二十二匹目 蜥蜴の悪あがき
どうもです。
特に書くこともないんで今回も生暖かい目で呼んでください。どぞー
「これから討伐作戦の大まかな概要を説明します!皆様心して聞いてください!」
勇者のそんな一言で騒いでいた数多の冒険者達が一瞬で静まり返る。
緊張感は最大に高まっていてピリピリとした空気が漂ってくる。
相手は幻想生物。最強の魔物である竜。
「まずはフレシアさんに霧の森全体に『聖界領域』をかけてもらい霧の毒を無効化します。そこから僕とダンが率いる近接戦闘部隊が攻め、フレシアさんとオルディナの率いる援護部隊で逃さないように処理していく。敵の数は未知数であり死傷者も多く出ると思われます…が、必ず最後に僕は勝つ!みんなどうか付いてきてくれ!」
「オオォォォォォォォ!!!」
鬨の声と呼ぶべきなのか?朝早くから迷惑だろうに天にも届くほどの声を上げる冒険者達。
私行く意味無いような気がすると思うが…どうして行かされるのだろうか…ああ、魔法結晶代わりか。
『大老ー』
『なんじゃ?』
『私らそろそろ逃げますけどいいですかー?』
『おう、構わんわい。全部終わったら伝えに行くから雲でも見て待っておれ』
『はーい。気を付けてねー』
『うむ』
戦える竜は残り子供や息吹を吐くことの出来ない竜は逃げろと命令した。人間はいつも自分達の予想を上回り戦う。そこがとても興味深い。
『大老、俺も戦う!』
『グレイ、主はそっちじゃ。死竜をわざわざ増やす必要はない。大人しく待っとれ』
『でも!』
『大老、アベンからの手紙です』
『む、そうか。兎に角じゃ長い竜生を無駄にするな。今からするのは一方的な虐殺になるならともかく相手は勇者じゃ。わかったなら早く行かぬか』
確かに戦力は多いほうがいいが逆に死ぬ可能性もある為に息吹を吐けないなら戦力に出来ない。
大老へ
明日攻めるとさ。耄碌してないと思うが気を付けろよ。あとカルミアは殺さないでくれ。
アベン
『む、書いた日付昨日だから今日攻めて来るということか?』
『多分そうじゃないかしら?あの子とミストも戦うのよね?心配だわ』
『安心せいホワイト。やばくなったら森ごと焦土に変えてやるわい』
『それじゃあアベンも灰燼になっちゃうわね』
『なら欠伸じゃ』
他の竜達も各々の場所についた頃だろうか、森の外に複数の魔力を感じ…
『ぬおっ⁉︎なんじゃあ‼︎』
飛んでいた大老は地面に落ちてしまう。ホワイトも他の竜達も羽から魔法的な光が無くなり飛んでいたものは地面に落ちてきてしまう。
『大老、大変だぁ。息吹どころかぁ俺らの鱗やらかくなってるぅ』
呑気そうな声を上げながら亀の様にのっそりと動く山を背負った竜が話す。
『ぬっ…やばいのう』
『あらあら…バグマザーいるかしら?』
『なんでしょうか?』
竜の中には角の生えたものもいるがその竜はくし形の触覚の様な角の生えた蛾の様な竜。成体になっても大老より少し大きい程度の竜だが周りにさらに小さな竜達が飛んでいる。
ホワイトの呼び声に答えた短い脚を一生懸命動かしてこちらへと来た竜は静かに平伏する。
『一応聞くけど貴方の子供達でアベンに伝えられるかしら?』
『可能です。が、今いる子達だけで新しくは作れないです』
『構わないわ。全速力でアベンに伝えて、原因を突き止め可能なら状態の解除。ああ、それとアベンにかけた魔法も解けるかしら?』
『やばいのう、やばいのう。今わし完全にカモじゃ。丸太持った一般人に撲殺されるレベルじゃ』
『問題ありません。可愛い子供達、お願いね』
『『60☆/☆*(・¥70°/』』
舌足らずな声で返事をするとふよふよと風に揺られる様に飛んで行く。
『しかしわしらに魔法で弱体効果をかけるとか凄腕魔法使いじゃのう。そう言えば聖女おるらしいから気をつけるのじゃぞ〜』
状況とは逆に少し楽しげに話す大老を見て2人が間に合わなければ本当にマズイなと不安になってくる。
「オルディナさん、お願いしますね」
「安心して聖女様は結界張っててくれ」
いくつかの言葉を交わすとオルディナと彼の部隊が森の中に消えていく。
「…カルミア様。どうか気を楽に、ご安心を必ず私が命に代えてでも守ります」
「そう。あまり期待しておかないわ」
「はい!」
カルミア様は変わらず元気だ。ただ、たまに見えていた少し寂しげな表情が輪に見えて今日は酷い。アベンがいるからだろう。きっとこの森のどこかで必ず…
「姉さーん!ねーえーさーんどうしたんだよボーッとして」
「ん?いや、なにか忘れてる様な気がしてな…」
アベンと会った時から2人が魂でも抜けたかの様に立っていることが多くなった。いや、昨日会ったからもしかしたら前からそんなことをしていたのかもしれない。
「んー?昨日の晩飯か?それとも今日の晩飯か?」
「はっ!そうだ、シクリィそれだ。今夜なに食べるか決めておけ」
緊張感のない2人は放っておくことにしよう…
「では、魔法を起動させます。安定するまでは私は動くことはできませんので皆様よろしくお願いします」
「「おおっ!」」
白薔薇の杖を地面に突き刺し魔法を起動する。聖界領域は自身の敵とみなしたものを弱体化し逆に味方を強化する魔法だ。普通なら上位の生命体である竜には効かないが…
「私本当に立ってるだけでいいんですね」
カルミアの体に淡い光が灯ると同時にフレシアを中心にとてつもない魔力の流れが起きる。
「番外魔法!||『聖界領域』‼︎」
魔力は友を、仲間を包み込み彼らを助ける。その命が尽きるまで。
「ゼノンさん、あとはよろしくお願いします」
きっとみんな無事に帰ってくる。私は聖女らしく祈るだけ、ゼノンさんもダンもオルディナも…冒険者の人たちも…
「これがフレシアさんの魔法か…凄いな。力が溢れてくる」
「…ゼノン。ぜひ俺に竜殺しを見せてくれ…」
「ああ、ダン。勿論だ。みんなもだ!今の君たちにも力がある!竜殺しが出来る!僕だけじゃない、君たちも英雄になるんだ!」
「おぉぉぉ!!」
このまま進めばおそらく森の中心…竜達がいるであろう場所に着く。どれだけいようが自分の力の前では等しく無価値だろう。
「ん…?なんだあれ?」
白い霧の中だから気付かなかった。何匹もの蛾が飛んでいる。
蛾は逃げるかのように森の外へ飛んでいきやがて霧に紛れ消えてしまう。
「勇者さんなんでこんなところに蛾がいるんだ?」
「小さい虫は霧の毒は効かないらしい。僕も詳しくは知らない」
「…虫も逃げ出すとは…近いか」
「ああ、みたいだな。みんな気を引き締めてくれ!」
全員が竜殺しを或いは名声を…
『おお、来たか〜。ちんまい奴じゃのう』
「黙れ、邪竜が」
『うーむ…話しかけただけで邪竜判定とは血筋かのう…』
予想通りか森の中心には竜が数匹。
ただ、冒険者達には獲物にしか見えなかった。伝え聞く竜の伝説とはかけ離れ地に伏し或いは二足歩行の大きな蜥蜴程度にしか見えない。
「なあ、俺らでもマジでやれるんじゃねえか?」
「ああ、一気に金冒険者どころか一生金と女に困らねえ暮らしになるぜ」
『お主らの言葉で取らぬ狸のなんとやらがあるじゃろ?まさしくそれじゃな』
「…つまらなそうだ」
杖や剣を構えるが竜達は一向に戦闘態勢にならない。舐められているのかと思う苛立ちを感じ始める。
『まあ、なんじゃ。どちらにせよ死人は出るんじゃし少し話でもするかの?』
「するわけないだろう。お前らみたいな害虫は1秒でも早くこの世から消えなきゃいけないんだ」
『はん。なんじゃあお主、そんなこと言って大層なもん持っててもやっぱバルロには到底及ばぬのう』
「っ‼︎黙れ!」
『煽り耐性低いのう〜。まあ、今わしら簡単に死ぬんじゃ。ズルして勝っても嬉しくないじゃろ?』
我慢しきれなくなったのか後ろの連中に合図を送ると矢や魔法が放たれる。
一切躊躇しないのはどうなのかとアベンなら言うだろう。
『大老、危ない!グッ‼︎』
『ストーム‼︎何をしておる!今のわしらは比喩ではなく羽の生えた飛べない蜥蜴じゃ!死ぬぞ!』
『問題…ありません。嵐竜。ストーム。これぐらいの傷…』
「寒い茶番劇はやめろ。死ね」
横薙ぎに一閃。ストームと呼ばれた竜の首と胴体は離れてしまう。
「まずは勇者ゼノン!竜が首を獲った!みな、殺せ!すり潰せ!我らが名を知らしめろ!」
「おぉぉぉぉ!!」
『こうなるんのがわかってるんだったらアベンともっと話しておけばよかったわ』
『馬鹿者めが…妻と子を残し死ぬとは…』
「白竜だ!高く売れるぞ!奴から殺せ!」
『こりゃあまずいな。本気で』
『大老がキャラ忘れるくらいまずいわ!逃げるわよ!』
潔いほど簡単に竜が散り散りになって逃げていく。分散して戦力を固めさせないためだろうか?それでも今の彼らは自分より少し弱いくらいだ。余裕で弱体化した竜共を殺せるだろう。
「4人一組で行動するんだ!各自討伐したら即座にこの広場へ集合だ!行くぞ!!」
「「応っ‼︎」」
大老と呼ばれてる割にはどう見ても幼体であり弱そうな竜に蛾の様な竜は動かない。山の様な竜はのっそりと白竜は逆に飛ぶ様に他にもいるが殆どが霧の中へと逃げて行く。
そして冒険者達が逃げた方向へと追いかける。正直、ここまで簡単だとは思っていなかった。
「ダン、足りないと思うが取り敢えずだ。この2匹。どうやら逃げ遅れたらしい。さっさと殺して他に行こう」
「…わかった」
その2匹は飛ぶこともなく肩を寄せ合う様に見てくる。いや、観察してくる。
『ふむ、そっちの硬そうなのはこの間見たが勇者の子孫と会うのは初めてじゃのう』
「時間稼ぎのつもりか?無駄だ。今日、この世界から竜はいなくなる。何故だかわかるか?」
『……』
「はは、幼体に向けての言葉じゃないな!そうさ、僕とそれに仲間達がお前の親も子も何もかも殺すんだ!かつての僕の先祖が殺したのはたったの邪竜1匹!でも僕は違う!もっと!もっと上を目指し!」
『お主バルロよりつまらぬの。彼奴も多少は面白いところもあったが…実につまらぬ』
「おい、幼体のゴミ如きがさっきからなんだ?まるで僕の先祖を見て語るようじゃないか?」
『ようじゃなくて見てきた。わしは焦天の邪龍じゃ』
一瞬の静寂が包み込むとともに吹き出した勇者の笑いが辺りに木霊する。
「ふっ…ははは!人は英雄に憧れ二つ名をを真似したりするがまさしくそれか?竜でもするんだな!はは、ははははは!」
『大老。殺しますか?』
『放っておけい。どうせ実力も足りん赤ん坊の夜泣きじゃ。そのうちおさまる』
「…ゼノン。さっさと殺していいか?」
「ははは!はあ、面白いな。まあ、待ってくれ。惨めだとは思わないか?竜が必死に見栄はってまるで路地裏で威勢を貼る冒険者の様だ!」
『うーむ…流石にわしもそこまで言われると多少思うところある…』
ただ胸中にあるのは遥か昔に見たゼノンの先祖…バルロの姿。剣捌きは似ているがやはり違う。
『鍛錬が足りぬのう…剣の力に頼り過ぎていて素人じゃ』
「…なに?」
『まあ、仮にもバルロがその剣を使うのならわしを殺せたかもしれぬがお主程度の力量でわしに傷付けられるのならバルロも余裕でわしに勝ってたろうに』
額に青筋浮かべてるのを見ると本当に我慢も煽り耐性もない蝶よ花よと育てられた様な勇者なのだろう。別に劣悪な環境で育った方が強くなるとも思えないが人間としては駄目な部類に入るのだろう。
「ダン…なるべく惨たらしく殺すぞ。他の竜共に心なんてあるのか知らないが少なくともこいつらの親には効くだろう」
「……」
無言で剣を構えるダンと魔法的な光を放つ剣を持つゼノン。
バルロも確かに持っていた。ただ彼の持つのは呪われた剣。自身の運を…運が良かっただとか偶々、まぐれそう言ったもの全てを切れ味に変換していたその剣は誰よりも彼の実力を世間に知らしめていた。運も実力の内と言うがそれが無い勇者。自身の実力のみで魔王を踏破し、遂には自身の国を作り上げた。あの日、自分に敗れ、己が身を犠牲にしてまでも待ちを救おうとしていたあの男の強い瞳は心は…どうやら長い年月の内に埃が被って捨てられてしまった様だ。
『…まあ、断定は出来ぬがな』
「さっさと消えろゴミ共が」
無慈悲に振り下ろされた聖剣と無骨な剣は大老とバグマザーの体を引き裂く前に灰色の巨体に止められる。
『大老、バグマザーさん…大丈夫ですか?』
『グレイ!なにをしておる!逃げておれと言ったろうに!』
『無駄に命を散らすものではありませんよ?グレイ?』
『あんたらより俺は体が大きいんだ盾になってるうちに早く!』
しかし魔法の影響を受け始めたのか同様に元から息吹が吐けなかったにしろ荷物がまた増えたことになる。
「避けたつもりでいるのか知らないがね?マグレで当たらなかったのを誇るのはどうかと思うよ?」
「…そちらのよりは手応えがありそうだ」
『五月蝿えよ!人間共が!』
巨体から放たれる拳は大木が飛んでくるようにも見えるだろう。ただ、そう見えただけでその一撃が当たるわけでは無い。2人共に軽く避けられると突き出した腕に剣闘士が複数の切り傷を付けてくる。
「…ゼノン」
「ああ、構わないさ。強くなって過信してればこの状態でも負ける奴らはいる。僕はその取りこぼしを貰うとするよ」
『舐めやがって。2人相手ならともかく1人だ?ふざけんじゃねぇ!』
『グレイ!気を抜くでない!』
『⁉︎』
その男は魔法も固有技能も持たぬまま、8年間勝ち続けた。己が強さを全てのものに誇示するかのように。剣闘鬼ダンはギリギリ避けられるように切り込んでいく。要は駆け引きだ。
段々と相手も慣れてきて先程よりも上手く避けるようになっていく。
『単調な攻撃だ。そんなもので俺が倒せると思ってるのか!』
馬鹿で助かる。奥の2匹はおそらくは直接的な戦闘と言うよりは指示を仰いでの戦闘支援。一方のこいつは突っ込むだけの尖兵。楽なものだ。
『くそッ!攻撃が当てられねえし当たらねえ!』
「…どうした?たかが人間如きに負けるか?」
『この…‼︎』
まずは1匹。剣をさらに素早く。対応出来ないほどに切りつけていく。手に伝わってくる肉を断つ感覚が自分が生きている証拠の様にも思える。弱体化してるせいかグレイと呼ばれる竜の体にはどんどん傷が増えていく。
『痒いんだよ!』
「…笑止」
薙ぎ払いをしてきた腕に剣を突き立て思い切り振り切る。
『ぐぁぁっ!腕が!』
つまらない。つまらない。つまらない。つまらない。
『グレイ避けなさい!』
これは作業にも等しい。腕の痛み程度に気を取られているからこうなるのだ。
最早自身の剣は竜の喉元にあり瞬きの間に貫通する。
『グレイ‼︎』
「あなたどうしたの?」
「ん?いや、ね。アベン君大丈夫かなと思ってさ。竜といるらしいからね」
「あのハームやっつけちゃったんでしょ?大丈夫よ。それよりお店の方は大丈夫なの?」
妻はシャーロが帰ってきてから今までの病状が嘘のように元気になりもう朝ごはん作るわよといつもの古いエプロンを着て料理を作り始めている。
朝早くだからだろう、街に人の影はなく静かに街へと注ぐ陽の光が見え始めた頃だった。
「テーラム商会はここ数日、開店して数時間で商品が無くなるさ。一階のだけどね?それでも十分な売り上げだよ」
そんなことを言いながら今朝方届いた手紙に目を通すとまた嬉しそうに顔をほころばせる。
「?…王国から?シャーロのことについてかしら?」
「いいや、王国騎士団からさ」
「えっ…レイズ!貴方まさかあのこと…⁉︎」
「え、ちょっとやめてくれよ。あのことってなにさ⁉︎僕なにもしてないよ!」
「冗談よ。それで?」
「ほら、結婚する時に言っただろ?歳の離れた弟がいたけど何年も前に音信不通になってそれからだって」
「もしかしてその弟さんから?」
「正解。王国騎士団の一員だってさ。昔から体を動かすのが好きだったからね。あいつには向いてる職だと思うよ」
ここ最近夫の笑顔が増えた気がする。本当に気が滅入っていた。私のことや息子のことで。だからせめてこうやって料理を作り他愛ないことで笑顔になり今までの分を返そう。
「うん。うん…そうか、覚醒者の直属の部下だってさ。落ち着いたら会いにくるそうだ…さて、僕はそろそろ港に行くよ。そろそろ貿易船の船長さんもきてるだろうしね」
「画期的よね。魔法を動力にすれば遠く離れていてもほんの数時間で行き来出来るのだから」
「ああ、そのおかげでこうして毎日新鮮な野菜や魚や肉が仕入れられるんだ。有り難い限りだよ。それじゃあ行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい。朝は三人で食べましょうね」
「わかってるー!」
アベンさんにまだ直接礼を言えてないが言う機会があるだろうか?
シャーロにも言っておかないと。
「お母さん…おはよー…」
「おはよう。お父さん今出かけたから朝ごはん少し後になるけど大丈夫?」
「うん。平気だよ」
アベンさんは私たち一家にとってきっと幸福を運ぶ人なんだと思う。
レイズもそう感じてるのだろう。だから勇者相手にも食って掛かった。本当は生まれたての子鹿の如く震えていた癖して。そんな所が好きになったのだが。
ふわりふわりと森の中から数匹の蛾が飛んでくる。
一瞬魔物かと思ったが虫系の魔物はどれも人を捕食する為か体が大きいのでただの蛾だろう。
「姉さん見て見て。肩のとこに止まった」
「おい馬鹿。私に近づけるな。虫は嫌いなんだって再三言ってるだろ」
「…おいてめえらいい加減にしやがれ!朝からギャーギャー口を閉じねえで話しててよ!死ぬかもわかんねえんだぞブッ‼︎」
遂にその体たらくに堪忍袋の尾が切れたのか1人の冒険者がシクリィの胸元を掴む。だが直後にそんな声を出し地面に吹き飛ばされる。殴られたのだろう。シクリィとアンナに絡んだ冒険者は鼻を抑えながら転げ回ってる。
「汚い手で触んな。いや、いろんな意味で一番汚いのは俺の手か」
「なっ…⁉︎」
見知った顔。緑の髪、道端の石ころでも見てるような目、そして着ていた革鎧を脱ぎ白衣を着て、どこから取り出したのか籠を背負う。その少年は…
「アベンッ‼︎」
「はは、気を抜くなよ。死ぬぞ」
早業。それは自身の周りにいた数人の冒険者たちの鎧の隙間や露出した肌に深々と刺さった注射器が既に体内に溶液を流し込んでいるところだった。
シクリィと認識していた為か運動能力も上がっているのだろう。
「ああ、ああ。大丈夫、別に加速系の固有技能とかじゃないから投げただけ体が軽くていいね。魔法って便利だな」
「貴様シクリィをどこにやった!!答えろ!」
その一瞬の出来事で気を取られていたのか、はたまた一番近くにいたのにシクリィがアベンに変わったので理解が追いつかなかったのか。アンナがアベンの胸ぐらを掴み問い詰める。
「酷いな姉さん。目の前にいるじゃないか。甘い夢を見させてくれた弟が」
「ふざけるな!私の弟はお前などでは…」
「シクリィ=ファレテンシアはこの世にはいないよ。ああ、勘違いしないでくれ俺が殺したわけじゃない。14年前死んだのを忘れてただけだ。現実見ような姉さん?」
「は?何言ってるんだお前。シクリィなら…あれ…シクリィ…どんな顔だっけかあいつ…」
「なんだカルミア、教えてなかったのか?俺はこうやって人の心の好きにつけ込むのが好きだって数ヶ月で理解出来ただろ?」
「落ち着いてくださいアンナ!昨日見たでしょ、アベンは私たちの目の前に」
「あれは精巧に出来た俺の本物だ。いや、言葉がおかしいな…おい、話しておけよ毎度毎度説明するの面倒くさい」
「フレシア…ごめんなさいね。アベンの能力…いや、彼のスライム達の能力に人に擬態する能力があるの。貴方なら大丈夫かと思ったのだけれど…予想以上ね」
「擬態⁉︎ありえません私が見間違えるわけが!」
「現に見間違えてるじゃないか。ああ、でも安心してくれ。俺は完全にシクリィになってたから。魔法を操る白龍様の有難い視覚型洗脳魔法だそうだ。よくは知らないがな」
「おりゃあ!」
「え、え?あれ、薬の容量間違えたか?ドロドロに溶けてるはずなのに」
「『蒸気爆発』‼︎」
轟音とともにあたりに水蒸気と土煙で目くらましされてしまう。
確実に殺せてるはずなのにどうして死んでないんだ?あらかじめ解毒薬でも作っといたのか?いや、オリジナルだし記憶になくとも偽善者の時に使用してないはずだ…
「死ね!この野郎が!」
「シクリィの仇だ!」
土煙の中から複数人の冒険者が剣や弓、杖を構えこちらへと向かってくる。面倒な話だが、薬の効果が薄いのなら近接戦闘に…
「ジェ…ル…」
「うっそだろお前。擬態も出来ないのか?俺死ぬぞ。かませ犬より惨めに死ぬぞ?」
「ジェル!じぇじぇるじぇる!」
「糞が。逃げるしかないじゃないか」
あとはミストに任せるとしよう。肩に止まった蛾…あ、いやこれよく見たら小さい竜だ。バグマザーのベビーズか?
『68$+€(7%8(♪8』
「さっさと人間の言葉覚えてくれ…」
とりあえず逃げよう。
「アンナ、離してください!逃げる必要など!」
「聖女様…ノルド様、今は逃げるのが先決だ。あんたが殺られたら森の中の勇者は確実に死ぬ。魔法は安定したんだろう?このまま勇者達に合流するのが一番だ」
「…フレシア、アンナの言う通りです。皆様もそれで大丈夫ですか?」
「はい、こちらの方は問題ありません」
「…」
無理してるのが目に見えてわかる。辛そうな顔をしているのが…
「聖女さん。私思い出したんだ」
「え?それって…?」
先ほどアベンの言っていた14年前に弟が死んだと言うことだろうか?
ガシリと1人の冒険者の1人の肩を掴みジッと目を見て顔を近づけていく。
「お、おう…アンナさんよ、その気だってなら相手してやるぜ?」
「いあ、いあ。我が名を」
「あ…ごぇ…」
「アンナ…そんな人間この世界に存在しない…」
右に2つ左に3つの髪留めに吸い込まれるように綺麗な黒い瞳。薄ら笑いを浮かべた少女らしきモノは先ほどアンナの着ていた革鎧を着ている…
「まさか…アンナとも入れ替わっていたと言うの⁉︎」
「入れ替わり…違う…元から私も霧の竜。 。でも名前言ったけど…私の名前は聞こえない…ね?」
「おが…あざん…」
「いい子…いい子…ほら、沢山殺して…アベンの為に…大老のために…人間の体は…脆いのだから…」
「来るぞっ!全員構えろ!」
カルミアを後方に下がらせ自信を杖を構える。洗脳?状態なのか先ほどミストと目を合わせた冒険者は虚ろな目でこちらへと歩いて来る。屍从の様にのそりのそりと…
「今…ミストが敵になった…でもその人間は…もう戻らない」
「オオァァッアァ!」
人間の限界を越えたような動きでこちらへと突っ込んでくるソレは今の自分達の敵ではないが…
四肢を砕かれても再生し頭を飛ばしても動く。洗脳の問題じゃない。これでは…
「ミストは…今簡単に死ぬ…でも先に死ぬのは…そっち…」
にたりと口角を上げたその少女の影に不気味で形容しがたい…
まるで少女の皮を被っただけの異形。
「全員、死ぬ気でカルミア様を守りつつ攻撃を⁉︎しまった!」
「こんな簡単な…陽動に引っかかる…?」
化け物になった冒険者に気を取られすぎていた。いや、仮にミストと自称するその竜に気を付けていたとしても避けられていただろうか?
およそ少女とは思えないほどの力で自分の首を絞めてくる。
「ミストは優しいから…選択肢あげる…死ぬか…魔法を解除するか…」
「誰…が…するものですか!」
零距離からの魔法なら流石に…
「ばいばーい…」
瞬間に首を絞められ若干ブレてしまった。それでもかなりのダメージのはずだ。
「うざったい…」
次の行動を取る前に髪を掴まれるとそのまま放り投げられる。
ブチブチと嫌な音がして次に背中に衝撃が走る。
「髪…髪…こんなものでいいかな…?」
そう言い残しさっさと霧の中へと消えていく。
残された頭の破壊されたソレは尚もこちらへと向かってくる。
「さ迷える魂よ。我らが神の座へと帰れ。『浄化の光』!」
「お…ああ…ざ…」
聖なる光に包まれたソレは静かに光の粒子になり天へと登っていく。
「…綺麗」
「ありがとうございます。カルミア様。お誉めいただくなんて」
「気にしないで。取り敢えず勇者と合流しましょう。私はこんなところで訳のわからないものに殺されるなど嫌です」
「はい!あ、怪我をされた方がいれば名乗り出てください!直ぐに回復魔法をかけるので!」
昨日会ったのが4号だとすると味方自身に洗脳魔法をかけなんらかの形で連絡を取り合っていた可能性がある…おそらく竜たちに私は殺せない。となると一度くらいはフレシアに一応の恩は返した方がいいだろう。彼女は無事に外に届け出せれば思い残すことはない。




