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二匹目 オークと騎士団に会う

「えーと…綺麗な水溜りとか川とか近くにあるか?」


「こっち!」


 翌日には約束通りに解毒薬を作るため早朝から森に入り、獲物を探し始めていた。

 澄んだ空気と朝焼けにどこか懐かしさを覚えつつも目的の生物を探す。とはいっても普通の蚊と生態はあまり変わらないし、繁殖時期なので多分水辺にいるだろうと踏んでのことだ。


「お兄さん!こっちも、こっちも!」


 二人には危ないと説明はしたのだがチコが来た。表情こそ変えなかったが内心、面倒くささが勝っておりうっかり素が出そうになった。まあ、

 地理的にわからないが一人のほうが気楽であり、そこまで深くはないので迷うことはそうそうない。

 まあ、仮に魔物がいて襲われて死んだとしても俺は知らん顔するつもりだが。


「お兄さん!ここだよ!」


「ああ」


 まあテッド曰くそうそう魔物とかはみないらしいが、もしも荒くれ者でもいたら殺しておいたほうが村のためかもしれない。餌も必要だしな。


「それでどうやってその…パラモスキート?捕まえるの?」


「奴らは血の匂いに敏感に反応するからな。その習性を利用して集まってきたら捕まえる。

 だからあまり近づきすぎると今度はこっちが襲われちまうから。少し離れてようか?なあ、聞いてる?聞いてます?」


 説明してても落ち着きなくはしゃいでいるチコを眺めながら罠を仕掛ける。見た目は単純で血を入れる皿の下に少しの装置が備わっているのみだ。

 それにしてもだ。ガキ相手に魔物の話をしたところで興味が強すぎて、ましてや普段見ない魔物なためか危険さよりも物珍しさが勝るのだろう。本当になんでついてきたのやら不明だが。


「よし。チコ、罠仕掛けたからこっち来い」


「おー!凄く格好変!」


「わかってる。機能性重視だ。気にすることじゃあない」


「あ、お兄さんなんか来たよ!」


「ああ、静かにしとけよ」


 離れすぎず遠すぎずに茂みに隠れた直後だった。繁殖期ともあってより新鮮でより魔力の満ちた血の臭いににでも誘われてきたのか数分と待たずにお目当てのものが来た。巨大な虫型の魔物、あれに襲われたらひとたまりもないだろう。


「お…」


 罠に近づいてきたのはチコの頭ほどある大きな斑模様の蚊。その4枚の羽根からは不快な高音を生み出し見た目だけでなく、音でも不快にさせてくる。


「お兄さん、あれでどうやって薬作るの?」


「簡単に言うと茹でて磨り潰して混ぜる」


 ガシャン!

 最初に罠が発動した音がすると内部に仕込まれていた刃が瞬時に展開されパラモスキートの全身を貫く。 

  ギィギィィイッ!

 それでも死なないのは魔物特有の頑丈さゆえか、未だに手足と羽をせわしなく動かし逃げようとしている。透明な体液が体から噴き出して近づきたくない。

 

「あ!罠にかかったよ!」


 見ればわかる。


「それで、この後どうするの!?」


「よし、チコ。デカモスキートの頭を回転させてくれ。そうすりゃ死ぬ」


「え?パラじゃなかった?」


「気にするな」


 まあ、名前なんて適当でいいのだ。しかし…子供は残酷だな。

 嬉々として蚊の頭を持つと躊躇なく回転させ…過ぎて頭がもげた。まあ、用があるのは中身なので問題はないが…できるなら触りたくもない。


「よし、あとは袋に詰めて持って帰れば大丈夫だ。帰ろう」


 取れた頭も何かに使えるかもしれないから一応袋に入れて持って帰るとするか。


「でも、婆ちゃんこんな大っきな虫だったら気付かない?これ顔の前来たらびっくりするよね?」


 それは実際そうだが…


「歳を取ると案外気づかないもんだ。ほら、戻るぞ」


 変異でもして小さくなっていたなんてことも考えたが、別段魔物の突然変異など珍しくもないのでどうでもいいことだ。


「お、お兄さん…あ、あれ…」


「ん?あ…あー…」


 考え事をしていると不安そうにチコが白衣の裾を引っ張ってくる。

 何事かと彼女を見ると指差す先には2メートルほどある巨体に緑色の肌。巨大なこん棒にそれを持つ丸太のような腕。あんな人間は見たことないので多分ゴブリンの特異個体かと一瞬思ったがあの特徴的な鼻はおそらくオークだろう。鼻息を荒くしてこちらを睨んでいるところを見るとどうやら餌として見られているらしい。


「ずっとこっち見てんな…」


「お兄さん!魔物に見つかったらね、村に近づけさせないようにして逃げるの!!」


「ああ、あの村…冒険者どころか、まともに戦えそうなやつもいなかったからな」


 もう既に村とは反対の方向に逃げ始めているチコの後を追って走る。もしかするとこちら側をたまたま偶然見ていただけかもしれないが…いや、そんなことはないな。こいつらに知能があるのか不明だが大抵は動くものを追ってくる。


「グォォォォッッ!」


 急に動いたからだろうか?当たり前だがオークは唾液をまき散らしながら叫ぶと声をあげながらこちらに走ってくる。逃げ足には自信がある。このままチコを置いて逃げるのも考えるべきではある。


「ふむ…やばいな」


「お兄さん!はやくはやく!追いつかれたら頭からぱっくり食べられちゃうよ!きゃあ!」


 俺の方も見ながら走っていたせいか先に走っていたチコは木の根っこに引っかかり転んでしまう。足元を見ないからだと言ってる暇はない。流石に置いていくのは忍びないので立ち止まり彼女を抱えるが時すでに遅く、目の前にオークが不快な臭いを撒き散らしながら立っていた。そしてチコの膝から流れる血に反応したのか、それを見て醜悪な顔面をより引き攣らせゆっくりと近づいてくる。


「…チコ立てるか?」


「お兄さん。昨日は擦り傷だけど今日は追加で捻ったみたい…」


「そうか…」


 ああ、面倒な事この上ない。助けなければよかった。だが今更後悔しても遅いな。


「グルルル…」


 ご馳走を目の前にしてダラダラと不快な液体を口から垂らしながら今にも襲い掛かってきそうだ。腹減ってるならこんな食う部分の少ないやつらを狙わずに他に行ってもらいたいものだ。

 まいったな。生憎だが冒険者の様に剣一本で挑む力量もないし、なんならお荷物背負った状態だ。


「…チコ。お父さんにもお母さんにもお婆ちゃんにも誰にもここで起きたことは秘密だからな?」


「お、お兄さん?」


 腰のポーチに入ってる黄色い液体の入った小瓶を取り出すと蓋を開けオークの顔面にぶっかける。


「グルルル…グ?」


 最初はなんて事の無い液体は粘性を持ってぐにゅぐにゅと形を変え、オークの顔にまとまりついていく。


「ジェリィ」


「お兄さん…それ、スライム?」


「そう、スライム」


「…スライムって私でも倒せるよ?」


「安心しろ。うちのは特別製だ」


 世界で一番弱い魔物であるスライムは魔法に対する耐性もなく、物理攻撃に対する耐久もなく、直接的な攻撃力もなく、ただ跳ねるだけの無害な魔物である。雑食なので村などの畑にも来るが子供のオモチャになるほど弱い魔物。チコの言う通り魔法どころか木の棒ですら余裕で倒せるだろう。だがそれは普通ならの話。


「グル!?グルルォォォォッ!」


 黄色いスライムは眼球を溶かし肉体に入り込むと内側から浸食していき溶かし始める。直ぐに肉は溶けオークは苦し紛れに棍棒を振り回すが、そのうち倒れこみ苦悶の声をあげながらどんどん溶かされていき、最後には骨も残らずに消化された。


「こいつは2号ってスライムだ」


「お兄さん!後ろ!!」


 生憎と棍棒は消化してなかったようで倒れこんできてぶつかると体中に骨が砕けた音が響いたが特に痛みとかはないので問題ない。

 

「あー…まあいいか」


「…大丈夫?」


 チコが不安そうな顔をするが少し腕の骨が変な方向に曲がっただけで問題はない。


「子供にはちょっとショッキングだったか?」


「大丈夫!たまに森の中で共食いしてる魔物いるから」


「そいつはよかった」


「それよりもお兄さんの手が」


「そのうち治るから気にするな」


 さて、どうするか…口止めはしてもそのうち話しそうだし…面倒な事はあとになって気づくな…2号は満足気に息を吐くと元のサイズに戻る。


「2号。この子は飯じゃない。飛びかかろうとするな。ほら、お前の家だ。さっさと戻れ」


 小瓶の口を向けるとに鳴き声らしきものを上げて瓶の中に戻っていく。

 そもそも、口もないのに声をどう上げているのかは不明だがそれを言ったらおしまいなので気にしないことにしている。長い付き合いになるがまあいいか。


「絶対に誰にも言うなよ?わかったか?」


「う、うん!わかった!」


「よしいい子だ。頭撫でてやろう」


「えへへ」


 薬で記憶を混濁させるのも手だが…子供の作り話で済まされそうだしな…考え事をしながら「村はこっちだよ!」と歩いていくチコの後ろを歩きだそうとすると不運なことは連続するように今度は魔物以上に面倒なのが来た。


「おい!お前達、ここでなにをしている!?」




「つまり、この近くの村の住人で薬草を取りに来ていたと?」


 声を出しながらこちらへと歩いてきたのは金髪で巨大な剣を肩に乗せた軽鎧の少年だった。

 その見た目と胸の紋章に見覚えはある。別にこいつ個人と知り合いというわけではないのだが正確に言えばこいつの所属しているところが色々と面倒くさいのだ。できるなら関わりたくない。


「そうだよ!でも、薬草じゃなくてパラモスキートって虫型の魔物を捕まえにきたの!」


「パラ…モスキート?なんでそんなやつを?」


 薬草取りに来たと言っておけば無駄に詮索されなかっただろうな何故余計なことを言うのだろうか?まあ、子供だからしょうがないのかもしれないが…


「ああ、まあ…気にしないでくれ」


「お前も村の住人か?」


「旅人だ。一宿一飯の礼にな。魔物を捕まえていたんだ」


「お兄さん、薬師さんなんだよ!婆ちゃんの目治してくれるんだって!」


「薬師?あんな、時代遅れの連中がなんでこんなところに…まあ、いい。ところでその虫型魔物、少し見せてみろ」


 まだ疑ってんのか。たしかに信用ならない職業であるのは自覚してはいるがしつこい。それに別に何も無い。本当に死骸なだけなのだが…チコも最初こそは見知らぬ村の外の人間に興味を持っていたようだが今は飽きたのか早く帰りたいとも言いたげにこちらも上目使いで見てくる。


「これ?」


「ん?なんだこの魔物…いや、頭が取れているだけか」


「虫型魔物なんてこんなものだろ?脆いんだよ」


「ふむ…まあいいか。ああ、あと最後にここいらにオークがいなかったか?」


「さあ、見てねえな?」


「私も知らない」


 ああ、なるほどな。テッドとしか関わっていなかったがそうか…オークの討伐に来ていたのか。

逃げよう。こういう時の嫌な予感は大抵当たる。チコの手をつかみさっさと村に戻ろうとするが騎士は再びこちらの行く手を阻む。


「止まれ!貴様ら、何か怪しいぞ…」


 もうやめてくれ。これ以上何か質問したらチコがボロ出す。無視して帰るとしよう。


「おや、どうかされましたか?」


 もういっそ、チコを背負い走って逃げようかと思ったが今度はまた違う人物がやってきた。

 ただ、先程から質問してくる騎士よりも鎧や羽織っているマント、剣などその装備からして明らかに最初の騎士よりも目上の者だとわかる。まあ、見た目が多少変わっただけでこいつは普通に知り合いだが。


「ピエトロ副団長!実は、この者共が村の住人らしいのですが、どことなく怪しく…」


「怪しいからと言って止めるのは騎士としてどうなのですか?何かをしたのならともかくそれで怪しむのはどうかと?」


「うっ!…も、申し訳ありません。」


「あ、じゃあ我々はこの辺で…」


「まあ、待ってくださいな。アベン君。久しぶりの再会ではないですか」


 騎士は優しげに笑う。知らない人間からすればどれほど優しそうな人間に見えるかはわからないが少なくとも本心を知っていると…言葉に表したくもない性格をしている。いや、単に頭のおかしい戦闘狂(ウォーモンガー)なのだが…


 にこやかに自分の名前を呼んだものはキラレイスと呼ばれるこの世界で最も広大な土地を持つ国の騎士団連中だ。その中でも国王直下の超人集団の副団長の役職にいるピエトロ=アウナレス。何度も何度もしつこく付きまとってくる。


「ああ、久しぶりだな…ピエトロ」


 気まぐれな男でこちらを見つけるなり攻撃してくることもあるが今回は子供の前とあってか落ち着いている。いや、隙を見れば剣を抜いてくるだろう。


「どうもうちの部下がすみませんね。最近騎士団に入ってきたもので…ねえ?」


 目配せをしてくるが、それが何を意味しているのかは知らないが無視しよう。しかし勘弁してもらいたい。なんでこんな辺鄙な田舎に居やがる。追ってきたのか?


「アーサー君。別に怪しい者じゃありませんよ?どこかの国家指名手配犯じゃなくてただの旅の薬師で私の友人ですから。はははは」


 「はははは」じゃねえよ。腐れが。それに友人でもない。


「も、申し訳ありませんでした!まさかピエトロ副団長のご友人だったとは!非礼、お許しください!」


「気にしないでくれ。それよりピエトロ…ちょっといいか?」


「はいはい。なんでしょうか?」


 スキップでもするかのように上機嫌でこちらへ向かってくる姿に不快感を感じるが相手したら無駄だし疲れるだけだ。


「どういうことだ、道化師。返答次第ではお前の部下を今ここで殺す」


「ふふふ。ご安心ください病魔を招く者(ペストウォ―カー)。ここでは貴方は私の友人アベン。旅の薬師です、ね?」


「…見返りはなんだ?」


「私は貴方が国際指名手配犯だろうがなんだろうがもう一度あの闘いを…ふふふ…嗚呼、考えただけで股間がいきり勃…」


「気狂いが…」


「ピエトロ副団長?アベン殿?」


「なんでもありません。さあ、アーサー戻りますよ。」


「は、はい!」


「チコ。村に戻るぞ。お婆ちゃんの目を早く治すぞ」


「お兄さん!騎士と知り合いだったの!どんな人!ねえねえ!」


 結局村に帰るまでひたすら騎士について質問攻めされた。知り合いだと?あんな化け物集団になんか知り合いだったとしても話したくはない。


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