十七匹目 実験
はーい、握州でーす。
月の聖杯戦争参加してたらこんなにも久し振りに…あれ?久しぶりですよね…?
はい、今回もまあ、語彙力は世界一周旅行に言っているので散々で稚拙な文ですが読んでくださりますと有難いです。あ、水分補給をこまめに熱中症に気を付けてくださいネ。
ではでは、生暖かい目で見てくださいませ。
「よお、ガキども」
確か冒険者ギルドで後ろに並んでいた冒険者たちだったか?先ほどとは違い上機嫌そうにこちらへと話しかけてくる。
あの、碌に見もしない野郎に気に入られてるのか?
「さっきはすまなかったな」
「へ…?え、あ…あの…?」
「別に俺たちゃ、好きであんたら馬鹿にしたわけじゃねえのよ」
「あの、受付の野郎は裏に繋がりがあるなんて噂があるからよ。ギルドも俺らも逆らえねえんだよ。流石に目の前でガキどもが死刑宣告なんざされるの見たかねえからな」
「まあ、それも今日までだからな。明日一番に全員しょっ引かれるのを見れるぜ?」
「ハーム…でしたっけ?死んだんですか?」
立ち話ではなんだと近くの酒場に入る。生憎と下戸なので飲めないがカルミアは目を輝かせながらどれにしようかも迷っているらしい。
「はは、ちげーよ。勇者様が直々に今夜とっちめるらしいぜ」
「へえ…え?この街に勇者が?」
「ああ、昨日の夜にこの街について今朝街長にお願いされたらしい。明日からはレイズさんとこも賑わうだろうよ」
少し物悲しげにガッチリとした体系の男がレイズの商店の辺りを見る。
話を聞くところによると、やはりと言うべきかレイズのとこには行かないように脅されていたらしい。
テーラム商会は始まりの街トリムで一番賑わっていた商会だが急激に幅を効かせるようになったハームに足止めされ。今は廃業寸前と。
「レイズさんと話すのも禁じられてたからな。それも今日までの辛抱だ。取り敢えず事の全てを話したらレイズさんとこの品物が全部無くなるまで買わねえとな?」
「へへっ、安心してくだせえ。この日がいつか来ると思って白金貨一枚。用意してありますぜ」
「おおっ!いいな!さて、酒もきた!飯もきた!飲むぜ!今日は俺の奢りだ!」
「わーい!冒険者さんかっこいいー!」
勇者と鉢合わせになるのは色々と面倒だ。
そもそもの話、勇者に全て任せてしまえばと思うが果たして偽善の塊である勇者が子供を盾にされてマトモに戦えるかどうか。それに仮にも俺の名前を盾に犯罪を行なっているような連中である。
殺るな、徹底的にやってもらいたい。
勇者様のお手伝いをするとしよう。
「あひゃひゃひゃひゃ!アウェンさん変な顔〜!わらっへ〜笑えよ〜」
「…ひゃくふぁよ」
「よーし!嬢ちゃん!じゃんじゃん飲めやー!」
「ヒュー!!いい飲みっぷりだー!」
昼間っから名前も知らない奴とよくもまあ飲めることやら…まあ、夜中には投薬してでも酔いを覚ましてもらうから今は騒いでいてもらおう。
「うーっぷ…飲んだ、飲んだ。いやーお前の嫁さんいい飲みっぷりじゃあねえか。こっちまで酔い潰れちまいそうだぜ」
「ひひ…ひひひ…お天道さんが輝いてラァ」
「おい、しっかりしろ。ったく…悪いな、明日も多分酒盛りだろうがよ。それまで寝てるとするよ」
「ああ、ありがとうございました。そういえばまだお名前を聞いてませんでしたね。俺はアベンでこっちのラリってるのがカルミアです」
すっかり日がくれた街の中を上機嫌にくるくる回転しながらカルミアが笑ってる。周りの人間の目を見ればわかるがまあ…うん…本人には後で伝えるとしよう。
「ん?ああー、ロックとこっちのがリムだ。まだ、銅だがいずれ白金になるぜ。なんなら賭けてもいいぜ?」
「へえ…ああ、そうだ。これ、よかったらどうぞ。奢りと言ってましたがうちの馬鹿が予想以上に飲み食いしまして…ほんの詫びというやつです」
籠から二本の黒い粘性のポーションを渡す。
とある物を混ぜ込んだところ相当やばい代物になったが処分に困っていた。
「暗くてよくわかんねえが色大丈夫か?焦げてね?」
「焦げポーションだぁ!ひゃはははは」
「オリジナルポーションですので、まあ気休め程度に…死にかけた時に是非飲んでください。体に害は無いので」
一応実験はした。魔物で。結果は半々だったが死にかけに投薬した方が効果は高かったから大丈夫であろう。一応念の為に言っておくが。
「そうかよ。まあ、なんだ…お守り代わりに取っとくとするぜ。じゃあなぁ〜また明日会おうぜ〜ヒック」
「ロックさんもリムさんもかっこいイィ!ヒューヒュー!」
取り敢えず最優先事項はこいつを元に戻す事だな。
籠から一本注射器を取り出す。
多分ノルドも普通の人間と同じく薬物に対して耐性がそこまで高くは無いだろうから大丈夫であろう。
もしもの時のために1号を傍らにカルミアの首に注射器を突き立て溶液を注入する。
こいつが目覚めるまで少し待つとしよう。
もう一つの血生臭い仕事を終わらせてからハームの所へ向かっても勇者御一行様は到着してないだろう
「じぇり!じぇりる!じぇぇぇ!」
「あ…」
「…ブクブクブク」
泡吹いてカルミアが白眼を剥いて倒れ伏していた。
「悪かったって、あそこまで薬物耐性が無いとは思わなかったから」
「謝るくらいなら寝させといてくださいよ!どうせ私、役に立たないんですから‼︎危うく死ぬ所でしたよ⁉︎」
「お前って泡吹いたらブクブク言うんだな」
「しっかり観察しとかないでください!」
結局体内に入った薬を1号が食べたらアルコールも食べたらしく酔いが覚めたらしい。終わりよければ全て良しとの言葉通りだ。
「まあ、でも今考えたらお前起こす必要なかったなって思ってる」
「ですよね⁉︎私の持ってるコレとかアベンさんの籠の中入れとけますよね‼︎」
「え?汚れるしどうせすぐ捨てるものだから嫌だ」
「私だってこんなボロ布に包んだのを持ちたくないですよ!」
カルミアの抗議を無視してスラム街の奥に進んでいく。
相変わらず異臭と時折人の呻き声のようなものが聞こえてくる。
なんら変わらない人間のゴミ溜め。かつての記憶が少しだけ蘇るがろくな記憶もないから違うことを考え始めると
「そういえばアベンさんっていつ捨てられたんですか?」
「生まれてすぐらしい。まあ、どこにでもはみ出し者はいるからな。ガキ拾って養う野郎が居たんだよ」
「その方はご存命で?」
質問を返される前にアベンの足が止まる。
スラム街の中だと言うのに妙に煌びやかな屋敷が一つ。
何人か護衛がおり重要なのは目に見えてわかる。
「死んだ。確か…あー…ハームに殺された筈だったけど…どうだっけか?」
「いや、知りませんよ」
「おい、お前らここで何をしてる!ここはハーム様の屋敷だぞ!」
「まあ、復讐って訳じゃないけど少し用はある」
「ゴアァッ…やめ…ろ…」
加速した3号により両足を砕かれ。頭も砕かれそうになりながらもこちらを睨んでくる。
まあ、どちらにせよ邪魔だから潰すけど
「ギュッ‼︎」
「本当に容赦ないですよね」
「まあ、気にすることでもないしな。お前も殺る時は殺れよ。気を抜いた人間ほど簡単に殺せる者はないから」
靴の裏に付着した脳漿を地面に擦り付け屋敷の入り口へと向かっている。
予定では4号が大体の片付けと子供の確保をして居てくれている筈だが果たして…うまくいっているか?
「あ…?ガキがこんなところに用か?」
「……あの野郎、また失敗しやがったな」
4号は潜入や諜報では3号に並び役に立つが天然らしくドジる。今回もどうやらドジったらしく全然人は減ってない。それどころか予想より人が多い。
「なぁーにぃ?お姉さんと遊びたいのぉ?」
「近寄んな売女」
「あ?おい、てめえ。俺の女に何言ってんだ?あぁ?ぶっ殺されてえのか?」
ぞろぞろとまあ集まる集まる。
20名ほどだろうか?しかし、ハームの姿が見当たらない。奥で踏ん反り返っているのか?どちらにせよ先にこちらを処理しなければ。
「ミア、これ被っとけ」
「なんですかこれ?レンコンの断面みたいなのが付いたお面…?え、あ」
「おい、聞いてんのか!」
「聞いてねえからこっちで話してんだろ」
透明な液体の入った小瓶を地面に叩きつける。
割れた小瓶から即座に液体が揮発し青い気体が発生しだすがこちらはマスクを着けているので大丈夫であろう。多分。
「赤の次は青だな。体が麻痺してゆっくりと死んでいくから…まあ、楽しんでくれ」
バタバタと部屋にいた人間が倒れていく。
口を開け涎を垂らしてるのを見ると麻薬中毒になったスラム街の連中を思い出すがあちらの方がマシだろう。
「お…あえ…なに…」
「これ、レンコンの断面のみたいなとこに解毒薬染み込ませた布詰めてるんですね」
「空気穴欲しくなけりゃ口に解毒薬含んどいてもいいぞ」
「わーい!かっこいいマスクだー!」
「ほら、さっさと行くぞ」
突然の来訪者は死を撒き散らし彼の通った後には無残な死体が転がっているだけだった。
それを建物の陰から1人、見ているものがいた。
部下の1人ではあるが優遇に不満があり今日も面倒な仕事を頼まれた報告に来た時にその少年を見た。
最初、綺麗な白髪の少女を襲い彼を殺そうなどと考えていたが手を出さなくて正解だった。
「こんなところで何見てんだ?」
「ひっ⁉︎な、なんだ…ランパスさんか」
「なんだとはなんだ。ったく、サボってねえで仕事が終わったんならハーム様のとこへ報告に行け」
「いや…あの…あれ見てくださいよ。門番と、それに中の連中も」
指差す方向を見ると頭部を潰され赤い花を咲かせたか、或いは虚ろな目で虚空を眺める仲間達がいた。
「ああ、そういうことか。また、やっちまったか…」
「え?どういうッ‼︎」
自身の腹部に巨大な異物が侵入し即座に引き抜かれるのがわかった。
向こう側が見えるほどの大穴が開けられていた。
いや、ランパスの手は魔物の様に異様な形に変容しておりそこに自身の肉片が付いているところを見ると今、自分を攻撃したのはランパス。だがこんな能力持っていたか…?
「ゴボッ…なん…で…」
「しまった、やってしまった、どうしようか。すっかりランパスになってしまっていた。ああ、ああ!またご主人に怒られてしまうよ!」
大急ぎで屋敷へと走って行く姿を横目に見ながら灯火が消えるのを待つしか出来ない。
「ああ、くそっ…ついてねえ…」
「ランパスさん相手にしてから殺すの雑になりましたよね」
「別に殺し方のレパートリーなんて無いから適当になるんだよ。言うな」
「あ、気にしてたんですね」
奥の部屋の扉を開けると中には誰もいなく代わりに本棚に隠れていたであろう隠し扉が開けっぱなしになっている。
「逃げられたか?3号頼むぞ」
「ジェ!」
分裂した3号が四方八方に散らばって行く。
もうハームに逃げ道はない。匂いを見つけたのか町全域に広がっていた3号の欠片のうちの数十は奥の通路へと向かっていく。
「あ、見つかったみたいですよ」
「開けっ放しの扉は罠でも仕掛けてあると思ったが余程の阿呆らしいな。ほら、さっさと行くぞ」
「待ってくださいよ!」
「チッ‼︎あの馬鹿ども本当に使えねえなぁ!あんなガキ1人殺せねえでよ…」
早足で隠し通路を抜け奥の牢屋へと向かう。
そもそもの話、自分は確かに強いが自分の手を汚すのは嫌いだ。高級な椅子に座り顎を使って命令をするだけ。今の仕事こそ一番自分にあっていた。
牢屋の扉を開け中にいる子供の髪を鷲掴みにする。
元は奴隷や裏切り者、街で拾ってきた女を閉じ込めておいた場所だが今は子供1人しかいない。
「ランパスの野郎にはさっき連絡しといたからな。チッ…ぶん殴られてえのか?あぁ?立て!」
「ひっ…ぶ、打たないで…」
「立てって言ってんだろうが!さっさと歩け!ぶっ殺されてえのか!!」
「お父さんは⁉︎お父さんのところに帰らなきゃ!」
ガチャガチャと鎖を鳴らして足にしがみついてくる子供に苛立ちを覚え思い切り殴ってしまった。どちらにせよコイツは売って金になるだけだ。それに見栄えが悪くとも大切なのは中身の価値だ。
「こっちだ。さっさと来い」
「ッ‼︎」
牢屋の奥にもう一つ隠し扉がある。
こちらは街の外まで繋がっており逃げるのに使用するものだ。
「勇者なんざ来なけりゃもう少し金を稼げたか…チッ余計なことしやがって」
「お父さん!お母さん!助けて!!」
「黙ってろガキが!」
こいつが珍しい能力なんざ持ってなけりゃ今すぐにでも殺したい。
ピーピーと喚き散らしてるガキの腹部を思い切り蹴ると胃液を吐きながら失神する。これでやっと静かになった。
「さて、と。逃げるとするか」
「ヒュー…ヒュー…」
ヒュルルル…ガンッ!ヒュルルル…ガンッ!
「ん?なんだ…?」
音が段々とこちらへ近づいて来る。
「勇者の一行か?なんだこの音…一切の魔力も感じないし固有技能でもなさそうだ。なんなんだ?」
とりあえずガキを担ぎ走り出す。さっさと逃げないと。
その間にもどんどん音が近づいてくる。壁に深々と紐のついた鏢が刺さり紐が貼られると同時に先ほどのヒュルルルと音が聞こえてくる。
「見つけた。手前がハームだな?」
言葉が発せられたからであろうか紙一重で声の主の一撃を避ける。
膝蹴りを喰らわすつもりだったのだろうか?膝から地面に叩きつけられた声の主は不快な音を響かせながらぐちゃぐちゃになった膝でよろよろと立ち上がる。
「なんだお前は…?」
「名乗るほどのものじゃない。そのガキを寄越せ」
「はん、渡すわけ…ねえだろッ‼︎」
別に弱くて逃げてたわけじゃない。それこそ勇者にだって負けず劣らずいい勝負が出来ると自負してる。なら何故か?簡単な話だ。面倒臭い事は嫌いだ。
こいつがどれだけ強いかは知らないが関係ない。
「『破壊槍』ッ‼︎」
「挨拶も無しか」
粘性の液体が床に広がると同時に黄色い壁が形成される。
触れただけであらゆる物を破壊する槍は効力を失ったかのように黄色い壁に吸い込まれ消えていく。
「⁉︎なんだ、それは?」
「なるほど番外魔法か。破壊魔法なんて面白いもの使ってるんだな」
「なんだって聞いてんだよ!」
「なんだっていいだろ?ネタ切れか?もっと撃ってこいよ」
どんなタネがあるかのから知らないが頭にきた。無駄に魔力は使いたくなかったがしょうがない。
「今度こそ死ね。破壊球‼︎」
次は数で勝負だと複数の破壊の魔力の球を作り出し投げる。
それも何事もない様に壁に吸い込まれていく。
「何度やっても無駄っぶないな」
「悪運のいい奴め…」
囮を使っての攻撃だったが、地面に潜らせて背後からもう一つの魔法で攻撃したはずが片足で避けるというよりは転がる様に避けられてしまう。
「危うく風通しのいい体になるところだった…ああ、ああ。やっと追いついたか」
「速すぎるんですよ!」
声の主人はその男の後方に。白髪紫眼の少女が…いや、あれはまさか…
「ノルドか…?」
「ん?ふふん、気付きましたか。そうです!私はノルド!カルミア=フォリナスです!」
満足げに胸を張っているのに気を取られていたせいでハームの攻撃を避けられなく破壊魔法を纏った拳で思い切り殴られる。
遅効魔法でも付与されてるのか。殴られた頬がボロボロと砂の用に落ちていく。
足もこんなのでは立つこともできない。
一方のカルミアはまあ、何度見慣れた光景か腕を掴まれ興味深げに見られている。
「痛ッ!離してください!」
「確認をするだけだ大人しくしてろ!『状態破壊』‼︎」
「わっ、わわわ!なんですかこれ⁉︎」
「『状態破壊』要するにだ、お前がノルドって名乗る変装や幻術野郎なら素の状態に戻る。お前の顔をよく見せろ!」
「ひっ!近い近い」
体の光が消えると特に変わりはなくカルミアがいた…常に体外から魔力を吸収していることによる脱色した白髪。魔眼なしでも魔力の流れを見れる紫眼。まさしく彼女はノルドだ。
そして、レイズの息子を拉致した時と同じく…いやそれ以上に歓喜した。
産まれながらに魔法の神に愛され、魔法適正と高い魔力を持つ種族…
「は、はは…はははははは!俺はなんて運がいいんだ!2つ持ちにノルドだと⁉︎一生遊んで暮らせるじゃあねえか!ひゃははははは!」
「いい加減に離してください!私はアベンさんの物です!アベンさんの所有物です!貴方のものじゃありません!」
「そのアベンさんだが、もう手遅れみたいだぜ?くくっ」
「くそ!…こんなところ…で…」
頭部が完全に崩れ体もそれに合わせ地面に横たわる。
「はっ!調子こいた野郎だが、いいもんくれたから許してやるよ。さっさと来やがれ女。お前は今日から、このハーム様の物だ」
「だから言ってるじゃないですか。私はアベンさんの物だって」
ぐらりと視界が揺れ、立っていられなくなってくる。
元からカビ臭い場所だったせいだろうか?今更鼻腔に僅かに残る香の匂い…
遂には立っていることも出来なくなり、倒れてしまう。
「勘弁してほしいよな。手前は手前なんだから誰かの所有物になんかなりたくないよな。だから、抱きついてくんな」
「アベンさん!アベンさん生きてる!アベンさんの匂いだ!」
「落ち着け」
「あいたっ!」
抱きついて来たカルミアにそこそこ強めにチョップをかますと泣きそうになりながらこちらを見てくる。
無視するが。
「因みにこいつがノルドなのは本当だから安心してくれ」
「いぇーい!魔法の使えないノルドです!」
言ってて悲しくなってこないのだろうか?
「ぐ…あ…どこからだ…」
「さあ?どこからだと思う?当てたら助けるのを考えてやるよ」
「くっ…最初からか…」
「嘘に決まってるだろ。馬鹿だろお前」
とりあえず殴られた分は仕返しにと顔面を何度か蹴る。なんか白い物が飛んでいったが見なかったことにしよう。
「ああ、そうだ。俺はガキ回収しにきてついでに手前に忘れ物届けに来たんだ。ミア、袋の中身捨てていいぞ」
「意外と重かったんですよ?服にも付いちゃったし…」
「あとで新しい服買ってやるよ」
「アベンさん好みにコーディネートしてくださいね!」
「葉っぱ3枚だな」
足元に転がった袋の中身をこちらへ蹴飛ばしながらくだらない話をしている。
なんなんだこいつらは。ふざけているのか?
「感動のご対面だ」
「⁉︎」
転がって来たのは人の首…とても…とても見覚えのある…
「なんで…だ…あ…うわァァァァぁ!!」
「実験だ。というのも俺は手前に赤ん坊の頃から自我が形成されて少し経つ頃まで育ててくれた女を殺された。でも、俺は別にどうでもいいことだし。名前も顔も思い出せねえ奴のことなんざどうでもいい」
転がった首を踏みながら話しかけると予想通りというかこちらを睨みつけてくる。
数ヶ月前に会った復讐に囚われた可哀想な盗賊団長サマと同じ目だ。
「ところが、家族の愛という面白いものをこの間知ってな。どんなものかと、とりあえずお前の嫁さんを殺してみた。生首転がして頭を踏み付けてみた。是非感想を教えてくれ」
「この…悪魔が!お前みたいな野郎は屑だカスだの次元をとっくに超えたクソ野郎なんだよ!」
「なるほど。前回のは不慮の事故だったが今回のでわかったよ。家族のいる奴はそっち優先で殺せばそうなるってな」
靴の裏から骨の軋むミシミシと不快な音が響いてくる。生憎と靴の裏に脳漿が付くのはもう勘弁だ。
「殺す!殺じでやるゥッ!お前が生きてきたことを後悔さぜながら!必ず!」
「アベンさん。これあれですよ!物語の主人公だったら確実に「ある日愛する妻が殺され俺は最強の力を手に入れた…」的なの始まるやつですよ!」
「悪役はもう十二分にやってるからお断りだ。お前はランパスの様に惨めったらしく病魔を招く者サマを盾に使わないんだな。偉い偉い。ほら、さっさとガキ回収して帰るぞ」
「はーい!アベンさんどんな服選んでくれるんでしょうか〜楽しみですね」
レイズの子供を担ぎ上げさっさと行ってしまう。
ズキズキと痛む頭のせいだろうか目の前に転がった愛した者の頭はこちらを睨みつけているように見えた。何故助けてくれなかったのか?見捨てたのか?と…
「ぐぅ…うぅッ…おおぉぉぉぉぉ!!!」
慟哭が通路に木霊する。どんなに泣いたところでもう彼女は帰ってくることはない…
「これは…」
「間違いありません。トキシンヤモリの毒ですね。あの毒で死んだ者は決まって口から青い泡を吹くのです」
1人は赤いマントに魔法が付与された鎧と兜を身に付け、竜を象ったグリップに血の如く赤い刀身の剣を持った年端もいかない少年。
もう1人は彼の持つ刀身とは真逆の真っ白な修道服に白い薔薇をモチーフにした杖を持った同じくらいの年齢の少女。
その少女は静かに絶望の、或いは悔しげな顔をした盗賊達の瞳を順に閉じていく。
「優しいな、フレシアさんは」
「盗賊と言えど死んだもの達はみな主の元へ向かうのです。どうか貴方様方の来世が幸福でありますよう」
彼女が静かに手を合わせ祈る。さながらそれは天使の如く…
勇者…ゼノン=ディロイはそんな少女の横顔に見惚れながらも自分の成すべき事をもう一度心の中で考える。
病魔を招く者と呼ばれる犯罪者とつながりのあるハームという男の捕獲および討伐。優先すべきは前者だがやむを得ない場合は後者も考えられる。この街の長である者からの依頼だ。なるべく争いは避けたく敵が酔い潰れたり或いは寝てるであろう時間に来たが外には頭部の潰れた者やあるいは腹部の肉がごっそりそぎ落とされた遺体。それに室内には目の前の惨状が広がっていた。
とりあえず聖女フレシア=イースティアと自分が中に潜入し外を他の2人が見張っている。本来なら4人で来るべきだが…こうも人が死んでいるとなるとそんなことも言っていられずこの組み合わせで向かうことになった。
「ゼノンさん…この奥から禍々しい気配を感じます。気をつけてください」
「分かっている。フレシアさんは僕の後ろにいてくれ。必ず貴女の事を守るとこの剣に誓う」
「ふふ、頼もしいですね」
こんなところで交流を深めている場合ではない。
奥の部屋に隠し扉があり、どうやらハームはここから逃げ出したのだろう。
蝋燭だけの明かりの中、慎重に進んで数十分が経過する頃だった。それまで風の音か何かだと思っていたその音は明確に咽び泣く男の声だと判明した。
「彼がハームで間違い無いと思われます…ですが…」
目の前に転がった生首を見ながら床を自身の鼻水や唾液で濡らすその男はどう見ても犯罪者などではなく、いっそ保護欲でも湧きそうなくらい辛く哀しそうな顔をしていた。
「なにが…あったんだ?」
「おそらくは戦闘だと思われますが…ハームの魔力以外は…ん?これは…魔物でしょうか?とても弱々しい魔力も感じます。それ以外は特には無いですね」
「ということは地下に住む魔物に襲われてそこの女性が捕食されたのかそれにしてはなぜ首だけを…」
「だと思われます」
こちらに気付いたのであろうハームはおよそ犯罪者には似つかないだろう泣き腫らした目でこちらを睨んでくる。
「ハームだな?悪いがお前の身柄を確保するように依頼を受けた。最悪の場合殺しても構わないそうだ。大人しくしていれば傷付けたりはしない」
「……や……る…」
「ゼノンさん、気を付けてください。なにか…来ます!」
ハームの全身からどす黒い魔力が溢れ出し彼の前に収束していく。確実に自分達を殺せるだけの魔力だろうがその時点でもう彼の辿る道は決まっている。
「殺す!殺してやる!あの男をォォォォォ!」
おそらくは番外魔法。その中でも特に強力な破壊魔法だろ。
収束した魔力の球体はあたりの壁を無造作に破壊しながらもこちらへと向かってくる。
持っていた剣が鈍く光始める。
それは魔剣。神々が鍛えし一振り。銘をグラム。またの名を…
「ハァッ!」
斬界剣グラム。ありとあらゆるものを切り裂き世界をも両断する剣。
横薙ぎに一閃。その軌跡を辿るように空間に裂け目が生まれ、飛んできた魔法を別の次元に送る。
勝てないと分かったのか膝から崩れ落ち生きる気力を無くしたかの様にぼうっと再び生首を見つめ始める。
「流石ゼノンさん。まさか次元すら切り裂くとは。お見事です!」
「ありがとうフレシアさん。身柄を確保して帰ろう。女性が遅くまで起きているのは美容に悪い」
ハームは捕らえた。僕は勇者だ。勇ましく、誰にもできそうに無いことをする。この世から悪を無くし人々に笑顔でいてほしい。そんな世界にするために。僕は今日も剣を振るう。世界と笑顔と大切な仲間達のために。
「そう言えばこの子二つ持ちって言われてましたけどなんなんですか?それ」
「固有技能二つ持ってるだけだ。大したことはない」
「固有技能って精神の形で、魔法が生命のエネルギーでしたっけ?吸血鬼倒せそうですね」
「後半なに言ってるのか理解できないが…仮に二重人格なら固有技能二つ持ってるらしいからな。どこぞのイカれた研究員様が実際に行ったらしい。最高で100…だったか?まあ、薬でも魔法でも増やそうと思えば増やせる。が、あの焦り用だったら天然物の人格一つの二つ持ちなのかもな」
「レアですね」
「出来損ないノルドほどじゃ無いからさほど興味は湧かない」
なんだか嬉しそうにしてるがよくわからない。
まあ、なんだかんだで無事に子供は回収できたから…後はレイズのとこに持ってけばいいだけだ。
「それより私は番外魔法の方が気になります」
「基本五つの属性と番外魔法や応用だっけか?魔法学は面倒だから覚えてる奴は凄いよな」
「いやー、糞に何度か教わりましたけど原点から外れた出来損ない共の扱う魔法だって言ってましたけどよっぽどあっちの方が凄いですよね」
「お前らは生まれつき魔法適正と高い魔力を持っていても絶対に固有技能や魔眼、それに番外魔法は使えないからな。僻みだろ」
「思い出したら腹が立ってきました。なーにが私は第七門まで魔法が使えるだ!アベンさんの方が絶対凄いのに!」
「絶対お前の親父の方が凄い」
「それは嬉しくありません!」
時折こちらを見てくる街の人々の目を無視しながら裏口に回りレイズの元へ向かう。
念の為にと念入りに鍵を閉め更に魔法で扉を強化していたらしく扉を叩いても一切中に音が伝わっていないらしい。しょうがないからガラスを割って入ることにしよう…
ガシャン!
「⁉︎…なんだ、アベンさんでしたか驚かせないでくださいよ…」
「俺で悪かったな。扉叩いても気付かねえからガラス割って入ってきた。金は払うよ」
服に付いたガラスの破片を払いながら言うが…どうやらレイズにはその声が聞こえてないらしい。
背中の子供に目が釘付けだし、目から滝の様に涙を流している。
取り敢えず子供を下ろさないと。いつこちらへ突っ込まれかわかったもんじゃない。
「おお…おおおお…シャーロ!よかった!本当に!」
「ん…お父…さん?」
「そうだよ!お父さんだよ!よかった…よかったなぁ!」
泣きながら痛いほど抱きしめてるが子供…シャーロの方はなにがなんだか理解出来てないみたいようだ。それから少しずつ周りを見渡しここが暗い牢屋で無く家族のいる我が家とわかったからだろうか。シャーロの方もポロポロと涙を流しながら同じ様に抱き付いていた。二度と離すまいと。
「お父さん!痛かっだよ!怖かったよぉ!」
「もう大丈夫だからな…安心しろ。悪い奴らはお兄さんたちがやっつけてくれたからな。ああ、そうだ!アイーシャにも伝えないとな!お前がいなくなってアイーシャは…お母さんはふさぎ込んじゃってな…きっとお前の顔を見れば元気になるよ!」
そこそこ悪い人たちを凄く悪い人とその悪い人のツレが倒しただけであり正義の味方の様に言われても困る。
チラッとこちらを見てからお母さん!と叫びながらさっさと行ってしまう。
レイズも何か言おうとしたが取り敢えず行けよと手で払う。
「空いてる部屋をお好きに使ってください。本当に…本当にありがとうございます…」
そう言ってさっさと行ってしまう。
まあ、礼は明日にでも元通りに戻る商会に商品を置いてもらえる事だから特に言うこともない。
「多分これが本来の家族の形なんですよね…」
「なんだ恋しくでもなったのか?」
「まさか!でも…ちょっとだけ…ほんのちょっとだけ…羨ましいなって…」
静かに服の裾を掴みながら悲しげに目を伏せている。
本来なら魔法が必ず使えるはずの種族がどういう訳か使えなく奴隷として売られた挙句、こんなにも心が壊れるまで色々とされてきた。まあ、そのお陰で貴重なサンプルが確保出来たから今だけは神に感謝をしておこう。
暫くして元通りに戻ったカルミアに連れられ部屋に向かう。
元々従業員が泊まる部屋だったらしく簡素なベットと机、それに衣装棚があるだけのこじんまりとした部屋だ。
そして先ほどの家族云々のくだりより1人一部屋と言った方が悲しそうな顔をしていたのは気のせいにしておこう。
次の日の早朝。泣きながら4号が帰ってきた。そう言えばランパスに擬態させたまま特に命令もしていなかったなと。
取り敢えずランパスの姿で俺に抱き付いてくるのだけはやめてほしい。