笑む。それは冷たく、冷酷に…

「沢山殺して、お父さんみたく真っ黒になるね」


「お前ら!殺すんじゃねえぞ!手足の1.2本はいいが生かしとけ!」


「「おおっ!」」

調子に乗ったガキを躾けるのは大人の仕事だ。それにガキ相手に負ける気など一切しない。数人が少女を攻撃する様に取り囲む。

どうやって来たのか知らねえが簡単すぎて笑いが溢れる。

魔法を放ち、武器で切りつけ、殴る。しかし飛び散るはずの血はなく、無慈悲な声だけが響き渡った。

〈形態機構 細刀〉

瞬間煌めいた。横薙ぎに一閃され、攻撃をした…いや、その魔法や武器すら真っ二つに少女の手によって行われた神業とも言える一撃。

その手は先程の義手ではなく細い剣。いや、今自分が手に持っている刀と呼ばれる物になっていた。

「…は?」

そこで初めて事態に気付く。今、目の前で部下が死んだ。

全員同胴体から真っ二つなので呻き声や痛みで叫んでいるものもいる。

中には中身がこぼれている者や既に絶命している者…

「よくも…よくも俺の仲間を!」


「仲間?そんな価値のないもののためにお父さんを痛めつけたの?お母さんを殺したの?」


「ああ、そうだよ!そこに倒れてるゴミや!てめえがギリギリで庇った死に損ないも!そいつら如きじゃ仲間の命の半分にもなんねえんだよ!」


「仲間って何?威張り散らして町の人困らせて自分達がやられれば怒るの?それっておかしいよね?」

ガキ特有のウザったい質問に嫌気が指したのか部下の1人が魔法を放つ。

〈形態機構 大盾〉

簡単に魔法を防がれてしまうが想定済みだ。もう既に何人かが爆煙の中、ガキに向かって攻撃を仕掛けている。

そこそこ腕はいいらしいが俺たちの前では詰みだ。

「ぐっ…どうなってやがる⁉︎」


「体が動かねえ!」

しかしそこにあったのは予想もしなかった光景。

不意打ちを仕掛けた全員が空中で停止していた。それどころか自分以外の全ての人間が動けなくなっていた。

〈形態機構 鋼糸〉

薄っすらと輝く極細の鋼鉄の糸。それが仲間全員の体に絡みついていた。

「今直ぐ泣いて謝って、それから自殺して。そうすれば仲間は開放してあげる」


「ふざけんな!てめえ、人質を取るとか最低だな!今直ぐ解放しやがれ!」


「まずは人差し指」

言った通り義手の人差し指を軽く動かすと何名かが悲鳴を出す。やがてはその声すら出せなくなり…バツン!と音を出し悲鳴をあげていたものは細切れになった。

「…くそッ!こんな化け物いるなんてありえねえだろ!」

逃げる。部下には申し訳ないがきっと彼らも自分を生き残らせるためなら喜んで命を差し出すだろう。

扉から出て出口へ一直線に走る。




「残念だね。バイバイ」

義手が拳を作ると囚われていた全員が細切れになっていく。

しかし気分など晴れるわけがない。母が殺されたのだ…あの男を今直ぐに追いかけ後悔させながら…必ず…

「エマ、すまないがロープを切ってくれ。魔法で強化されてて一切動かない」


「あ、うん。わかった」

力任せにロープを引っ張ると簡単に千切れる。

こんなのも抜け出せないとは父は相当に疲弊している様だ…だが無理もない。目の前で母が殺されたのであろうだから…

母の遺体にそっと近づくとやはり身体中に痣ができている。それにまだ体は暖かい。それを見ているだけで母がどんな辛い体験したのか…それにもう会うことも出来ないなんて…

「お母さん…お母さん、やだよ!起きてよ!」

自然と涙が溢れてくる。やっと再開できたのに。楽しく3人で過ごせると思ったのに…どうして…あの人達が悪いんだ。逃げた男も。家族がいるならそいつらも悪い。そしたらその町に住んでいる人間も。全部、全部…お母さんを奪った奴らを…必ず

「落ち着け。大丈夫だから」

そっと自分の頭に手を乗せてくる。大丈夫。それは私じゃなくて父が手を汚すという事なのだろうか?母を守れなかった私に…

「よくやった4号…ギリギリ間に合ったか」

父はそう言って潰れた母の頭に触れる。飛び散った脳漿や血が…集まってきて1匹のスライムになる。

そしてそのスライムの下に…虫の息だがボロボロの母がいた。

「あ…れ…?どうじて?」


「ん?ああ、咄嗟に顔に張り付かせて擬態させてな。あたかも潰れたかの様に見せた。実際は飛び散ったのは4号の擬態したミアの表面だけだ。死んじゃいねえよ」


「おがあざん!ううっ、うう…うわぁぁぁん!生きてだ!おがあざん!!」

狭い空間のせいで余計に声が響く。子供はうるさくてかなわない。

さて、逃げた奴を追うか。仲間がどうだとドヤ顔で言っていたがさぞ素晴らしい考えで逃げたのだろう。自分の為に仲間は死んだってな。エマの攻撃で死ぬ瞬間の連中の中に誰一人まともな顔してる奴はいなかった。大体後悔か泣き叫びながら許しを請うていた。「騙されてた」「脅されてた」よくもまあ思いつくものだ。

「4号、聖女に擬態して全魔力使ってでも助けろ。強化剤と魔力回復剤は…しまった籠もスライムも奴にもってかれた。とにかく頼んだ」


「もちろんだとも!ご子息もろとも纏めて助けるさ!」

聖女に擬態した4号はいい笑顔でそう言うと即座に彼女に回復魔法をかけ始める。

あとはエマが声をかけてやれば奇跡とかでも起きて助かるんじゃないだろうか?

「エマ、取り敢えず逃げた奴を追うからお前はミアに声をかけてやれ。頑張れってな」


「わかった!笑顔で…ヒック…頑張る!」

面倒な話だ。だが、これで嫌気が指してこのまま旅を途中でやめてくれるならありがたい話だ。宿代も浮くし一人の方が何かと行動をしやすい。

どうかは起きてからの話だ。

しかし何故か指輪だけ…いや、この一箇所だけ指を切り落とされたと言うことは盗ろうとしたのだろう。そして抜けなかった…もしかしてあいつ呪いの指輪とか渡してきたのか?だが今はこれしか頼るものはない。早速だが使ってみるとするか。というか使い方がわからない…





「くそ!くそ!早く…もっと早く逃げねえと!」

それは郊外にあるとある飯屋の地下。しかし今は隠れ家としてではなく上へと登る階段を登っていた。そして飯屋から出ると深夜ともなって誰も人はいない。だが好都合だ。

手には奴のポーチと籠。それに刀を持っている。相当高く売れるだろう。中には見たこともない薬もあったがそれは棄てよう。

先程のガキのことを考える。自分の部下を無残にもバラバラにして殺した…しかも人質として取った。最低な行為だ。

もっと仲間が必要だ。奴のように卑怯な奴は人との繋がりで殺さなければ…とにかく早く町の外へ出ないと…

やっと見えてきた町の出入り口に思わず安堵するこれでやっと逃げ切れる…

しかしそこで思考は停止する

「ゴッハァ!」

横から何か硬いものにぶつかられる。何本か骨も折れたらしく脳に嫌な音が響く。それだけならまだ逃げられたが余程強く当たったのか家に突っ込んでしまう…

「ガハァッ!…くそッ、なんだってんだ」

中の住人が驚いたような顔をしているが無視する。何か言ってくれば殺せばいい。

即座に回復ポーションを飲むと折れた骨や傷が回復していく。これは大量の金を注ぎ込んで買った上位の回復ポーション。致命傷になっても回復することもできる。

一体何がぶつかってきたんだと家から出ると気付くと当たり一面に霧が発生していた。

そして霧の中に光る赤い光。あれか?近づいて行くとその全体が見える…いや、それは本来見てはいけない生物。

「化け物…いや、竜か…?」

左右で目の数の違う、異形の竜。その背中から生えているもう一つの腕が再び動く。

大木のようだ。なんとか転がりながらギリギリで避けるが追撃にと何度もその腕を使い叩きつけてくる。

「くそッ!『魔法盾』!」

魔法を発動する。安心とまでは行かなくてもこれで時間稼ぎくらいは…


ゴシャッ


魔法なんて初めからなかったかのように背中に拳が刺さる。やはり先程の攻撃も奴からの様だ。背骨が悲鳴をあげている。そして地獄が始まった。

一度倒れれば再び態勢が戻るのに少しロスタイムが生じる。そこに先程の竜が腕を叩きつけてきてくる。自分はミンチにでもなるだろう…しかし全身を襲う激痛はあるが自分は生きている。運がいいことにギリギリ死ぬ手前…これならポーションで回復できる。

竜もなぜか攻撃の手を休めている。好機だ。

「んっ、んっ…ぷはぁ!クソが!なんだってこんな町中に竜なんていんだよ!」

こうなればヤケだ。複数の魔法を放ち奴に攻撃する。流石に竜と言えどこれほどの魔法の前では無傷とは言えないだろう…霧と爆煙のせいで見えないが手応えはあった。

しかし何事もなかったかのようにその中から先程の腕が伸びてくると今度は鷲掴みされ上空に投げられる。

飛行魔法なんて高度な魔法は使えない。なら、地面に向かって爆破魔法でも放ち衝撃をクッションにして何とか落下のダメージを防ごう。しかしそんな行動もとる前に腕で何度も殴打される。これが人間サイズなら何も問題はないだろうが大木が左右から何度もぶつかりにきている様なものだ。

咄嗟にガードしても両腕など粉々に砕かれてしまう。そして今度こそ死ぬと思ったら再び攻撃の手が止む。

砕けた手でなんとか回復ポーションを飲むとなんとか骨も戻る。しかし粉々に砕かれたせいか治りが悪い。

そしてはっきりとわかった。手を抜かれている。最初の一撃は様子見。そして回復できるとわかったら今度は殺さない程度に…狩りを楽しむ肉食獣の様に…

「ふざけんじゃねぇ!!」

上等だ。畜生と言えど病魔を招く者様に歯向かったのなら手を抜く必要もない。

それに俺は第五門まで使える。今までこちらも様子見程度で第三門までしか使ってない。ここからが本気の潰し合いだ。

「ああ、本当にな。ふざけるなって話だよな」

気付くと目の前に先程の男が立っていた。

肩口からなくなった左腕に破けた服にもべっとりとついた血。突然現れた男に攻撃しようとするが男の方が早い。回し蹴りはなんらガードされてない頭部に当たり竜ほどではないにしろ飛ばされる。

「ミスト、足止めって言ったろ。なんだこれは」


『大丈夫…弱すぎて…殺しかけたけど…問題ない…』


「町破壊してどうするって話だ」

異形の竜…ミストは項垂れる。それを遠目に見ていた偽病魔を招く者は驚いていた。竜種が人に頭を下げている。しかし、愚かにも彼の目には奴隷と主人の姿に見えた。

何かしらの原理で主従関係を結んでいるらしい。ならば奴より良い案を提示すれば自分の物になってくれるだろう。怒りよりも物欲が優ってきた。

『ふむ…しかし1週間も経たずに会えるとは我が子ながら情けないわい』


「黙れ。ミストが変な指輪渡さなきゃ自分でどうにかしていただけだ」


『ほーん?まあ、どうせまた連絡して来ないだろうしと渡した者じゃ。どうせ使えぬ魔力ならわしらが有効活用してやるわい』


『そうそう…ミスト寂しい…カルミアと話したい…』


「あいつ今死にかけてるぞ。そこの野郎に何度も殴られてな」

瞬間、偽病魔を招く者の全身に冷や汗が流れ始める。蛇に睨まれた蛙…それは絶対的な力の前で平伏す哀れな弱者。どうやら上手くは聞こえなかったがなにか口論していてこちらを攻撃される様指示されたらしい。新しく小さな竜も現れたがそっちも問題ないだろう。となるとやはり指輪の魔法か?しかし竜を召喚し使役する魔法道具など聞いたことがない。ますます欲しくなった。

「お、おい!話があるんだが!」


『ん?なんじゃ?命乞いか?』


『食べても…美味しくなさそ…う』

少年を守るように2匹が前に出る。これほどの力を持つなら本当に世は自分のものだ。

「俺は病魔を招く者という史上災厄の犯罪者だ!そこの竜2匹、俺と手を組まないか?」


『ほう?』

張り詰めた空気になる。竜といっても所詮財宝好きの者ども。直感か何かで理解したのだろう。

「俺はこの世界を支配する。そしたら半分の金銀財宝をあんたらに献上する!どうだ?良い案だろ?」


『ふーむ…それだけあればいい光景になりそうじゃ』

食い付いた!

「おい!そっちのデカイのもどうだ?欲しいものがあるなら言ってくれ!後払いになるが俺の支配した世界で望むものをなんでも献上しよう!」


『うーん…ミスト…そんな欲しいものない…』

よし、とにかくならば先に小さい方を懐柔しよう。

後ろの男も顔は見えないが絶句しているだろう。これだけ強大な力を持った存在が味方であるから余裕の態度を取れていたのだ。そいつらが俺のものになれば奴も流石に悔しがり絶望するだろう。

「どういった経緯でそいつと契約したか知らないが、そんなゴミより俺と組んだ方が百倍…」

最後まで言い切る前に後ろの建物が崩れ始めた。いや、切断されたと言うべきか。そして、上から降ってきたのは見覚えのあるもの…建物と一緒に切られた自分の腕…

「ギィヤァァァァァァ!!!腕が…俺の

腕が!熱い熱い!!いでぇぇぇ!!!」

今まで感じたことの無いような痛みが彼を襲う。急いでポーションで回復しないと…上位の回復ポーションなら簡単に取れた腕もくっつくはず。

『哀れよのう。まさかワシらがお主の味方になるとでも思っておるのか?』

頭の上から声が聞こえてくる。それは先ほど小さい竜だが…その目には完全に獲物狩る者の目をしていた。自分はもう殺す対象だ。

「ま、待て待て待て!落ち着け!俺が悪かった!謝るから!あんたの機嫌を損ねたならその事について謝るからぁ!」


『謝る?無理じゃよ。懐柔しようとしたのかわからんがな。わしらがアベンを裏切ることは絶対にありえぬ。それこそ、神でも無理なことじゃ』


「は?わかんねえよ!財宝か⁉︎なら、全部やるよ!だから助けてくれ!」

とにかくポーションで腕を癒着させなければ…取れた腕を傷口に当てポーションをかける…しかし激痛は治らない。腕もくっつかない。

「ああ、そういえばポーションってよ確か時間内に上限決まってたよな。身体的影響や何が起こるかわからないからって。短時間に多量に摂取すると新たに摂取したポーションと体内にあるポーションのエネルギー?みたいなのが反応起こしてポーションの効果がなくなるんだってな」

自分が落とした籠に刀をしまうとポーチから緑色の液体を出す。それは流動的な動きをしてやがて1匹のスライムになる。

「ミスト、俺の部品どこ?」


『アベン…人間だから…部品じゃなくて部位…』

そう言ってどこからか手と歯を取り出すとスライムがそれを捕食する。

そしてアベンの傷口や無くなった腕の所に張り付くと新しい腕や歯が再生していき。それに外傷など一切無くなっていた。

「⁉︎な、なあ、あんた!頼む俺の腕も戻してくれ!あんたにしたこと謝るから!なあ!だから頼む!」

籠から白衣を取り出して着るとポーチを腰に付け籠を背負う。

少年はいつもの姿に戻ると無様に這い蹲っている男の顔面に蹴りを入れる。

「ガハッ!なんだよ!助けてくれよ!同じ人間だろ!」


「何言ってんだお前?仮にも俺の…あー…まあいいか。嫁さん殺して?娘を化け物呼ばわりして?それで怒らない親はいるか?」

もう一度今度はさっきより強く蹴る。

どうやら鼻の骨が折れたようだ。

「イデェ!悪かった!全部謝るから!なあ、だから!俺は病魔を招く者じゃない!なあ、だから頼む!俺を殺さないでくれ!」


「そんなことは知っている。まあ、別にお前の病気持ちの母も、それを支えていた妹も、もうこの世にいないからさ?これでおあいこでいいよな?」


「へ…?」

アベンが上を指差すとそれに合わせてか何かが落ちてきた。それは落下の重力のせいか?それともそうなる前からなのか…ベチャッと汚らしい音を立て二つの潰れてひしゃげた肉塊が眼前に転がる。眼球は飛び出し赤の中にピンク色もある鮮やかなものだった…見覚えはある…いやありすぎる。

「ああ、すまない。奴の時は助ける為にやったが…ハームと似たようなやり方になっちまったな。安心してくれ。お前は救う気ないから。それに殺し方のレパートリーなんてあまりなくてな」


「 ッ!!!!!」

声にならない慟哭が町に響き渡る。だが誰も出てこない。自業自得だと。妻を殺された者。子を殺された者。友を殺された者。皆一同に思う。ざまあみやがれと

「ありがとうクロウ。じゃあ、大老。俺は用事済んだから」


『えげつないのう…一応同じ種族なんじゃぞ?』


「知らねえよ。やられたらやり返されるのが当たり前だろ。で?どうすんだ?」


『ミスト…喰うか?』


『いらない…お腹…壊す』


「俺的には広場に吊るしといて死ぬまで石を投げつけられればいいと思うぜ。この町の住人は殆ど恨みを持ってるみたいだしな」


『全く、たった8年で変な成長しおってからに…』


「色々あったんだよ。大老はもういいのか?珍しく怒っててよ」


『ちょっと建物壊して罪悪感の方がのう…』


「でめえ!お袋は!妹は!かんげいなあだガハッ」


「うるせえよ。こんな深夜に騒ぎやがって…明日これ睡眠不足になるだろうが」

腹いせにと複数回腹部を蹴ると丸まって嘔吐する。

さて、もうそろそろ終わりにしよう。町の人たちに迷惑だ。

「じゃあ、二人とも異存なしでいいか?」


『……』


『アベン…お任せ』


「おい、大老どうした?」


『む?おお、すまん。敵意がないなら構わぬわ。お主の好きにすれば良い』

遂に血の涙まで流し始めた偽物を引きずりながら広場に向かう。後は適当に木にでも縛り付けておけばいいか。

「ああ、そうだ。アナグラって奴がそうだ」


『ほう?やはりお主は竜を見る目があるのう!アナグラ…おお、アリグナクか!ありがとうのうアベン』


「やめろ舐め回すな」


『アベン…まったねー…』

結局二人から舐め回され勝手に指輪を使い帰っていく。この指輪はミストが昔食べた人間の残骸…要するに排泄物として出てきたものらしいが…長らくミストの中に入っていた為か繋がりがありそれを利用して指輪の場所に転移できる様にと大老が作り変えたらしい。無論こちらから呼びかけなど一切出来ない。あちらが勝手に転移して来るのだ。まあ、糞から出たものを渡すとかどんな神経してるのか理解できないが…それにどうせ明日も来るのだろう。アナグラに会いに…

そしてどうやってあの時助かったのかはわかった。運良くミストが指輪から出てきたらしい。

しかし中継器と言っていたが魔力は全部俺持ちかよ…

生まれて初めて魔力切れでの倦怠感を感じながら宿へ帰るのであった。





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