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十五匹目 幻想との会合

やあ、握州さんだよ。不治の病、五月病でヤベェイ!握州さんだよ。はい、二章です。

まだやんのかよお前…って方。そうだよ、久しぶりに楽しい趣味なんだからやらせてくれよ!なぁ!ってなわけで最近寒いから体の中からポカポカしてくるような目で今回も読んでくだサァイ。


「深い霧の中で獰猛に喚く魔物が住まい、一度迷い込めば二度と出る事は出来ない。霧の森…」


「……」


「かつて、勇者の伝説にも出てきた地であり。未だに近隣の町や村では進入禁止とされています」


「……」


「それで!なんで!今⁉︎私達はいるんですか⁉︎」


「お前、勇者の伝記好きなんだろ?よかったじゃないか。ファンなら一度は来たい場所だ」


「嫌ですよ!折角楽しい旅になると思ったのに最初がここだなんて!」

辺りを見回しても霧の中に点々と木があるだけでそれ以外は特に見えない。

時折唸り声の様なものが聞こえてきたり、視線を感じる。

「俺が見てきたもの見たいんだろ?なら、ほら。見れてるじゃないか」


「うわー!離さないでください!置いてかないでくださいぃぃ!」


「面倒くさい」


「い、今なんか動きましたって!」

ガサガサと茂みが動いている。奥から唸り声をあげているが、どうにもこちらを襲ってはこない。

「あと少しで着くから我慢しろ。喰われたら助けるから」


「本当に助けてくださいよ⁉︎」


「まあ、原形が残ってれば」


「いやぁぁぁぁ!!!」

獰猛など言ってるが霧深い森の中に隠れてるのは実際臆病な魔物ばかりだ。それに唸り声は精一杯の威嚇行動である。

正直な話、面白いから言わないだけで襲ってくるのはむしろ迷い込み逆にこの森の養分になりかけた魔物か人くらいだ。

「こんなところに何かあるのですか?とても人などは住んでなさそうですし…」


「ああ、人なんか住めるわけないだろ。この霧吸ったら死ぬし」


「え?」


「冥灯蛾の鱗粉と一緒」


「ああ…え?私達大丈夫なんですか?あ、もしかして選ばれた人間とか?」

ポージングをしているが無視して歩いて行くと必死に走ってくる。

「俺たちは魔法適性がない。蛇口の開け方がわからないし、無論開けれたところで締め方を知らない。だが、魔法の使える奴らは使い方は知ってる。自分達で中身(魔力)を作れる。だが、そこに余分な物が入れば入れ物は簡単に一杯になる」


「魔力許容量が一杯になれば体に負荷が来る。それを治そうと魔法を使えばって…なるほど負のスパイラル的なのですね」


「お前は理解が早く助かるよ」

褒められたとはしゃいでいると突然目の前の霧が無くなり一気に開けた場所に出る。そこだけは霧も木もなく空が見え。

『ルォォォォォン!!』

生涯でその生物に遭わずに死ぬ人は大勢いる。

実際、目撃情報や討伐依頼などはあっても大体が似た生物か、本物だとしても生きて帰って来る者はいない。

勇者の伝記の最初を飾った史上最強の魔法生物…

「ここが目的地、竜の領域だ」

沢山の伝説上の生物がいた。




「な、な、な…なんですかこれ!?」


(ドラゴン)の領域。竜にとって霧は無害、それよか体にいいものになってる。人間も寄り付かないし、ここに住んでるらしい」


「こんなに沢山の…」


『4(\4(17→9』


「え?」

灰色で金属的な光沢を持つ鱗の竜がこちらに気付き話しかけてくる。いや、正確に言えば脳に直接か。ただ、竜独自の言葉なのか、なにを言ってるかは一切理解できない。アベンに頼ろうとそちらを見ると「何言ってんだこいつ」とこちらに視線をむけてくる。

『○2(♪5…こうか。愚かなる人間共。我らが領域に如何なる理由にて来た。迷って着いたか?』


大老(エルダー)に会いにきた。どけ、邪魔だ」


『なに?馬鹿な人間だ。大老に?はは、通すわけないだろう』


息吹(ブレス)も碌に吐けなさそうなトカゲの癖して」


『な⁉︎貴様…‼︎」


「アベンさん!なんで挑発するんですか!?」


「いや、思ったことを口にしただけだ」

気付くと他の竜達もこちらへと集まってきてこちらを見ている。

その興味深げな目は奴隷商人の所で自分を買いに来たであろう貴族の連中が見せている様な目で少し不快な気分になる。

『我を愚弄した事を後悔するがよい!我が息吹を喰らい、死ね…いっ⁉︎』


『本当のことではないですか。そもそも、ここまで来れた時点で余程の強運かこの場所を知っている者だけです』


「大怪獣バトル…」


「どちらと言うと竜大戦だな」

灰色鱗の頭を尻尾で叩いたのは思わずと言うべきか…綺麗な純白の鱗を持ち、背中には薄く向こう側が見える様な4枚の羽を持つ白竜だった。

『ホワイト!侵入者だ!それに大老に用があるって絶対に殺しにきた奴だろ!』


「見てください…きっと近所のちょっと年上で初恋の相手的なお姉さんがきたから気が抜けてキャラ作りを途中でやめたんですよ…」


「初対面でエセ貴族言葉もどき使ってたお前が言うな。可哀想だろ…ほら、顔が真っ赤だ」


『ええい!黙れ!黙れ!』


『貴方が少し黙りなさいグレイ。少なくとも、そちらの緑髪の子は私が身分を保証します』

ちらりとカルミアの方を向くとアベンの後ろに隠れてしまう。

あの子の知り合いなら害はないだろうとホワイトは思うが一応の警戒はしておく。

「アベンさん。私の保障がされてません!食べられちゃいます!」


「お前、筋張ってて不味そうだから大丈夫だろ。大老に用事があるんだ。行ってもいいか?」


『もちろんよ。しかし大きくなったわね。前は私の爪の先ぐらいしかなかったのに』


「そこまで小さくはない。ああ、こっちのは一緒に旅をし始めたカルミアだ。あと、ホワイト離してくれ。今、手の骨折れた」


「アベンさん!アベンさーーーん!」


『まあ、大変』

前足で掴まれ頬擦りをされていたのをカルミアが慌てふためきながら見ている。

腕の骨が変な方に曲がっているが離してもらえたからいいだろう。

少し名残惜しそうにしてはいるが今の最優先事項は大老に会うことだ。

『な、なあ、ホワイト本当に大丈夫なのか?』


『あら?私が信じられない?もう、息吹の練習見てあげないわよ?ほら、謝って』


『うっ…悪かったな人間』


「まあ、そのうち息吹を吐けるようになるって…頑張れ」


『お前は人間のくせに優しいのだな』


「お前みたいな素直な馬鹿は人間に騙されて剥製にされちまうから気を付けろよ」


『ガァァァァっ!』


「だからなんで挑発するんですかー!!」

挑発してる気は一切ない。




『大老。お客様ですよ』

巣が沢山ある地帯の奥に一本だけ木が生えている。

もう少しで日没だからだろうか傾いた陽の光はその木をスポットライトでも当てているかの様に輝かせていた。

その木の下に小さな竜が1匹。ちいさな寝息を立て、気持ちよさそうに寝ていた。

『大老。大老ってば、アベン帰ってきましたよ。30年?いや、60年ぶりくらいに』


「8年だよ。そこまで行ったら流石に捕まって処刑されてるか、普通に死んでる」


「私は今にも心臓止まりそうです…」


「とって喰われないから安心しろ」

そんなに怖くはないだろうと自分の後ろに隠れるカルミアを見ていると大老の方も昼寝から目覚めたらしい。

眠たそうに口を開けながらこちらを確認するやいなや

『アベン!元気じゃったか!大きくなりおって!』


「そこ首だ。あと顔に張り付くな息が出来ない」

短い4本の足と翼で顔に張り付き、尻尾を首に巻き付け離すまいとするその姿は数時間後にアベンの腹を食い破りドラゴンが産まれてくるのではと一瞬錯覚してしまう。

『こ、これ!乳房を舐るでない!それに尻を揉むな!む?もしや、お主まだ乳飲み子であったか?ふむ…人間は意外と成長が早いと思ったが…やれやれ。じゃがな?わし、今の体じゃ出ぬぞ?』


「あ、あの…多分苦しくてもがいてるのかと…尻尾で首も絞まってますし」


『おお、そう言えば心なしか弱ってきているの。全く軟弱な奴じゃ』


「ゴホゴホッ…」


『大老。嬉しいのはわかりますが、とりあえずアベンが話があるそうですよ』


『おお、なんじゃ?祝言か?わしとの祝言か?』


「誰が10000超えたババアと…っでぇ!やめろ尻尾で叩くな。ミアお前も…やめろ、ホワイトお前のは洒落にならない」


「アベンさん…女の子に年齢はダメですよ…」


『アベン、そのことは禁句よ』

1人と2匹に袋叩きになりながらも、つい先日聞いてきた情報を話す。

自分には関係はなくとも一応は恩がある。言っておかねばならない。

「で、伝えに来たことだが。エインヘリアルの勇者が旅に出た」


『‼︎…真か?」


「17代目様だ。武器は国宝のグラム。連れは宗教国家の聖女様、バルバトスの元No.1剣闘士、それと「魔弓の射手」なんて呼ばれる狩人の4人だ。村や町を回って同士を募ってるらしい」


『ううむ…ホワイト。とりあえずじゃ、皆に言伝を頼む。まあ、大丈夫じゃろうが気を付けておけとな』


『かしこまりました』

先ほどとは打って変わり真剣な表情になった大老はアベンとなにやら相談事でもしているらしい。

暇になってしまったと辺りを見回していると、この洞窟内どうやらとてつもなく巨大な魔物の骨の中ということがわかった。

だからなんだという話だがそれくらいしかすることがないのである。

『と、言うか。お主、今の今までどこに行っておったのじゃ。突然姿を消しおってからに、心配したんだぞ?』


「いや、普通に誘拐されて逃げて助けられて国一の犯罪者になってた」


『…そのヘンテコリンな身体と苔の生えた髪は誘拐に関係しておるのか?あと、なんじゃその白衣、ぼろっちいの』


「んー…まあ、九割くらい。そんな気にしなくていい。ケジメは自分でつける。あと苔じゃない、薬草だ。白衣は恩人の形見だ」


『辛くなったら、わしに頼ってよいのじゃぞ?ぞ?』


「焦天の魔竜様が動いたら国どころか世界が滅びるだろ」


『安心せい、証拠は愚か塵の一つも残さんわ』


「…あ、あのー」


『おお、そうじゃった。忘れておった。お主誰じゃ?』


「ひえっ、あ…アベンさんの奴隷のカルミアです!」

場の空気が凍りついた。

大老が物凄い勢いでこちらを睨んできたので首が回転するほど強く違う方向を向く。

先ほどと同様に首に尻尾を巻きつけながら顔の前で叫び始める。

『アベン!なんじゃあ奴隷って!買ったのか?買ったのであろう?あれほど、わしは奴隷嫌いと言ったであろう!宣戦布告か!わしへの当てつけか!ええい、生意気になりおって!』


「俺の奴隷じゃないし、こいつが勝手に着いて来ただけだ。だから息吹を溜めるのやめろ。至近距離だったら余裕で頭吹き飛ぶ。あと、訂正しろミア。お前は奴隷じゃなくて…」

すっと肩に手を乗っけて優しく語りかけてくる。

なんだか、とてもいい雰囲気…

「お前は実験動物だから」


「うわぁぁぁぁぁ!そこは仮にも俺の女とか言ってくださいよ!!!」


『アベン!!!どういうことじゃー!!!!!』

結局誤解を解くのに物凄い時間はかかったが、カルミアはまあ竜に多少は慣れたのだと思う。





『なるほどのう…大変じゃったなカルミア。明一杯わしに甘えるがよい。あとアベン腕飛ばしてすまんのう』


「わーい!大老さーん」


「お前らなぁ…腕は…まあ、そのうち生えてくるから気にすんな」

息吹を撃たれて腕が吹き飛んだ。

いや、治るが多少の痛みはあるからなんとも言えない。

「ところでアベンさん!私が実験動物ってどういう事ですか!」


「魔法の使えないノルドなんてレアじゃん。いっぱい試したい薬あるし」


「もう!言ってくれれば手伝いますよ!血ですか?内臓ですか?あ、目と手足はやめてくださいね?」


『ああ…お主の連れじゃな。これは』


「正直な話。ここまで従順だとは思わなかった」


『注射器を取り出すのをやめぬか!戯けが!』

尻尾で採取用の注射器をはたき落とされてしまう。

衛生面的によろしくないから、実験以外で使うことにしよう。

カルミアの方はと言うとせっせと着ていた服を脱ぎもう既に全裸一歩手前だった。

『ええい!カルミアもじゃ!脱ぐでない!もっと自分の身体を大切にせぬか!』


「アベンさんのお役に立てるなら嬉しいなって…」


『なんじゃあ、その歪んだ愛は…』


「頭のイカれた奴隷だ。あ、大老。金くれ」


『嫌じゃ!今日、孵化日だから自分で作って売りさばけ、今年は実も豊作じゃからの。好きなだけ持って行け!わしの財宝はやらんぞ!』


「わっ!ちょっとアベンさん!服!服着れてない!!」

カルミアを担ぐと腕を治してる暇もなく森の中央にある池に向かう。

もう、始まってはいるだろうが間に合いはする筈だ。

『ほれ、急がぬか。遅いぞ』


「耄碌」


『なんじゃと⁉︎』

池に近づくにつれて暗かった森が段々と青白く輝いていく。

池に着けば周りは暗いのに何故か池だけがとても綺麗に青く輝いていた。

「わあー!」


「間に合ったか」


『お主、たった一度来ただけなのに…金にがめつくなったのう。全く、誰に似たのやら』


「財宝の為に一国滅ぼした挙句に勇者に金で負けた竜は誰だ?」


『わしじゃな!ぬはははは!』


「アベンさん!凄いですよ、なんで輝いてるんでしょうか?魔法が使えない私ですら凄く魔力を感じます。この池はなんですか⁉︎」


「とある生き物の卵だ。ほら、生まれてきたぞ」

水面に波紋が広がっていく。

輝きがより一層強くなってくると同時に水面から巨大な生物が一つ二つと夜空に飛び上がっていく。

結晶竜(クリスタルドラゴン)!いや、これは小さいから幼体ですか⁉︎凄い、歳を取る事に体の光沢と強度が上がっていくと言いますが産まれた直後でこの光様ですか⁉︎月の光だからでしょうか、なんだかとっても神秘的ですし…星が直ぐそこにあるみたい…」


『面白いのう』


「元奴隷の癖して無駄に知識量高いから暇はしない」


『お主は斯様な女子が好きじゃったか…』


「そんな気は一切ない。まあ、だが」

次々と湖から飛び出してくる結晶竜の幼体達の体と同じくらい目を輝かせながらその光景を目に焼き付けているカルミア。

『アベンさんの見た景色も見てみたいです』その言葉が脳裏を横切った。

初めての長旅で疲れただろうが…特に愚図ったりはしなかったから、これはご褒美にとそっとしておいてやろう。

「それはそうとお前…嫁入り前の娘が下着一枚とか襲われっぞ」


「ちょっ⁉︎どこ見てるんですか‼︎」




カツンカツンと規則正しく硬質な音が廊下に響き渡る。

ここはキラレイス王国の王城。ピエトロはいつもの様に涼しい顔をして謁見の間に向かう。

先日のアーノルド邸での出来事の報告は済ませてはあるが一応顔は出さねばならない。

ゼラニウムや他の盗賊たちの遺体は浄化の炎で既に消えている。あんな羊皮紙の為に無駄に財政を使うなら国民のことを考えろと思うが稀代の愚王。口先だけはいい王である。使い物にならない。

道中何人か王国兵や貴族達とすれ違うが羨望と嫉妬の目を向けられるのは毎度の事であるから特に問題はないと呑気に歩いていく。

キラレイスは王城を囲むように王都が広がっている。ただ、国土としては先日アベンと会った辺境もそうであり国力としても中々に大きい。

「チッ…ああ、お戻りになられたのですね。ピエトロ殿。陛下がお待ちです」


「ええ、どうも。お仕事お疲れ様です」


「はっ!ありがとうございます」

大きな扉が開き奥に1人の壮年の男性が座っている。金色の髪を綺麗に分け翡翠の瞳に引き締まった肉体。そして身に纏う豪奢なローブにはいくつもの金の刺繍が入っており、また同時に何十もの魔法が付与されている。

それは一重に王である証でもあるが彼自身を守っているものでもあった。

また、彼の持つ杖も同様の価値を持ち国宝でもあり同じく彼を守っていた。


「…なにがお疲れ様だよ。偉そうによ」


「バカ!やめろって聞こる。殺されちまうぜ、化け物に?」


「違いないな。陛下はなんであんなのを……」

後ろからヒソヒソと聞こえてくるが気にもせずある程度のところまで行くと膝をつく。

「長旅ご苦労であった、ピエトロよ。して、またもや病魔を招く者に逃げられたとな?」


「はい。何分逃げ足は速い者でして…」


「なにが逃げ足が速いだ平民風情が!血反吐を吐いてでも追いかけ捕まえるのがお前らの役目であろうに!」

この部屋にいるのはなにも王。それに護衛の兵士だけではない。

貴族。その中でも特に権力を持つ者が今この場にいる。保身の為に王にゴマでもスリに来たのであろうか。妙にチカチカした服装を見ているとおもわず目を細めてしまう。

「ひっ!へ、陛下!今この者私を殺そうとしました!陛下の忠実なる民であるこの私を!」


「はあ。目を細めただけですよ。その目障りな服装をやめてください。目に悪いですよ」


「な、なんだと⁉︎おのれ、平民風情がッ!」

次の言葉を紡ぐ前に謁見の間に硬い音が響く。王が持っていた杖で床を叩いた音だった。

「黙っていろテームズ卿。私は今ピエトロと話しているのだ。お前とではない。そも、誰が私とピエトロの話に割り込んでよいと言った」


「ひっ、も、申し訳ありません!……。覚えていろよ、平民風情が」

部屋を出て行くときにそう言葉を溢しさっさと執事やら護衛やらを連れて出て行ってしまう。

「ピエトロよ。お前の気持ちもわかるが。だがな、いい加減に貴族にでもなってくれぬか?テームズの様にお前を悪く言う奴は多い。無論、今まで以上に待遇もよくする。なんなら、アレの為に遠方から腕利きの魔導師を呼ぶ。だから…」


「お言葉ですが。私はあくまでも平民であり、また犯罪者であっても騎士団に入れる様な男です。一部では私が国を乗っ取るだなんて噂も流れている程です。ですが、私は縛られて暮らすよりかは、罵詈雑言を言われようとも自由に暮らしたいのです」

スッと立ち上がり王の目の前まで歩み寄ってくる。

周りの護衛達が止めようとするが王が一蹴しいつもの様に笑っている。

ピエトロも同じくにこりと笑うと目にも留まらぬ速さで一刀。首の皮一枚のところで王の首筋に剣を止める。

「ピエトロ!やはり本性を現したな!全員で奴を捕まえろ!」


「落ち着かぬか。よい、私が許す」


「それにです。わかってると思いますがね?彼女のことをアレ呼ばわりする貴方の直属の部下になんて願い下げです。ただでさえ使い物にならない団長を頭に置いているのですから。悪く言う様なら噂を真実にしてもいいんですよ?無論、手を出してもです」


「ああ、わかっているとも。そんなに怖い顔をするな。笑え笑え。はっはっはっ!」


「はぁ…本当に貴方と話すと疲れるんですよ。報告は以上です。暫く休暇貰いますね」


「良いぞ。好きなだけ休むがいい。はっはっはっは!誠に愉快である!」

剣を鞘に納めるとそのまま部屋を出て行ってしまう。一方の王と言えば未だ楽しそうにゲラゲラと笑っている。

「陛下!何故あの男を許すのですか⁉︎陛下に剣を向け、剰え脅しなどと!」


「くくっ…本当に面白い奴だ。それに言ったであろう。良いとな。この事は他言無用とせよ」

また笑いだす王を横目にとっくに部屋から出て行った人物を思い浮かべ心の中で罵詈雑言を言う。

覚醒者などと呼ばれているが結局本当に強いのは銀腕、隼足、天眼だけである。流血、鎧骨、喰口は少し強いだけ。なのにあの態度は気に食わない。

「ふはっはははは!実に愉快だ!」

ただ、自分達もそうだが彼を妬み、或いは嘲笑する者も一切手出しは出来ない。

この国で一番偉い王が、奴を気に入っているからだ。

「あの奇病野郎が死ねば多少はマシになるんじゃねえか?」


「森にでも捨ててくりゃいい木になりそうだよな」

謁見の間には王の笑い声と護衛の兵士達の呪詛の言葉だけが残っていた。




「なるほど、つまりは共食いを繰り返すことにより同種の結晶を体内に取り込んで硬度と輝きが増す。確かに毎年これだけの数が産まれて群れをなして飛ぶのは空飛ぶ宝石箱なんて言われてますが毎年この数があちこちで産まれてたら毎日目がチカチカしそうですね…それに鉱物資源も直ぐに底をつきそうですし…」

結局着ていた白衣を渡しその後産まれてくる結晶竜を見ながら煩い独り言を延々と呟いている。

『確かにこれは面白い』


「ああ、しかもそこそこ頭もいいから物分かりも良くて助かる。本当に知識教えこめば弟子にでも出来るかもな」


「なんでしょう、個体差もあると思いますが輝き方も一重に全部一緒ではない。それに色合いも微妙に違う…親個体が食べていた鉱石等で変わるのでしょうか?それとも住んでる環境?いえ、環境と言っても大体見つかるのが洞窟だからそれは違う…ううん、どうなんだろう」


『さて、さっさと回収じゃ。ほれ、カルミア思い拭けてないで手伝わぬか』


「え?なにをですか?」


「結晶竜の卵の殻は高純度の魔法結晶だ。それを売って金にする」


『じゃが、取っていいのは殻の半分じゃ。もう片方は残しておけ』

アベンと大老が湖に入りせっせと砕けた殻を集めている。

そう言うことかと湖に入る。少し冷たいが特に支障はなく殻を拾っていく。キラキラと輝いて破片でも綺麗だ。

『殻の半分は湖に溶けてわしらの飲み水となる。それから来年にも結晶竜が迷わずにここへ戻ってこれる。だから半分は残しておくのじゃ』


「なるほど…いいですね。帰るところがあるって言うのは…」


『なんじゃあ?カルミア、ならばここがお主の帰る場所じゃ。来年も再来年もその先ずっと二人で来るがよい』


「来年はどっちか1人かもな…っだ!」


『縁起でもないこと言うでない!』


「ふふふ…はい!来年も一緒にいましょうね?」


「お互い生きてたらな」

余りにも細かい殻は拾わずにある程度拾い終わると『次じゃぞー』と大老がさっさと森の中に入っていってしまう。

アベンは拾った殻を何処から取り出したのか袋に入れ背負っていた籠に放り込んでしまう。

「そんな雑でいいんですか?」


「ん?ああ、どうせ純度で値段が変わるからな特に関係ない。ほら、次は竜の秘薬だ」


「え?確かなんか凄い面倒くさい工程が必要でしたよね?」


「ああ、この前の爺さんの調べてたの偽物だよ。あれで出来るのは集団幻覚剤だ。」


「じゃあ、あのお爺さんの人生無駄…むぐっ」

最後まで言い終わる前に首を鷲掴みされる。わかる。これは確実に怒っている。

「あの爺さんがなに考えてたかは知らないが、他人の努力を馬鹿にするな。いいか?上から目線だが、あそこまで行き着くのに並々ならぬ努力をした筈だ。周りからなに言われようが続けたんだ。それを馬鹿にするな。わかったか?」


「は、はいぃ…ゴホッ」


「竜の秘薬は世界樹の種だ。世界樹は知ってるよな?」


「はい、神皇国ユグドラシルにあるとてつもなく巨大な神樹ですよね?確か、ありとあらゆる果実がなり、落ちた葉ですら利用価値があると言われている。あれ?一度枯れましたよね?誰かが武器を作ろうとして…元に戻ったんでしたっけ?とにかく凄いというのはわかりますよ。あ、でも世界樹に関することはこれくらいしか知らないです。え?今からユグドラシルに飛ぶんですか?大老さん?ホワイトさん?竜に乗るなんて貴重な経験です。あ、でも上空を飛ぶのに私達は…」


「わかった、わかったから。あれは根っこが世界中に張り巡らされててな。で、根っこから小さい木がまた生えてくる。小さいっても他の生育した木と同じくらいだあとは花が咲けば受粉してユグドラシルの本体にその情報が送られ実が出来るらしい。まあ、俺もよくはわからん」


「なるほど…」


『なにをしておるー!はようせぬか!』


「は、はーい!」


「1号治してくれ。腕が吹き飛んじまったからな。そしたら一泊して街に出るか…」


「じぇる!」

腕にまとわりつかれ、ゾワゾワと背筋を上る悪寒と共に腕が段々と再生していく。本当に便利な奴らだ。

「今回はなにもなく終わるといいな」


「じぇ?じぇりる!」


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