二十八匹目 旅は道連れ
っしゃー!書くぞー!
「はぁ〜気持ちいいですね〜」
「そうだな」
「……」
「……」
「なにか言ってくださいよ!」
「黙れ変態。毎度毎度迷惑事持ってきやがって」
声音は変わらないがアベンは怒っていた。そもそもそれは遡る事数分前…
宿に着くと露天風呂があるらしく早速入る事にした。無論スライム達も入りたいらしく桶にお湯を入れそこに入れてやった。日は既に落ち月が登り始め珍しく綺麗なもんだとガラにもなく見惚れていた。
ここ数ヶ月の疲れを取れるとのんびりしていた時
「アベンさん…あの…あっち先客いまして…」
カルミアが入ってきた。
何を考えているんだこの女は。馬鹿なのか?男湯に普通入ってくるか?振り返り
視認するより早く5号に両目を潰され今現在視界は真っ暗だ。
「痴女。弁明があるなら聞くぞ」
「ですから!先客がいたんですよ!」
「先客だ?婆さんの話じゃ今日は俺らで貸切だそうだ。誰がいるってんだ?ゼラニウムでも化けて出たか?」
「あの…猿の魔物…魔猿がいまして…」
「奴らは温厚で大人しい。仮にも奴隷時代本を読んでいたならマシな嘘を付け」
「本当ですって!」
両目から垂れてくる血は2号が舐めてるから温泉に混入もしてないし痛みもないがそう言う問題ではない。
「第一嫁入り前の女が男に裸を見せるな」
「アベンさん…興味ないじゃないですか…だからいいかなって」
「ああ、興味ない。だがルールは守れ。婆さんに言えばいいだろ」
「もう服脱いで準備完了したのにまた着ろって言うんですか!大体アベンさんにルール云々言われたくないですよ!ついさっきだって人を殺して!」
「安心しろ。魔物に殺された様に偽装したからな。それに今の時代街中じゃなけりゃ早々バレねえよ」
「もう嫌だこの大量殺戮犯罪者…」
「嫌ならここで婆さんの後でも継げ。そして二度とここから離れるな」
「嘘ですよ!アベンさんの後ついて行きますって!」
「いや、遠慮するな。むしろ来るな」
「じぇり〜じぇる!」
「ほら、こいつらも来るなってよ」
「気持ちいいとか極楽〜とかですよね!」
もうこいつ殺すのに拘らないで勇者共に任せておけばよかったと今更後悔しても遅い。
「でも…またこうやって話せて嬉しいです」
「いい話の流れにするな淫乱女」
「だーかーらー違います!」
「ああ、それと一ついいか」
「あ、はい。なんですか」
「俺もスライムも熱に弱い。お前のせいで前もろくに見えないからあがることも出来ない。単刀直入に言おう上気せた」
「え、ちょ⁉︎」
気を失うのは4年ぶりくらいだろうか。カルミアは放っておいたとしてもスライム達は湯に溶けていそうだ…
目が覚めた時は夜が更けた頃だった。後頭部には少し筋張った感触。スライムにしては硬い。それになにかが覆いかぶさっていて前がよく見えない。そもそも眼球は再生しているのか?
「…あるな。しかしなんだこれは。奴隷狩りにでもあったか?いや、手足は動くな」
「んん…」
なんでかわからないがカルミアが膝枕をして俺に覆いかぶさっていた。そしてそのまま寝た、と。
しかしこいつは何時間正座してたのか疑問だ。用意された寝巻きに着替えてたみたいだがろくに前も閉めずに寝てるとはやはり痴女か露出魔か。
しかし既視感がある…上気せた、膝枕、宿…ああ、この間読んでいた色恋物の本の影響か。
「じぇる」
「5号。お前わざわざ俺の目を潰して上気せるのを待ってやがったな」
「じぇ、じぇりる?」
「知らないみたいな面してんじゃねえ。錆びた剣食わせんぞ」
「じぇ⁉︎」
まあ、意思が強くなりすぎて裏切られなければいい。
しかしあれか、恋に恋するなんてお年頃なんだろう、わざわざこの女が近づいて来るのは、異性が近くにいるとドキドキするという現象か。今だに理解できない。そういえば2人も言っていたな。一緒にいたいと思える人といつか会えるって。そんな希望的観測は信じてないが。そもそもあの2人に関しては殺し合いからの出会いだからある意味ではドキドキした出会いだろう。しかし暑苦しいし重くはないが鬱陶しい。
「1号。こいつをさっさと布団に寝かせろ。涎でも垂れてきたら堪ったもんじゃねえ」
「じぇる!」
やっと解放された。まあ、旅を続ければそのうち気の合う友人や気になる異性とかも出来るのだろう。奴隷生活が長かったようでまともな人付き合いもないだろうが。
今更の話になるがどんな劣悪な環境にいたら目の前で人が殺されてるのを見ても平気で笑っていられるのか。気にはなるが自分もあまり人のことを言えた義理ではないな。
「しかしなんで貸切なのにこいつと相部屋なんだ?」
「じぇりぃ」
「ああ、そうか。そうだな。無駄に金を使う必要もねえか」
俺も布団に入り目を瞑る。この女は色々と理解不能な行動を取るのは事実だが大いに利用価値はあるのも事実だ。自分でもわからないくらい疲れていたのか、珍しく安心でもしたのか意識を直ぐに手放すことになった。
次の日、布団に入り込んできたカルミアを蹴飛ばして目を覚まさせたのは言うまでもない。
「いったぁ…女の子を蹴るなんて酷いじゃないですか!」
「黙れ。せっかく気持ちよく寝てたのにお前のせいで台無しだ」
「少しくらいいいじゃないですか!」
「毎晩の間違いだろ。それに寒いならどこかの街で毛布でも買え」
「え?」
「2週間に1回、寝てるところにわざわざ来て震えてるじゃねえか。それにたまに泣いてるし」
「え、あ…あぁぁ!!ちょちょ、ま、待ってください!」
泣いてるのがバレてたのが恥ずかしいのか顔が真っ赤になっている。
まあコイツは魔法が使えるか判明するまでは家族の愛に触れてきたから寂しいのだろう。だがそれとこれとは話が別だ。
そもそも俺みたいな奴に救いを求めるのがどうかと思う。
「あ、あの…み、見てたんですか…?」
「眠気には勝てねえよ。引っぺがすのも面倒なだけだからな」
「おや、お二方。おはようございます。よく眠れましたかな?」
「ああ、お陰様でな。朝飯食ったら出発する予定だ」
扉を開けて入って来たのはかなり歳を取った女性。この宿を1人で切り盛りしているようだ。と言っても客など滅多に来ないそうだが。
「新婚旅行ですかな?」
「弟子だ。さっさと一人前になって嫁ぐなりなんなりしてほしいものだ」
「ふぇっふぇっふぇ。そうですかい。準備は出来ておりますので。ではでは」
「し、新婚…そう見えますか?」
「知るか」
朝から体力を使わせるな。取り敢えずカルミアは無視してさっさと行くとしよう。
「こんなに貰ってもよいのですか?」
「1人じゃ大変だろ。せめてもの礼だ」
「ありがとうございました!」
「おやおや…有難や有難や。行ってらっしゃいませ」
それに金なら婆さんからいい話を聞いた。コンゴウタケ。高い硬度と美しい外見から高値で取引されるキノコだ。武器にもなるし装飾品にも使われる為に貴族もこぞって欲しがる品物。どうやら近くに群生地があるらしい。
「それに卵の欠片も残っている…金銭面は大丈夫そうだな」
「お、置いてかないでくださーい!」
「さっさと歩け」
しばらく歩くと婆さんの言う通り小さな町が見えてきた。名前はなんだったか忘れたがここでアナグラなる者を見つけて頼めばいいらしい。
「ん?おい待て!そこのお前!」
「ん?なんだ?」
どうやらここは検問があるらしい。衛兵らしき男に呼び止められる。
「悪いがその籠の中を見せてもらえるか?最近妙な連中がいてな。そいつらが色んなところに武器を仕込んで町を内部から襲うなんて事があるんだ。すまないな」
「ああー…まあいいや。どうぞ」
そもそも町の中で武器を調達されたらなどと言おうと思ったが黙っておこう。流石にそれくらいは何かしら手を打ってあるのだろうし。
「これは…錠剤?薬師か?」
「まあな。行っていいか?無能な奴になんざ時間かけたくねえだろ?」
「ああ、武器も持っていないようだしな。そっちの子もいいか?って言っても荷物なんてなにも持ってなさそうだが…」
「ポケットの中くらい見ます?」
「いや…まあ大丈夫そうだな。気をつけてくれ最近じゃ病魔を招く者を名乗る連中が町にいるらしくてな。なるべくなら関わらない方がいいと思うが何かあったら言ってくれ」
またか…もうそいつに罪全部なすり付けようか。
いや、そもそもいるってことは騎士団も下手したら来てる可能もあるよな…
「さっさとアナグラを探してこの街を出るぞ」
「え?偽物殺さないんですか?」
「殺す必要性を感じないからな。手を出してきたら逆だが」
「守ってくださいね?」
「自分の身ぐらい自分で守れ」
歩を早めると後ろからカルミアもついてくる。しかし町に入ればわかったがのどかな町だ。争いごともなく、静かに時が流れているようだ。
「ちょっといいか?」
「おや、旅人さんかな?何か用かね」
「アナグラという奴を探しているんだが知らねえか?」
「ああ、あの呑んだくれならあそこの酒場の奥にいると思うよ」
「そうか。ありがとう」
「ああ、それから…」
最後まで話を聞かずに酒場へと向かう。「アベンさんさっきの方何か言いかけてましたよ?」
「どうせ碌でもない奴だと思われただけだ。気にするな」
「そうだといいんですが…」
酒場に入ると確かに奥にいた。昼間から酒を飲んでる野郎が。アナグラなんて名前だからか、偽名なのかボロボロの服に土だらけの顔をした壮年の男だ。
そしてさっきの人が言いたいことがわかった。最後まで聞いておけばよかった。
「おい、アナグラ。てめえよ、分け前はしっかり分けるってんだから手を組もうじゃねえか」
「うるせぇよ。見つけたきゃ自分で見つけろってんだ」
「おいおい、誰のお陰でこの町で暮らさせてもらってると思ってるんだ?この病魔を招く者様のお陰だろ?わかってんのか?」
「てめえみたいな三下が病魔を招く者ならとっくにこの世界なんざ魔物の餌にでもなってるよ」
「あぁ?」
数人の男がアナグラを囲んでいる。なんだろう…うまく言い表せないが取り敢えず偽者だ。愚王の奴も覚醒者どもも俺の顔を特徴も公開してない。その為か明らかに偽物と思っても逆らえばどうなるかわからない恐怖があるらしい。
しかし何処にも正義感だけで動く馬鹿や後先考えずに行動する者もいる。今回は後者だ。
「ちょっと、黙って聞いていればなんですか!本物の病魔を招く者はですね!ここにいるアムググ!」
「お前が黙ってろ」
「おい、なんだお前。俺らが誰だかわかってんだろうな?おい、この町も死の街と同じ様にしてやろうか?」
ガタガタと一斉に席を立ち出て行く客たち。まあ、そうだよな…そうなるよな。しかしここを同じ様にするか…
「その女置いて逃げりゃ見逃してやるよ。だが…歯向かうってなら殺す」
取り巻きたちもヤル気満々の様だ。
そして俺は心に決めた。この女この町に置いていこう。関わらなければ絶対に絡まれなかったはずなのに毎度毎度本当にクソだな。
「おい、緑頭。聞いて…る…の…」
「お、おい!」
「いいこと教えてやるよ。正体不明の犯罪者だが。彼の名を語ったものはその場で処刑しても可能って決まりがある。正義の味方ぶるつもりはないが俺もアナグラに用事があるんでね。悪いが死んでもらう」
辺りに腐敗臭をただ寄せ始めた死体を蹴り連中の画面に腐肉を付ける。
中には胃の中身を吐いている奴もいて店が地獄絵図になっている。
「すまんな、店を汚してしまって。許してくれ」
金貨5枚店主に渡しアナグラを連れて逃げ出す。出来れば奴らには会いたくないものだ。
「助かったぜ」
「気にするな。あんたに死なれたら困るからな」
「…ああ、あんたもそうか」
アナグラに先導され自宅…と呼ぶには広すぎる町の外にある洞窟に案内された。
一応一通り家財道具等があるところを見ると本当にここに住んでいるらしい。
「あの…アベ…ンさん…私、体力なく…て…」
「黙れ面倒量産淫乱女。無視してりゃいいものをなんでわざわざ向かっていく。馬鹿なのか?頭に寄生虫でも沸いているのか?」
「沸いてませんよ!大体アベンさんもアベンさんですよ!また殺したじゃないですか!」
「お、おい…」
「殺して何が悪い。王国の教えでは犯罪行為を行ったものは知性無き獣や害獣扱いだ。奴らのルールに則って殺したまでだ」
「いや、それはそうですけど…」
「お前も呻き声あげながら腐ったあの男見て口角上がってただろ」
「ち、ちがいますー!ちょっと気持ち悪いなってしかめっ面しただけですー!」
「おい!一旦ストップ、ストップ!ここで喧嘩すんな!」
「ああ、悪い」
「ごめんなさい」
「いや、そんな一瞬で静かになるなよ…まあいいか。で、あんたらもお目当はこれだろ?」
そう言って取り出したのは結晶が集まった様な形をしたキノコ。陽光で照らせば更に輝くのも間違いない。金のなる木ならぬ金になるキノコ。コンゴウタケだった。
「お前らもこれを乱獲しようってんだろ?」
「乱獲とまではいかねえがな。欲しいのは事実だ」
「だったら教えねえ。コイツらはな、何百年もかけて大きくなるんだ。その何百年を私利私欲の為に売ろうだなんておかしいだろ?」
「本心は?」
「なんで他人にこんな金になるものをわざわざ教えなきゃならねえんだ馬鹿。誰が教えるかよ」
「そうそう…は⁉︎ちょっと待て!なんで俺がもう1人いる!」
「もう用は済んだ。あとは連中にでも嬲り殺しにされてな。しかしわざわざある場所まで案内してくれるとは有難いな」
「あ、お世話になりましたー」
「ご主人、待ってくれよ!」
もう1人の自分を連れてさっさと洞窟の奥へ行ってしまう。
なんなんだあいつらは…確かに金の為に他の連中に渡したくないのも事実だ…だがそれ以上に…
「ちょっと待ちやがれぇぇぇぇ!このボンクラ共がぁぁ!!!」
知られてはならない。あの場所を訪れてはならない。
全速力で彼らを追いかけるとすぐに追いつくことが出来た。
「はぁ、はぁ…いいか…よーく話を聞け…ここいらには過去に繁栄した地下都市があるんだがな…亡霊がいるんだ。だから危ないから戻れ!」
「夜更かしをさせない為に嘘をつく親かお前は」
「そもそも亡霊などいたところで魂霊やゴーストなどいるのに今更怖がる理由はあるのかい?」
「い、いや…そうじゃなくてだな!とにかく戻れ!」
「アナグラさん。別に私たちは一本か二本貰えればいいんですよ。あとは辺境の貴族にでも倍以上の金を要求すればいいだけですしね」
「そういうこった。礼ならするし感謝して採取する。問題ないだろ?」
「問題しかねえんだよ!俺が採ったのあるから、な?とりあえず戻れって」
「おい、引っ張るな白衣が伸びる」
何をこんなに慌てているんのかわからないがもしかしたらもっと重要で金になるものでもあるのか?
「アベンさん見てください!ありましたよコンゴウタケ!」
「お、おい!跳ねるな!馬鹿野郎!」
嬉しさでコンゴウタケの前で跳ねていたカルミアにアナグラが怒号。そして耳元でデカイ声出されてついうっかり殴ってしまった。
「グハァ!」
意外と力が入っていたようだ。お陰で腕の骨が折れている。
「てめえ…やりやがったな!」
仕返しだとばかりにかかと落としを…モロに食らった。しかし見た目に反して中々の威力だ。
ビシッ
「おい待て。今俺の頭骨にヒビが入った」
「うるせえ!てめえが話聞いてりゃ、そもそもなんで殴りつけてきやがった!」
「お前、耳元で急に大声出されたらびっくりして手も出すだろ?」
「あの…アベンさん」
カルミアが下を指差す。下…いや、これあれだ。俺の頭骨じゃなくて地面にヒビが入っている。
「私、凄く嫌な予感がするのですが…」
「奇遇だな。俺もだ」
「お、おい!いいから早くこっち来い!崩落に巻き込まれるぞ!」
「おい、アナグラ。手前のかかと落としのせいでな…今脳震盪起きてる。具体的に言えば手足が動かねえ」
「なっ⁉︎」
咄嗟に4号がカルミアを抱き抱えると同時に地面が抜ける。
洞窟の下に巨大な空間があったらしく、落ちる中見ることができた。
巨大な地下古代都市。
どのような文明だったのか、何故滅んだのか?考古学者からこぞって調査に来るだろうが一つだけ言いたいことがある。
「アナグラ。助けてくれ」
「うわぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
流石に頭潰れてたな死ぬな等思いながら落ちたのはアベンだけだった。
他の2人はもうどうやっても助からない、そんな顔して落ちていく。4号は…恐怖で暴れているカルミアにいいものを貰ってしまったらしく藍色の手乗りスライムに戻っている。
さて、どうしたものか。




