十八匹目 裏切りの名
どうも握って州ー握州です。はい。
今回もまあ、語彙力のないことないこと…うっう…
いつもの如く生暖かい目で見てくださいませ。
あと、寝るときはエアコン付けようネ
「夢の様だよ…」
「朝から何度目ですか。口より手を動かさないと商人やってけませんよ」
「わかってはいてもですよ!」
昨日返り血やら衛生面やらで結局朝一で商品の買い出しにと港に向かおうとしたところ、既に店の前に列が出来ていた。
「レイズさん!ああ、よかった!話があるんです!」
「レイズさん、実はですね…」
との具合に。
まあ、レイズも中々に演技派で驚いた様な顔をしたり「ありがとうございます」と泣きながら感謝したりと忙しいやつだ。
そして現在荷車に大量の商品を積み店に向かう道中も何度も何度も…
「ああ、本当に…本当に夢の様だ…」
「ほら、さっさと店始めないとお客さん待たせますよ。俺は3階、レイズさんはミアと一緒に一階と二階でしたっけ?」
「ああ、そうだね。さあ、今日も張り切っていこう!」
昨日の死にかけた様な顔はどことやらイキイキとしてる。
奥さんの方も息子と一緒に部屋で話して少しずつだが元気になってきたらしい。
まあ、投薬したら即元気だが怒られそうだからやめておこう。
「さあ、アベン君!テーラム商会の新しい夜明けだ!」
キャラぶれまくってるが…まあ、いいだろう。それと暑苦しいから肩を組むのはやめてほしい。
「え、えーと!…合計で金貨3枚と銅貨21枚になります!」
「はいよー。ちょうどね。嬢ちゃん頑張れよ」
「はい!ありがとうございます!お次の方どうぞ!」
なんとか慣れてはきたが…今朝早く、しーちゃんが帰ってきた時と同じくらいに起こされ簡単な計算と算盤の打ち方、それに商品の値段を覚えさせられ現在は会計係になっている。
アベンさんは上の階の…確かポーション類のところだったはず。あの人は計算など出来るのだろうか…いや、そもそも接客できるのだろうか?
「お返しの銀貨2枚になります!」
「ありがとうね。また来るよ」
「はい!ありがとうございます!」
レイズさんは慣れるまで一緒に接客するよなどと言っていたが…上の武器や防具のところのお客さんの相手…実質私1人…
「お次の方どうぞー!」
頑張れ私。負けるな私。
「すみません、ポーション売り場って3階でしたっけ?」
「あ、はい。右手の階段から上がって無愛想な方のいる階です!」
「ありがとうございます。お仕事頑張ってください、ノルド様」
「はい!ありがとうございます!…ん?」
あれ…今ノルドって…それに今の人ってなんか…
「んー…何でしょうか…嫌悪感を感じますね…どこのシスターですかあれ…あ!お待たせしました!」
今は商人カルミア!精一杯頑張らねば!
「いらっしゃいませー、ポーション、薬液、なんでもありますよー」
意外と来るものなのだと思う。まあ、薬とポーションは何故か違う扱いされているらしい、薬はそこまで売れなくてもポーションはまあ売れるわ売れるわ…
糞王国の愚王様は余程の馬鹿らしい。薬にだって魔法にだっていいところ悪いところがあんだよ。
「にいちゃん、こいつはなんだ?」
「ああ、それは魔法結晶です。超高純度なんで綺麗な色でしょ?試し撃ちします?」
「え?いいのか?」
「買ってくれるって約束するんでしたらね。小瓶の方が銀貨40枚、デカイのが金貨3枚です」
「じゃ、じゃあこっちを」
「そこの壁に試し撃ちしてみてください。防御魔法が付与されてるので問題ありません」
黄色い壁を指差すと「よし来た」と杖を取り出す魔法を放つ準備をしだす。
魔法結晶の主な役割は二つ。一つは魔力を貯めておく貯蔵能力。もう一つは魔法強化の能力。単純に魔法の威力や効果や範囲を向上させる。
どこぞの偉い学者様曰く体内の魔力と共鳴して向上させてるとかなんとか…
「『火炎』!」
本来ならこぶし大の魔法の炎が軽く人を飲み込むほど大きな炎となって壁に飛んでいく。
2号の餌としては便利なものだ。
それに魔法が食べられるとも知らずにばかすか撃ってる奴ほどいい餌やり当番はいない。
「ああ、そうだ。そちらの棚のマナ回復の錠剤も良かったらどうです?ポーションより気軽に回復できますよ。増血剤とかもありますし他にも色々取り揃えてます」
「お、いいね!じゃあそれも貰おうかな!」
「ありがとうございます。お会計銀貨50枚になります」
「安いね!ありがとさん!」
「いえいえ、テーラム商会をまたご贔屓に」
まだ売るものは腐るほどある。
在庫処理はしないと無限的に物が詰め込める籠も何が入ってるかわからなくなってしまう
籠の中を漁るとまだまだ色々と出て来る…青に…それに人を殺す薬…ここら辺は売れないか。あとは、ポーションに対抗して作った回復系がいくつか…こっちは売れるな。
「すみません。少しお話を伺いたいのですが…」
「ああ、はいはいどうぞ。薬のことですか?ポーションのことですか?」
「いえ…あの、一階のノルド様についてなのですが…」
シスター服を着た女性が話しかけてくるがその前に胸の紋章の方が気になる。別に否定だとか馬鹿にするわけではないが割とやばい国。宗教国家の国旗がでかでかと刻まれ…そして何よりでかい。
「あの、あんまり見ないでくださいませんか?その…恥ずかしいので…」
「ああ、すまない。そんなにでかでかと邪神崇拝の連中…」
最後まで言う前に目の前に杖を構えられる。白薔薇の杖…ああ、こいつが件の勇者のお供の1人か。
「我らが神を侮辱するとは…その言葉取り消してください」
「本当の事だろ?三神崇教だっけか?月の神テクシステカトルはまあいいとしてだ。他に二柱、魔法の始祖でお前らが勝手に神格化した始まりの魔神にその子孫達ノルド。他所様から見ればまあ邪神崇拝だろ?」
「黙りなさい!私は宗教国家グロリアスが聖女フレシア=イースティアです。それ以上の愚弄は許しません!」
周りのお客さんも思わず顔を上げこちらをガン見し始める。
…気のせいかもしれないがカルミアに会って数ヶ月。立ち寄る村や町々で大小、面倒毎に巻き込まれる…あいつのせいか?
「聞いているのですか!」
「ようするにあれだろ?生きた魔法結晶が欲しいから私に譲りなさいって話だろ?」
「ッ‼︎ノルド様までも侮辱するのですか…‼︎」
「因みにアレ、奴隷ですからね?いいんですかそれでも?」
「奴隷…⁉︎ふざけないでください!ノルドだからなどではないのです!断じて!彼女は生きています!1人の人間です!貴方にはそれがわらかないのですか…?」
「じゃあ聖女なんて辞めて奴隷解放軍にでもなったらどうだ?まあ、連中も綺麗事ぬかして捕虜を奴隷扱いしてるから変わんないがな」
「そう言う問題じゃありません!」
面倒くさい事この上ない。欲しけりゃくれてやるがあの女絶対行かないだろ。
確信は出来ないが…
「すみませんが他のお客さんの迷惑なんで帰ってもらえませんかね?それに、洗脳なり何なりしても構いませんがそれは、貴方が彼女をモノ扱いし無理やり服従させたことになりますしねー。ああ、可哀想に僕は精一杯彼女の話を聞いて上げていると言うのに導き諭す聖女様は彼女の考えを無視し洗脳だなんて!」
適当に芝居掛かった口調で大声で言うとこれでもかと睨みつけ売り場から出て行く。
どちらにせよ貴重なサンプルを盗まれるのは勘弁だ。3号…いや、2号を服の中に潜り込ませておくか。
「あんた凄いわね。勇者一行はこの商会救ってくれた人なんだろ?いいのかい?あんなこと言っちまって…それに一階のお嬢ちゃんのこと…本当かい?」
少しふくよかな女性がずずいとこちらへと寄ってくる。近い。
「救ったからと言ってこちらが何かを感謝の意で贈るのならまだしも勝手に自己満足して持ってくのはどうかと思いますがね。それに彼女は奴隷と言っても元なので」
「なんだい、意外と上手いじゃないか。なら安心だね。しかしノルドなんて初めてみたが…えらい綺麗だね。エルフにも負けないんじゃないかい?」
「さあ?エルフなんて見たことないのでね。亜人だって今の時代、街中で平気にいるのにエルフは見たことないんですよ?そう考えると面白いですよね」
「ノルドもエルフも私らを下等種なんて言ってるからねぇ…あのお嬢ちゃんは随分いい調教されてるじゃないかい?」
「おや、奥さんお目が高い。そこの薬棚に一発で従順になる粉薬があるがお一つどうです?安くしときますよ?今夜旦那にでも使ってみては?」
営業スマイルは出来ないがせめて声音だけは変えておこう。
「ああ、そちらの方それは性欲剤です。裏に使用方法を記載してるのできちんと用量を守ってお飲みくださいね。で?買います?」
「じゃあ、私はその粉薬貰おうかな」
少し乱暴めにお金が置かれる。何か気に食わなかったのかと思ったがこういう人なのかとも思う。
ミアに余計なことを言うなと釘を刺されたから言わないことにしよう。あいつはどう言うつもりで言ったんだ?
「まいど。薬の効果は8時間程度ですので…まあ、簡単に従順にそれこそ犬のようになるのでお試しあれ」
「案外薬ってのは信憑性のないもんだって聞いてるからどうかはわかんないが…聖女サマとの会話で気分が良くってね。買っといてやるよ」
「効果が確証しましたら是非またご贔屓に」
「ぼ、僕はこれを…」
「はいはい、嫁さん?彼女?ひいひい言わせて男見せてあげてくださいね。あ、これサービスね。関係ないけど二日酔いとかに効く薬」
「ありがとうございます!」
おどおどした男性はそのまま急いで帰ってしまう。
余談になるが彼の買った薬は適切な容量を飲まなければゼラニウムの部下の様に死んでも腰を振り続けることになるが…まあ、彼は大丈夫だろ。多分。
「さあさ、レイズさん曰くテーラム商会の新しい朝だそうだ。みんなたくさん買っていってくださいね」
「ふぃー…疲れましたぁ…」
「お疲れ様です!凄いですよ!見てくださいよ!店一階部分の商品が無くなりましたよ!」
「お昼前に店閉めるなんて幸先いいじゃないですか」
「ああ、全くだよ!2人ともありがとう!うぅ…」
「いえ、俺のところも沢山売れたので…あ、これ売り上げです」
「ありがとう。午後はゆっくりとこの街の観光でもしてはどうかね?何も特産はないが…」
「そうさせてもらいます。お前の行きたい店行くぞ。さっさと用意しろ」
「わ、わ、やったー!労働の後のご飯は美味しいんですよね!本で読みました!」
うきうきとエプロンを脱ぎながらも既に着替え始めてる。そのまま着ていた服も脱ぎ出す。
露出狂かお前は?客いないとはいえ売り場だぞ?
「お前…」
「もうアベンさんったらー。そんなに私の裸見たいなら言ってくだされば毎晩見せますよ。ふふ、私脱いだら凄いんですよ?」
胸を手で隠しながらいくねくねしてるのを見ると東洋の妖に見えてくる。
確か見た人間の精神を壊す力を持っていたのだったか?しかしこいつはなんで下着つけてないんだ?やっぱ露出狂だろ。
「白か」
「ちょっ!どこ見てるですか、変態!大体アベンさんだって髪緑じゃないですか!苔じゃないですか!リアルジャングルじゃないですか!」
「これは地毛じゃないしもっと言えば俺は既に禿げてる」
「カツラ…?」
「バカと育毛と時間を操る魔法は実現不可能だっけか?俺のことはいいからさっさと服を着ろ」
「わー!嫁に行けない!」
「見た目良けりゃ貰い手いるだろ」
レイズさんも思わず目を逸らしてるからいい加減に服を着てほしい。
と、言うかあんたは嫁さんの裸見てるだろガキの裸で赤面してるなよ。
外から若干の視線を感じるが目を逸らし見なかったことにしておこう。
「アベンさん!ドラゴンステーキ食べて、服を買いに行きましょう!お給料ください!」
「はいはい、でかい方は売れなかったが瓶詰めの方は結構売れたし薬も売れたからな…ほれ、大事に使えよ」
「さあ、行きましょう!すぐに!デートですデート!私憧れてたんですよ。生きてるって最高!」
「わかったからいい加減俺の髪いじるのやめてくれないか?」
店を出てすぐにだろうか、カルミアが執拗に髪を引っ張ったりしてくる。
「いや、取れないかなぁって…」
「言い方が悪かったな。禿げてまた生えてきた…ん、いや移植?擬態?まあどっちでもいいや。俺は元々黒髪黒目だ」
「えっアベンさん出身東洋なんですか?」
「知るわけないだろ。捨てた親にでも聞いてみろ」
カルミアが気まずそうに目を逸らし言い訳を考え始める。
いい加減にその手を離してほしいが…まあ、面倒だし放っておこう。
それに気分も悪くない。
「で、だ。お前の行きたい店…確か飯屋だっけか?とっくに通り過ぎたかいいのか?」
「…先に言ってくださいよ!」
「いや、気付いてるのかと思ってな」
後方にデフォルメされた勇者とドラゴンの描かれた看板の店がある。
凄くいい匂いがする。腹が減ってきたしちょうどいい。俺もここで食べるとしよう。
「いらっしゃいませー。空いてる席にどうぞ」
「アベンさん!アベンさんも食べますよね?ね?アベンさん!」
「落ち着け」
「すみません!ドラゴンステーキ二つくださーい!」
「はいよー」
カウンターのところに座り注文をする。店の外観通りか酒場の様になっており中には昼間だというのに酒を飲んでいる者たちもちらほら見える。
「ここのステーキは初代勇者…えーと大老さんと戦った人が切り落としたドラゴンの尻尾を丸々食べたことから出来たらしいですよ」
「やっぱあいつら飛び蜥蜴じゃねえか。しかしまあ…なんというかお前大食いだな」
「食べたいもん食べて何が悪いんですか!」
「付いてきた理由が俺の見た景色と甘いもの食べたいだっけか?駄肉が付くぞ」
「いやいや、なに言ってんですか。1週間以上歩かせてろくな食事取らせてくれないんですから…ここで!食べねば!いつ食べるんですか!」
バンと机を叩き力説ですよと叫ぶ。周りの人間は酒だ飯だと騒いでるから気にもとめてない。
「俺は泥水飲めるし腐った肉も食えるから関係ないな。手前の飯は手前で獲れ。それが嫌ならパンでも干し肉でも買っていけ」
「じゃあ入れてってくださいよ!」
「まあ…それぐらいなら構わない」
「やった!」
「お待たせしました」
「ッ⁉︎ほぉぉぉぉあぁぁ!」
目を輝かせヨダレを垂らすほど見とれてる…いや、でかいな。縦の長さがスライムを入れてる小瓶ほどある。
「いただきます!」
「…いただきます」
……
美味いが二、三日目は肉が食べたくなくなるな。
カルミアの方はもう半分近く食べてるが…どこにそんな入るのだろうか?
「おいひいれふ!アフェンさん!」
「飲み込んでから話してくれない?落ち着け」
「むぐむぐ」
「ん?おい、あんたらレイズさんとこの店員か?」
「…はい、そうですが」
「あそこで入荷するスパイスがこれに欠かせないんだよ!いやー、ありがとうね!勇者様に感謝だね」
「ふいー…勇者…様見たことあるんですか?」
「見たことあるというか、あそこにいるだろ?勇者様もお目当は同じってわけだ…ってお嬢ちゃん食べるの早いね」
人が多くてわからなかったが、奥の方で人垣が出来ていた。
女性が特に多いか?英雄色を好むと言うがそういうことなのか?
「俺まだ半分も食ってねえ…まあいいや。見たけりゃ見てこいよ」
「正直もうあんまり興味沸かないんですよね。あれは伝記を読み、考え、不可能なことを可能にしたのが楽しいのであって実際どうなんですか?強いんですか?それに今はアベンさん一筋ですよ?」
「阿呆らしい。いい男でも、やりたい仕事でも見つかったらさっさとどっか行けよ」
「大丈夫ですよ。私はアベンさんを見捨てませんって」
簡単にいうんじゃねえ。どうせ、どいつもこいつも勝手に見捨ててくんだ。
お前だってすぐにそうなる。
「頭に粘菌でも飼ってんのか?」
「さぁ?開けて見ます?戻してくれるんでしたらいくらでもばっくり行っちゃってください!」
「付け合わせのジャガイモを頭扱いして丁寧に中身を取り出すのやめろ」
しかし仮にこいつをどこかの街で捨てたら大老はなんと言うだろうか?気に入っていたから怒るか?それとも長い人生…竜生の中の片隅にでも閉まっておくのか?
と、そんな考えをしていたら声をかけられた
「…あの、失礼します。僕は勇者のゼノン=ディロイと言います。よろしければお話いいですか?」
「…。もう出るつもりなのでサヨナラ」
「グッドデイです!あ、ご馳走様でしたー!」
「あいよー、レイズさんによろしくなー!また来いよ!」
「あ、ちょっと待って!」
結局残った肉をカルミアに食わせ、さっさと勘定を済ませて店から出た。
勇者なんかに関わったら、ろくな目に合わないって思う。なによりも昼間来た面倒な女がいる。
「勢いで出ましたけど、どこ行きます?人混みに紛れて逃げ切れたみたいですけど…」
「行きたいとこがあるなら言え。オススメは店に戻って寝ることだ」
「じゃあ…服屋さんに!ッ‼︎何か来ますよ!」
言葉より早く白衣の裾を矢で縫いとめられた。連射された4本の矢はそれぞれが両手それに両足の裾を射抜く。下手に動けば白衣がビリビリになってしまう。毎度白衣には申し訳ない。
どこから射ったのかは知らないが随分と正確なものだ。
「虫だって動体に針一本だぞ?手と足両縫いとめられてるじゃねえか。とりあえず逃げた言い訳を考えよう」
「金を要求されるかと思ったとかどうです?」
「よし、それでいいや。頼むぞ」
まあ、街中で服に矢が刺さって標本にされた虫の様になってれば自然と人も寄ってくる。
興味本位に近づいてくるものもいたが、連中が到着した為に人垣に消えていく。
「酷いじゃないですか!見てくださいよ!地面に這い蹲ってまるで虫じゃないですか!これが勇者のすることですか!鬼!畜生!ロン毛!外道!」
「くっ…いい、いいんだ。俺のことは放っておけ…お前だけでも…」
「ちょ、ちょっと待ってください!お話がしたいだけであって…」
「貴方の国での話し合いは人の白衣を矢で縫いとめて大衆の面前でこんな情けなく惨めな格好にさせることなんですか!」
余計なお世話だ。
周りから勇者達が怪訝な目で見られる。まあ、当たってないし服だけだがカルミアの言う通りなので動けない男性を女性がそれを庇ういい絵だ。
「うっ…いえあの…仲間の独断といいますか…」
「おい勇者!たしかにレイズさんとこ救ってくれるのは俺たちもありがたいがそれはねえだろ!」
「「そうだそうだ!」」
「も、申し訳ない!」
「オルディナさんには後でキツく言っておきましょうね」
考えみればカルミアに矢を抜かせればよかったと思ったが…なんか抜けない感じの魔法でも付与されてたかもしれないし…魔法やそれに準ずる魔法武器とかはよくわからない。
やっと張り付け状態から解放され結局勇者と聖女に話をと促される。
聖女に物凄く睨まれているが…まあ、気にしたら負けだろう。慣れているし。
お願いだから面倒ごとだけは勘弁してほしい。
先程の店に戻り同席に6人。
狭いし何よりその周りにも勇者を一目見ようと野次馬が集まってくる。
「さっきは悪かったな。取り敢えず止めないとと思って」
耳の尖った金髪の美青年…
「エルフか…魔弓の射手なんて仰々しい名前で呼ばれてるからどんな野郎かと思ったが存外外れてはないな」
「ああ、よく言われるよ」
透き通るような声音で返してくるがその目にはあからさまにこちらを見下し下等種風情が話しかけるなと。
一方の筋骨隆々の男性は無言でこちらを睨んでくる。
あからさまだなこいつら…
「改めましてゼノン=ディロイと言います。魔王クロウを倒す為に旅をしている」
「私はフレシア。フレシア=イースティア。聖国グロリアスの聖女です。以後お見知り置きを」
聖女にまで睨まれるとなるとあとは勇者でコンプリートだ。
「リーフスタニア=トランストラネス=オルディナだ。よろしく頼むよ」
「…ダン=バネシア」
「君達の名前は言わないでいい知っているからね。で、だ。話なんだけど…」
カルミアの方を向く。またお前か。
もう本当にいい加減にしてくれないか。
「アベン君、フレシアさんから聞いたよ。カルミアさんを不正に奴隷にしてるって。僕は正義の味方なんだ。だから無闇矢鱈に人を斬らない。だからさ」
彼女を解放してくれと。聖女も嘘をつくんだな。邪神崇拝野郎が。
「そんな訳ないじゃないですか!私は!」
「君は少し静かにしててくれ。言わさせられてるのだろ?」
「ああ、なるほど。だからそっちのおっさんが睨んできてたのか。で?なんでそこの女が嘘ついてるなんて思わないんだ?」
「聖女が嘘をつくわけ無いだろ!」
阿保過ぎて笑える。
なんだその自論は。カルミアの方は…いや特に気にした様子もなく余計なこと言わないでくださいと言わんばかりにこちらを見ている。
「…じゃあ別に俺を殺すなりなんなりすればいいじゃねえか。面倒くさい」
「そうじゃないんだ!平和的に解決と行きたいんだよ。だから彼女との契約を解除してくれないか?」
「私からもお願いします。ノルドは我らが神。聖女と言えど私とて感情はあります」
「…あー、じゃあ契約切るから。それでいいんだろ?」
切るったってなにをだ?契約?こいつが勝手について来ただけであってそんなものはしてない。ポケットから適当に…
「ほれ、お前は自由だ。好きに生きろ」
早朝の買い出しの際のメモをビリビリに破り棄て燃やす。これでいいのか?
とんだ茶番に付き合わされるこちらの身にもなってもらいたい。
「ノルド様!これで自由です!ささ、こちらの方へ」
「じゃあ用が済んだなら帰っていいか?」
「あの、アベンさん!」
帰ろうと立ち上がった途端に首筋に勇者の魔剣と傭兵の剣、後頭部にエルフの弓。ご丁寧に体は束縛魔法で縛られている。
「アベン君、君が不正に奴隷を保持していただけでなく無理矢理契約をさせていた。この意味がわかるか?」
「ごめん1から説明してくれないとわからない」
前後方どちらも殺気を立てながらこちらを睨んでくる。本当に勇者かこいつらは
「勇者様幾ら何でもそれは横暴じゃねえか?あと店の中で暴れんな」
「店主助けてくれ。俺は善良な薬師だ。なんも悪い事してねえよ」
「薬師?ブフッ…はは、はははははは!そうか薬師か!」
「あはは!」
「下等種らしい…」
ああ、そうだ。忘れてた。こいつらは魔法が特に秀でた国から出て来た者ばかりだ。
薬師など酒の肴かトチ狂った連中くらいしかいないのだろう。
ましてやエルフなど弓も上手く、ノルドほどでなくても高い魔力と適性を持つ。そいつらから見れば過去の遺産どころか時代錯誤な野郎としか思えないのだろう。
「ははは!そうか、だから白衣なんて着ているのか。あからさまに!ぷっ…ふふ」
「ノルド様を奴隷化させたのが魔法に一切関与しない薬師とは…皮肉が効き過ぎてますよ。あはは!」
周りの野次馬たちも笑っているものもいれば苦労してるんだなと顔を顰める者も。
「だ…黙りなさい。耳障りな声をこれ以上私に聞かせないでくださる?」
凛とした声が辺りに響き渡る。声の主は言わずもがなカルミア=フォリナスその人。
「ノルドではない蛮族風情が私の前で汚い争いするなど滑稽ですね。ましてや勇者など名乗ってるのでどのような者かと思いましたが…その程度の器ですか…」
「なんだと⁉︎」
「ゼノン様黙っていてください。カルミア様、改めまして三神崇教が聖女です。何なりとご命令を」
「ならそこの男に手を挙げている蛮族2匹をどうにかしなさい。そこの耳長は臭いので殺しても構いません」
「チッ…ノルドが…魔法が切れたからって調子こきやがって」
「…」
それぞれが武器を収める。足元の魔法が消える。これでやっと脱出が出来る。
ここ数ヶ月カルミアと旅をしてきたからなんとなくわかる。
その目は嘘などついていなくその声音は本心だろう。確信は出来ないが…
「さて、下等種の中でも特に下等。挙句に魔法も使えなければ擬きどもの使う固有技能すら使えない薬師。ああ、アベンさんって呼んだ方がいいかしら?」
「…」
「まさか、あんな言葉を信じるだなんて、バカね貴方。毎日反吐が出るような生活だったけどやっとこれで村に帰れるわ。ありがとうねアベンさん?」
殺すか。
「さっさとどこかに行ってくれないかしら?もう貴方の顔なんて見飽きたの。さっさと消えてちょうだい」
「畏まりました。殺します」
「汚ねえ言葉使ってんじゃねえよアバズレ」
「なん…だと!この!」
「気を付けなさい。そいつは魔法も固有技能も使えない代わりに魔物を使役するわ」
「魔物使いか…カルミアさんは下がってください。ここは我々が」
「おい!だから店の中で騒ぐなって言ってんだろ。出てけよ!」
「…」
「チッ、ノルドが俺に命令すんじゃねえ」
気付いたら周りの連中もこちらへ剣をむけたりナイフやフォークを向けたり…
もうそろそろこの街も出た方がいいか。
もう少し稼ぎたかったが…一応世話になったレイズに迷惑をかけるわけにもいかない。
「カブラ。鳴らせ」
「ッ‼︎」
咄嗟にカルミアが耳を防いだがそれ以外の連中はこいつの正体を知らなく今まさに攻撃しようと振り被ったところで金属音の様な心地よい音のような。複雑な音を聞いてしまう。
「か、体が…」
「麻痺⁉︎任せてください。私が皆様の回復を…」
聖女がいる分即座に回復されるだろう。さて、こいつをどうするか。ここで殺すか?それとも…いや、どうせならもっと惨めに殺すか。
そうなると魔法が使えないのも嘘だろう。ならば両腕をそぎ落として魔法の使えない状態に戻してから生きたまま内蔵喰いにでも食わせるか。
「お前のさっきの言葉少しでも信じた俺がバカだったよ。そも、こんな人間のクズに同伴しようだなんて話がおかしかったんだからな。もっと早く気付いておけばよかった。ああ、勿体無い」
見下したかの様に見てくるその目は…紛れもなくこちらを軽蔑している。
今すぐ殺してやりたいが…聖女がもう鏑蟹の音の効果を消すだろう。
「お前はこの世で一番苦しませてから殺してやるよ。クソ女。今までみたくいい演技で頼むよ。泣き叫ぶ練習でもしとけ」
「下等種風情が…‼︎」
さっさと逃げよう。こいつらに関わってるとろくなことがない。
こいつが居なくなればまた楽で静かな旅が戻ってくる。
いつ殺すか。明日か?明後日か?
「逃してはなりません!」
「待て!薬師が!」
ああ、ああ。いつも通りだ。胸糞悪く、掃き溜めの底みたく汚い。
『大丈夫ですよ!私はアベンさんを見捨てませんって!』
言葉なんて飾りに縋るなんて…らしくないな。たかが話し相手が増えただけだ随分と腑抜けたものだ。
さっさと籠を持って逃げようとレイズの店へ向かう。
「じぇる!じぇりる!」
「あ?何言ってんだ。殺すに決まってんだろ」
「じぇるるりぃ!じぇるー!」
「はっ、だったら多数決で決めてやるよ。前みたくな」
どちらにせよ俺の正体を知ってるんだ。お前らが全員反対して擬態しなくても首を閉めれば死ぬ。眼球に毒をたらせば死ぬ。簡単なものだ。
「…阿呆らしい」
「…無能共が、フレシア。私は疲れた。お前たちの泊まってる宿の一番いい部屋へ連れて行け。空気が薄汚れていて気分が悪い」
「はい、ノルド様!こちらです」
アベンが去った後、散らかった店を連中に任せさっさと宿に向かう。
「耳長、何を見ているのですか。貴様らなど耳が長いだけで下等種同様です。黙って店の片付けでもしていなさい」
「…一々癪に触る女だな」
「なにか言ったか?」
「やるって言ったんだよ。黙ってやがれ」
心底嫌そうな顔をして店の方へ向かっていく。
こっちだってお前と顔を合わせているのは嫌だ。
「勇者。私をさっさとノルドの村へ戻さしてくださいね?下界の空気を多量に吸ったせいで肺が汚れたので」
「了解。カルミアさんも大変だったからね。僕も頑張って貴女を村に返せる様にするよ」
「貴様の話など聞いていませんわ」
勇者と聖女が左右に着き護衛の様に並んでいる。
宿に着き簡単に手続きをすると宿の一番いい部屋へ案内される。元々重鎮や貴族がこの街に来た際に泊まっている宿の為元より外見も内装もいいが部屋もまた、とても綺麗だった。
「フレシア、私は寝る。部屋へは誰1人近づかせるな」
「はい!ノルド様!」
キラキラと目を輝かせ、頰を紅潮させる。神と崇める存在が目の前にいればそうなるか。
手早くシャワーを浴び着替える。
「…魔物図鑑に魔法生物図鑑も…他にも色々!」
1日じゃ読みきれない量の本。それに娯楽用の映像水晶。本当に1人用の部屋なのか。
『半透明で半液状の体を持ちあらゆる環境に適応する。また擬態をすることによって外敵から身を守る』
「…」
気付いたら夜になっていた。どれだけ読んでいたのだろうか。自分の周りに本でてきた山がいくつもできていた。
『お前を信じた俺がバカだったよ』
静かに全てを包み込むように月明かりは私を照らす。